紫色から始まるⅡ⑥

「ただいまー!」

「ママおかえりなさいっ!」

「おかえりハニー、待ってたよ。混んでた?」

「ちょっとね。テテ、遅くなってごめんねぇ。わぁ、大きくなってる! 
ジン! また背が伸びたんじゃない?!」

華やかな女性の声が廊下から聞こえて、さっきまで静かだった家の中が、
急に明るくなったような気がした。

ジン君が大きなスーツケースを持ってリビングに入ってきた。

ジョングクさんが蕩けそうな、くしゃくしゃの顔で笑っている。

そして、つやつやのほっぺで嬉しそうに笑うテテちゃんを抱えた、女の人。

この人がお母さん?

あれ、何か見た事ある……?

女の人「こんにちは、初めまして。ジンのお友達?」

ユンジ「はい。ジン君と同じ高校のユンジと言います」

ジミン「ジミンです、初めまして」

ナム子「ナム子です、お邪魔してます」

女の人「ジンの母の保美江(ホビエ)です。いつも息子がお世話になってます。今日は楽しく過ごしましょ」

テテ「ママっ、ユンちゃんね、ヒョンの”カノジョ”なんだって!」

ジョングク「えっ、そうなの?! 聞いてないよ?」

保美江「彼女だなんてジン初めてじゃない? しかもこんなに可愛い子、私嬉しくて涙出てきちゃった」

テテ「ママーなかないでー、いいこいいこ」

ジン君を見ると、ナム子達の手前『違う』とも言えずに、耳や頸まで赤くして固まっている。

私と目が合うと、ハッとしたように視線を外して口を開いた。

ジン「ヤーえっと、あっ、お袋、スーツケース部屋に……ぃいってぇ!」

えっ?!

お母さんがジン君の頬を思いっきりつねり上げてる?!

保美江「私の事は『保美江さん』って呼びなさいって言ってるでしょ?!」

ジン「ぐぅ……保美江はんスーヅゲーづ部屋に運ぶぅ?!」

保美江「お願いね」

にっこり笑って、つねっていた手を放すお母さん。

ジン「ヤー、痛ぇマジで……ひどいよ久しぶりなのに……」

つねられていた頬を手で押さえて、ぼやきながらスーツケースを運んでいくジン君。

うわぁ痛そう……。

保美江「皆さんも私の事は『保美江』って呼んでね」

ジミン「あ、ああ、はい……保美江さん……」

ナム子もジミンも顔が引きつっている。

保美江「ユンジ、ちゃん?」

ユンジ「はいっ」

保美江「ジンは、誰かとお付き合いするのが初めてだから、分かってないところもあるかもしれないけど、よろしくお願いしますね」

ユンジ「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」

うーん、嘘ついてるから後ろめたいな。

保美江「それにしても……せっかくのパーティーなんだし、みんな着替えましょうか」

え? 着替え?

ジョングク「お、いいねぇ。楽しさ倍増するよ。さすがマイハニー」

マイハニー?

ナム子「あの私達、何も持ってきてないんですけど」

保美江「大丈夫、私のパーティー着を貸すわ」

パーティー着?

ジン君がリビングに戻ってきて、キッチンでなにやら手を動かし始めた。

保美江「ジン、あなたも着替えるのよ」

ジン「え?……えっ! いや、僕はこのままでいいよ。ほら、炭使うから煤がつくし」

保美江「いいから! テテと女の子は私の部屋で着替えましょう。男の子はジョングクの部屋で」

ジン「ホントに俺はこのままでいいから」

保美江「……ジョングク、ジンを連れて行ってね」

グク「了解」

ジョングクさんがジン君に近づいたと思ったら、ジン君が抵抗する隙も与えずに軽々と肩に担ぎあげた。

ジン「ヤー! 降ろせ!」

ジョングク「部屋に着いたらね。ジミン君ついてきて」

呆然と見ていたジミンが、はじかれたようにジョングクさんの後を追う。

保美江「じゃあ行きましょうか」

テテ「ママー、おきがえするの?」

保美江「そうよー、テテも可愛いお洋服に着替えましょうね」

テテ「わーい」

保美江さんの後ろについて進みながら、ナム子と顔を見合わせた。

不安げな顔のナム子。

何がどうなって、どうなるの?

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