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足跡を数える癖、風を感じる習慣

「君の足跡もこれだけ残っているよ。」
「僕は足跡をこれだけ拭いた。」
あの方は正確な数を言います。
私はいくつ拭いたか覚えていないけれど、
あの方は正確に覚えています。
家には足跡が点々と残されていて、
私はそれのほとんどを拭いて、
その中の我慢ならないたった一つを
あの方に口にしてしまうのは、
罪なのでしょうか。
それにしても、あの方はまだ帰ってこない。
きっと他の何かを優先しているに違いない。
遅い、準備はとっくに済んでいる。
連絡もできない状況なのかしら。
「遅くなってごめん、誕生日おめでとう。」
真っ赤な花束。ありがとう。
本気でそう思いました。
だけど、頭の中の唯一光が差し込まなかったところで、考えてしまいました。
前にお花をもらってから今までの間で
消した足跡の数と、花の本数を
比べようとしてしまったのです。
ひらひらと彼の足元に落ちていく花びらを
二人で目で追いかけ、
私は拾ってあげるのを躊躇いました。

ここにあったものは、
そうか、あの人が通ったからか。
あの人が通ったから、
風を感じるんだ。
ここに何も無いのはあの人が通ったから。
風通しがいいのはあの人が通ったから。
そういえば、
あの人はまだ帰ってこない。
約束の時間を過ぎても帰ってこない。
事故にあったりしていないだろうか。
もう少し待ってみよう。
「ごめん、ちょっとコンビニに寄ってて。」
買ってきてくれたアイスを2人で食べた。
跳ねたワッフルコーンの欠片、
拾ってゴミ箱に捨ててくれた。
部屋の中を風が通ってカサカサと音がする。
これはカーテンレールに吊り下げられた
ドライフラワーの仕業。

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