あなたが主人公の物語(vol.1)
私の家の近所には、綺麗なチューリップが植わった花壇がある。
通学路にあって、ついつい足を止めてチューリップを眺めてしまうから、学校へはときどき遅刻する。
花を見ていたら遅刻したと先生に正直に伝えると、とても相手にしてくれないけれど、本当なのだから仕方がない。
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その日、いつものように学校に向かっていると、遠目で見ても花壇の様子がいつもと違うことに気がついた。
恐る恐る花壇にかけよってみると、昨日の夕方まで植わっていたチューリップが横たわっている。
乱暴に引っこ抜かれたのか、根元だけ土に埋まっているものがあったり、あちこちで土が盛り上がっていて、タバコの吸い殻や空きカンが散乱している。
おまけに何だかよく分からない異臭もあり、吐き気がする。
学校に行く前から私は気が滅入ってしまった。
泣きべそをかいていた。
だけれど私の内側からまた違った感情がふつふつと湧きあがるのを同時に感じる。
気がついたら動き出していた。
ひとまず家に帰る。
母には休む事を伝えて学校に連絡してもらう。
余計な事を聞いてこない、物分かりのいい母は私の宝物だ。
私服に着替えてからホームセンターに向かい、ゴミ袋とシャベルを買ってから花壇に向かった。
花壇の周りは朝から変わっていなかった。歩道を通る大人たちは、みな見て見ぬ振りのようだった。
私がやるしかないんだ。
はじめにゴミを片付け終えると、途中で千切れてしまっているチューリップも泣く泣くゴミ袋に入れた。
なんて罰当たりな事をしているんだろうって、自分でも思う。
もう一度、息を吹き返すかもしれないチューリップ達に想いを託す。
次の日の朝も
チューリップの様子を伺いにいった。
やっぱりもう元のようにはならないチューリップもあったが、なんとか命を繋ぎとめてくれたものも多くあった。
少し数が減ってしまったので、新しく買い足してチューリップを植えると、元の様子とほとんど変わりなくなった。
やっとここまで来れた。
けれど悪い奴らはまた荒らしに来るかもしれない。
再発防止にはどうしたら・・・と考えていると、後ろから声を掛けられた。
「こんにちは。私はそこにある病院の看護師をしているんだけれど、昨日、花壇を綺麗にしてくれたのはあなただよね?患者さんが教えてくれたの。ごめんなさいね、ここの花壇を管理している人になかなか連絡がつかなくて。でもこれから見に来てくれることになったから、もう大丈夫。本当にありがとうね。それでね、これはあなたの事を教えてくれた患者さんからのお手紙。あなたに渡して欲しいって預かったものなの。それじゃあ、気をつけてね。」
その手紙はチューリップのシールで封がされてあた。
もう学校に向かわなくてはいけなかったが、その場で広げて中身を読んだ。
【拝啓、心優しいキミへ。昨日のキミの行動をみていました。花壇が荒らされていたこと、僕もとても悲しかった。ちょうど部屋から窓を覗くと綺麗な花壇が見えるのが嬉しくて、毎日チューリップを眺めていたから、すぐに気がついて看護師に伝えた。僕も立って歩けるならキミを手伝いたかった。でも、結局キミだけが行動してくれた。昨日、窓から眺めていて、涙が出るほど嬉しかったんだ。どうにか感謝が伝えられないかって、そうだ手紙はどうかって考えて、書きました。明日は大きな手術をします。身体が良くなったら、僕も花を育ててみたい。これが最後になるか分からないけれど、感動をありがとう。これからも生き物を、花を大切に、お元気で。】
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私の家の近所には、綺麗なチューリップが植わった花壇がある。
通学路にあって、ついつい足を止めてチューリップを眺めてしまうから、学校へはときどき遅刻する。
花を見ていたら遅刻したと先生に正直に伝えると、とても相手にしてくれないけれど、本当なのだから仕方がない。
私は、花が大好きだ。
あなたのサポートが僕の養分です。より良い作品を書く糧にさせて頂きます。