紫色から始まるⅡ⑰

救急指定病院に着いた頃には日が暮れかけて、オレンジと紫色の雲が空に浮かんでいた。

脚が棒のようになって、歩くのがやっとの状態でジン君を探した。

ジン君は、どうして運ばれたんだろう。

今どこにいるんだろう。

やっぱり受付の人に聞いた方が……。

「ユ……ユンジ……」

振り向くと、息も絶え絶えのナム子とジミンが、床に座り込んでいた。

ジミン「ユンジちゃん、足……早いね……」

ナム子「全っ然……追い付けな……苦し……」

ユンジ「ごめん、気付いてなかった」

ジミン「マジで?」

ユンジ「水……ないや」

ジミン「水はいいから」

ナム子「ジン君探しに行こ」

汗だらけの私たちを見てギョッとした受付の人に、『個人情報は教えられない』と言われてしまった。

そうだよね……。

どうしよう、頭が回らない。

ナム子「私ジョングクさんに連絡してみるよ」

ジミン「とりあえず、救急受付に行ってみる?」

立ちすくんでしまった私を気遣うように、二人が声をかけてくれる。

ナム子「うーん、電話出ないな……」

ジミン「出ない? LINEしてみる?」

ナム子「そうだね」

病院の裏手にある救急受付へ行くために、三人で歩き始めた。

外来受付が終わった病院の駐車場は、車もまばらで、沈みかけの夕日が降り注いで、オレンジ色に染まって眩しかった。

ナム子「あっ! ジン君!」

ナム子が指を指した方向を見ると、救急外来のドアから松葉杖をついたジン君が出てくるところだった。

松葉杖を器用に操りながら、スロープを降りてくる。

ジン君……。

急に体の力が抜けてへなへなと座り込む。

地面は昼間の名残を残して、まだ熱い。

ジミン「ユンジちゃん! 大丈夫?!」

ジミンの大声に、ジン君が私たちに気付いた。

逃げたい衝動に駆られて立ち上がろうとしたけど、ダメだった。

本当に脚が動かない。

膝が笑うとか、腰が抜けるってこういう事をいうのかしら。

ジン君がゆっくりと私たちに近づいてきた。

ジン「みんな、何でここにいるの?」

ナム子「ジョングクさんからジン君が救急車で運ばれたって聞いてビックリして」

ジン「それで来てくれたの?!」

ナム子「うん……思ったより元気そうで良かった」

テテちゃんを抱えたジョングクさんが、ジン君の後ろで話し始めた。

ジョングク「途中で電話が切れちゃって。丁度先生から呼ばれたからかけ直しも出来なくて、ごめんね」

ジミン「……そういえば、なんでナム子はジョングクさんに電話したの?」

ナム子「明日本を借りに行ってもいいか、聞きたくて」

ジミン「ジンに言えばいいじゃん」

ナム子「何となく……何その顔」

ジミン「だって」

ジョングク「階段踏み外して救急車、ってところで切れちゃったから、心配させたよね。本当にごめん」

みんなの話す声を聞きながら、ただ、ジン君を見上げていた。

ジン君も、何も言わずに立ったまま、私を見下ろしていた。

現実感のないまま、ボンヤリとお互いを見つめていた。

ジン君が、目の前にいる……。

テテ「ユンちゃん、どうしたの?」

テテちゃんの声に全員が振り返り、私の顔を見たジミンが突然、

ジミン「あー、俺喉渇いた!  何か飲みたい!」

と大きな声で言った。

ナム子「私も喉渇いた。 ジョングクさん、お詫びにご馳走してください」

ジョングク「えっ?! 牛乳なら……」

テテ「イチゴ牛乳飲むー」

と言いながら、ジョングクさんを病院の入口に引っ張っていくナム子が、振り返ってウインクした。

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