よくある便秘・めずらしい胆道閉鎖症
便秘は年齢問わず多くの人を悩ませる。また意外な病気が隠れていることもあるので、軽んずるべからずである。子どもの場合も然りだが、小児独特の病気がある。その後のうんち生活を健やかに送るため、注意することもある。一方「胆道閉鎖症」は1万人に1人程度の大変めずらしい病気なのですが、命を落とすこともあるということで、ぜひ知っておいていただきたい病気です。大同病院 小児外科部長の千馬耕亮医師がお話しました。(2023年12月20日配信)
子どもの便秘
イズミン 便秘というと、老若男女問わず悩んでいる方は多く、人生にはついてまわる困りごとかなと思いますが、子どもの便秘というのも多いものなんでしょうか?
チバ そうですね、けっこう便秘に悩んでる子どもさんは多くて、いろいろな研究はありまして、日本人の小児の5~20%の方が便秘だと報告されています。
イズミン 便秘の症状としては、何日以上出ていない、など見分け方はありますか?また受診のタイミングはどんなときでしょうか。
チバ 基本的には、年齢によってけっこう差があるので、一概には言えませんが、便秘で受診してほしい症状としては、お腹が痛い、お腹が張っている、うんちがカチカチで出すときにお尻が痛い、全然出てこない、といったときです。ほかにも、便秘で食欲がなくなるとか、怒りやすくなったりイライラしたりということもあるので、そういう症状が出てきたとき、「あれ、ちょっとおかしいんじゃないかな」というときには受診していただけるといいかなと思います。
シノハラ 普通、子どもさんが便秘であれば、小児科に行くと思うのですが、小児外科の先生が便秘を診るのはどういう意味があるのですか。
チバ 実は小児外科で手術でしか治せない病気で「ヒルシュスプルング病」っていう、舌を噛みそうな名前の病気がありまして、これは、すごく頑固な便秘を伴います。
浣腸しても頑固で全然出てこないというようなときに、こうした病気が隠れていることも考えられるので、かかりつけの小児科から小児外科の方に紹介されることがあります。
イズミン ヒルシュスプリング病というのはどういう病気なんですか。
チバ おしりに近い腸を動かすはずの神経が生まれつき腸まで届かず、うまく腸を動かすことができない病気です。動かない腸管の長さがお尻から何センチか、それが長ければ長いほど小さいときに発症してわかります。しかし、動かない腸管が短いため病気が見つかりにくく、頑固な便秘が続いているというケースもあるのです。
シノハラ それは手術で治すのですか?
チバ そうですね。これは今のところ手術でしか治すことができない病気です。動かない腸管を切ってお尻に繋げてあげることで、ちゃんとうんちが出せるようになります。
シノハラ 手術する時期は何歳くらいですか?
チバ 生まれてすぐ、新生児期に見つかる児もいて、そういう場合は手術しないとうんちを出せないので、生まれて数カ月以内に手術する場合もありますし、もうちょっと大きくなってから発症した場合には、見つかったら手術をするということになります。
シノハラ 便秘でずっと悩んでいて、原因がわからないとツライですね。
チバ そうですね。ヒルシュスプルング病でなくても、生まれてからずっと便秘で何年も悩んできて、ひどい場合は社会生活に支障が出ている児もいます。
シノハラ 便秘がひどくて家から出られないとか。
チバ そうなんです。実は便秘がひどすぎると、うんちの塊がお尻をフタしてしまって、液体だけ出てくる、つまり症状としては下痢になります。絶えず、お尻から漏れてくるようになるので、それでは出かけられないじゃないですか。それが原因で不登校になっちゃうこともありますね。
また下痢が止まらないので下痢止めを飲んでしまい、便秘なのに下痢止めを飲んで、さらに便秘がひどくなることもあります。
イズミン ヒルシュスプルング病以外に、子どもが便秘になる原因にはどんなものがありますか?
チバ 腸を動かす神経の数が少ないとか、生まれたときからお尻の位置がずれていた、ということで便秘になることもあります。あとはいわゆる普通の便秘が一番多いですね。
イズミン 普通の便秘は、どのように治療していくんですか。
チバ 小児外科の外来に来られるような便秘は、小児科の先生が管理に困るような、かなり頑固な便秘です。まずは腸のなかのうんちが詰まっている状態をなくし、空っぽにしてあげる必要があります。その腸のなかのうんちを空っぽにするには、浣腸したり、それでもどうしても出きらない場合には、掻き出してあげたりもします。
その後、下剤や浣腸を使って、腸のなかにうんちが溜まらない状態を作ってあげます。
イズミン そうした治療で、便秘は改善しますか?
チバ 時間はかかります。便秘の治療って、数カ月・数年単位なんですね。成長するに伴ってだんだん良くなっていくことが多いですが、再発することもあります。
イズミン オムツが外れるときのトイレトレーニングから始まって、子どもの生活習慣を整えることも大事なんでしょうか。
チバ そうですね。便秘の原因として生活習慣というのもやはりあって、夜遅くまで起きているとか、朝食を食べないとかも実は便秘の原因になります。あとはトイレトレーニングが厳しいと、うんちすること自体を嫌がってしまったり、しちゃいけないんだっていうふうに思ってしまったりして我慢してしまうようになると便秘がちになる。便秘がひどくなるとうんちが硬くなるので余計に出なくなるという悪循環に陥ってしまうこともあります。
メンタルも関係しますし、生活習慣も関係しています。それらを含めて総合的に治療してかないといけない。小児外科で便秘の治療をする以外にも、全身的に診させてもらっています。小児科の先生と一緒に診ることも多いですね。
うんちでわかる、胆道閉鎖症
イズミン ちょっと珍しい病気について伺います。胆道閉鎖症、これは一体どのような病気なんでしょうか?
チバ 胆道閉鎖症は肝臓で作られる消化液「胆汁」を腸に流す「胆管」という管が、生まれてまもなく潰れてしまうという病気です。原因は、胆管に炎症が起きることによるのではと考えられていますが、はっきりはわかっていません。
イズミン どんな症状が出ますか?
チバ 胆汁にはうんちに色がつく茶色の成分が含まれているのですが、この胆道閉鎖症になると、胆汁が腸に流れていかずに体内に溜まります。そのため、うんちの色は薄くなって、体は黄色くいわゆる「黄疸」という状態になります。
イズミン 発症時期はいつごろですか?
チバ 早い児だと生後2~3週間ぐらい、遅くても3~4カ月の時期に起きると言われています。発見は早ければ早いほど、予後が良いと言われています。
シノハラ これはけっこう、珍しい病気なんですよね。
チバ はい。1万人に1人ぐらいのかなり珍しい病気です。2021年に日本では84万人生まれていて、それで計算すると年間80人ぐらいしかいない稀な疾患ではあります。
イズミン めずらしい胆道閉鎖症について今回取り上げたのはなぜですか?
チバ 発見が早ければ早いほどその予後は良く、遅れれば遅れる分だけ肝臓にダメージが大きくなります。見つかったときには肝硬変で肝臓がダメになってしまっていることもあります。そうなると出血を止める成分を作ることができなくなり、突然脳出血を起こすこともあります。なので、できるだけ早く見つけるために、一般の方にも知っていただきたいと思いました。
シノハラ 死亡する可能性もあるということですね。
チバ はい。そして早期発見するためにどうするかなんですが、この病気を発症するとうんちの色が薄くなって、体が黄色くなると先ほどお話しました。
うんちの色については母子手帳のちょうど真ん中あたりに説明したページがあります。これは僕ら小児外科医からも切実なメッセージとしてぜひ読んでほしいです。通常赤ちゃんのうんちの色は、黄色や黄土色ですが、胆道閉鎖症の場合は薄くなって、レモンイエローのような薄い色や、場合によっては真っ白になってしまうこともあります。ですので、この母子手帳のページを見ていただいて「あれ、うんち薄いんじゃない?」と思ったら、健診まで待たずに1日でも早くお近くの小児科を受診していただきたいと思っています。
イズミン 手術しないと治らないということですが、具体的にはどんな治療になるんでしょうか?
チバ この胆道閉鎖症を生まれて数週間で発症してしまったら、この潰れてしまった胆管の代わりに、腸を繋げてあげてあげる手術をしないといけません。ただその手術で終わりというわけにはいかず、見つかるまでに既に肝臓にダメージを受けていることが多いので、その後もだんだん肝臓自体の状態が悪くなってしまい、肝移植が必要になるケースもあります。手術をしても、実は自分の肝臓で生きていける子は一年後で7割ぐらいと言われています。もちろん肝移植によって元気に過ごしてる子もたくさんいますが、肝移植が必要になる子もできるだけ減らしたいと考えているので、できるだけ早く受診してもらえたらと思っているのです。
イズミン ほかにうんちの色が変わる病気はありますか?
チバ いくつかあります。肝臓に炎症が起きる肝炎や、胆道拡張症という病気もあります。何にせよ、うんちの色が薄くなるというのは、何かしら体に異常が起きているサインなので、母子手帳を見て、おかしいなと思ったら受診していただければと思います。
ゲスト紹介
千馬耕亮(ちば・こうすけ)
大同病院 小児外科部長。
小さな子どもたちが、健やかに成長していけるように小さいうちに手術で病気を治す。そのことに魅力を感じて小児外科医の道を選んだ。趣味はゴルフと車。日本外科学会認定外科専門医、日本小児外科学会認定小児外科専門医。
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