紫色から始まるⅡ⑪
「あんたがユンジ?」
ジン君と設定を決めてから三日後。
帰る支度をしていたところに、三人の女子がやって来て、私を見定めるように見ている。
ユンジ「そうだけど」
女子「ジン君と付き合ってるって本当?」
ジン君が話してた女の子か。
ユンジ「本当」
女子「いつから?」
ユンジ「ちょっと前」
女子「ちょっと前っていつよ?」
ユンジ「あなたに関係ないでしょ」
女子「別れてくれない?」
ユンジ「は?」
女子「私ジン君の事ずっと好きだったの。ジン君私と付き合うから、別れて」
ユンジ「……私と別れれば、ジン君があなたと付き合うと?」
女子「そう」
ユンジ「それはないんじゃない? だったらあなたと付き合ってると思うわ」
女子「いいから別れなさいよ! ジン君は私のモノよ!」
そう喚く目の前の顔が興奮して赤くなり、小鼻が膨らんだ。
『鬼の形相』という言葉が頭をよぎった。
こんな女に絡まれてたのか、ジン君も可哀相に。
……何か腹立つ。
ユンジ「喚いても無駄よ。私ジン君と別れないから」
女子「なっ」
ユンジ「今の自分の顔見る? ひどい顔してるわよ。その顔でジン君に好きって言ったの?」
悔しそうな顔をした女子が、自分の顔を覆って泣き始めた。
ユンジ「だいたい友達連れで私のところに来るなんて……本気で好きだなんて思えないわ」
女子友「この子ずっとずっとジン君の事が好きで頑張ってたのに!」
ユンジ「頑張り方間違ってるのよ。毎日毎日ウザ絡みされたら誰だってうんざりするでしょ。ジン君は優しいから言わなかっただけで、本当は困ってたのよ」
顔を覆っていた女子が、更に大声をあげて泣き始める。
ユンジ「とにかく、私は別れません。この先ジン君にも私にも関わらないで」
「ヤー! 何してるの?!」
息を切らしたジン君が教室に走り込んできた。
ジン「どうしたの? 何か言われた?」
ユンジ「別れてくれって」
ジン君の顔からスーッと血の気が引いて、青白くなった。
この人こんな顔するんだ。
鋭い目で三人組を見ながら、ジン君が言い放った。
ジン「俺が好きで付き合いたいのは、ユンジだけだ。君と付き合う? あり得ない話をするな」
ジン君の強く冷たい口調に、三人組は泣く事も忘れ、驚いた顔でジン君を見つめている。
ジン「ユンジに二度と近寄るな。俺にも。お前らの男友達にも言っておけ。ユンジに手を出したらただではおかない」
硬直して動けない三人に、追い討ちをかける。
ジン「出ていけ」
ビクッとした女子が、大声で泣きながら教室を出ていき、残された二人が後を追った。
やれやれ。
と思った瞬間、膝の力が抜けて、椅子にヘタりこんだ。
ジン「大丈夫?!」
ユンジ「疲れた……」
ジン君が私の肩に両手を乗せて、心配そうな目で覗き込んだ。
手が温かい。
ジン「ごめん、俺のせいで嫌な思いさせて」
ユンジ「ううん、私も腹立って言い返しちゃったから……あのままだったら平手打ちくらいされてたかも。来てくれてありがとう」
ジン「ジミンが呼びに来てくれたから」
ユンジ「え、ジミン?」
教室の入口を見ると、ジミンとナム子が心配そうに覗いていた。
ユンジ「いつから見てたの?!」
ジミン「あいつらが『別れてくれ』って言った時くらい? ヤバいと思って、すぐに呼びに行ったんだ」
ナム子「私も加勢しようと見てたんだけど、ユンジ言い返してたし、ジン君も来たから、じゃあ証拠動画撮っとこうと思って」
ユンジ「……もー二人とも……」
ナム子「何事もなくて良かった。怖かったよね」
ジミン「うん、あいつらちょっとおかしいもん」
ジン「本当にごめんね。もうこんな思いさせないから」
ユンジ「うん……」
見上げれば、全員が心配そうな顔で私を見ている。
ユンジ「もう大丈夫、みんなありがと」
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