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セーラームーンが教えてくれる、声優の価値

6月9日、仕事帰りのレイトショーでセーラームーンCosmos、前編を観てまいりました。ぶっちゃけると半ば義務感で観に行ったのですが、そう言いつつ直前になるとワクワクするのも常であります。ロビーに女性客が多かったのも、「セラムンだなぁ」と思わせてくれました。

ただただダメージを負う、前編


今作は最終章で、シャドウ・ギャラクティカとの戦いが描かれる訳ですがとにかくスケールが大きい。これまで地球をどうにかするとか、幻の銀水晶を狙っているとか、それで星の滅びに繋がっていたので十分スケールは大きかったのですが今回の敵・セーラーギャラクシアは銀河中の星々を破壊して回っている存在、地球もその中の一つで、最終目標というより「途中」の感覚で滅ぼしにかかっている訳です。ゆえに力が圧倒的で、セーラー戦士達もほぼ太刀打ち出来ていません。状況も理解する前に次々に仲間が倒れていく、余りにも絶望的な前編。その末にムーン・うさぎが奮起して後編に続く…といった内容でした。コミカルな場面もない訳ではないですが、終始重苦しい展開に胸の詰まる80分でした。

新しく作られた、古いアニメ

今作、オープニングがお馴染みのムーンライト伝説、セーラー戦士達による新録版になっています。

イントロの鐘の音でお察しかと思いますが、90年代版のOPを再現しています。もうここだけで旧作ファンは感涙ものでしょう。
このOPに限らず、全体的にやはり旧作を踏襲している雰囲気があり、今風にアップデートはされていません、うさぎ達もスマホを持っていたりはしないのです。そこに懐かしさを覚えられる世代にはとても良い作品だといえます。
そして、三石さん以外が一新されているキャスティングですが、今回物語のキーとなる新キャラ二名をそれぞれ火球皇女・水樹奈々、セーラーギャラクシア・林原めぐみとベテランが演じています。このキャスティングに「新しい古さ」を感じたんですね。
「古さ」というと語弊がありますが、特に林原さんは旧アニメ版でも劇場版セーラームーンSにゲスト出演していますし、「当時」から声優である世代。新作に伴った新キャストの中では趣きが違います。そして、この映画で個人的に一番「凄い!」と思ったのが林原さんの演技でした。

絶対的な悪であり、葛藤も持つラストボス


セーラーギャラクシアは旧アニメでは堀江美都子さんが演じられていましたが、その圧倒的な力と裏腹に、いやそれゆえに葛藤を抱えた二面性のある最後の敵でした。これをいかに倒すか、なら普通のバトル漫画ですが、セーラームーンはいかに救うか、が焦点になっていった物語だと思います。
単純な悪者ではなく、その容姿もクインベリルなどの魔女タイプと比べると妖艶でありながら少女らしさも併せ持つ美貌があります。恐ろしい敵ながら、憎めないと思った観客も多いはずです。
そしてこんな「難しい役」を今回、林原さんが演じている訳ですが、この滅茶苦茶な強さ&儚げな人間性というのが、40年近いキャリアを持つベテランによって見事に表現…というより「新しく確立」されていました。

林原キャラは、絶対に林原キャラ


綾波レイが代表的ですが、林原さんの演じたキャラは「林原キャラ」と呼ばれる程声とセットでキャラが確立しています。他の声だと成り立たないキャラになってしまうんですね。「声優は表現力の勝負、声に個性があるかどうかは関係ない」とよく養成所の謳い文句にありますが、嘘です。林原さんのような「誰が聞いてもすぐ認識できる、個性的な声」が、長くこの世界で活躍する為には絶対、必要です。それがあれば辞めていても呼び戻されるほどなのですから。

今回のセーラームーンCosmosで、特に思ったことが

「アニメは、声優さんの声を聴くもの」

なんだな、という事です。旧アニメから刷新されたキャスト陣ですが亜美ちゃんの金元さん、レイちゃんの佐藤さん、まこちゃんの小清水さん、美奈子ちゃんの伊藤さん、ちびうさの福圓さんももうすっかり馴染みました。こうしてキャラが生きるわけなので、やはり声優という仕事は「職人」なのだなと感じます。昨今、歌やダンスもこなすアイドル化、タレント化が著しい声優ではありますが、セーラームーンの古さが、その基本を今一度伝えてくれている気がします。

もちろん声優の地位向上に努めた結果が現状なので、アニメの声以外にも認知され「役者のジャンル」の幅を越えているのは喜ばしいことではあります。ですがアニメを観ていても声が覚えにくくなったな、と感じるのが今の若手声優への印象です。今一度セーラームーンで、「声」が心に残るのが素晴らしいアニメだと周知されていって欲しいな~と、感じたのでした。

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