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私の周りの医師・医療者のみなさまへ

みなさま、お元気ですか?facebook等をご覧頂いている方はご存知かと思いますが、私は非常に元気です。

学生時代から豪語していた予防医療を実践するため病院を飛び出したのが3年前。ゴチャゴチャと色々やりだしてもう3年が経ちましたね。

ご報告なのですが、7月下旬にクラウドファンディングを実施します。

その概要が、「足のトラブルは足の歪みから来ていることが多い。足の歪みを整えるために3Dプリンタで"硬い"インソールをつくり、足のトラブルを解消して健康寿命に貢献したい」というものです。

聞き慣れないことなのではないかと思い、事前にその医学的内容をお伝えしたく、ここに記事を書きます。

医療者、特に医師のみなさま向けです。

以下長文なので結論を先に述べますと、

・欧米において硬いインソールで足の歪みを矯正し、足のトラブルを減らすことができるという仮説やエビデンスがある
・それに基づいて、足の写真から骨格を推定し、3Dプリンタで硬いカスタムインソールをつくり、足のトラブルを解消できないか今から検証する
・足から健康寿命を伸ばすため、このような方策でよいか医学的なコメントがほしい

というものです。

そもそも岡部大地は最近何をしているのか?

久しぶりに会った人には「何しているの?」とよく聞かれます。その質問にお答えすると、週1日診療、週1日研究、週4日起業、週1日子育てをしています。

だんだんと起業の占める割合が大きくなってました。今年はまだサーフィンに行けていないことだけが心残りです。

診療は、足を専門に診させて頂いています。アジア初・唯一の足総合病院である下北沢病院で働いています。

研究は、千葉大学の予防医学センターで近藤克則先生のもと、高齢者10-30万人に3年に一回アンケートをとっているJAGESのデータを解析させて頂いています。

博士2年目に執筆した論文は、「高齢者総合機能評価は健診よりも健康寿命喪失を予測する:JAGESコホート研究」というもので、ざっくりいうと、「検査よりも問診の方が1.3倍高齢者の健康寿命を予測した」というものです。

初めて執筆した論文ではありますが、今年6月に日本老年医学会 第26回 優秀論文賞をいただくことができました。

現在執筆している博士論文は、街の歩きやすさを表すウォーカビリティ(neighborhood walkability)が高齢者の痛みに影響しているのではないかという仮説を立て、2万人のマルチレベル分析を実施し、ある程度結果が出ています。

きちんとアクセプトされれば、世界で初めて建造環境(built environment)の一つであるウォーカビリティが、腰痛・膝痛に保護的に関連することを報告します。個人要因ではなく、痛みにおける環境要因に注目した論文です。

育児は、現在子どもが6ヶ月を迎えたところです。素晴らしい妻のおかげで、すくすくと育っています。夜8時に寝て、朝6時に起きてくれるので、私も完全に朝型になりました。

私も8時間半くらい寝ています(笑)ショートスリーパーへの憧れもなくなり、しっかり寝ることでアトピーもよくなりましたし、いつ誰と会っても元気でいられています。


整形外科領域の疾患を予防したい

さて、事業では何をしているかと言いますと、筋骨格系疾患の予防、つまり整形外科領域の疾患予防と向き合っています。

医師・医療者のみなさんはご存知の通り、沢山の高齢者が腰痛やひざ痛などの痛みを抱えています。

世界中で3人〜5人に1人が痛みを抱えており[1](Lancet 2017)、要介護認定の原因の1/4、高齢による老衰を含めると1/3を占めています[2]。

患者さんと話していても、痛みがあると自宅から出るのがおっくうになると言います。社会参加は認知症を予防することが報告されているように[3]、歩けないと認知症にも影響しますし、運動不足から脳梗塞にもつながりやすくなります。

つまり健康寿命を伸ばすには、筋骨格系疾患の対策が極めて重要であり、ロコモ予防、フレイル予防とも言われています。

筋骨格系疾患は、これまで重度に至ってから手術されるものと考えられていましたが、近年はより早い段階から予防や治療可能であることが分かっています[4]。

しかし心臓外科のカウンターパートに循環器内科、消化器外科に消化器内科、脳神経外科に脳神経内科があるのに、整形外科には整形内科がありません。

この領域は理学療法士が頑張っていますし、昨今総合診療のなかでも整形内科について話題に上がることもありますが、それでもやはり科としては確立されていないため、整形内科領域の医療水準は低いと個人的に思っています。

予防医療を志して色々やるなかで、自分もO脚、外反母趾、扁平足などがあることをはっきり認識し、自分自身が将来の筋骨格系疾患のリスクが高いことを知りました。

原体験もあり、医師でもある自分が整形外科領域の疾患予防に取り組むことにしました。


足病医学(ポダイアトリー)について

医師、医療者のみなさま、足病医学(Podiatry)をご存知でしょうか?かく言う私自身は足病医学について知ったのがつい1-2年前です。知っている方にはすみませんが、少し紹介します。

日本の足の医療は100年遅れていると言っても過言ではありません。文明開化以降、人々が靴を履くようになり、まだ歴史が浅いことも影響していると思います。足の医学が最初に発達したのはドイツ。欧州では16世紀ごろ、ヒールの高い靴を女性だけでなく、貴族の男性も履いていたので、トラブルも多かったのでしょう。そのような背景から、現在では足病専門医である「ポドローゲ」という国家資格があり、その資格を持った医師がいて、足全般の診療を行っています。 
米国では、約100年前に一般の医師免許とは別に、足病専門医の「ポダイアトリスト」という国家資格ができました。大学卒業後、ポダイアトリー専門の学校で3年間、足病医学を学んだ後、研修医として3年間の経験を積んで取得します。米国のほか、英国、ドイツ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどにも足病専門医の国家資格があり、足病は医学の独立した専門分野として確立しています。ー桑原靖(時事メディカル)ー

アメリカにはすでに足を専門にする足病医が15000人、オーストラリアには5000人います。外反母趾を中心に、後脛骨筋機能不全、強剛母趾、たこ、鶏眼、巻爪、足底腱膜炎、アキレス腱炎、足根洞症候群、モートン病、足根骨癒合症、下肢静脈瘤、糖尿病足などを治療しています。

実際の足病を診療する際にはエコーが必須で、荷重位でのレントゲン撮影なども行いながら診断しています。治療には運動療法やインソールで治療したり、外科的治療まで行います。

インソールが治療の肝であり、海外でオーソティクス(orthotics;矯正器具)とも呼ばれ、足の骨格を矯正するために用います。

例えば外反母趾、扁平足、たこ、鶏眼、巻爪、足底腱膜炎、アキレス腱炎は、そのほとんどが距骨下関節の回内など足の歪みを伴っています。

整形外科の先生も、膝OAの患者さんにウェッジインソールを処方されたりしているかと思います。片足で28個ある足の病気や歪みに対しても、インソールでアライメント改善を行うわけです。

筋骨格系疾患の予防には、「歪みを整えること(アライメント)」「綺麗に身体を使うこと(運動の質)」「運動を行うこと(運動の量)」が重要だと私は考えております。

「綺麗に身体を使うこと≒歩き方の改善」に取り組む中で、足のアライメント改善の重要性を知り、足病医学についてもっと深く学びたいとこの分野に飛び込んでいきました。

欧米では硬いインソールが処方されている

欧米では足病の予防や治療目的にインソールが頻繁に処方されています[5]。各国で色々なタイプのインソールが考案されておりますが、日本と違って欧米では硬いインソールが処方されていることをご存知でしょうか。

日本で先駆けて足病医療を提供している下北沢病院や足のクリニック表参道でも、硬いインソールが処方されています。

一般的にインソールと言えば「柔らかい」という認識の方が多いのではないでしょうか。日本で多く使われている柔らかいインソールは、若干の矯正を目的にしつつも、そのクッションに対する反応で動きを変えさせて、機能改善を試みる目的が強いと思います。

これで改善する人はいいのですが、歪みが強くなっている人ほど、柔らかいものでは骨格を矯正できません。

赤線のように距骨下関節が回内して内側縦アーチが低下。黄色の円のように内側楔状骨と第一中足骨の間が開大。

後ろからみると、このように距骨下関節が回内している人は、体重を支えきるために硬いインソールが必要だというわけです。

まだエビデンスは確立されていませんが、実臨床上は外反母趾や強剛母趾、足底腱膜炎、アキレス腱炎などの痛みが硬いインソールで改善されていくのを目の当たりにしています。

障害予防目的においては、衝撃吸収を目的としたインソールでは効果がなく、骨格矯正を目的としたインソールで28%リスクを軽減したというレビュー論文があります[6]。

何より私自身が外反母趾があり、強い扁平足を持っていて、硬いインソールで足の疲れやすさが半減しています。ぜひ、扁平足を自覚している方や足が疲れやすい方は使ってみてほしいです。

日本のお寿司を食べたことがなく、海外の変なお寿司を食べている外国人に対して、「それは本物のお寿司ではない!」と言っても分からないのと同じだと思いますので。

本物のお寿司とは何かは食べたことのある人にしか分からない

クラウドファンディングの内容について

硬いインソールは硬いため自分の足に合っていないと不具合も起きやすいです。

そのため現在硬いインソールを作りたいと思ったら、足のクリニックなどに受診し、靴装具士にオーダーメイドで製造してもらいます。1足5万円ほどで、保険適応で2万円弱で購入できます。

しかし、何度か病院に足を運ぶ必要があり、保険で作れるのも1年半に1足だけです。市販で買える北米700以上の医療機関で処方されているNWPL製のインソールは、私も一つ履いていてとても気持ち良いのですが、1足7万円しました^^;

「高い、面倒」という硬いカスタムインソールをもっと手軽に届けたい。

そこで、足の写真だけで診断し、3Dプリンタでカスタムインソールをつくることにしました。

HOCOというブランドを立ち上げました。

そのプロトタイプを製作する資金と初期製作を受けてくれる方を集めるためにクラウドファンディングを行います。

1mm単位での精度が必要な“硬い”インソールは、不具合が出る可能性もゼロではありません。遠隔で様々な足に合わせて、不具合がない効果的なインソールを作ることは技術的にもとても難しく、まだまだ開発の余地があることを自覚しています。

そこで最初に製作に協力してくれる200名を募集し、つくる資金も集めたいというものです。

運動連鎖があるように、足の歪みは、ひざや腰の歪みにつながることがあります。人の土台である足を整え、一部の歪みを整えることができます。人生100年時代の今、自分の足で歩き続けられることが重要です。このプロジェクトから、筋骨格系疾患の予防に取り組み、健康寿命の延伸に貢献したいと思っています。

このようなことを岡部大地はこれからやっていこうと考えています。

ご質問、意見などのある医師・医療者の方は、ぜひメッセージをください。それらを参考にして、本当にいいものを届けていきたいと思います。

どうぞよろしくお願いします。

[1]Global, regional, and national incidence, prevalence, and years lived with disability for 328 diseases and injuries for 195 countries, 1990-2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016. Lancet 2017, 390(10100):1211-1259.
[2]厚生労働省:平成28年 国民生活基礎調査の概況
[3]Roos EM, Arden NK: Strategies for the prevention of knee osteoarthritis. Nat Rev Rheumatol 2016, 12(2):92-101.
[4]第113回社会保障審議会医療保険部会資料 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000208525_00001.html
[5]Menz HB et al. Custom-made foot orthoses: an analysis of prescription characteristics from an Australian commercial orthotic laboratory. J Foot Ankle Res. 2017 Jun 7;10:23.
[6]Bonanno DR et al. Effectiveness of foot orthoses and shock-absorbing insoles for the prevention of injury: a systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2017 Jan;51(2):86-96.

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