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正しい期待・その④高校生と決断力

決断と賭け

なにか重要な選択や決断を迫られたとき、勢いで決めてしまったことはありませんか?まるで賭けに近いような決め方で。

決め方がわからないと悩み方もわかりません。
焦るばかりの状況から抜け出したくて、つい判断を急いでしまうことがあります。直感で決めることに慣れている人は、自分の勘を頼りに即決してしまうこともあるでしょう。1つの選択肢だけを入念にリサーチして熟考したような気になり、他を検討せずに決めてしまうことも。

飲食店を選ぶ場面ならそれでも良いですが、人生の重要な決断をそのように決めてしまうとどうなるでしょうか。自分や他人の人生を、ラッキーか不運かだけで評価する価値観が芽生えてしまうかもしれません。
「決断力」とは、単に素早く何かを決めることではありません。真剣に悩み、決め手を見つけて答えを出すスキルのことです。「決めること」がうまくなると人生は充実し、結果を受け止める力にもつながります。
できれば高校生の間にこのスキルを磨いて3年生の進路決定に備えましょう。
結果を出すことだけに捉われると焦りと恐怖でわからなくなりますから、周囲は「進路・自立」などと言葉だけで迫るのはやめましょう。
家族も学校の先生方もこのことをどうか理解され、子どもたちの迷いを晴らしてやってください。

以下、ダイジョブ式の決断力を磨くトレーニングについて簡単に紹介します。できそうな部分だけでもやってみてください。

トレーニング① 自分がこだわっている分野を知ろう

お店選びでさえ、こだわる人は熱心に調べます。スマホで店を調べ、アップされている画像を隅々まで見回し、時間をかけて悩みます。価格、雰囲気、口コミを確認し、人によっては店員から直接情報を聞き出して判断材料にするかもしれません。ほかの店も調べて同じことをやり、比較して決め手を探るなど、大いに情熱を注ぐことでしょう。

後悔したくないからです。

もしも良くない結果が出たとき、いい加減に決めてしまったことを後悔することになるでしょうから。
結果への憂いや失望よりも、決め方を後悔するダメージのほうが大きい場合があります。
「選んだ学校間違えた」「選んだ会社間違えた」と口では言いますが、その中身は「もっとまじめに決めておけばよかった」という後悔です。

あなたは、何かを選ぶために日ごろ必死にリサーチしたり比較していることはありませんか?
外食やファッション、料理や日用品の買い物、ゲームやソーシャルメディア、音楽や絵画、旅行先や趣味などなど、、、。
選択を間違えたくないから努力していることが必ずあるはずです。
リサーチには時間を惜しまず、ネットで熱心に調べ、各方面にアンテナを張り、複数の情報源からメリットやデメリットを集め、それらを比較し、誰かの意見も取り入れて、慎重かつ力強く選んだことがあるはずです。

まさにこれが「正しい決断」のプロセスであり、あなたはすでにこれを実践していたのです。まずはこのことを客観的に評価し、自分には「決断力がある」ということに気づくことから始めましょう。

トレーニング② 行動に根拠を添えてみよう

「日常の小さな判断や選択」に理由をつける練習をしてみてください。着る服、持っていく物、食べるときに選ぶもの、飲み物、使う道具など…。
「なぜそれにしたのか?」「なぜあれにしなかったのか?」
「なぜこれを選んだのか?」「なぜどちらも選ばなかったのか?」
衣食住に関係する小さな判断は、毎日のように発生しており、何度も「決断」の瞬間が訪れています。

練習するにはとても良い場面ですから、大人はこれを子どもに尋ね、できれば家族みんなでお互いに尋ね合い、伝え合うと取り組みやすいでしょう。

コツは、判断の際に「よぎった感覚」や「よぎった気持ち」などを言葉にすることです。わかっていたことでも言葉にすると意外と発見があり、自分がどのように決めたのかを言葉で知り直すことができます。

※たとえば、自販機でお茶を買う場面でこんな会話をすることがあります。
本人「冷たいお茶にするよ」
周囲「なんで?寒いのに…あったかいほうがよくない?」
本人「うーん、のどが渇いているから、ゴクゴク飲める方がイイかな」
周囲「なるほど」

大した会話ではないし、そこらへんでいくらでも生じそうな会話ですね。しかし、本人が判断した理由を尋ねた人がいて、本人はそれに反応して自分の意図を言葉で回答する、という点が重要なのです。
「冷たいお茶にする」→「あ、そう」で終わってしまっては練習になりません。

いかがでしょうか。
本人に理由を述べさせるだけの練習なのでかんたんです。

※もうひとつ、近くのコンビニよりも遠くのコンビニに行きたがる子どもがいたら、同じようにこんなやりとりができるでしょう。
周囲「なんでわざわざ遠いほうの店に行こうとするの?」
本人①「その店じゃないと手に入らないから」
本人②「知り合いと店内で鉢合わせしたくないから」
本人③「その店のほうが雰囲気が良く、接客も丁寧だから」
などなど、その子によっていろんな理由が考えられます。

咄嗟の判断は絶えず感覚的に行われています。よぎったことを言葉にすれば、それが意図や根拠となり説得力に変わるでしょう。
決断とは意志を表明することでもあり、これはその練習となります。

トレーニング③ 本人を決断の主体にさせよう

本人がその決断に主体的に関わったかどうかをチェックしましょう。「主体的」とは、人の力を借りずに本人が全て一人で決める、という意味ではありません。本人が行動を自分で管理しているかどうか、ということです。答えを出すために本人が考え、悩まなくてはなりません。本人が周囲を巻き込み、助けを借りなくてはなりません。本人が受け止め、本人が成長しなくてはなりません。自立と同じ意味です。
0才の乳児は主体的に行動できませんが、10才の小学生なら半分程度は自分の行動を管理・把握でき、15才の子はさらに多くの場面で主体的に行動し、大人に近づきます。子育ての理想論からすると、20才(18才)で誰かに自分の行動を決めてもらう人生は終了し、自立は完了します。

高校生の年齢になったら、本人が困っておらず、本人からの要求もないのに良かれと思って周囲が勝手に手助けしたりしてはいけません。主導権を奪ってしまうことになり、自分の人生でありながら人任せになってしまうでしょう。

※本人の主体性をチェックするための良い質問があります。
・なんでそうしたいの?/なんでそれを選んだの?
・あなたはそれの何がいいと思ったの?/何が良くないと思ったの?
・それを選択するメリット(デメリット)を教えてもらえる?
・ほかに選択肢はあるの?/ないの?/ないのはなぜ?
・誰が言いだしたの?/誰が見つけてきたの?/誰に勧められたの?
・それであなたは納得したの?/納得していないの?
・妥協したのはなぜ?/妥協しなかったのはなぜ?
・誰かを頼ったの?/自分から頼ったの?/頼らなかったのはなぜ?
・最終的な決め手は何?/迷っているのはどんなこと?
・もっといい選択肢がでてきたらどうする?
・やってみてダメだったらどうする?
 ・・・などなど

文字だけだと厳しく追い込んでいる印象を受けますが、威圧するのではありません。事務的に質問をぶつけるのも違います。彼ら自身に答えを出させるための質問であり、彼らの意図にこちらも興味を持ち、少しずつ穏やかに進めてください。
どの質問にもおおむね回答できるようなら、その子(人)は、主体的にその決断に関わっていることになります。
良い結果が出るかどうかはわかりませんが、決断力が向上することは間違いありません。
結果を評価するだけでなく、「きちんと悩んで決めたこと」を評価してあげられる支援者・指導者になってください。

決断とは

以上、決断力を高めるトレーニングについて紹介しましたがいかがでしたか?
何かを決めるときには徹底的にこだわり、言葉で考え、主体的に判断する、ということを学んでほしく、最終的には高校卒業後の進路決定に役立ててほしいのです。
工夫すれば小学生からでも取り組むことができるし、決して子どもだけの課題でもなく、大人にも必要なスキルであることに気づくでしょう。

私(鈴木)は、若いころは直感で決めるタイプでした。おかげで勘は冴え、前向きな性格と相まって何でもうまく進んでいるような気がしていました。しかし人生の重要な局面における決断には、直感だけでは太刀打ちできず、周囲を説得する力をもたないことを知りました。
直感が悪いという訳ではなく、経験則や他人の意見も加えて考慮し、それらを言葉に変えて根拠を示さなければ、「決断した」とは言えないということです。

自分の考えを言葉にする練習を続けると、リサーチ不足や準備不足なども見えてきます。たくさんの情報を集め、他者に相談する機会も増え、総合的な決断力は向上していくでしょう。

良い結果を生むことも大事ですが、それだけでは自信を得られません。
それよりも、「きちんと決めることができた」という経験がその子の自信になっていくでしょう。

決断とは、時間をかけて自分自身を説得することだと私は思います。
自分が納得できていれば、周囲を納得させるのはそれほど難しくありませんから。

大人は、子どもたちにこの感覚を持たせられるよう、次のように教え、期待し、育ててあげてください。
・どんな進路をたどっても構わない、どんな選択をしても構わない。
・あなたに備わった決断力を使い、こだわって決めなさい。
・すべて言葉にしながら悩み、言葉で決断しなさい。
・あなたが自分の人生の中心に立つよう努めなさい。
・そのためにはどんなことも助けるから。

正しく期待もせずに、良い結果を出すよう子どもに迫っていませんか?
プレッシャーと不公平感で子どもを戸惑わせてしまわないように。

子どもがそれに応えてくれたとき、こう言ってあげてください。
「きちんと決められたね」
「それを決断というんだよ」と。

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