見出し画像

教員免許の国家資格化をめぐって

日本における議論

 高度専門職業人として,教員に普遍的に必要とされてきた資質能力に加え,学校安全,特別支援教育,ICT教育…といった,より高度でかつ新たな教育課題に対応するため,教員養成の大学院レベル化教員免許の国家資格化が度々提案されてきました。古くは戦後まもなく教員免許法の立法過程で,近年では民主党政権下の2012年に出された中央教育審議会答申「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」において,さらに2015年の自民党教育再生実行本部の第四次提言で言及されています。つい昨年も,教員養成大学・学部で構成する日本教育大学協会のワーキンググループが教員免許の国家資格化を含む提案をまとめました。

 直近の日本教育大学協会の提案では,その提案内容が現在公表されていないため,詳細は確認できませんが,日本教育新聞(2019年10月28日)の記事によれば,以下の2つのルートが想定されています。
 一つは教員養成学部の教職課程修了者です。基礎資格を得た後,教員採用試験(1次は全国共通,2次は自治体ごと)を受験し,合格者は学校現場で2年間の現場体験を行います。その後に国家試験(教職員支援機構が実施)を受験し,合格者が教員国家資格(文部科学省が授与)を取得します。
 もう一つ,教職大学院修了者の場合は,修了とともに教員国家資格が取得でき,教員採用試験に合格すれば学校現場体験を経ることなく教員として勤務が可能となります。これは,教職大学院を標準的な養成機関として位置づけることを意味しています。

 それでは,諸外国で教員免許を国家資格としている国はあるのでしょうか?


中国の事例

 中国では,2011年より教員免許が国家資格となり,教員免許を取得するためには国家試験に合格しなければならなくなりました。子どもの増加による教員不足のため,一般学部の教員養成への参入(日本でいう“開放制”)が始まりましたが,質保証が十分ではなく,国民からの不信感や不満が募っていたことがその背景としてありました。
 国家試験は筆記試験と面接によって行われています。筆記試験はコンピューターテストとペーパーテストで行われ,面接では教員としての資質と基礎技能が考査されます。そのほか,受験資格等は下表のとおりです。

無題


 一方,問題も存在するといいます。開放制の中で教員養成を主たる目的とする大学・学部の存在意義を打ち出すため,2017年から教員養成教育の質を評価する認証制度が始まりました。
    その評価結果によっては国家試験の筆記と面接を各機関で実施することが可能となり,国家試験の空洞化が起こっていると指摘されています。さらに,学校現場での教育実習を経ずとも国家試験が受験可能となっており,実践的指導力の欠如が不安視されています。

 今回は中国の事例のみを取り上げましたが,日本の教員免許制度,教員養成制度が今後どうなるのか,国家資格化が先行実施されている諸外国の事例から学ぶことは多そうです。
 

 *王林鋒(2018).中国における教員免許の国家資格化改革の展開と課題~全国統一試験の現状に着目して~,教師教育研究,11,pp.9-17.


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?