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フランス南西部の街(7)Espira-de-Conflent(エスピラ・ド・コンフラン)

今回はぐっと西の方に行きまして、エスピラ・ド・コンフランという街を紹介します。
エスピラ・ド・コンフランはピレネー山脈近くの山の中にある、小さな小さな村です。スペインとの国境がすぐ近くにあります。
このあたりはいわゆるカタラン文化圏にあたる場所ですね。カタロニア地方とも呼ばれているところです。
近くに、アンドラ公国もあります。アンドラって、ご存じでしょうか。ほとんどの日本人には全く縁がないと思いますが、アンドラはピレネー山脈の中、フランスとスペインの国境にひっそりと存在している国です。物価が安かったり、免税店で買い物ができるので、フランスやスペインなどから買い物に来る人が多いみたいですね。ぼくはいったことないです。

さて、エスピラ・ド・コンフランへは、ペルピニャンからそのアンドラ方面へと向かう方向にあります。
まず、ペルピニャンからひたすら西に2〜30km走ります。この道は、これは知っている人も多いかもしれない黄色い小さな観光列車「プチ・トラン・ジョーヌ」の線路沿いの道です。車で走っている途中も、プチ・トラン・ジョーヌの線路を何度も横切ったり併走したりします。
ずーっと山の中の高速道路を走りますと、右手に大きな湖が現れます。湖の名前はよくわかりませんが、このあたりはVinca(cはcセディーユです)とよばれています。この湖をすぎたあたりで、いきなり道を左に折れます。特に目印も何もないんですが、なんか、左折する小さな道があります。
そこからひたすらぐんぐん狭い山道を登っていき、なんとなく分かれ道が来たらそこ右折、養蜂場だのを右手に見ながらひたすら坂道を登っていきますと、忽然と村が現れます。
そこがエスピラ・ド・コンフランです。

と、この行き方ひとつとってもご想像の通り、ものすごい山の中です。しかもわかりにくい場所にあります。前回書きましたポルティラーニュだって相当誰も知らないと思いますが、このエスピラ・ド・コンフランはその比ではありません。だいいち山の中過ぎます。もし知っていた人がいたらぜひお知り合いになりたい。それくらい、なんというか、特にわざわざ行く用事もないような、とりたてて観光的に有名でも何でもない村です。

村からの景色です

小さな村ですが、歴史はありまして、古い教会があります。本当に、詳しいことが全くわからず恐縮なのですが、一緒にいましたフランス人たちの話によりますと、なにやら珍しいマリア様の像だか絵だかがあるそうで、それはそれなりに知られてはいるそうです。

そして、ここは、確かに人々の生活の息づかいが、歴史の中に今も生きている、そんな村です。

このあたりは、山の中の小さな村、中世からの村みたいなのが点在しています。どこもとてもキレイでかわいい村ばかりです。この付近で有名なのはエウス(Eus)やヴィルフランシュ・ド・コンフラン(Villefranche-de-Conflent)といった村ですね。これはたまにガイドブックにも載っており、「フランスでもっとも美しい村」だかなんだかにも指定されています。

でも、エスピラ・ド・コンフランは、これらとは明らかに違った何かがあります。
「見せること」「きれいであること」を前提としていない、暮らしていく力とその美しさ、みたいなものがあるということです。

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で、なんでまたこんなところを訪れたかというと、実はこの街にはひとりの日本人女性が住んでいるのです。
彼女は、エスピラ・ド・コンフランの一番はずれのとても景色のいいところにある、何百年もたった古いすてきな石造りの家に暮らしています。
カタラン人のミュージシャンの旦那様と二人暮らしで、時折通訳などの仕事をしつつ、普段は家の近所にある農園で野菜や果物を作ったりなどしているという、そういうのが好きそうな女性にとってはなんとも夢のような生活を送っていらっしゃいます。

彼女はよしこさんといって、この近くに住んでいた私の母親と、ちょっとしたのみの市みたいなところで偶然知り合い、それから意気投合して、ずっととても仲良くしていただいていたんですね。
母が病気になって、それから亡くなった後も、よしこさんはずっとついていてくれたんです。その間、ぼくらはよしこさんには言葉では言えないほどお世話になりました。

ですので、久しぶりにフランスに行った折にはぜひともお会いしたい、と思ってはるばるやってきたというわけです。
しかし、お宅には初めてお伺いしたのですが、いやあこんな山の中だとは思いませんでした。

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おじゃました際には、お昼にご自宅の農園でとれたばかりの野菜を使った大変おいしい料理をごちそうになりました。
ここは、ほんとうに静かなところなんですよ。

食事の後、ミュージシャンの旦那様とぼくでちょっとした演奏をしたりして、なんともいいひとときでしたね。すごいフランスの山の中で、ジャズが響き渡るっていうのもなんか変な感じでしたが・・。

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家の写真です。ちょっとわかりにくいですが、隣の家とつながっています。

この家も、もう、何百年たってるのかわからない、っていってました。
ここは村の外れなので、この建物自体が昔は小さな城壁の代わりにもなってたようで、部屋の中に隣の家とつながっている扉があります(今は使っていないそうですが)。敵が攻めてきても、隣の家を伝って逃げることができるとか、そういう理由のようです。

先ほど書きました「この村は歴史が生活の中に息づいている」というようのは、まあつまりこういうことです。たとえばこの家と、それにまつわる歴史や物語は、誰かに見せるためではなく、今、人が生活するために存在しているのです。

ちょっと暗くなってしまいましたが、家の中です。お昼の準備中です。
窓からの景色です。 すてきでしょう?
ほんと、なんだか浮世離れした生活ですよね〜・・。 雑誌で紹介したいくらいです。

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畑にもおじゃましました。
畑は、家からしばらく山の中を下っていったところにあります。

こんなすごいやぶの中の道をおりていきます。

果物、野菜、なんでもありますね。
完全自然農法、といった感じです。

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ここで過ごした時間なんかも、やっぱり母が遺してくれたものの一つだなあ、と思います。
(毎回母の話で恐縮ですが、まあ今回の旅行はそれがテーマなもので、すみません)

家族で、このフランスの山の中で、出会いがあって、おいしい料理があって、音楽があって、静かさと会話があって、という時間を自然に過ごせているのは、とても幸せなことでした。

アンドレは、「こういう田舎がフランスの一番いいところなんだ」と言っていましたね。
なかなか来られるものでもないでしょうから、ほんとうに家族に感謝です。

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下の写真は、帰りの車の中から見えたナルボンヌ近郊の干潟の風景です。
線路が干潟の真ん中を走っているのが見えますでしょうか。走っていると360度海の中を走っている気分になる珍しい列車の路線です。

※この文章は2009年に書かれたものをリライトしたもので、現在では状況が違っている場合があります。ご了承ください。でも多分たいして変わっていないと思います。

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