紫色から始まる~エピローグ⑤


涙で目尻をにじませたナム子とジミンの笑顔を見届けて、帰路についた。

まっすぐ帰るのはもったいない気がして、途中でタクシーを降りて、川の土手を歩いた。

すでに夕暮れで、赤く染まった空には白い三日月が上っていた。

ジン「……良い式だったね」

ユンジ「うん」

川から吹く風が心地いい。

ユンジ「今日はお家で出前を取って、お祝いのプチパーティでもする?」

ジン「そうしようか」

幸せオーラの余韻が覚めないようなジンは、どこか上の空だ。

そう思う私も、足元がふわふわとして、夢の中のようで。

しばらく無言のまま、二人で歩く。

空は分刻みで、赤から紫へと色を変えていく。

ジン「あの、さ」

ユンジ「ん?」

ジン「これ……」

ジンが紙袋から取り出したのは、ナム子が今日使っていたウェディングブーケ。

白い胡蝶蘭に、紫色のリボンが施されている。

ユンジ「ああ、これ」

ナム子がブーケトスをする時、ナム子の周りに集められた女性の頭上を通り越し、ジンの手の中にスポッと納まったのだ。

ユンジ「めちゃくちゃ盛り上がったね。次はジンだ、って」

ジン「そうそう、オレの番って事はユンジの番だから、ちょうどいいかと思って」

ユンジ「え?」

ジン「これあげるので、オレと結婚してください」

ユンジ「……何かのついでみたいに言わないでよ。もうちょっと雰囲気作るとかないの?」

ジン「ヤー、きっかけ作るのも大変なんだよ。どうやって切り出そうか、ずっと考えてたんだから」

ユンジ「ずっと?」

ジン「あ……うん、ずっと」

ユンジ「どのくらい?」

ジン「……一年くらい」

ユンジ「一年?! 長過ぎない?!」

ジン「きっかけが掴めなくて……これもずっと持ち歩いてた」

ジンが右ポケットから取り出したのは、水色の指輪のケース。

小さなダイヤが付いた、プラチナのシンプルな指輪。

ジン「ずっと渡したかったし、伝えたかったんだけど。ブーケを受け取った瞬間に『今日言え』って事だと思ったんだ」

ユンジ「もしかして、それで上の空だった?」

ジン「……ちょっと」

そう言って上目遣いで見てくるジン。

私がその顔に弱いのを知ってて、ズルい。

ユンジ「もう一回言って」

ジン「え?」

ユンジ「もう一回言って」

ジン「……これあげるから……」

ユンジ「その後!」

思わず二人とも吹き出す。

ジン「オレと結婚してください」

目の前に差し出された指輪とブーケ。

さっきの笑いが嘘みたいに消えた、ジンのまっすぐな視線を受け止める。

真剣な目に、夕陽が当たってとても綺麗。

ブーケを受け取る前に、胡蝶蘭を一つ手折って、ジンのスーツの胸に差し込んだ。

ブートニア、結婚承諾のしるし。

ジンの手からブーケと指輪を受け取って、返事をする。

ユンジ「喜んで」

十年前のジン君と同じ返事。

私も早く言いたかったんだから。

ほっとした顔のジンの耳や頸が、夕陽に負けないくらい赤く染まっていたから。

ユンジ「さ、お家に帰ってご飯食べよう」


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