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第3回切り博のレポート

【はじめに】

どうも、切り絵界若手のホープとも呼び声も高い松村です。2か月前に二十歳になりました。そろそろSAMURAI最年少枠を脱した模様です。そういえば昨年は、切り博関連3記事の合計閲覧数が会期中だけでも1000を超えておりまして、皆様どうもありがとうございました。

さて、今年は書くか、書くまいか、非常に迷っていました。展示会期中に3度目の緊急事態宣言が決定・発令という厳しい状況下での開催となったので、切り博への応援の思いも込めて、色々考えた結果、気軽な内容の紹介のレポートという形に留めて書くことにしました。(レビューには批評性が伴うので、どうしても読みのレベルが要請されるのと、果たしてどれほどレビューを必要としている真剣な読者がいるのか需要が分からなかったから、やめておきます。)

込み入った作品の話は全くせずこちらも気軽に書いたものなので、お気軽にお読みいただけたらと思います。

もしかしたら、この記事で初めて僕のことを知る方もいるので、軽く自己紹介入れておきます。 

松村大地と申します。関西を拠点に切り絵作家や展示会の企画者として活動しております。切り絵界隈のインテリ枠でやらしてもらってます(異論は認めます)。最近は文章を書くことも増えてきました。現在、京都工芸繊維大学デザイン・建築学課程に在学中(休学中だけど)。2016年頃からSAMURAIの展示にはほぼ出展していて、今回の切り博にも出展しています。

【展示概要】

■第3回「切り絵」博覧会 -Pride-
 会 期 2021年4月16日(金)~5月5日(水祝)
 時 間 13:00-18:00
 備 考 入場700円 / 水木定休(祝日は営業)
 主 催 SAMURAI
 会 場 SAMURAI Gallery Regalia -レガリア-
     大阪市東成区中本5-27-15-3F
▼出展者
 北野雪経 / 下村優介 / 碧輝うろこ / にしじまのりこ / ハース代恵 / 金平糖/佳帆 / 瑠璃都 / 秀多 / 未季 / totomaru / 梨々 / フェイオス / すー / 海原幽山/川瀬雅子 / 松村大地 / man10 / shimesheep / Sachiko Tanouchi / カミヤ・ハセ/佐藤純子 / ゆうきぷちこ / TAKAHIRO / yoshi / 金井昌未 / はぎや/Teruyuki Honda / 祥 / 濱谷宗慎 / 焦香/輿石孝志

【それでは本文】

今回は32名の出展者による展示となった。会場は、第1回、第2回に引き続き大阪市東成区の緑橋にあるSAMURAI Gallery Regalia -レガリア-だ。このギャラリーは碧輝うろこ氏が運営するアトリエキプリスとSAMURAI代表の北野雪経氏が運営するstudio sizmaを合体させた、切り博限定のギャラリーだ。(2つのギャラリーは同じテナントの中に同居している形だが、展示会等は別々に開催されている。)ちなみに、Regaliaとは王を象徴する物品を意味するラテン語らしい。さらにちなむと、キプリスはモルフォ蝶の種の名前で、sizmaは北野氏の造語だ。

緑橋駅から徒歩7分くらいの雑居ビルの3階、最寄りの駅名と同じ緑色の少し急な階段を昇った先にギャラリーはあって受付で北野さんに迎えられる。前述の通り、大きく2つのスペースに分かれており、手前のキプリス側はホワイトキューブ、カウンターやテーブル・キプリスの常設ゾーンを挟んだ奥がレトロやアンティークという語がぴったりのsizma側だ。

第3回となる今回はPrideというテーマが設けられている。それが作品に現れているかどうかといった点は人それぞれだが、とりあえずお見知り置きを。

それでは展示を見ていこう。まずはキプリス側から。

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トップバッターは去年に続いて佳帆さんの新作、≪spirit≫。ミントグリーンと白という何とも爽やかな作品だが、横幅は80センチもあり、切り絵としては大作だ。佳帆さんは、金魚や女性、アラベスクなどのモチーフを作品内でも、そして作品間でも繰り返しているので、印象に残りやすい。

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カラフルで彩度が高めの大小さまざまな作品が並ぶ。中央が幅広くなっている額縁のコンポジションがリズミカルでいいですね。紙以外の素材(布や画材)の使用や、描画を加えた作品などが並んでいる。真ん中の額に並んでる人形みたいなのはなんなんだろう・・・

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こちらはTAKAHIROさんの彫紙アートと呼ばれる作品。数十枚の切り絵を重ねることによってモチーフが切り出される彫刻と切り絵の中間みたいな作品だ。その下は、フェイオスさんの照らし切り絵(Twitterの表記のママ)だ。驚くことにセンサー式のライトになっており、鑑賞者が近づくと明かりが付く仕組みになっている。

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ちょうど受付の横に展示されているのがハース代恵さんの新作≪Scarborough Fair≫。本人曰く、過去最大の作品らしい。イギリスの韻文歌がテーマだ。ちなみに、詩の中で“Parsley, sage, rosemary and thyme”というフレーズがリフレインされているのだが、残念ながら作品中のモチーフやドライフラワーの演出はそれとは無関係なものになっている。でも、作品を囲う曲線にドライフラワーが下がっているのはやたらとおしゃれだ。

2つ目の展示室。作品数的にはここがボリュームゾーン。

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左3点は濱谷宗慎さんの聖母マリアをテーマとして3部作。カラーセロファンを使った着彩がステンドグラスのように見えてモチーフと親和している。その隣2点は秀多さんの仏教や死生観がテーマの作品。たしか昨年も似たテーマで、両氏の作品は並置されていた。

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こちらには中型の作品が展示されている。左から2番目はTeruyuki Hondaさんの≪畏怖≫。ムカデの嫌悪感を配することなく描写された作品からは、学名が添えられていることも相まって、中世の博物画のような印象も受けるのじゃないだろうか。縦に2つ並んでいるのは下村優介さんの作品。カトリックや西方教会における七つの大罪をテーマにしたシリーズ作品のうちの2点である。昨年3月に北浜で開催された 「下村優介切り絵展-masquerade as-」にて発表された作品だ。

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ガラスケースの上の2点は祥さんの建築物をモチーフにした作品。普段は建築設計の仕事をされているのだそう。特に建築構造にフォーカスして対象にする建築物を選ばれているよう。いや、僕も一応、というかそこそこガッツリめな建築学科に在籍しているのですが、建築を大さぼりして美術ばっかりやってるせいで、ここでそれっぽい小ネタを展開できないのが悔やまれます。在廊中、建築の話題振られたくねぇなぁ、なんて思いながら反対側の壁面へ。

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奥の6点はにしじまのりこさんの作品群。和モダンなテイストだ。左側のパネルは金井昌未さんのデジタル切り絵。なにそれ~、という感じだが、どうやらイラストソフトの中で「切り抜き」の操作によって作画をしているようだ。だから、離れた箇所があったり、色と色が透過していたりと、よく見てみると面白い。個人的には解説のキャプションやパネルが欲しかった。

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お次はsizma側へと歩みを進める。ちょうど2つのギャラリーの中間には、輿石孝志さんの重厚感が際立つ作品。こちらはデジタルで下絵(というかきっとほぼ設計図に近いだろうけれど。)を作り、レーザーカッターで切り出された作品だ。

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上にはsizmaのぬしのバク。(この写真だけスマホ撮影です。)昨日はちょうど、バクの日だったらしい。看板バク、看板猫に圧倒的に語感勝ちしている。

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海で収集した北野さんのコレクションが並ぶ、僕一押しの場所。

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こちら金平糖さんの作品群。すべて花をモティーフにした作品だ。右側のやたら白光っているのが、桜を描いた新作。白背景に白い切り絵がラーソンジュールぽい重めで彫りの入った額に入れられている。様々な彩色方法が駆使されている点も見どころだ。

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いよいよ僕の作品である。ここはぜひ熱弁したいところだが、書き手としてはそうもいかない。たんぽぽの綿毛のみで構成された作品群だ。昨年の春に、本物のたんぽぽの綿毛を採集し、それを美濃和紙職人に特注して楮紙に漉き込んでもらったたんぽぽの綿毛入り楮紙で制作されている。

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右は北野雪経さんの≪shadow of silhouette≫。タイトルを日本語にすると影絵の影。植物の影をモティーフとした作品で、壁に投影されているのは、影の影だ。表面のテクスチャが面白いんだけれど、それ以上に、切り絵の影のほうがリアルに見えるところがとても面白い。この作品自体への評価みたいは話は置いておいて、もし僕がこの構造を思いつけてたら絶対掴んで離さなかったと思ってしまうほどには、嫉妬とかではないけれど一本取られた感満載のinterestingな作品だ。左は、碧輝さんの作品。こちらは2016年8月の氏の初個展のメインに据えられていた作品だ。額縁の背板を外して後ろからライトアップされている。アトリエキプリス発足前の十三のギャラリーで本作を見た5年前の夏を思い出す。

【おわりに】

大雑把に展示について一通り見ていったけれど、もちろん、紹介した内容以外にもたくさんの作品が展示されています。GW中会期無休なのでぜひ、と言って締めたいが、そう簡単に言えないような状況下ですね。こればかりは。

パパっと書いてしまおうと思ったのですが、へんに僕の作文能力が高かったせいで、良く言えば中身が多い、悪く言えばちょっと長ったらしくなってしまいました。

需要が想像以上にあるのであれば、レビュー、それはつまり僕の切り絵や切り博出展への理性的なパッションを、受け止める準備がある方に向けて、(閉じた記事にするために)有料noteにレビューを書くのも一つの方法か、なんてことをまた悩みつつこの記事を締めます。 


切り博とは関係ないですが、通販はじめました。こちらでも綿毛の小瓶を扱っています。買っていただけるととてもとてもうれしいです。売れると僕が作品や展示会やこういった文章を作り出すことに繋がったりします。




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