紫色から始まるⅡ③

大暴れして遊び疲れたテテちゃんが、電池の切れた人形みたいに、ジン君の膝の上で眠り始めた。

子供のパワーって凄い。

汗いっぱいの額を、ジン君がタオルで優しく拭う。

ユンジ「テテちゃん可愛いね」

ジン「でしょ」

愛おしそうにテテちゃんを見るジン君は、とても穏やかな目をしている。

そういえば。

ユンジ「お母さんはお仕事?」

ジン「あぁ、仕事で海外にいるんだ」

ユンジ「海外?! 出張?」

ジン「出張というか……基本行きっぱなしで、月1くらい帰ってくる」

ユンジ「えっ、そうなんだ。単身赴任的な?」

ジン「んー、そうだね。仕事の本拠地が海外だから」

ユンジ「海外で仕事?! ……凄いね。じゃあ、テテちゃんのお世話はジン君とお義父さんと二人でしてるの?」

ジン「そう。あとベビーシッターさん頼んでるんだ。グクさんも僕もいない時とか」

ユンジ「そうなんだ。ジン君面倒見が良いな、って思ってたんだけど、普段テテちゃんのお世話してるからなのね」

ジン「そうなのかな。ちょっと良く分かんないや」

そう言いながら、テテちゃんが寝苦しくならないように、体勢を変えてあげている。

窓から差し込む日差しが、二人に柔らかく降り注いでいる。

一枚の絵のような光景を見ながら、水を飲んだ。

水が体の中を通っていく。


吐き気が収まったので、グクさんに車で送ってもらう事になった。

歩いて帰ると言ったのだけれど、

ジン「具合が悪かった人を一人で帰す訳にいかないでしょ」

と言って譲らなかった。変なところで頑固ね。

助手席に乗ろうとすると、

ジョングク「あ、後ろに乗ってもらっても良い? オレの隣には妻しか乗せないんだ」

と嬉しそうな笑顔で言われた。

あら。

奥さんの事好きなんだなぁ。

ジョングク「いつもジンと仲良くしてくれてありがとうね」

ユンジ「えっ? いえいえ、ジン君には釣りの時や、今日もとても良くしてもらってて。私こそありがたいです」

ジョングク「それなら良かった。ジンが友達を連れてきたの、初めてで。今日はアクシデントではあったけど……本人は何も言わないけど、ユンジちゃんと釣りに行くようになってから、本当に楽しそうにしててね。それまではちゃんと学校で過ごせてるのか、心配してたんだ」

ユンジ「心配? どうしてですか?」

ジョングク「性格は地味なのに、あの容姿だからモテるでしょ? 嫉妬されて、嫌がらせされたりとかしてたみたいで。最近はだいぶ収まってきた、って言ってたけど」

知らなかった、そうなんだ。

確かにファンクラブの女子達、キャーキャー言ってるし、素っ気ない態度取るから『塩』とか言われてるし。

それが気に入らない男子もいるんだろうな。

ジョングク「もちろん友達はいると思うんだけど、ユンジちゃんと釣りに行くようになって本当に表情が明るくなったから、ちょっと安心してるんだ。
ユンジちゃん、これからもジンと仲良くしてやって下さい」

そう言うジョングクさんは、若いけどちゃんと父親の顔をしている。

ジョングク「あっそうだ。もし来週土曜日空いてたら、また家に来ませんか? テテの誕生日パーティーするんで」

ユンジ「テテちゃんの誕生日? 家族水入らずの方が良いんじゃないですか?」

ジョングク「賑やかな方がテテも喜ぶから。テテ、ユンジちゃんに懐いてたし。テテは人が好きなんですよ」

来週また行く約束をして、家の前で車を降りた。

ジン君、嫌がらせされてたのか。

そんな素振り見せなかったから気付かなかった。

そういえば、笑顔のジン君しか見た事ない。

私もまだまだだ、もっと人を見る目を養わないと。

それにしても。

うーん、お腹空いた。

あ、乗り物酔いの薬忘れずに買っておかなきゃ。

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