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【悪堕ちユリレー小説 考察まとめ】

 わたりさん主催でtwitterにて展開中の、ファンタジー世界を舞台とした“悪堕ち”テーマのリレー百合小説シリーズ“悪堕ちユリレー”、最新話までで明かされている設定と登場人物についての考察をまとめています。
 複数の書き手が紡いでいく物語も、次回ついに最終話!11章までの情報の下に、最新話の情報は隔離して記載しております。全話視聴後にご覧いただくのを推奨します!
 また、こちらはあくまで一考察であり、悪堕ちユリレーの世界をより深く楽しむ一助程度のものとお考えください。
 今からでも間に合う!悪徳と堕落の百合物語にあなたも是非飛び込みましょう!


悪堕ちユリレーの基本ルール再確認!
・ファンタジー世界を舞台に、1章につき1人1キャラを堕とすのを目標とすること。
・堕とす側、堕とされる側ともに必ず女性であること。最終的に堕とす側、堕ちた娘が必ず大勝利し、幸せになること。
・それ以外は殺そうが滅ぼそうが自由!むしろ滅ぼせ、人類!


設定考察

ローカディア

※悪堕ちユリレーの舞台となっている、剣と魔法と、魔物娘たちの世界(大陸?)。文明レベル的には、石鹸が存在していて然程珍しくない程度の模様。
 光の女神にして人類守護を担うロウ・レムを含めた複数の創世神によって生み出され、人類と“不足なるもの”と呼ばれる異形たちが争い(?)を続けている。
 これまでも“不足なるもの”の中からは魔王や邪神と呼ばれる人間の敵対者が現れており、その度に聖剣を携えた勇者九人の聖乙女によって侵攻は防がれてきた。
 しかし、その中でも最大最強の魔王アンラの出現と、個の群れに過ぎなかった“不足なるもの”をまとめあげた進軍によって、滅亡の危機にある。
 世界と同じ名称を持ちギノツ民族自治領(義津国)を統括する大国ローカディア、女神ロウ・レムを祀り教義を絶対視する狂信者の国ロウ・レム女神教国、賢き王女ナーシャの元で魔王軍との交渉を行おうとしたサショイノ王国などがあるが、火急の危機を前にしても小競り合いや衝突は絶えず、また貧富の差なども拡大しているようだ。ナーシャが最後を迎えた土地に至っては、既に宿屋すらなくなっているほど。
 第10章において、村や町単位の失踪が激増していることが語られており、いよいよ人類の戦況は致命的になりつつあるらしい。そして、11章において、遂に……。


不足なるもの

ローカディアに跋扈する異形・超常の存在への総称。魔王アンラの君臨後は“魔族”とも呼ばれる。また十章でギルバートの部下が“魔物”という呼称も使っているが、ギルバートからは睨まれていた。十一章でモーリスも魔物という単語を使っているので、学のない層の使う呼称扱いなのかも知れない。
 生殖、分裂、自然発生、人間を始めとした生物の変貌、魔法実験による新生など、あらゆる要因で以て増えていきながら、そのすべてが気に入った人間を浚っては愛情(人類種からすると異常に見えることも多い)を以て自分と同族に改造し番うことを喜ぶ、その一点でのみ共通する。ごくたまに眷属として別種の“不足なるもの”へと改造する者(ナーシャ)、明確に殺して食らってしまう者(ナタリー)もいるようだ。
 それらの特徴から、足ることを知らない生粋の侵略者にして人外という意味で“不足なるもの”と呼ばれる。
 多くは節理や戒律を嫌い、自由に生きることを望む傾向があることから、明確な脅威でありつつも個、あるいは精々が群れ単位だったものが魔王アンラの君臨によって軍勢と化し、ローカディアは滅亡へと向かっている(ただし、八章でフランが五百体近いゾンビを統括していた描写があり、これを群れで処理していいのか、アンラの指示の元に数を増やしていたのかは不明)。
 複数のディスタイジャーの攻撃を消耗時にも容易く受け止めるヴァイセ、致命の一撃を受けた状態から瞬時に再生するリッチとなったナーシャギノツ民族自治領の忍びの里を“お姉さま”たちと共に焼き払ったリンネのように、強大な力を持つ者が無体存在するが、基本的に女性を殺さないという性質を持つことや、チカヤクレンシーギルバートのような他とは一線を画す戦闘力の持ち主が存在することで“蹂躙”ではなく“戦争”が成り立っているようだ。
 だが、それも11章において……。


魔王

※人に害成すものでありながら女性を無駄に殺めようとせず、殺める場合は大抵は同族に変える手段であることと、規律などを嫌う性質のものが多いことから、脅威ではあっても強大化することは稀な“不足なるもの”の例外。明確に人類との敵対を決め、侵攻を行ってくる異端かつ強壮な“不足なるもの”の通称。
 邪神を名乗る者もおり、第6章において常闇之精に気に入られたより強力な“不足なるもの”がそれを名乗っていると明かされた。しかし、6章のラストでシオン達が生み出そうとしていたのが「新たな魔王」であること、歴代最強最大とされるアンラ魔王と呼ばれていることから、人間側からすると明確な区別はついていないのかも知れない。
 一番最初に魔王を名乗ったのは邪悪な魔法使いの成れの果てとされる外法王マリスであり、人間由来の存在であった模様。長いローカディアの歴史の中で度々出現してくるも、何れも聖剣の力と女神ロウ・レムの加護を得た勇者と、9人の聖乙女によって打ち倒されてきたという。
 魔王アンラは長い歴史の中でも最も大規模な侵攻を行っている魔王であり、ナタリーが“魔族”という通称を使っていないことから、その支配と侵攻はここ13年の間に引き起こされたものである可能性が高い。


勇者

※人類の希望を背負った英雄姫。
 聖剣と呼ばれる殊更なる武器を携え、9人の聖乙女と出会い心通わす、年若い少女……という3つの条件を満たした者がそう呼ばれるとされ、女神ロウ・レム召喚の儀式を行い直接加護を受け、歴代の魔王や邪神たちを討ち滅ぼすことで侵略と滅亡を回避してきたという。ただし、この戦いの後には女神の加護は失われてしまうようだ。
 希望として期待される反面、ロウ・レム女神教国が「勇者によって魔王は倒されなければならない」という形式に固執した結果、王女ナーシャの暗殺が引き起こされたりと様々な形で歪みも噴出している。
 更に、あくまで先代勇者であるニーアを悪堕ちさせようとしたシオンの言ではあり、「偽りの記憶」という表記もあったが、勇者に女神の加護を与えるために大切なものを代償とすることが必要であるとも。
 これは11章において「勇者誕生の儀式はとしてまず全ての縁を勇者候補から奪い取り、9人の聖乙女と新たな絆を結び直してそれで“器”を埋めることで勇者として完成させる」という一種の術式であることが判明。ただし、これは聖乙女たちが闇に堕ちれば連鎖的に勇者の行く末も決まってしまうという、極めて危険なシステムであることにほとんどのものは気づいていなかったようだ。


聖剣

勇者の証であるとされる殊更なる武器。
 最初に魔王を名乗った外法王マリス勇者が打ち倒した武器が剣だったことからこう呼ばれているだけで、必ずしも剣である必要はないらしい。また、女神の加護が失われた後もその力は残り続ける模様。
 リアンが女神ロウ・レムの加護と並んで聖剣の名前を上げている為、歴代の中には強力な武器として以外の超常の力を持つ逸品もあったのかも知れない。
 現勇者ガルムが「仰々しい剣」「自慢の大剣」を武器としているらしいが、これが聖剣であるかは不明。


9人の聖乙女

勇者にとっての仲間に当たる9人の少女たち。聖乙女勇者と出会うことで自身の使命を理解し、共に戦う宿命を定められるという。
 勇者にとっての運命の相手とも呼べるが、あくまで戦いの中で出会い、信を得ていく必要があり、最初から好感を持たれたりする訳ではないらしい。
 
第11章においてその実態は「9人の聖乙女勇者を世界そのものに準え、その趨勢と世界の状況を同期させる一種の大規模術式」であることが判明。また事前に勇者から全ての縁を奪い取り、9人の聖乙女との関係のみで新たに満たしなおすことで勇者という存在を確定させる意味合いもあり、常闇之精であるシオンが先代勇者ニーアに語った内容が真実である可能性が増した。
 今代の聖乙女古代図書館より連れ出された魔本使いの少女・ロイゼサショイノ王国の守護騎士シルヴィア、ギノツ民族自治領の生き残りである火遁の忍者チカヤロウ・レム女神教国ディスタイジャークレンシー、占いによって選ばれた元一般人の普通戦士(キャンバトル)サキ、相棒のセレナを人間に戻そうとしていたトレジャーハンターのリアン、傭兵団を率いる一行内の秩序の要ギルバート、女性だけを客とする娼館『白芽の園』育ちのスリの少女モーリス、吟遊詩人ピシュティンの9名であり、全員が勇者に対しては好感を抱いていた。
 最もシルヴィアクレンシーは失くした恋心を埋めるための面もあったようで、サキに至っては(“不足なるもの”に変貌した影響もあるだろうが)コレクション扱いするなど肉欲交じりのものだったようだが。ピシュティンに関しては……。
 第10章にて“不足なるもの”となった聖乙女たちが一斉に姿を消すという衝撃的な事態が発生し、11章でそれは忘恩の谷と呼ばれる場所で引き起こされた結果だったことが明らかになった。そして、同じく11章において遂に……。


魔本使い

※空中に展開させた複数の魔導書を媒介とし、複数の魔法を高火力かつ低燃費で行使することができるようになった特異な魔法使いのこと。
 最終的に鍛え上げた力や技より魔法の火力が劣ってしまうことが多い、消耗が激しく継戦能力が低いといった魔法使いの弱点を克服している代わりに、2回目以降同じ相手と戦うと術者の目線などから何の呪文を使おうとしているか事前に悟られてしまう可能性も孕む。
 ロイゼはこれを克服する為に前髪を伸ばして目線を隠していると主張しているが、実際は彼女の気の弱さや対人能力の低さの表れである。


古代図書館

ロイゼが元々身を置いていた図書館。
 生涯を古代の英知とだけ向き合って過ごせる程度には蔵書が揃っているらしく、聖剣や女神ロウ・レムの加護と並んでリアンセレナを元に戻せる可能性として語っていることから、一般にもその蔵書の豊かさは知られている模様。


サショイノ王国

ローカディアに存在する国家の1つ。チカヤによればロウ・レム女神教国の傀儡と化しているとのこと。
 賢明なる王女ナーシャ魔王アンラとの交渉を進めようとしていたが、聖で以て勇者9人の戦乙女魔王を倒すというストーリーを守るためにロウ・レム女神教国が圧力をかけ、ディスタイジャーを使って暗殺を行わせた。
 小国であるとはいえ、王族の抹殺すら実行させるロウ・レム女神教国の強硬さが伺えるのと同時に、ナーシャの交渉がある種の可能性を感じさせるものだったのか、それとも9人の戦乙女の輩出国であることを警戒されたのかについては不明。
 ナタリーが時間遡航を行った鏡の魔術や、セレナがワイバーン化した宝珠などがサショイノ王国周辺に存在していることから、過去には最初の魔王こと外法王マリスの生地か本拠地であった可能性がある。


ロウ・レム女神教国

※女神ロウ・レムの国とされる、大国ローカディアと海を挟んだ位置に存在する大国。
 慈悲の女神と言われるロウ・レムを祀りながらも、サショイノ王国に圧力をかけて王女ナーシャを暗殺する、同性愛を経典で定めて禁止し処罰と称した拷問を行う、過去においては(全ては信用できないシオンの言ではあるが)勇者誕生の為の犠牲として民の虐殺を行うなど、真っ黒な背景があるようだ。実際にチカヤは「不気味な狂信者の国」と評しており、間接的にギノツ民族自治領の成立にも関わっている。
 ディスタイジャーと称する宗教的特殊工作員を組織しており、暗殺や情報操作などを行わせている。ナーシャ暗殺を実行したのも彼の者たちであり、文武両道かつ信仰心の篤いエリートが揃う。大国ローカディアチカヤたち忍者を支配下に置いたのも、これに対抗する為かも知れない。
 勇者聖剣9人の戦乙女の信を得た後の女神ロウ・レム召喚の儀にも何かしらの形で関わっている可能性が高く、実際に(出会いは偶然であるが)クレンシーをパイプ役として放っていた。


ディスタイジャー

ロウ・レム女神教国が組織している特殊隠密戦闘部隊であり、国の重鎮以外からは都市伝説のように囁かれる工作員たち。
 普段は別の姿を持って様々な場所へ潜伏し、ロウ・レム信仰の教義の障壁となる者を暗殺したり、情報操作を行ったりする。文武両道の生粋のエリートたちであり、その実力は並の“不足なるもの”を上回ると自負するほど。実際にヴァイセたちやチカヤといった実力者相手でも、クレンシー以外の面々も全員が気配を悟らせずに尾行を成功させていた。
 これほどの実力者たちすら、見返り無く酷使した上で都合が悪くなると使い捨てるような扱いを教皇や枢機卿たちは行ってきたらしい。結果的にそれがレネイアの裏切りを誘発し、クレンシーの部隊は壊滅している。


リッチ

ナーシャが変貌した“不足なるもの”。彼女の言葉を信じるのならば魔王アンラが直々にナーシャリッチとして蘇らせたらしい。
 我々の世界で語られる骨と皮だけのアンデッドモンスターとは若干異なり、高位の宗教者を想起させるが細かな装飾を施されたシスターのような風貌に、青い肌と金色に輝く目、白目の部分がすべて黒く染まった、シルヴィアによれば「正に魔族」という外見だという。
 如何に愛する人の姿で動揺していたとは言え聖乙女の1人であるシルヴィアの致命の攻撃を物ともせず、腕力でも完全に圧倒し、姿を消すなどの異能も持ち合わせるなど非常に強力だが、これが一般的なリッチもそうなのか、ナーシャが強壮なのかは不明。


大国ローカディア

※世界と同じ名を冠する、大陸最大の強国。ナーシャの暮らしていた小村を要し、かつてはギノツ民族自治領を統治していた。
 義津国を「ロウ・レム女神教国との海峡の要衝とする」という目的の元に滅ぼすなど、かなり強硬な軍事国家である模様。ギノツ民族自治領忍者を酷使しつつも、魔王アンラの出現を契機にその扱いを悪化させるなど、お世辞にも統治能力は高くなく、魔王アンラの侵攻に対しても目立った抵抗はできていないようだ。


ギノツ民族自治領(義津国)

大国ローカディアの辺境に存在する小さな島、そこに特異な技“忍術”を極めた忍者たちが集められていた自治領……だった。
 元は義津国と呼ばれる独立小国だったが、ロウ・レム女神教国との海峡の要衝とするために大国ローカディアによって侵略を受け、汚れ仕事を一手に引き受けさせられていた。
 人を道具としか扱わない非道が横行し、魔王アンラの出現によって人類同士の戦争が曖昧となった頃から扱いが悪化したのを契機として反乱を起こそうとしたが、魔王軍……より正確に言えばイフリータへと変貌したリンネと“お姉さま”たちによって焼き尽くされた。


忍者

義津国、そしてギノツ民族自治領に住まう少数民族のうち、特異な技“忍術”を極めた者たちの総称。
 諜報や組織的な盗難、暗殺などに特化した技術を持つも、道具として使い捨てられる生き方を徹底される環境から「前にも後ろにも道はない」という追い詰められた状況にあった。
 実際にその扱いは過酷であり、薬学に通じていたリンネに娼館での勤務を強要し、娼婦たちを薬漬けにする手伝いをさせた上で忍びの誇りを奪って娼婦に堕とそうとするなど、酷使というのも生ぬるいような所業を行っている描写がある。
 基本的には暗殺や不意打ち、薬物の利用などを主とし、火遁の術を攻撃に転用するなどはチカヤが特別群を抜いた才能を持つから可能であるらしい(ヴァイセロイゼに不意打ちをかけられたのもこの為で、彼女よりも実力が上の、例えば里長などであっても本来は2人には太刀打ちできないようだ)。


『常闇之精』

 ディープエルフとも。古の魔王の時代から“不足なるもの”たちに仕える闇の精霊であり、世界を常闇に沈める為ならばどんな手段でも講じる最低最悪の精霊とされ、彼女たちの力を得れば魔王をも超える邪神の如き力を得られるともされる。また、普通のエルフも存在しているらしい。
 ただ“不足なるもの”たちの中でも人類に敵対する、世界を滅ぼそうとする魔王や邪神は異端の存在のはずであり、魔王限定ではなく“不足なるもの”すべてに仕えると思わしき彼女たちが世界を常闇に沈める野望を持ち続ける理由は不明。
 先代勇者であるニーアがその存在を知らなかった為、“不足なるもの”たちの間の言い伝えなのかも知れない。最初に魔王を名乗った外法王マリスが堕ちた魔術師が変じたものとされる点にも注目。


『白芽の園』

 聖乙女の1人モーリスが跡取り候補と目されていた娼館。客も、店員も基本的には女性ばかりで構成される『女性のために女性が身を尽くす』宿。大国ローカディアに存在する模様。
 恐らくはリンネが働かされていた娼館でもあり、薬の使用の強要は領主ベアトリスの手によるものか、それともモーリスが旅立ってから環境が悪化したのかは不明。
 モーリスは「娼館育ちのスリの少女」と自分について語っていたが「客を取っていない」とピシュティンに語っていた為、娘や身内であるかも知れない。また、勇者ガルムに対して「そうしたこと」をしている節があるので、技術自体は持っているようだ。
 


登場人物考察

魔王アンラ

※自由主義者の“不足なるもの”たちを如何なる手段を以てか統率し、人類に大規模侵攻を仕掛ける今代の魔王。一人称は「わたし」(それと……)。
 詳細は不明だが1話のラストで「わたしが──魔王アンラが光の女神をクソッタレの創世神どもから寝取ってやるまで続く、世界の終りの、恋のお話だ」とローカディアの滅亡とロウ・レムへの恋心(?)を語っていた。
 9章にて外法王マリスの初期の魔道具のせいで半端な変異をしてしまったセレナを、完全な“不足なるもの”へと変貌させる宝珠に瘴気を込めている描写があり、その魔力はマリスのそれを上回るものの可能性が高い。
 6章における描写を見ると、その誕生には常闇之精であるシオンと闇に堕ちた先代勇者ニーアが関わっていると目され、11章にて衝撃的な正体を明らかにした際は「人と闇の落とし仔」と自らを評していた。


ロウ・レム

※光と人類守護の女神であり、ローカディア創世の神の1柱とされる存在。
 歴代の魔王、邪神たちは彼女の加護を受けた勇者たちによって打ち倒されており、魔王討伐へ向けた勇者一行の最終目標は彼女の召喚にある。
 ロウ・レム女神教国は同性愛を教義で禁じ、拷問紛いの処罰まで行っているようだが、これが女神ロウ・レムの御心に添ったものかは不明。またモーリスが「女神の呪い」という言葉を口にしている場面があるため、意に添わぬ相手に呪いをかけるような逸話が伝わっている可能性がある。
 魔王アンラが彼女に恋心(?)を抱いていることから、侵攻自体がロウ・レム召喚を行わせる為のものである可能性もある。実際に11章にて「真なる女神召喚」について語られている場面がある。


勇者ガルム

 11章にてその名が明かされた今代の勇者。愛用の武器は大剣。
 心優しく心配性で、しかし熱い一面を持ち合わせる性格。仲間や民衆を力強く励ますことを自然に行うことができ、各々が特別な事情を抱える聖乙女たちからも悉く好感を持たれており、心から彼女のことを手助けしてあげたいと願ってしまう人柄らしい。モーリスとの関係などを見ると、意外と性には奔放なところがあるのかもしれない。
 だが、最初に聖乙女として仲間になったと思わしきギルバートは「年相応の少女としては、あまりにも鋭い」目つきをして傭兵団の門戸を叩いたとも語っており、仲間たちとの旅の日々で穏やかな性質を取り戻していった可能性もある。
 ロイゼの前髪を初対面で触ろうとして悲鳴を上げられる、チカヤヴァイセを疑っていたのを「悪い癖」で流すなど、詰めが甘いところがあるようだで、仲間たちと忘恩の谷で散り散りになり、精神的支柱として頼りにしていたギルバートまで姿を消した際には前進を止めて“老いた”と評されるほど弱ってしまうほど、精神的な脆さも抱えている。
 11章にて夢見心地に世界の真実と、鏡の魔術を用いた「真なる女神召喚」について知らされ、そして「勇者となる前に得たものと失ったもの、自身が何者であったかを思い出せ」「沈黙の檻に沈んでいた、他の誰でもないお前の物語が真なる女神召喚には必要」という謎めいた言葉を投げかけられることになる。


ロイゼ

※第1章でヴァイセによって陥落した9人の聖乙女の1人で、魔本使いの気弱なメカクレ少女。ピシュティンによって与えられた二つ名は「呪泉」。
 元々は古代図書館において英知と向き合い生涯を過ごしたいと思って生きていたが、勇者ガルムによって説得されて一行に加わった過去を持つ。
 気弱で遠慮がちな性格、対人能力への難などから一行に馴染むことが出来ず、シルヴィアからも強く当たられていた模様。不慣れな旅での環境の変化も手伝い、不眠に陥ったところをヴァイセによって漬けこまれ……。なお9章においてロイゼがこうして1人部屋を確保できたのはトレジャーハンターのリアンの配慮であったことが明らかになった。
 前髪は魔法の行使の際に目線を読まれない為と周囲に説明しているが、実際はコミュニケーション能力の低さの表れであり、それを見透かした聖乙女たちからは不評だったらしい。実際にシルヴィアクレンシーからは冷遇していたことを謝られており、ヴァイセの抹殺を唱えていたチカヤとも上手くいっていなかったようだ。
 結界術を始めとした様々な魔法だけでなく、クレンシーの放った矢を魔本で叩き落そうとしている描写もあり、性格に反して意外と動きは機敏なのかも知れない(“不足なるもの”になってからの可能性も高いが)。
 ヴァイセと同族の“不足なるもの”になってもなおそのメカクレぶりは徹底しており、初対面で勇者がこれを捲ろうとしたことが悪堕ちの決定打になった。ヴァイセとある種の相互関係にあるのではないか、とクレンシーは推察している。


ヴァイセ

勇者一行の行く先々に現れ、必要なものや便利なものを用意する謎めいた商人。
 髪も肌も着ている服も真っ白で、目だけが真っ赤という外見の持ち主。聖乙女たちの中でも怪しむ者や不意打ちで殺すべきとする者がいたらしいが、ロイゼからはその身に纏った優しい空気から好かれており、実際にロイゼを同族に変える際も前髪を無理に捲ろうとしないなどの気遣いを見せていた。
 その正体は頭部に触角と複眼を思わせる水晶体を備え、背中に退化しているように見える羽、複数の腕を持ち合わせる奇怪な虫(蚕?)の妖物である。
 吐き出す糸に取り込んだ相手を溶かして自在に作り変える力を持ち、勇者一行を皆殺しにできるようなことを発言している。
 4章にてチカヤ1人に対して危機に陥り、ロイゼのことまで危険に晒しているように見えるが、これはリンネの潜む洞窟へチカヤを誘導するための演技に加えて、チカヤが攻撃にまで転化できるほどの火遁使いだった為に不意を突かれてのこと。
 実際5章ではチカヤクレンシーが瀕死とみていた状態から、ディスタイジャーたちの攻撃を受け止める、決死のクレンシーと死闘を繰り広げるなど大言壮語に恥じない実力を持っていることが判明した。


シルヴィア

サショイノ王国の王女ナーシャに仕えていた守護騎士で、9人の聖乙女の1人。ピシュティンによる二つ名は「堅固」。
 私の全て、と評するほど敬愛していたナーシャを守るために磨いた技術から聖乙女に選ばれ、勇者に同行している間にナーシャが暗殺されてしまい、虚無感と激しい怒りを胸の中に抱き続けていた。ロイゼを始めとした他の聖乙女たちに当たり散らしながらも「どうせ聖乙女はクビにできない」と楽観していたようだが、勇者のことは守りたいと本気で思っていたらしい。
 ナーシャが最後を迎えた渓谷に墓参りに行った際にリッチへと変貌したナーシャと遭遇。押し倒されながらも致命の一撃を放つという騎士に相応しい応戦を見せるが、ナーシャの圧倒的な生命力と彼女への消せない愛情から抵抗を諦め、愛を受け入れる形で青い肌と深紅の目、漆黒の装飾を施したアンデッドナイトへと姿を変えた。
 アンデッドナイト化してから強力な念動力を得ているようで、ディスタイジャーテリッシュを惨殺し、クレンシーの攻撃すら事前に防いでいる。本人によれば「ナーシャを守るためならどれほどでも強くなれる」とのこと。
 ナーシャのことを「女王様」と呼び、呼び捨てにしていたロイゼのことも「ロイゼさん」と呼ぶなど、“不足なるもの”になったことで落ち着いた性格へと変化している節がある。また魔王アンラに対しても強い忠誠心を持つ。


ナーシャ

ローカディアの小国・サショイノ王国の王女。シルヴィアが忠誠を捧げていた賢明なる乙女。
 シルヴィアは彼女の知性をかなり買っていたようで、文明と民衆の関係について考察しつつ戦争の行く末を思ったり、魔王アンラと交渉によって戦争を終わらせようと画策したりしていた。
 しかし、ロウ・レム女神教国によって圧力をかけられた自国によってディスタイジャーによる暗殺を看過された上に、死体を渓谷に遺棄されてしまう(“不足なるもの”は同族に変える過程以外で女性を殺さないため、シルヴィアには露骨な暗殺だと見破られていた)。
 その後、魔王アンラによってリッチとして蘇生し、シルヴィアが来訪するのを予見していたようで(ヴァイセが第1章で「勇者一行と仲良くしたい子たちがいる」と発言しているので彼女経由か)、シルヴィアを殺害して“不足なるもの”へと変えて、再び親愛の関係を結びなおした。
 その後は姿を消してシルヴィアに同行しているが、チカヤクレンシーといった凄腕たちすら彼女の存在にはまったく気付いていない辺り、実力は底知れない。
 シルヴィアを眷属化させる直前、過去へと戻りメアリを救う手段を求めていたナタリーに助言をしているが、この時ナタリーは(彼女が田舎の小さな村育ちなのもあるかも知れないが)シルヴィアが感じたような違和感をナーシャに感じていないため、ごく普通のシスターへの擬態もできるようだ。


ナタリー

※小さな村に住まう少女。聖乙女ではなく、ローカディアに暮らすありふれた住人の1人。
 しかし、その意志力と決断力は起点が4歳の頃であること、13年の間ゆらぐことなく抱き続けていたことから考えて、一般人から逸脱している。
 13年前に孤児であり姉と慕っていたメアリを“不足なるもの”の生贄として捧げられて失い、そのことから周囲への不信と幼い自分の無力への怒りに憑りつかれ、サショイノ王国の言い伝えにある鏡を介して幼い自分を抹殺することで過去へと戻る魔法を使い、メアリを救出しようとするが……?
 その後、第7章にて再登場。上記のメアリの件もあってか、“不足なるもの”でありながら女性も関係なく殺して食らう怪物へと変貌していた。11章の描写を見ると、それもさもありなんと思わされるが……。
 自身を人間だと勘違いして守り抜こうとした少女カランコエの愛情と怒りと憎しみと執着を煽り、自らを完食させることで彼女なりの充足を終え、カランコエの心の空洞に住まうという充足の形を見つけた。
 幼い頃は赤毛だったらしいが、髪色をメアリと同じに染め変えている。


メアリ

ナタリーがお姉ちゃんと慕う少女。“不足なるもの”の生贄として捧げられた際には17歳だった。
 まだ幼いナタリーにも優しく穏やかに話しかけ、丁寧な説明を重ねる温厚な性格だが「平和の為には犠牲が必要」というシビアな、そしてありふれた価値観の持ち主でもある。
 孤児であったことから村内会議で生贄に選ばれ、その事実が幸せを願ったはずのナタリーの人格に暗い影を落としてしまった。
 結果的にその後に村に被害が出ていない為、生贄としての役目を見事果たしていたことには……なるのだろうか、この場合。


チカヤ

※第4章でリンネの手によって陥落した9人の聖乙女の1人で、ギノツ民族自治領の忍びの里に、里長の子として産まれた忍者。ピシュティンによる二つ名は「苛烈」(「火烈」とかけているのだろう)。
 体の左側を火遁の術の訓練によって焼く事故に見舞われるも、その後に火遁の術を攻撃に転用できるほどに忍術を鍛え上げた凄絶な過去を持つ。
 しかし、忍びの里は大国ローカディアへの反乱(実際には玉砕前提の特攻)を前に魔王軍(イフリータに変貌したリンネ)に滅ぼされ、復讐を誓う。
 勇者と出会い自ら一行への協力を申し出るも、聖乙女として迎え入れられ、1人の少女として扱ってくれる勇者に心酔。聖乙女すら勇者に害成すならば始末するという覚悟と、汚れ仕事を担当していたことから聖乙女の中でも疎まれていたらしい。ヴァイセの暗殺を提案したのも彼女。ただ、リアンからは「チカヤちゃん」と呼ばれて同行なども快諾されているため、彼女とは上手くやっていた模様。
 ロイゼヴァイセの関係を疑い、彼女たちが性交中に襲撃を仕掛けるも、シルヴィアの襲撃を受け逃亡、迷い込んだ洞窟の中で姉のように慕っていたリンネと遭遇し、彼女が既に“不足なるもの”に変貌していた事実、忍びの里を滅ぼしたのがリンネであったという真実、そして母の早逝を理由に父によって秘所を焼かれた陰惨な過去(結果的に戦術を知らなかったこともあり有効だったが、連絡を怠り“不足なるもの”相手への奇襲という悪手とも言える手段を取ったのはこのトラウマによるもの)の回想などが重なり、幼児退行の末にリンネによって産み直されて同じイフリータへと変貌した。
 その後、9章で(リアンセレナを一旦引き離す意図もあったかも知れないが)ワクワクしながら遺跡探索を提案するなど、いい意味で肩の力が抜けて、演技も含むとは言え年相応の乙女として振る舞う様子が見られる。
 


リンネ

※忍びの里でチカヤが姉と慕っていた少女。
 腰まで伸びるゆるく波打った黒髪。穏やかな眼差しと目元にホクロを備えた美女だったが、イフリータに変貌後は黄昏色の髪に冷たい炎のワンピースを纏ったような姿になる。
 チカヤより先に成人し大国ローカディアへと渡るも、薬草を使った治癒術を悪用するべく娼館で働かされていた。薬の耐性が出来てしまっていたことから、自身も客を取るように迫られた際に絶望。毒薬を煽って死を選ぶも、“不足なるもの”の手によってイフリータとして復活。玉砕覚悟の忍びの里を“お姉さまたち”と共に襲撃して焼き尽くした。
 シルヴィアの不意打ちで傷を負ったチカヤが迷い込んだ洞窟内で、衝撃的な事実を次々と叩きつけ、精神崩壊した彼女を焼却した後に産み直した。
 8章にて何故か普通戦士のサキを知っており、彼女が力への渇望や異常な嫉妬心の持ち主なことまで把握しているらしいことがゾンビのフランの口から語られたが、11章の描写を見るに務めていた娼館は『白芽の園』である可能性が高い。


クレンシー

9人の聖乙女の1人であり、ロウ・レム女神教国の特殊隠密戦闘部隊ディスタイジャーの少女。短めの明るい茶髪と黒目、中性的で凛々しい顔立ちという容貌。ピシュティンの二つ名は「影牙」(この二つ名を見るに、彼女がディスタイジャーであることも見抜いていたようだ)。
 普段は弓兵の格好をしており、性格もはにかみ屋で控えめ、戦闘でも支援がメインであると演技していたが、それでも聖乙女たちからはアシストが上手いと評価されていた(ただし、ロイゼにはキツく当たっていたらしい)。
 黒い皮鎧と肩当を装備して本来の姿を取ると、冷たい表情を浮かべた酷薄な戦闘者の本性が露となり、身体能力を生かした遠近自在の弓術や剣術、投擲術や暗器の使用を駆使する、極めて鋭い戦術眼の持ち主へと変貌する。
 勇者と出会ったのは任務抜きの偶然であり、ロウ・レム女神教国には連絡役として用いられながらも、レネイアの恋心を彼女を思うが故に踏み躙ってしまった過去もあって、勇者に好感を抱き、人間性の拠り所にしていた。
 ヴァイセロイゼシルヴィアの3人(本当はナーシャもいるので4人)の“不足なるもの”を相手に部隊を指揮して善戦したが、レネイアの裏切りもあって部隊は壊滅。
 孤軍奮闘を繰り広げるも、レネイアによって桃色の霧と心からの説得を受け、最後は自らレネイアのことを選び、けじめと愛の表明として自ら彼女に口づけを行う。これを以て同族のアデリスクへと変貌し、明確な強い意志を以て“不足なるもの”として闇を進むことを決めた。


レネイア

クレンシーの指揮下にあるディスタイジャーの少女。鮮やかな赤毛と琥珀の瞳を称えた短槍使い。
 かつてはクレンシーと秘かに恋を交わす仲だったが、ロウ・レム女神教国の同性愛を認めぬ教義とそれに即した拷問じみた処罰から守るべく、一方的に別れを告げられてしまう。
 その後もクレンシーの指揮下で戦っていたようだが、魔王アンラの使いアデリスクへと変貌していたことから、ヴァイセたちとの戦闘中に裏切りハイドを刺殺。白基調の鎧姿に黒髪、真っ赤な猫目、鱗が生えて肥大化した手と爪と尾を持つ爬虫人類の本性を現し、クレンシーに同族化を迫る。
 しかし、同族化の吐息を受けてなお抵抗しようとするクレンシーに、人間の姿に戻って涙ながらに恋を踏みにじられた悔しさ、愛するクレンシーロウ・レム女神教国に使い潰されていく口惜しさを訴えかけ、最後は自発的な口づけを以て「長く待たされた恋」を成就させた。
 ヴァイセが彼女たちの登場を驚いている描写があるため、アデリスクに変貌したのは本当に最近のことで、1章でヴァイセが口にしていた「勇者一行と仲良くしたい娘たち」には彼女は含まれない可能性もある。


テリッシュ

クレンシー指揮下のディスタイジャーの1人。双剣使い。
 彼の相棒がナーシャ暗殺の実行犯であり、野卑な言葉でシルヴィアを挑発するなどしたが、ヴァイセ相手にはその技も通じず、シルヴィアの念動力によって首を圧迫された上で、上半身が木っ端微塵に吹き飛んで死亡。
 その後、彼の双剣はヴァイセに奪われ、クレンシーを制圧する決め手となった。


グリスト

クレンシー指揮下のディスタイジャーの1人。斧使い。
 シルヴィアを討つべく突進するも、次に画面に映った時には首を切り飛ばされて即死していた。


ハイド

クレンシー指揮下のディスタイジャーの1人。大剣使い。
 ヴァイセを討つために連携を放つもヴァイセには通じず、乱戦の中で味方のはずのレネイアに刺殺された。
 クレンシーが攻撃を受け止められたことを驚いているため、実力自体は確かだった模様。


ニーア・ソフィア

 魔王アンラが誕生する前の魔王を討ち倒した(恐らくは)先代の勇者
 ジークという名の愛しい人を含めた故郷の人々を失った悲しみを胸に、歴代最弱と言われながらも魔王討伐を達成した偉大なある英雄姫。
 しかし、魔王討伐後もその心が晴れることはなく、失った者への郷愁に憑かれていたところを常闇之精であるシオンに漬けこまれ、ローカディアの民の愚かさと大切な人々が蘇るかも知れない希望を見せられた結果、闇へと堕ちてしまった。
 闇堕ち後は黒かった髪がシオンと同じ銀色に染まり、肌も青く闇の刻印の浮かんだものへと変わっている。女神の加護こそ失ったものの、聖剣は手にしたままであることに注目。
 
 
シオン

 常闇之精の1人。黒い刻印の浮かんだ病的なまでに青白い肌にだらりと伸びた銀の髪、宝石のように大きな目、エルフだと一目でわかる尖った耳を持ち合わせるが、堕落しきったと称される魅惑的で淫蕩なボディラインを誇る。
 故郷で悲しみに耽る勇者ニーアの前に現れ、彼女にローカディアの民が犯した愚行と邪悪な希望を見せつけることで堕落させ、新たなる魔王誕生の旅へと誘った。彼女は真実と口にしていたが、偽りの記憶という表記もある為、何処まで信用してよいものかは怪しいが、勇者の真実を鑑みると十分にあり得る話ではある。
 ジークを始めとした故郷の人々の蘇生の約束についても怪しい部分もあるが、ナタリーが実行した鏡の魔術に外法王マリスが関わっているとするなら、このような邪悪な蘇生術、時間遡行術に通じている可能性も十分にある。
 女神の加護が無いとはいえ、聖剣を使った勇者の一撃を受けても平然としている様子から、“不足なるもの”の中でも更に埒外の能力の持ち主か、高等な魔術の使い手である可能性が高い。


ジーク

 先代勇者であるニーアの思い人であった人物。魔王あるいはローカディアの民によって殺害された。
 ニーアが自分自身がまったくの別の存在に変わり果ててしまってもなお蘇生させたいと願っていた相手であり、その強い思いが結果的に彼女の闇堕ちの原因となった。
 名前だけで性別の表記はないが、勇者であるニーアシオンに唆されるまで魔王による殺害を疑っていないため、恐らくは男性だと思わしい。


カランコエ

 妹を殺害され、“不足なるもの”への憎しみと怒りすら「無臭の虚無」に代わってしまった少女。
 心に大きな無の空洞を抱えたまま日々を過ごしていたようだが、同じように“不足なるもの”に家族を殺された少女と出会い、彼女の温もりや言葉によって、少女の鎧となってどんなものからも守るという決意すら抱くようになっていた。
 しかし、その少女の正体は時間遡行と、その果ての望まぬ結果によって“不足なるもの”からすら外れた怪物と化していたナタリーであり、過ごしてきた日々は彼女の“しぶとさ”を愛で、虚無に飲まれぬ心にトドメを指すことを条件に自らを食らわせ、心の中に永遠に住まうことを受け入れさせる為だった。
 最終的にどうやら完食したらしく、心の空洞にナタリーを住まわせた真っ赤な瞳を持つ“不足なるもの”へと変貌したようだ。
 目の前で妹が食い殺されたこともあるだろうが、“不足なるもの”が女性を殺すことを当然と受け止めている描写がある為、ナタリーと同じように辺境や田舎の生まれであるのかも知れない。


サキ

9人の聖乙女の1人であり、占いによって聖乙女に選ばれた普通戦士。ピシュティンの二つ名は「烈風」。
 大切な人を失った経験もなく、才能も何もない一般人であることを強調されているが、その他の聖乙女たちに嫉妬心を剥き出しにしながら「気持ち悪い」と罵倒する、ヴァイセに力を得る助けを求めながら「視界に入るな」と無理を言うなど、聖乙女の中でもかなり屈折した性格の持ち主。
 ただし、真面目に鍛錬などは行っている辺り、性根が腐っているという訳ではなく、またディスタイジャーとしての本性を隠していたクレンシーの実力をある程度見抜いている描写もあり、丸きり無能でもないようだ。モーリスのことをベアトリスの使いから守ったのも彼女であり、サキの性根をリンネが知っているのもこの一件によるものと思われる。
 ヴァイセにゾンビのフランが待ち受けている廃墟の町へと誘導され、彼女によってゾンビにされかけるが、不意を突いて自ら“不足なるもの”へ変じることで支配権をフランから奪い、世界屈指の大兵力を持つ邪屍女王(ネクロクイーン)を名乗り勇者魔王すらも自身のコレクションに加えようと企む存在へと変貌した。
 本当に何の才能もない存在が、たかだか欲が強いという理由だけで“不足なるもの”の乗っ取りを行えるとは考えにくかったが、11章を見るに魔王アンラからの好感度がかなり高いことと、彼女の本性を見抜く性質を鑑みると、意図的に大軍団をサキへと与えた可能性もある。


フラン

※宝石商へと擬態していたゾンビ。黒い肌に焦点の合わない緑色の瞳の持ち主で、長身だがふらふらとした立ち振る舞いが精神的な欠落を感じさせる。本性を現すと腐食した爛れた肌を露にする。
 二百体近いゾンビで普通戦士のサキを囲み、同族に変えようとしたが、本来は死体を同族化する種族である為に生者が専門ではなかったと思われる点、これまで聖乙女たちと向き合ってきた“不足なるもの”たちと異なりサキを侮り遊び感覚で挑んだ点などを突かれ、自らゾンビ化したサキによってゾンビ軍団の指揮権を奪い取られ、彼女を邪屍女王と崇拝する下僕と化した。
 上記の通り他の聖乙女たちとは全く異なる状況や背景にも関わらず、サキが「あいつらもこんなセコい方法使ってた」と間違った知識を披露している為、ヴァイセから詳細を知らされていなかったのかも知れない(実際、サキが力を求めたのは突発的な出来事だった)。
 11章で明かされた聖乙女堕落の真実とサキの性質的に、リアンギルバートよりも先に回されるのも不自然であるため、まず間違いないだろう(恐らく、本来のサキの迎え手はモーリスの予定だったのではないだろうか)。


リアン

9人の聖乙女の1人であり、元トレジャーハンター。ピシュティンの二つ名は「豪奢」。
 相棒のセレナ外法王マリスの魔道具によってワイバーンへと変じてしまった為、彼女が“不足なるもの”になるのを防ぎ、人間に戻す為にヴァイセと交渉して聖乙女入りした。
 勇者一行が野盗に襲われる危険性を察知し、先に対応しようとする。聖乙女の中でもコミュニケーションに難のあったロイゼチカヤとも友好関係を築いている。ヴァイセをして「リアンさん」とさん付けで呼んでいるなど、聖乙女の中でも屈指のコミュ強にして気遣いと優しさの人。同時に未踏の遺跡の探索欲などはしっかりと今でも持っているらしい。また槍使いであるが、ギルバートに剣術を教わっており、憧れの対象だったらしい。
 野盗の殲滅後、チカヤと2人で遺跡探索をしている間に、セレナが完全に“不足なるもの”へと変じたことから迫られ、強い使命感や変化の恐怖から“不足なるもの”と化すことを受け入れきれなかったが、聖乙女のほとんどが……つい先まで共に行動していたチカヤも含めて“不足なるもの”に既に変じていることを知らされたことで変化を受け入れ、心から満たされてセレナと共に新たなる戦いの覚悟を固めた。
 10章にてギルバートの前にワイバーンの大群を引き連れて襲来。サディスティックかつ狂的なものが覗く性格に変貌しており、終始ギルバートを圧倒していた。それでもなお、受けた恩義については覚えており「恩返し」という態度であったが。


セレナ

聖乙女の1人リアンのトレジャーハンター時代の相棒。サショイノ王国付近の遺跡にて発見した外法王マリスの魔道具によって、ワイバーンの姿へと変貌してしまい、じわじわと“不足なるもの”へと変わりつつあった。
 リアンは彼女を人間に戻したかったようだが、ヴァイセの調査でそれが難しいことを知り、逆に“不足なるもの”への変異を強制的に進めるために魔王アンラの瘴気を込めた宝珠を飲み込んでドラゴニュートへと変貌した。
 女神ロウ・レムの力を借りればと語るリアンを「言葉を交わせるようになったのだから些細なこと」と一蹴し、瘴気を込めた口づけと聖乙女たちが実質瓦解している事実を告げることで、彼女を同族に変えて望みを叶えるに至った。
 小型のワイバーンの姿でもリアンチカヤの2人を乗せて飛行したり、爪で文字を書いたりと何かと器用。


ギルバート

9人の聖乙女の1人で、現役で傭兵団を率いる隊長。非常に厳格な性格。普段は本名を隠し、ギルで通している。ピシュティンの二つ名は「鉄」。
 回想から察するに、勇者と最初に出会った聖乙女であり、あくまで傭兵としての距離を保ちながらの付き合いだったらしいが、勇者のことを1人の人間として支えたいと願う、他の聖乙女たちを守れない己に怒りを燃やす、リアンとの戦闘時に彼女を切り捨てることに「すまない」と内心思うなど、情には厚い性格だったようだ。実際、モーリスは彼女のことを「秩序の拠り所」と評していた。
 戦闘職ではないトレジャーハンターとはいえ、野盗への先制を考える程度には腕に覚えがあるリアンを「泥一つ付けず」瞬殺するほどの埒外の戦闘力の持ち主。淡い黄色のオーラを纏わせての必殺剣“ドラゴンスレイヤー”で勇者一行の危機を幾度も救ってきたらしい。
 半壊状態の勇者一行を守るのも兼ねて殿を申し出るが、そこを25匹というワイバーンの大軍団と、それを率いるリアンが襲撃。懸命に抵抗するが“不足なるもの”となったリアンの前には歯が立たず、最終的に右手に禍々しい大剣を握らされ、右半身を未知の金属で覆われた“不足なるもの”へと変じた。
 この際に握らされた大剣は、先代勇者ニーアが手にしたまま“不足なるものの”に堕ちた聖剣と何か関連があるのだろうか……?


モーリス

 9人の聖乙女の1人であり、女性だけを客とする娼館『白芽の園』で育ったスリの少女。ピシュティンの二つ名は「鷹の目」。
 彼女自身は娼婦ではないようだが、領主ベアトリスが使わせたならず者によって暴行を受けそうになったところをサキによって救われ、そのことによってベアトリスの包囲を受けた勇者一行、ピシュティンと共に立ち向かい、魔王化しかけていたベアトリスとの戦いにおいて勝敗を決する活躍をしたことから、ピシュティンと共に聖乙女として迎え入れられた。
 ギルバートに訓練を受けていた描写や、サキへの回想から彼女を非常に高く評価している様子、また仲間との日々を「楽しかった」と思い出していることからリアンに匹敵するほどのコミュ強であったようだ。その中でも同期に当たるピシュティンとは悪態をつきあいながらも自然と口づけを交わす程に深い関係だった模様。
 これは『白芽の園』での日々を「荒野に聳え立つ寒々しい岩」「肉は、色は嘘のもので何処かに“本当”がある」と例える独特の感性と、それ故に生まれ故郷になじめなかった過去も関係していたようだ。
 “老いてしまった”と評されるほどの勇者ガルムの変節と、ピシュティンの歌う仲間たちとの在りし日の光景によって心を折られたところに、合唱する聖乙女たちの声を聴きながら湖面へと身を投げ、溺死。ギルバートに抱かれながらセイレーンへと変貌し、近隣の村を狂乱の渦へと叩き込んだ。


ベアトリス

 大国ローカディアの領主の1人で、モーリスの住む一帯を治めていた悪徳貴族。
 ならずものを『白芽の園』に送り込んだことで勇者一行と対立することになり、彼女たちを街へと閉じ込めて包囲戦を仕掛けた。
 まだ全員が揃っていなかったとはいえ、既に聖乙女を連れている勇者を攻撃するという異常な行動を取った理由は、力を蓄えて自らが新たな魔王とならんとする野心を抱えた“不足なるもの”だったから。
 勇者との死闘の末、雷を放つ魔石をモーリスに奪われ、その隙を突かれてガルムの一刀によって滅びた。
 魔王アンラが大々的に侵略している中で、敢えて自らが新たな魔王とならんとした理由とは……?


ピシュティン

 9人の聖乙女の最後の1人であり、娼館やドヤ街巡りを趣味にする吟遊詩人。二つ名は無く「語り部」を名乗る。一人称は「俺」で、愛称はピス。
 勇者ガルムの元に最後に残った聖乙女の1人であり、ボサボサの黒髪の持ち主。勇者ガルムの冒険を綴った叙事詩を99章も制作している、凝り性な性格。絶望的な状況においても飄々とした態度を崩すことなく、「詩人の仕事は事実を伝えること」と嘯きながら鬱々とした歌詞を紡ぐ。モーリスとは気軽に口づけを交わすくらい親しい仲で、また決して褒められた性格ではないサキを矢鱈と称えるような歌を作ったりもしている。なお、歌う際は全裸派の模様。
 領主ベアトリスと敵対した勇者一行とモーリスを隠れ家に匿い、魔王化しかけていた彼女との決戦において大きな役割を果たしたことから、聖乙女へと迎え入れられた。
 彼女が歌ったリュートの調べがモーリス勇者一行の出会いの物語だったことから、モーリス“不足なるもの”へと変貌させる遠因となってしまい、“不足なるもの”へと変じたかつての仲間たちの訪問を受け……。
 


外法王マリス

※最初にローカディアにおいて魔王を名乗り、勇者聖剣を以て倒された“不足なるもの”
 人間の魔法使いが堕ちた姿であると言われており、魔法実験によって“不足なるもの”へと変貌したことが伝えられている。常闇之精の誘惑によるものかも知れない。
 強大な魔力を誇り、人間が獣変わりじわじわと“不足なるもの”と化す恐ろしい魔道具すら“それだけ”と言われるほど、底意地の悪い魔道具・呪法を無数を無数に生み出したらしい。これほどの力を持ちながら、魔力においては魔王アンラの方が上回るようだ。
 ナタリーが用いた鏡の魔法や、セレナがワイバーン化した宝珠などがサショイノ王国の周辺に集中している為、活動時期にはその近域を領土としていた可能性がある。
 また鏡の魔法が「真実の女神召喚」にも関連するとがされており、11章にしてその存在感が劇的に増した。


以下、最大級のネタバレあり。11章まで既読推奨。





ピシュティン

 その正体は、魔王アンラ
 聖乙女たちもこのことには不審と驚きを感じていた為、真実を知っていたのは恐らくはヴァイセナーシャリンネらの直属の配下だけだったのだろう。
 シルヴィアチカヤが狙い撃ちにされていることや、ナーシャのように関係性が推測しやすい相手はまだしも、リンネのように経歴を把握していないとわからないような刺客の用意、ヴァイセたちすら感知していなかったレネイアの変貌、リアンセレナの元へヴァイセが短期間でアンラの魔力を込めた宝玉を持ってきていることなど、アンラが勇者一行の傍へと潜んでいることは伏線として提示はされていた。
 恐らくベアトリスアンラが居るにも関わらず魔王へと変貌しようとしていたのは、一時的にアンラピシュティンとして姿を消していたことで野心を起こした結果ではないかと思われる。
 聖乙女と世界が対応しているという「勇者聖乙女という大術式」や、ガルムの秘められた過去について匂わせる言葉、そして「真なる女神召喚」という自身の目的を明かし、勇者ガルムへ「神にも、人にも、光にも見放された哀れで孤独な旅だが、唯一『俺』と『わたし』だけがお前を祝福しよう」という優しい告白を残して、去っていった。



以下、12章までを既読の上での閲覧推奨



真・設定考察

ロウ・レム女神教国の真実

 本作における全ての悲劇の黒幕にして、真の元凶。
 11章までで判明した通り、勇者聖乙女の関係とは彼女たちの絆と関係を世界の縮図に当て嵌め、彼女たちの身に起きたことを世界に反映さえることで魔王や邪神を討伐後の世界に平穏を取り戻すという、一種の大魔術である。
 しかし、実際にはロウ・レム女神教国は自分たちの都合のいい聖乙女を勇者にあてがう為に聖乙女を抹殺する、薬物などを使って勇者の記憶を抹消し自分たちの都合のいい人形と化す、勇者の故郷や大切な人を奪い去る為に殺戮するといった、儀式の私物化を行っていた。戒律の同性愛否定も「不都合な聖乙女を抹殺する為に都合がいいから」という救いようのない理由で制定されており、文字通り“血も涙もない”狂信国家である。
 操られた大聖女ファナを通して「聖乙女は代替可能」というロウ・レム女神教国のスタンスが語られたが、それを聞かされた魔王アンラは「すべての出会いは偶然であり運命だ」「世界の調律者を騙るとは度し難い」と激怒していた。
 先代勇者ニーア・ソフィアが教国の殺戮を原因として闇に堕ちたことや、彼女が立ち去っていくのを聖乙女たちが止められなかったこと、アンラが「真なる女神召喚」とロウ・レム女神教国主導の女神召喚を蔑視していること合わせてを考えれば、そもそも「自分たちに都合の良い聖乙女を宛がい、勇者を神話再現の為の私物化する」という行い自体が“不足なるもの”の中でもイレギュラーな魔王や邪神誕生に繋がっていた可能性も低くなく、しかも、大聖女の力と偽って外法王マリスの遺物まで使用するという有様であり、自分たちが掲げていた「神話の再現」すらも本当のところはまるで実行できていない。
 情愛や絆を嘲弄しながら、偽りの信仰に狂い続ける様は、正に“世界の敵”と呼ぶに相応しく、魔王アンラとその軍勢との戦いは「光闇や善悪はそのままに、正邪が丸ごと入れ替わる」という壮絶なものとなった。


真・登場人物考察

魔王アンラ

 本来は節理や戒律を嫌う“不足なるもの”たちを束ね上げ、ローカディアの地を侵略する最強最大の魔王にして、愛と情と運命の守護者。
 またの名を9人の聖乙女が1人・吟遊詩人ピシュティンピシュテルンと表記されている場面も多く、恐らくは偽名なのもあって「ピシュティン・ピシュテルン」とでも名乗っていたのだろう。
 勇者ガルムが旧サショイノ王国の儀式場に現れないことに対して、ロウ・レム女神教国の干渉を看破し、闇に堕ちた聖乙女たちと“不足なるもの”たちを率いて最終戦争を仕掛けた。
 ピシュティン時代のものとは異なるミステリアスな物言いや、サキの謀反に近しい情欲すら「魅力的だ」「(自分をコレクションとして屈服させる時を)楽しみにしている」と受け止める器の大きさと、愛や情を決して軽視することのない身内に対しての強い庇護欲、そして大切なものを穢されることにまっすぐな怒りを見せる純粋さを併せ持つ。
 また、モーリスとの関係はやはり特別であり、統率者としてモーリスを囮にした判断をキス1つで許されたことに「大好きだよ」と素直な言葉で返す場面もあった。
 大聖女の力と思い込んだ外法王マリスの遺物で戦場を蹂躙するファナの前に、ナーシャシルヴィアの危機を救う形で参戦。彼女が操り人形にしか過ぎないと看破し、鏡の魔術の破片によって過去を呼び起こし、正気へと返す。感情の暴走で自爆しそうになったファナへの対応に悩み、自身の力不足に悩みすら吐露するも、ティエルの力を借りることで愛情の力を見せつけ、ファナを“不足なるもの”に変えることで救い出した。
 その後、マリスのブローチに仕掛けを施して“あるべきところ”に返すことによって、ロウ・レム女神教国を完全に滅亡さえ、来るべき創世神との戦いの為にガルムを取り戻すこと、そしてそれらが全て『あの娘』……女神ロウ・レムの為であることを熱く語っていた。
 どうやら、アンラの見立てによるとまだ“敵”が存在しているようだが……?


女神ロウ・レム

 直接的な出番こそないものの、ロウ・レム女神教国の信仰の形はどうやら彼女の意に添わぬものらしく、アンラは「彼女を祀りながら、苦しめるとは」と怒りを露わにしていた。創世の神々や身勝手な人類にある種の搾取を受けている可能性が高まっており、リアンたちが口にしていた“女神の呪い”などは正にこういった信仰のズレの表れであると思わしい。
 アンラからは『あの娘』と顔見知りであるかのように言及されており、創世の神の一柱であるロウ・レムと、先代勇者ニーア常闇之精シオンがその生誕に関わっていると思わしいアンラの間にどのような親交があったのかは未だ謎めいている。
 そもそもロウ・レム女神教国が私物化した儀式によって本当に召喚できているのか、できているとしても本当に加護を諾々と与えるかは不明な部分が多く、外法王マリス討伐以降に召喚された“女神”がロウ・レムなのかどうかも怪しくなっている。


大聖女ファナ

 ロウ・レム女神教国の象徴の1人であり、眩い金髪と穏やかな容貌を持つ美女。胸には妙に不釣り合いな巨大なブローチを装着している。チカヤは「ロウ・レム女神教国に似合わないほど優しく美しい女性」、逆にクレンシーは「ロウ・レム女神教国に相応しい人形のような女」と評する。
 情や愛を下らないものと嘲弄し、勇者聖乙女についても“不出来な道具”以上の感想を抱かず、どれほど人が死のうが「正しい世界」の為には些末事と笑みさえ浮かべ、僅かに情を孕んだだけでも「“不足なるもの”になりかけている」と邪推して抹殺計画を練り始めるなど、狂信に裏打ちされた最悪の性格と品性の持ち主──と、思いきや……?
 実際には高貴な生まれでもなんでもない孤児であり、無理やり「初代大聖女の力が込められている」と騙る外法王マリスの遺物を装着されて、幼い頃から洗脳され続けてきた最大の被害者。幼い頃に出会ったティエルの存在を心の底では求めており、頭痛の形で発現し続けていた。
 戒律違反を犯した兵士たちを「死ぬのが前提」と起用する、すべての兵隊から意思や感情を奪い死ぬまで戦う生ける屍と化す、味方を巻き込む攻撃を繰り返し遂にはティエルまで手にかけると非道の限りを尽くしたが、アンラによって正気に戻され、自身の行いと向き合ったことで精神崩壊。
 自爆寸前にダークスライムに変じたティエルによって“不足なるもの”に変えられる形で救われ、心の底からの謝罪と押し込め続けていたティエルへの想いを吐露しながらアンラの傘下に加わり、救済された。ナーシャやシルヴィアへの謝罪も忘れていなかったりと、本来は細やかで気の利く優しい娘の模様。
 ティエルもそうだが、直前にアンラが鏡の魔術を使っていることと、不定形の闇色の怪物という点から、恐らくナタリーもダークスライムではないかと推察される。


ティエル

 ロウ・レム女神教国ディスタイジャーの1人であり、その実力は聖乙女最強格をギルバートと争うクレンシーをして「屈指の実力者」と評するほどの、空色の髪を持つ少女。
 ナーシャの暗殺を提言したのも彼女であり、全てが終わった後は「新しく選出された聖乙女」の1人となることを希望していた。大聖女ファナを名前で呼ぶ場面が多く、何かしらの因縁を感じさせるが……?
 幼い頃はファナと同じ施設へ幽閉されており、ファナから「いつかここから連れ出してあげる」と言葉をかけられ、彼女に強い感情を抱くようになる。しかし、直後にファナマリスのブローチによって洗脳されてしまい、自身の感情を押し殺しながらファナの非道を助け続けるという修羅の道を選んだ。
 ティエルファナのことを強く想い、彼女を助けるためにすべてをささげていたが、人の心を失ったファナからすればそれは「不確かなものに侵されている」「“不足なるもの”になりかけている」というあまりにも理不尽な裁定の対象に過ぎず、クレンシーレネイアとの勧誘交じりの死闘を掻い潜り危機に駆け付けた直後、ファナ自身の手によって“排除”されてしまう。
 完全に死亡していたものの、アンラマリスのブローチの力の衝突によって魔力があふれ、その中に意識を混ぜ込むことに成功。アンラへと呼び掛けてダークスライムへと変じ、ファナを同族に変えることで救済に成功した。
 “不足なるもの”となってからは本来の奔放な性格が表に出てきたのか、ファナと一体化して頭だけ肩から出すといった行動を取っており、元同僚のクレンシーを苦笑させていた。
 過程はどうあれ「ファナによって外の世界に連れ出される」というかつての約束は果たされた形となり、2人は失われた時間を取り戻すように存分に溶け合っていた。


勇者ガルム

 全ての仲間を失った今代の勇者
 本来ならばピシュティンとしてのアンラの囁きに応じ、自らの「失われた過去」を取り戻しながらサショイノ王国の儀式場を目指すはずだったが、憔悴していたところをファナによって捕らわれ、薬物などを使って「何をするべきだったか」「自分にとっての聖乙女は誰だったのか」の記憶まで奪われてしまった。
 しかも、ファナの自爆は織り込み済みであり、実際には記憶を奪ったのは“ついで”で、最初からロウ・レム女神教国の上層部は彼女を抹殺するつもりだったらしい。
 ガルムが眠っている間に最終戦争は終結したが、正に彼女を1人の人間としてまるで尊重していないロウ・レム女神教国の醜悪さが現れているかのような顛末と言えるだろう。


法王

 今回の最終戦争の黒幕。ファナを操って闇に堕ちた聖乙女たちを抹殺し、自爆を以て勇者すら抹殺して「全てを都合よくやり直そう」としていた悪漢。
 アンラによってロウ・レム女神教国が滅亡する中でただ1人正気を保っていたが、突如として現れた何者かに塵も残さず消し去られた。
 最後に彼が口にした呼称とは……。


“神様”

 正体不明にして、最後の敵。
 正体はまったくの不明だが、計画を失敗した法王を抹殺するという無慈悲なふるまいを見せた。その直前に法王が「天啓をくれ」とすがっていたことから考えると、これまでのロウ・レム女神教国の非道な行いの数々は“神様”の指示であった可能性が高い。
 本来のロウ・レム女神教国が崇拝する存在は女神ロウ・レムのはずだが、アンラによれば『あの娘』はこういった非道な行いを決して好まない存在であり(そもそも人類守護の慈悲の女神がそんな邪悪な本性を持っているはずがないのだが)、またファナが一度もロウ・レムのことを“神様”と呼んでいない(すべて「ロウ・レム様」を徹底している)ことから、ロウ・レムとはまた別種の何者かである可能性がある。
 創世の神の一柱である可能性もあるが、こちらもアンラは創世神とはまた別に「まだ敵がいるだろう」と語っており、正体については……多少の推理ができるのみである。



以下、完全なる妄想。閲覧注意。



完全に妄想レベルの“神様”の正体について

 ここからは完全に妄想の域に突入している、最後の敵“神様”が何者かという考察と推理である。
 結論から言えば、私の推察する“神様”の正体は、最初にして最古の人間由来の魔王外法王マリスである。
 推理の材料としては
ファナの洗脳に使われた外法王マリスの遺物であるブローチを、上層部の人間も(自爆機能はさておき)「初代大聖女の魔力を込めたもの」と信じていた節がある。もし「外法王マリスの遺物」とわかって運用していたとなると、「神話再現を何よりも優先する」というロウ・レム女神教国の狂信性が大きく薄れる。
・女神ロウ・レム召喚の儀はロウ・レム女神教国によって大きく歪められており、実際にアンラの誕生に繋がるなど様々な不都合を世に生み出している。また、あくまでアンラの言ではあるが、ロウ・レムはそういった非道を好まない慈悲深い女神であるらしく、薬物での洗脳や身内の皆殺しなどを教国が実行している中で嬉々として加護を与えるとも考えにくい(“不足なるもの”の侵攻を見兼ねて心を痛めながらも力を貸している可能性もあるが、それこそ召喚された際に勇者聖乙女のシステムの清浄化でも託宣すればいいはずなのに、それもない)。
・以上の事情がありながら先代勇者ニーアは特に女神の様子などについては言及している節がなく、恭しく加護を受け取ったものと思われる。推測に推測を重ねる形になるが、もし歴代の勇者たちに加護を与えてきたのがロウ・レムではない何者かであるとすれば、その存在は女神を騙れる“女性”である可能性が高い。
マリスアンラ以外の魔王や邪神に関する言及がほぼなく、この二人以外の魔王は痕跡まで含めて完全に抹消されてしまっている可能性が高い。逆に言うと、マリスの伝承や魔道具の数々、遺跡や逸話が異様なほど放置されていることに違和感がある(少なくともロウ・レム女神教国は“不足なるもの”を敵視していながら、これらの遺跡や魔道具を摘発するどころから、悪用している)。
ナタリーカランコエの顛末や、リアンセレナが危うく悲劇に見舞われそうになったことから見て、マリスの悪意は“不足なるもの”たちにすら向いている無差別なものである可能性が高い。特にナタリーの変じたダークスライム(?)は、女性であろうと同族にせずに食い殺すという、それこそ“情も愛もない邪悪な化け物”に成り果ててしまっている。
 以上の5点から“神様”の正体は死を偽装する、あるいはなんらかの要因で復活した外法王マリスであり、彼女はロウ・レムを騙りながら魔王討伐の希望を煽り、実際には次の魔王が生まれてくる土壌を作るというある種の「負のループ構造」の中にローカディアを閉じ込めていると考えられる。
 アンラの主張から見て創世の神々とロウ・レムの性質が大きく異なることを鑑みると、ロウ・レム外法王マリス討伐の為に勇者に手を貸したこと自体が創世の神々の逆鱗に触れ、マリスと創世の神々が共犯関係である可能性もあり得る。
 ……これらは全て“考察”に過ぎない。今はただ、最終話に、供えよう……。

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