紫色から始まるⅡ⑫
何かあるといけないから、とジン君が家まで送ってくれる事になった。
帰る途中で甘いモノが食べたくなって、ソフトクリームを買って二人でベンチに座った。
うーん、冷たくて美味しい。
ベンチから見上げた空には、薄い月が浮かんでいる。
しばらく黙ってソフトクリームを食べていたジン君が話し始めた。
ジン「今日は本当にごめんね。ユンジちゃんの名前を出さずに、自分で解決すれば良かったんだ。僕の事に巻き込んで嫌な思いさせて……ごめんなさい」
ユンジ「もういいよ……ソフトクリーム垂れてるよ」
あああっ、と慌ててソフトクリームを口で迎えにいくジン君は、さっきのジン君と同一人物とは思えなかった。
ユンジ「ジン君のせいじゃないよ。これで絡んで来なくなれば良いじゃない? よく一人で耐えてたね、偉いよ」
ジン君は正面を向いてソフトクリームを食べ続けている。
耳が赤い。
ユンジ「それに、さっきの迫真の演技だったね。顔色まで変わってたもん。私の事も呼び捨てだったし」
ジン「あー、呼び捨てごめん。必死だったから……」
ユンジ「分かってるから大丈夫」
ジン「それに……」
ユンジ「?」
ジン「……」
ユンジ「それに?」
ソフトクリームの最後の一口を飲み込んでから、ジン君が口を開いた。
ジン「……あれは演技じゃないよ。僕の本心だよ」
ユンジ「え?」
ジン「僕が好きで付き合いたいのはユンジ……ちゃんだけって事。ずっと好きで見ていた事も」
自分の手元を見ていたジン君が、私を見た。
ジン「あ、ソフトクリーム垂れてる」
ユンジ「え? ああっ」
カバンからティッシュを出そうとガサガサしている間に、ジン君が私の手を引き寄せて、手に流れたソフトクリームを口で吸い取った。
ソフトクリームで冷やされた唇の感触が、手の甲に伝わる。
心臓がバクバクして、顔が熱くなった。
何も言えないでいると、ジン君がハッとしたように慌てて口と手を離した。
ジン「ごめん、いつもテテにやってるから、つい」
ユンジ「テテちゃんに?」
ジン「うん。テテ、口や手にいっぱいつけちゃうから勿体ない……ヤーそうじゃなくて!」
ユンジ「え?」
ジン「ユンジちゃん、演技ではなく、僕と本当に付き合って欲しい」
ジン君がまっすぐに私を見て言った。
耳も頚も顔も赤くなっていたけれど、私を見つめる目は真剣で、本気で私を好きなのだと伝わってきた。
ジン君の真剣さに圧倒されて、頭が混乱する。
言葉が何も出てこない。
夕陽があたり始めた足元に、ソフトクリームがポタポタと垂れた。
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