紫色から始まるⅡ⑬
『返事は急がないから、ゆっくり考えてみて』
何も言えなくなってしまった私に、ジン君はそう言って、家まで送ってくれた。
翌日からもその話に触れず、昨日までと変わらない毎日を過ごしていた。
お昼休みに私たちのクラスで、ナム子やジミンと一緒にお弁当を食べたり、帰りに迎えに来てくれたり。
二人が付き合っているという噂はあっという間に広がり、三人組の時みたいな出来事が起こる事もなかった。
ジン君への嫌がらせも無くなったようで、それはとても良かったけれど。
当たり前のように私の隣にいるジン君に、何と返事をしていいのか、分からなかった。
嫌いではない。
でも好きかと問われれば、分からない。
友達としては、好き。
とても良い人だと思う。
面倒見が良いし、オタクと言っていたけれど、釣りやゲーム、料理とか、楽しみをたくさん持っている。
一緒にいると、とても楽しい。
では、男の子としては?
分からない。
そんな目で見た事もなかった。
考えても考えても、答えが見つからない。
誰かに相談したくても、ナム子やジミンは、私たちが付き合ってると思っているから、話す訳にはいかない。
誰にも相談できない。
自分で考え、選ばなきゃいけないのだ。
ナム子「ねぇユンジ、新しく出来た駅前の店行かない? パフェが可愛いんだって」
ナム子に引きずられるように連れていかれた店は大人気のようで、女の子達が列を作っていた。
色とりどりのフルーツとホイップクリームでたくさん飾られた、カラフルなパフェ。
ナム子が「うーん美味しい」と嬉しそうにバナナを口に運んでいる。
ユンジ「今日ジミンは?」
ナム子「ジミン? あー、何か早く帰らなきゃいけなかったみたいで」
ユンジ「ふーん……ナム子と二人だけって、久しぶり」
ナム子「確かに。最近いつもジミンとジン君一緒だしね。久しぶりで新鮮」
ユンジ「ホントね」
……。
ナム子「ええっ、そうなの?!」
ユンジ「しっ、ナム子声大きい」
あ、と言ってナム子が周りを見渡す。
マックでの芝居も、今のジン君の事も、全部ナム子に白状した。
ナム子「何か変だと思ってたのよ。噂も聞かなかったし、付き合ってる素振りもなかったし」
ユンジ「騙しててごめん」
ナム子「ううん。だってそれ、私とジミンの為に付いてくれた嘘なんでしょ」
ユンジ「うん、まぁ」
ナム子「巻き込んじゃって謝らなきゃいけないのは私よ。ごめんね、ありがとう」
ユンジ「ううん、私がお節介をしただけだから」
ナム子「そんな事ない。おかげで私達、今幸せなんだもの。で、今はユンジが迷子中、と」
ユンジ「そう。考えても考えても、同じところをループしてて……参った」
ナム子「ふーん……ユンジ他に好きな人いるの?」
ユンジ「いない」
ナム子「じゃあ、試しに付き合ってみれば?」
ユンジ「試しって……試してみてダメでした、ってなったらジン君傷付いちゃうでしょ」
ナム子「そうだけどさ、付き合ってみて初めて気付く事も多いと思うのよ。見えてなかったモノが見えてくるというか」
ユンジ「ジミンにもそういうのあるの?」
ナム子「あるよ。結構焼きもち焼きだし、こんな事いうんだ、って思うような事言ったり」
ユンジ「そうなんだ」
ナム子「だから試しに付き合ってみて、本当はどんな人か確認して、それから決めれば良いんじゃない?」
ユンジ「そんな事して良いのかな」
ナム子「良いと思う。悩んで待たせたままより、答え出るのが早いと思うし。ユンジは真面目過ぎ……あっ、アイス垂れてるっ」
ユンジ「えっ……」
『ソフトクリーム垂れてる』
あの日、捕まれた手。
ジン君の唇の感触。
顔が熱くなって、息が吸い込めない。
ナム子「ユンジ、どうしたの? 顔赤くない?!」
ユンジ「あ……う、うん何でもない」
溶けたアイスを掬って口に運ぶ。
さすがにこれはナム子にも言えない。
黙って冷たいアイスを食べ続けて、少し火照りが落ち着いてきた。
ナム子「今さ、ジン君の事考えてた?」
ユンジ「! ……うん」
ナム子「やっぱり。ユンジ自分で気付いてないかもしれないけど、ジン君と一緒にいる時、考えてる事が全部顔に出てるんだよ」
ユンジ「全部?!」
ナム子「いつもポーカーフェイスでクールなユンジが、くるくる表情変えてるの」
ユンジ「そうなの?」
ナム子「そう。それがね、とっても可愛く見えるの。ジン君といる時だけ。今もそう」
今も?! 思わず顔を触る。
ナム子「ジン君といるのが嬉しそうに見える」
……。
ナム子「少なくとも、ジン君の事嫌いではないと思うんだなー私は」
ナム子が見定めるように、私の目をジッと見つめている。
『自分の気持ちに素直になれば、きっと上手くいくと思う。って私にLINEくれたでしょ。その言葉をそっくりユンジに返すよ。後悔しないように、ね?』
ナム子の言葉が頭を回る。
素直、ね。
ナム子に話したら、少しスッキリしたけど。
ジン君と一緒にいる時、そんな風に見えてたんだ。
確かに嫌な思いをした事はなかったし、気を配ってくれてるのも分かってる。
いつも心地よい空気の中で時間を過ごしていた。
試しに、付き合ってみる……?
ああ、煮え切らない。
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