No5 通じない街

ある医者になったある友人。彼は優秀な医師としてあちこちの医療施設で命を救い、ある街の大きな医療機関の中枢管理職兼医師として赴任することになった。お互い忙しかったが、そんな彼から久しぶりに連絡がきた。しかも仕事絡みで相談にのってほしいという。

彼の受け持つ患者が立て続けに症状が悪化した。一人は高血圧が悪化して緊急入院、もう一人は糖尿病が悪化してやはり緊急入院。医師と言えども万能ではないので予定通り完治できるものではないが、それでも急に悪化するのはおかしいと思い調べてみた。

高血圧の人には高血圧の原因となる塩分を控えるようにという指示が出されていた。糖尿病の人には糖分を採りすぎないことなどが支持されていた。二人とも食事療法で何とかなる程度のものだった。

ところが、

高血圧の人は塩分を控えるようにという指示を受けて、すぐに対策をしたという。それは塩をいつもスーパーで買っている塩から、フランス製の輸入岩塩に代えたのだというのだ。

糖尿病の人も甘いものは控えるようにという指示を受けて、いつもスーパーで買って毎日食べている量産品の羊羹をやめて東京の有名和菓子店の羊羹に代えたのだという。

食べる量・回数はそのまま。

看護師は高血圧学会や糖尿病学会が配布している資料を渡してこうなったら危ないですから、こうしてくださいね、という言い方で説明をしている。

なにをどう理解したらそうなるのかが皆目わからない。で、他の医師に効いたら

「ああ、先生はご存じないので驚かれますけれど、この地はそういう人なんですよ。揚げ物は控えてください、と言ったら揚げ物の油をごま油にして毎回入れ替えるようにした、と胸を張られましたよ。」

この地域ではどういい方を変えても、ものすごく都合よく解釈するので、食事療法はほぼ効かないのだそうだ。だからはじめから薬を処方する。薬は飲みますからね、というわけだ。もっともその薬も飲みたくない人は飲まないのですが、医師が全部の患者を訪問して飲ませることもできませんしね。というわけだ。だいたい半数が飲まない。で、気が向いたときに飲む。

で、期限が切れていたりそもそも飲んじゃいけない組み合わせで飲んだりして、それで緊急搬送される。おなかがいたくなった。2年前に腹痛で病院行ったときに処方された薬を飲んでみるか。というわけだ。

この地の救急車は半分くらいが本来的に不要な状態で走っているとも言われている。