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あなたが主人公の物語(vol.3)


*音色、辿っていく心*


家族について考える。
彼らの言う包容や愛情が、
私の心を削いでいった。
私はどこに行けばいいのか分からなくなる。


夜について考える。
鈍くなっていく感覚、時間の感覚、
私は今どこにいるのか分からなくなる。
私を包みこんだ夜は、深くなっていく。


昼夜問わず、私は鉛の服に袖を通して、
当たり前になる鎖の締め付けに奇妙な心地よさを覚える。


心が損なわれていた事に気がつくのは
ずっとずっと後のこと。
怪我が視えるようになってから。


傷跡が視えるようになって
私の耳に届いた、ピアノの旋律。
ここに居たのね、私の心。


呪縛から逃れるようにして、旋律の赴くまま、辿り着いた景色を眺める。


麻薬的な魅力に満ちた空気を吸い込むと
心の震えに気がついた。


この依存は呪縛か旋律か。
どっちつかずの苦しみか。


私は心のままに旋律を辿る。
呪縛のない方へ、心の震えだけを頼りに。


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私は静かに演奏を終えた。
涙で湿る鍵盤から指を離す。


「私も、私になれるかな。」


私の演奏を聴いていた女の子は、
そう言うと、涙をこぼした。


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