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タイムリープ中華鍋

 最近、チャーハンがおいしい。
 これまでの人生では、実はあんまりチャーハンは興味のない分野の食べ物だった。どちらかというと普通の米がいっぱいあればいいタイプだったので、わざわざ余計なコストをかけて油で炒めたごはんを食べる必要性を感じなかったのである。
 しかしどういうわけか、最近はつい街でも中華屋に入ってチャーハンとラーメン、餃子などを頼むことが多くなった。特に決定的なきっかけがあったわけでもなく、食の好みって変わるもんだなぁと思う。

 そのうち、自分ででもチャーハンをおいしく作れないかと思うようになった。
 だいたいにおいて、多少料理をたしなむ男だったら、一度くらい「どうやったらおいしいチャーハンを作れるか」を追求する時期があるような気がする。うまくいえないが、やたらスパイスカレーに凝る人が多いのと同じような理屈ではないだろうか。

 実際は、今はいい冷凍のチャーハンが安く売っているので、わざわざ全部自作しなくても本当に簡単に一瞬でおいしいチャーハンを食べることができる。
 ただ、なんだかわからないが、ショート動画などをみていると、結構一定の割合で「中華屋のチャーハンの作り方」みたいな動画が流れてくることがあり、それをみていると、自分で作った方がいかにもおいしそうに見える。

 というわけで、ある日見よう見まねでチャーハンを作ってみた。
 そのショート動画で見た感じだと、まず油の中に溶き卵を投入し、ご飯を入れて激しく鍋を振り、調味料や具材を投入しているようだった。
 とりあえずその通りに作ってみた。見よう見まねの割にはおいしくできたと思う。ただ、やっぱりどうにもご飯が固まったままのような気がするし、何よりフライパンを振ってもぼてっとなってしまってあんまり上手く混ざってくれない。結局、振るのは諦めて木のへらでかき混ぜて作ったような感じだ。
 というような話をしていたら、奥さんが
「使っていない中華鍋があるから、それでやってみたら?」
 という。
 そうだ。オレが独身の時に使っていた中華鍋だ。

 結婚する前、一人暮らしの時、自分は中華鍋一つで全ての料理をしていた。
 そんなにしょっちゅう自炊するわけでもないし、若かったから料理も大抵の場合油を使うので、ちょうどよかった。
 当時は横浜の元町に一人暮らしをしており、近所の横浜中華街の金物屋でふらっと買ってきた中華鍋だ。
 どちらかというと、雰囲気で買ったような気もしている。男一人暮らしのアパートに中華街の中華鍋ひとつなんて、ちょっとかっこいいような気がしていたのだ。「別に狙ったわけじゃないんだけど、たまたま近所で鍋売ってるのが中華街しかなくてさ、それで中華鍋にしたんだよ」みたいなストーリー付けである。実際、家に来た人にも得意げにそんなこと言ってた気もする。若い時っていろんなことを考えるものである。

 結婚してからは、やっぱり鉄製の中華鍋は手入れが大変なこともあって、だんだんテフロンの鍋しか使わなくなってしまった。
 そして、中華鍋は食器棚の奥深くに眠ってしまっていた。実際、自分も存在を忘れていたくらいだ。

 早速、食器棚の奥から中華鍋と、鉄の中華お玉と中華ヘラのセットを取り出した。
 埃をかぶってはいるが、そこまで錆びついてはいず、つかえそうだ。
 さっそくネットの動画などを見て手入れをする、
 まずはヤスリで錆を落とし、空焚きをする。鍋の色がどんどん変わっていく。そうだ、買った時も金物屋の人に教えてもらってこの工程やったなぁ。。
 そして、野菜くずを油で炒めて油膜を作る。シーズニングというらしい。
 この工程はあまり記憶にないが、前出のように、前はこれしか調理器具がなかったので、出撃頻度も多く、常に自然に油膜が張られた状態だったのだろう。
 これらの作業により、見た目には見事かつての中華鍋は復活した。

 数日後、その中華鍋で実際にチャーハンを作ってみた。
 するとやはり全然違う。ちゃんと米が滑っていくので、軽い力でもすごく綺麗に振ることができるのだ。結果、いわゆるパラパラチャーハンと呼ばれる状態に近いものができるような気がする。鉄の鍋のせいか、同じコンロでもカリッと火が通っているような気もするし、まぁ全部気のせいかもしれないけれど、やっぱり普通のフライパンで作るよりは格段においしくできるようになった。

 時空を超えて昔の思い出の中華鍋がよみがえり、現代で大活躍してくれるなんて、なんだかロマンのある話である。クロノ中華鍋。中華鍋タイムリープ。時をかける中華鍋。とりあえず、油膜を切らさないように定期的に使っていこうと思う。

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