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鼠径(そけい)ヘルニアと臍(へそ)ヘルニア

小児外科で最も一般的な病気「鼠径(そけい)ヘルニア」、そして「臍(へそ)ヘルニア」(いわゆる出べそ)について、大同病院 小児外科部長の千馬耕亮医師に聞きました。(2023年6月23日配信)

お腹の一部がポッコリしていたら要注意! ~鼠径ヘルニア

イズミン 小児外科で一番代表的な病気って何ですか。

チバ 一番数が多いのは鼠径ヘルニアですね。

イズミン 鼠径ヘルニアとはどんな病気か教えていただけますか。

チバ 鼠径ヘルニアは、いわゆる「脱腸」です。成人でもありますが、足の付け根のところ、男性だったらそこから陰嚢のあたりがモコッと膨らんできます。それはお腹のなかから腸などの内臓がはみ出してくることによって起こります。
 これがはみ出ているだけだったら特に問題はないのですが(たぶん気持ち悪さなどはあると思いますが)、はまり込んで抜けなくなっちゃうことがあって、すると、そのはまり込んだ腸に血液が行かなくなり、痛くなる。場合によっては、子どもの場合は自分で痛みを訴えることができずに、ずっとギャーギャー泣いてるだけなので理由がわからず、なかなか見つからなくて最悪命を落としてしまうこともあり得ます。

シノハラ それは、陥頓(かんとん)っていって、いわゆる出てるところの出口が狭くなって血流が悪くなって、その出ている部分の組織がだんだん悪くなってくるということですか。

チバ そうですね。陥頓は、そのはまり込んだ腸に血液が行かなくなって、その腸がダメになってしまう状態です。なので早く手術をして、その組織が壊死する前に手術をして、何とか状態を戻します。緊急手術になることも稀にあるのですが、そうならないように予防的に穴を塞いであげる手術が必要になってきます。

イズミン 鼠径ヘルニアの患者さんは非常に多いということですが、どんなお子さんに多いか傾向はありますか?

チバ 教科書的には、クラスに1人ぐらいいると言われています。男の子の方が若干多いです。あとは、早く生まれた子に多いですね。

イズミン どんな症状があって気づくんですか。

チバ 小さい子だと、お母さんがオムツを替えるときに「あれ。なんか膨らんでるんじゃない?」と見つけることが多いと思います。あとは検診のときにお医者さんが見つけて、こちらに紹介していただくこともけっこうあります。
 もう少し大きな子になってくると、親がお風呂に一緒に入ってるときに「何かここ変じゃない」と見つかったり、あとは本人が「ここなんか膨らんでるけど何?」と気になったりすることもあります。

シノハラ ヘルニアは生まれたときからある場合と、もうちょっと大きくなってからなる場合とあるんですか。

チバ 例えば、早産児の場合は、生まれつきこの鼠径ヘルニアがあることがあります。また生まれたときにはなくても、例えば数年~十年くらい経ってから出てくる場合もあります。

シノハラ 鼠径ヘルニアが見つかって、手術するかどうか、もしくはその時期はどうやって決めるんですか?

チバ 鼠径ヘルニアは、実は生まれてから半年くらいまでは、自然に治る可能性があります。生まれてすぐ見つかっても、しばらく様子を見て治らなければ手術をおすすめしています。

シノハラ ある程度は放っておいても(様子見でも)大丈夫な病気なんですか。

チバ そうですね、ポコッと膨らんでるだけであれば、そのままほっといても命に何か関わることはないです。先ほどの陥頓状態にさえならなければ。

イズミン なるほど。足の付け根の膨らみに気がついたら、かかりつけの先生にまず見ていただいて、ちょっとおかしいなと思ったら、当院に紹介していただくと良さそうですね。
 鼠径ヘルニアの手術自体はどんな手術なんですか?

チバ 昔はで足の付け根のところ2センチぐらい切って、その開いている穴を塞いでいました。ただ近年、これも腹腔鏡を使った手術が多くなり、僕はおへそからカメラと、あとマジックハンドみたいな鉗子という道具を入れて操作し、開いている穴を縛って塞ぐような手術をしています。全身麻酔をかけて1時間弱ぐらいでやれる手術です。

イズミン 入院期間はどれぐらいですか?

チバ 当院では2泊3日です。手術して次の日の朝に退院という感じです。

おへそに腸がはまり込む?~臍(へそ)ヘルニア

イズミン へそヘルニアってどんな病気ですか?

チバ いわゆる昔で言う「でべそ」のことです。おへその部分がプッと膨らみます。この膨らみ方が本当にさまざまで、大きいとピンポン玉ぐらいになる子もいれば、もっとちっちゃくチョンと膨らんでる子もいます。
 そもそもヘルニアがなぜ起きるかというと、おへそというのはお母さんのお腹のなかでへその緒がくっついていたわけですが、そのへその緒が取れたあとの穴がうまくふさがらなくて、腹筋の壁に一部穴が開いてしまった状態です。そうすると、その穴から腸が出てきておへそがプクッと膨らんでくるわけです。

シノハラ 生まれたときから、そうなってるのですか。

チバ 生まれてすぐ、へそヘルニアがある子もいれば、だんだん膨らんでくる子もいます。

イズミン よくお母さんと繋がっているへその緒を切るときに、綺麗に切れなくて、「でべそ」になっちゃうっていう話を聞きます。

チバ 実はへその緒の切り方とへそヘルニアは全然関係なくて、へその緒を切ったあと、切ったところとへそと繋がってるところがたぶん数センチぐらい残ってると思うんですけど、それは自然に取れます。取れたものをおうちに大切に保管されてる方も多いですよね。へその緒が自然に取れたあと、お腹の壁に空いた穴がうまくふさがらなかったというだけですので、臍の緒の切り口と「でべそ」は関係ありません。僕の描いた小児外科のインスタの解説もご覧ください。

イズミン へそヘルニアも、鼠径ヘルニア同様、自然に治ることもありますか?

チバ 「でべそ」自体は1歳~1歳半ぐらいまでに約90%は自然にこのお腹の壁の穴が閉じて、治ります。

イズミン おへそに絆創膏を貼って直すっていうシーンもマンガなどにはありますが、あれは効果がありますか?

チバ 絆創膏を貼ったり、綿を詰めて圧迫したりする方法があるんですが、実はこれ、おへそのヘルニア、つまり筋肉のお腹の穴を閉じることに関しては効果がないと言われています。ただ、出べそのときに、へそが膨らんで皮膚が伸びてしまうっていうのを防ぐことができるので、自然に治ったときに、その形がより綺麗に治る効果があると言われています。

イズミン 手術はどのような場合に行うのですか?

チバ だいたい1歳~1歳半ぐらいまでは自然に治る可能性があるので様子を見て、それで治らなければ2歳くらいまでに、つまり、本人が覚えてないぐらいのうちに手術するのが良いと考えています。もちろん2歳を超えてしまったからもう手術できないということはありません。手術自体は、特に何歳でも問題なくできます。

イズミン 具体的にはどんな手術ですか。

チバ これも手術は全身麻酔です。おへそを切って、お腹に開いた穴を縫い閉じて、おへその形を綺麗に整えます。傷あとはおへそのなかだけになりますので、しわに隠れてほとんどわからなくなります。手術にかかる時間は、1時間弱ぐらいで、当院では2泊3日の入院で可能です。


ゲスト紹介

千馬耕亮(ちば・こうすけ)
大同病院 小児外科部長。
小さな子どもたちが、健やかに成長していけるように小さいうちに手術で病気を治す。そのことに魅力を感じて小児外科医の道を選んだ。趣味はゴルフと車。日本外科学会認定外科専門医、日本小児外科学会認定小児外科専門医。


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