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税理士の先生が知っておきたい雇用をめぐる最近の法律問題 #17 同一労働同一賃金(3)

 働き方改革といった言葉で表された一連の労働法規制の改正が行われてから数年、雇用関係を巡っては続々と変化が現れてきています。
 この連載では税理士の先生方にもぜひ知っておいていただきたい、最近の雇用をめぐる問題をご紹介していきたいと思います。
 今回と次回で、定年後再雇用と同一労働同一賃金をめぐる問題について解説をしていきます。今回は、この問題の前提知識となる、定年制度や雇用延長措置に関する法律上の規制について解説します。


1 定年に対する法規制

 多くの企業では定年制が導入されています。
 例えば60歳あるいは、65歳が就業規則で定年と定められている場合、この年齢になると雇用契約は終了し、労働者は退職することになります。
 この定年ですが、法律で規制がされており、会社が自由に決めることはできません。
 現在は高年齢者雇用安定法という法律で、原則として定年を60歳より下にすることは禁止されています。

2 雇用延長措置

 また、現在の法律では60歳以降も65歳まで雇用を継続することが法的に義務づけられています(正確には、65歳までの雇用延長は法的な義務とされ、さらに70歳までの雇用延長が努力義務として設けられています)。
 具体的には、企業は、次のいずれかの措置を取る必要があります。

1) 定年制の廃止
2) 定年の65歳までの延長
3) 定年後再雇用制度の導入

 この他、努力義務としての70歳までの雇用延長の措置の導入にあたっては、次のような制度を導入することも認められています。

4)70 歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入  
5)70 歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

3 雇用延長措置の待遇への影響

 このように、企業が従業員を雇用する期間を延長することが義務づけられた結果、企業としては延長された雇用期間に対して支払う賃金の原資を確保する必要に迫られます。
 例えば、以前は定年年齢は55歳より下回ることが禁止されていました。
 現在、多くの企業で役職定年制度が導入されており、その年齢は55歳とされていることが多くなっています。これは、法改正によって60歳まで引き上げられた際に、雇用期間が延びることに対する賃金の原資を確保するために役職定年制度が導入されたことに影響されています。
 65歳まで雇用延長措置が義務づけられたことに伴って、企業は再び待遇の切り下げ等を可能にするような対応を取っています。
 最も多くの企業で利用されているのが、60歳定年制を維持した上で、再雇用に当たっての条件を切り下げる、という手法です。

4 同一労働同一賃金との関係

 ただ、この場合に、実際には定年前と担当している業務に差がないにもかかわらず、賃金等の待遇が大きく引き下げられているケースがあります。
 このようなケースで、待遇の引き下げが同一労働同一賃金の原則に反して違法なのではないか、が争われた事例が出てきました。
 近時、この問題に関する最高裁の判例も示されています。

 次回は最高裁の判断についてご紹介します。

【執筆者プロフィール】
弁護士 高井 重憲(たかい しげのり)
ホライズンパートナーズ法律事務所
平成16年 弁護士登録。
『税理士のための会社法務マニュアル』『裁判員制度と企業対応』『知らなかったでは済まされない!税理士事務所の集客・営業活動をめぐる法的トラブルQ&A』(すべて第一法規) 等、数々の執筆・講演を行い精力的に活躍中。

第一法規「税理士のためのメールマガジン」2024年5月号より

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