CBC㉕「痴漢をした友達への本気の関わり」
コンフロンテーション(直面化)に関する話が続きます。
ケース4◆「痴漢で捕まった友人」
※痴漢の話が出てきます。苦手な方はご遠慮ください。
僕がコーチングを始めた頃の話です。
長年の友人と急に連絡がとれなくなった。彼も僕も所属していたグループがあって、そこのメンバーはみんな彼のことを心配していた。
おっとりとした性格だが面倒見が良いアラフォー男性。マメな性格で、みんなの世話役だった。そんな彼が電話もメールも何も反応しない。家が近い仲間が様子を見に行ったが、電気がついていなかったと。
それから何日か経って彼が「警察にいる」ことを知った。自殺でもしているのではと心配になり、各所に連絡を取り続けていた仲間がそのことに気づいたのだ。そして面会に行ったら会うことができたのだと。
「どうして警察に?」ときくと「痴漢の容疑で。。。」と言う。思わず「嘘だろ?やってないんだろ?」ときくと「いや。。。実は逮捕されるのは3回目らしい」と。教えてくれた彼も、一人では抱えきれずに僕に相談をしてきたとのこと。
頭が真っ白になった。理解が追いつかなかった。あの彼が、人が嫌がるようなことをしている。その姿が想像できなかった。
他の仲間には、こんなこと言えない。彼のプライバシーが、とかもあるけど、それよりも、みんな彼のことを信じている。このことを知ったら傷ついたり混乱したりするかも知れない。みんな本当に仲が良かった。家族みたいは言い過ぎだけど。だから、大好きな優しい兄が、卑劣な犯罪を犯していた、みたいな感じで、僕も混乱していたし。これ以上誰かを巻き込みたくなかった。
そしてその混乱は次第に、怒りに変わってきた。
なんで?ふざけんなよ。なんで人が嫌がることを、平然と続けるんだよ。
しかも何で何回も逮捕されてるんだよ。反省しないのかよ。
奥さんはどうするんだよ。仕事は?仲間は?
お前には責任感がないのかよ。
それよりも、今回はちゃんと反省してるのか?また、何事もなかったように
戻ってきて、これまでと同じ生活を続けようとしてるのか?
※当時の僕は、性嗜好障害(性依存)などの知識がなかったので、このように怒っていました。のちに彼との関わりの中でいろいろと学ぶことになります
ある程度怒りが出てきたら今度は心配になります。
いや。本人だって、混乱しているし、辛い状態なんだろう。奥さんともあまりうまく行ってないような話もきいたことあったな。実家とも折り合いが悪いとかなんとか。。。仕事はどうなっているのか。。。頑張ってたけど、もう無理なんだろうな。。。
そして
いや、ダメだ。何があっても許せない。許されることではない。
でも。。。やっぱり心細いだろうな。。。3回目ということは、実刑になるのかな?警察の次はどうなるんだろう?拘置所?裁判?
取調べ室で、彼が脂汗を流しながら、話している様子を想像する。警察の留置場って雑居なはずだよな。。。どんな暮らしなんだろう。。。彼みたいな人がやっていけるのだろうか。。。
僕も混乱していました。
そして、また何日か経って、彼が拘置所にうつるとききました。心配だし、会いに行ってみようと思いました。彼と直接話をすれば、どう関わっていこうか、僕の中でヒントが得られるかも知れない。と
その時、たまたまコーチングの先生と会う機会があって、僕は何となしにそのことを先生に話しました。グジャグジャと歯切れの悪い話し方だったと思います。
先生は僕にききました
「だいじゅは、どうしたいんですか?」
あ、僕が話をした相手はコーチだった。と思いました(笑)
どうしたいんだろう。。。
「。。。。僕は。。。。僕はやっぱり怒ってます。。。。彼がやったことは許せません。。。きっと彼の顔みたら心配になって、大丈夫?とか何かできることある?とか言っちゃうけど。。。。やっぱり怒ってます。。。」
先生は何も言わず僕をじっと見ています。
「。。。。許したくありません。。。。僕が許すとかの話じゃないけど。。。。でも。。このままでは、友達を続けられません。。。。変わって欲しい。。。。。。。元の彼に戻ってとは思わないけど、ちゃんと話せる関係に。。。そんな彼になってほしい」
話しながら、そうだな、と思いました。
先生が言いました
「だいじゅも、本物のだいじゅで いてください。そうして欲しいです」
僕の肚は決まりました。先生にお礼を言って、翌日東京拘置所に行きました。
小菅の駅を降りて、拘置所に向かいます。高い高い塀が続きます。差し入れ用の雑貨などを売っている店があります。
そして、門を入り、受付で彼の名前を告げました。係の人は「◯◯と面会ですね」みたいに、彼の名前を呼び捨てでした。ここがどういう場所なのか、少し分かった気がしました。
差し入れ用の窓口に並びました。役に立つかもしれないと思って本を持ってきていたのです。目の前には金髪の若い女性が並んでいました。疲れ果てた雰囲気。髪もちょとボサボサです。大変なのだろうなと思いました。ふと彼女が手に持っている写真が目に入りました。
綺麗に化粧して着飾った自分の写真。満面の笑顔
これを差し入れるのかと思ったら。。。胸の奥から何かが込み上げてくるのを感じます。。。
僕の番が来て、差し入れが終わり、ソファーで待っていると、名前が呼ばれました。いよいよです。
深呼吸をして、長い廊下を歩きます。。。そして目の前に面会室
扉を開けます。まだ来ていない。。。そして
反対側の扉が開き、刑務官とともに彼が入ってきました。
僕のほうに一礼して、正面の席に座った彼。彼の横には体格のよい刑務官がすわりました。
分厚いガラス越しに見る彼の顔は、見たことがないくらいヤツれていまいた。無精髭。。。。虚ろな目。チラッと僕をみたあとは、目を伏せる彼。
どんな生活なんだろう。大変だろうな。
という思いが一瞬よぎりましたが、自分のスイッチを入れ直します。
彼「ごめんね。。。。こんなとこまで来てもらって」
僕「ううん」
彼「。。。。いろいろ迷惑かけちゃって」
聞きすぎたらダメだ。いこう
僕「ううん。◯◯さん。今日はね。どうしても伝えたいことがあってきたんだ」
彼「。。。。。」
重い空気が流れた。
僕「自分がやったことどうおもってるの?」
おもったより大きな声になっている自分に気づきます。刑務官は一言一句メモを取っています。
僕「仲間のことどう思ってるの?あなたがこんなことになってるなんて、みんなに言えないよ。みんな◯◯さんのこと信じて、心配して待ってるんだよ。どんな顔して再会しようとしてるの?それとももう会わないの?俺はなんて言ったらいいんだよ!!」
ボルテージがあがった僕の声が響きます。きっと部屋の外でも響いてる。刑務官は眉一つ動かさずメモを続けています。
彼はじっと斜め下を見ています。。。。でも聴いてくれてる
僕「被害者の人のことはどう思ってるの?本当に自分がしたことわかってるの?相手の立場にたって考えてる?」
僕が一番言いたかったことはこれかも知れません。彼が本当に相手の立場に立って、自分のしたことを振り返らない限り、もう彼とは付き合うことができない。
だから。。。向き合って欲しい
僕「ずっと悩んでたの?誰にも言えずに。。。言って欲しかったよ。。。。そうやって、一人で抱え込んで。。。だからこうなったんじゃない?。。。そしてそれを、見ず知らずの自分より弱そうな人間にぶつけるなんて。。。最低だよ。。。。俺は、あんたのこと、もっとかっこいい人間だと思ってたよ」
顔をまっかにして、目を見開いている彼。「なんか言ってみなよ!」と言っても、俯いたままの彼。
僕は延々と自分の想いを彼にぶつけ続けました。何分も何分も。
そして
面会時間の終わりがきました。
刑務官「そろそろ時間ですが。。。何か言い残したことありませんか」
まさかこんなこときいてくれると思わなかった。僕は時間いっぱいまでわめいていたのに。
僕「◯◯さん。いろいろ言ったけど。僕はこれからも友達でいたい。そのためには、思っていること全部言おうって決めてきた。僕の本当の気持ちはそれだから」
彼は唇をかみながら、ずっと斜め下を見つめています。
刑務官に促され、彼は立ち上がりドアの前で深々とお辞儀をしました。。。
駅までの道を歩きながら考えます。彼にとってはどんな時間だったのだろう。僕の自己満足のための時間だったということはないだろうか。。。。
僕たちはどこへ向かっているんだろう。。。
しばらくの時間が過ぎました。
仕事中に突然、僕の携帯に着信がありました。発信元は公衆電話
彼「保釈されました。父が保釈金を出してくれて」
僕「そっか。よかったね」
彼「いま、小菅駅で。。。。あの。。。本当に、ありがとう」
僕「。。なにが?」
彼「拘置所はつらかったけど、良いことがふたつあったんだ。一つは妻が面会に来てくれて、あなたがやり直したいと言うなら、私はもう一度それに付き合いたい、と言ってくれたこと(涙)。。。もう一つは、みやこしくんが本気で怒ってくれたことで。。。。誰ももうあんな風に言ってくれなかったから」
救われました。決して上手な言い方ではなかったけど、想いをそのまま伝えて良かった。それを受け止めてもらえる関係で良かった。。。
僕は「また何かあったらいつでも連絡して欲しい」と伝えて電話を切りました。
次の電話はおもったよりも早くきました。どうしたのかときくと
彼「裁判に向けて、相手に謝罪をしている。示談にならないと、実刑になる可能性があって。。。でも謝罪文を書いても、相手に拒否されている。相談にのって欲しい」
僕は「まずは謝罪文をメールで送って欲しい」と彼に伝えて電話を切りました。
彼は早速謝罪文を送ってきました。
こいつは何もわかってない。。。。。僕の中でまた怒りが爆発しました。
曰く「仕事のストレスでノイローゼに」
曰く「妻との関係がうまくいかず」
バカか。そんなこと知ったこっちゃない。
しかも。。。。「もう一度付き合う」と言ってくれた奥さんのことを。。。。。
情けない。。。。。電話をかけて怒鳴り散らしそうでした。
でもそうしませんでした。
アドラー心理学をやっていると結末予測をするようになります。僕は当時まだアドラー心理学1年生みたいな感じでしたが、それでも習慣として結末予測はするようになっていました。
ここで僕が怒鳴ると、彼はどんな学習をするだろう?
その結果、彼はどんな目的に向けて、どんな行動をするのだろう?
僕の怒りは鎮まりました。
彼には、本心から被害者の立場に立ってもらいたい。そして自分がやったことの結果を引き受けてもらいたい。そして、新しい人生をスタートして欲しい。
そのために、彼を呼び出して、コーチングしよう!
そう決めました。
当時は手軽に借りられる貸し会議室が少なく、新宿のルノアールの個室を借りました。
ちょっと外の物音は聞こえるけど、外からは見られない空間。
彼がきました。
僕「読んだよ」
彼「どうだった」
僕「何が悪いんだと思う?」
彼「。。。。。」
僕「これ読んだ被害者の人はどう思うかな?」
彼「。。。。。」
僕「わからない?」
彼「。。。。。。(頷く)」
僕「ねぇ。どうしようか。相手の気持ちがわからないと、謝罪文って書けないと思うんだよね。。。今から相手の気持ちを理解するためのコーチングをしてみたいんだけど」
彼を見ていて、思い浮かんだワークがあったのです。
これをやったら、彼は何かに気づくのでは、というワークが。。。
でも正直、僕もやりたくありませんでした。でもやらざるを得ない。。。。そんな僕の気持ちが重苦しい雰囲気を作っていたと思います。
彼の表情が固まっています。
僕「どうする?」
彼「。。。。お願いします」
僕「じゃあ、立って、壁際に歩いてきて」
彼「。。。。はい」
僕「いまから僕が被害者をやるから、あの日みたいに僕のことを触って」
彼「。。。。。。」
僕「僕が被害者をやるから、あの日とまったく同じように、触って」
彼が固まります。血の気が引いています。僕は彼に壁の方を向いて、つり革を持っている姿勢をとります。
しばらく時間が止まります。
そして
彼が触ってきました。
僕「本当にそんな風だった?あのときと同じように」
これ以上ないくらいの緊迫感。彼はパニックになっています。
でもその中で、必死に再現しようと努力しています。。。。
僕「オーケー。わかった。今度は僕が◯◯さんの役をやるから、被害者をやってください。こっちに来て。。。」
彼の目に絶望の色が浮かびます。僕だってこんなことしたくない
でも僕は最大限の努力をして、彼がやったのと同じように、彼の体を触りました。
実は、僕は僕でこのときに学んだことがあります。目の前の体を触りながら、その動作を作っている、内側の強烈な衝動。。。。何かに自分の体を乗っ取られているような感覚。
これは何かの病(やまい)ではないか。。。と思いました。
※この表現を不愉快に感じる人がいたらごめんなさい。僕はこの時、初めて性嗜好障害(性依存)の存在を知りました。ここにも苦しみがある、と
彼は完全に放心状態でした。
椅子を二つ用意して、向かい合わせでおきました。
片方に彼に座ってもらいました。
僕「目の前の椅子に被害者を想像して。。。彼女から目線を離さずに。。。。彼女に謝罪をして」
彼「。。。。。ほんとうに。。。。。ごめんなさい。。。。ぜんぜん分かっていませんでした。。。。自分が何をしたのか。。。。。ことばが。。。。ありません。。。。。ゆるしてほしいなんて。。言えません。。。。本当に。。。ごめんなさい」
床に頭を擦り付けんばかりに、彼は頭を下げました
彼の気持ちが出つくしたタイミングを見計らって僕は声をかけます
僕「被害者の椅子に座ってください」
彼は背を丸めて移動します。
僕「もうしわけありません。不愉快かと思いますが、目の前の男を見ていただけませんか。あの男です。あなたへの謝罪をきいていただいて。。。。もし何か言いたいことがあれば。。。。」
瞬間、その女性が降りてきたように感じました。彼の表情が変わります。強い意志を感じる目でした
彼(被害者)「絶対に許さない!! あんなこと。。。誰にも言えない。。。。あなたは何も分かっていない。。。。。。あなたは実刑を受けるべきです」
最終決定の通達。一切妥協の余地はないと、全身が伝えています。
僕はこれ以上なにもきけませんでした。
僕「では。。。もう一度自分の椅子に戻って。。。。彼女の目を見て。。。。声をききます。。。。」
彼「。。。。。。。。。」
僕「いまの想いを、伝えましょう」
彼「はい。刑務所に行きます。自分の罪を見つめてきます。謝罪ができる自分になって帰ってきます」
こちらも揺るぎようのない決意でした。。。
重苦しい空気。僕はかける言葉を失っていました。
二人でルノアールを出て、駅に向かいます。二人とも無言です。
新宿三丁目駅まで歩き、別れる前。僕は彼に向き合っていいました
僕「ねぇ。。。◯◯さん。。。僕は何年も、素晴らしいあなたを見てきたよ。誰にでも寄り添って、責任感が強くて、粘り強い。そんなあなたを見てきた。。。。そして今日、最低なあなたも見せてもらったよ。。。自分勝手で人の気持ちを考えず。。。そんな自分に向き合わないで生きてきた、あなた。。。そしてね。。。僕は。。。。。」
僕の中から強い感情が、涙とともに噴き出します。同じタイミングで彼も嗚咽をはじめます
僕「僕は。。。。。そのどちらでもない。。。。それを超えた◯◯さんをみています。。。。僕が見ているのは、そのどちらでもない◯◯さんです」
僕は彼を抱きしめました。あたり構わず二人で泣きました。。。。
帰りながら、僕は思います。。。これで良かったのかな。。。でも、これが彼が出した結論です。。。彼女のポジションで出てきた言葉にもリアリティを感じました。
だから、これが、この件の結末なんだろう。。。
なぜか電車に乗る気になれず、家まで1時間以上かけて、歩いて帰りました。。。
翌日の夕方。彼から電話がありました。
彼「昨日はありがとうございました」
僕「。。。おつかれさまでした」
彼「あれからもう一度謝罪文を書き直していたんだけど」
僕「うん」
彼「今日、弁護士さんから連絡があって」
僕「。。。。」
彼「被害者が示談に応じてくれると。。。一旦断られていたのに。。。なぜか突然。。。」
わけが分かりませんでした。
彼女が降りてきてくれたように感じた、あの瞬間。何かが起きたのだろうか。。。
いや、そんなはずはない。。。
僕「そうか。。。どうするの」
彼「謝罪文を書き切って、もう一度渡したいです。そして、可能なかぎりの誠意を示します」
その後、裁判での判決は執行猶予付きの有罪でした。彼は新しく仕事につきました。建設現場での仕事でした。
彼がこれまで培ってきた強みを生かせるような仕事ではありませんでした。
「どうしてまた?」ときいた僕に、彼は
「もう電車には乗りません。自分のことを抑えられると過信するのはやめました」と答えました。
この出来事をきっかけに僕は性依存症の回復プロセスについて学ぶことになりました。僕のまったく知らなかった世界がそこにありました
続く
お気持ちありがとうございます。資料入手や実験などに活用して、発信に還元したいと思います。