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Council “BRIGHT FORMS”

Gabriel Kahane + Pekka Kuusisto = COUNCIL

つい先日、4月14日にサントリー・ホールでおこなわれた、フィンランドのヴァイオリニスト、ペッカ・クーシストさんと都響の共演が「すごかった!」と評判だ。今回の公演で、クーシストさんは指揮者としても日本デビュー。
演目はヴィヴァルディ『四季』とベートーヴェンの7番。特に『四季』での弾き振りが素晴らしかった模様。うっかり出遅れてチケット買えませんでしたが(涙)、そりゃ素晴らしかったに決まっている。1976年生まれのクーシストはフィンランド人として初めてシベリウス国際ヴァイオリンコンクールで優勝、その後は演奏活動のほか指揮・作曲でも活躍中。
https://youtu.be/Ye2ORMlgq-0?si=WvB39u37XmY3yPFF

昨年(だったと思う)はN響との共演で来日して、そちらも大評判だったと聞いた。というわけで、日本でも王道クラシカルの世界で大注目を集めている若手だが。北欧系で、コンテンポラリー作品に強くて…となると、当然ジャズとかエレクトロニカ系、ポストロック、フォーク系との接点も多いわけで。北欧コンテンポラリーというのは、かなりアメクラでも重要なファクター。米国でも時々「えっ!?」みたいな人脈にクーシストさんが合流しているのを見かける。

で、ですね。

なんと。

そのペッカ・クーシストさんが、あのゲイブリエル・カヘインさんとふたりで新ユニットを結成したのです。その名もCouncil。先月、デビュー・シングル「BRIGHT FORMS」をリリースした。これが、あまりにも素晴らしすぎるので広くお知らせをしておきたい。

Bandcampにて発売&ストリーミング中!
こちらはSpotify。
ほか、すべてのプラットフォームで絶賛配信中。

ティモ・アンドレスとか、ジェイコブセン兄弟とか、クラシカル側のボーダーラインにいる人たちと組んでカヘインさんが何か始めるのだとしたら、たとえばyMusicの面々のソロ・プロジェクトと同じような感じというか。想定内だったんだけど。ペッカ・クーシストとのユニットというのは、さすがに想定外でびっくりした。今、王道のコンサート・ヴァイオリニスト/指揮者として世界中を駆け回っているペッカ・クーシストにしても、これだけ多忙な中であえてこれをやるスタンスというのがめちゃかっこいいなと思った。こういう身軽な、なおかつ振り切った“バイリンガル”感は、ある意味、ギル・シャハムに通じるかな。

しかも、ご本人たちも、おそらくものすごい手ごたえをもっている模様。なんたって、シングル1枚でいきなりワールドツアーしちゃうのです。

これぞベッドルーム・ポップ(笑)


まー、ワールドといってもアメリカとオーストラリアだけなのだがね。

カヘインさんは、オーストラリアでめっちゃ人気なのだ。ひょっとしたら、クーシストさんも本業のほうで来豪して人気なのかもしれない。パンチブラザーズやリアノン・ギデンズもいちはやくオーストラリア・ツアーしているし、先日、1日だけの来日公演をしたジェイムズ・テイラーも、その後はオーストラリアでは10何本のツアーしたらしい。
うらやましい。


なお、カヘインさんについては、説明を始めたら3日3晩かかる。
道なき道を行く人なので、説明が大変なんですよ。

なので、これまでの仕事やボーダーレスな人脈(の、ほんの一部)、シンガーソングライターとしてのソロ活動の詳細などをざっくりまとめた、2018年のノンサッチ・デビュー作『Book of Traverers』、2022年の2作目『Magnificent Bird』が出た時の自警団新聞・カヘインさん大特集号をご参照いただければ幸いです。
しかし、この新聞ひさびさに見たが、このカヘインさん特集号が我ながらあまりにも頭おかしすぎる。孤独のガチ勢・ドン引き上等・魂の叫び日記。わたくしのカヘイン愛、おわかりいただけるだろうか…とかいう一線をはるかに踏み越えている。わたくしのカヘイン愛はどうでもいいので、みなさまの何かの足しになれば幸いです。

祝!ノンサッチ・デビュー『Book of Travelers』(2018)号


パンデミック時代における自らの魂観察日記『Magnificent Bird』(2022)特集号

↑LFHなきあと、もっともクールなコンテンポラリー・ライブ番組New Soundsでの、弦楽カルテットとのスタジオ・ライヴ。たぶんアイズリ・クァルテット系の方々だったと思います(?)、ちなみにヴィオラはクロノス・クァルテットに参加することが発表された小笹文音さん(´∀`)。

LAに育ち、その後ブルックリンに長らく暮らし、東海岸ポストロック&クラシカル人脈や演劇、舞踏関係者とも交流を深めたカヘインさん。シーリーも、本当にお世話になりました。特にLFHでは「最近ぼくらが気になってる作曲家」として、ふたりでアンドリュー・ノーマン(超アメクラ案件)の作品を演奏したこともあったなー。
カヘインさんは、パンデミック中に家族とオレゴンに移住。
その前からオレゴン響のクリエイティヴ・チェアを務めていて、彼がプログラムするコンテンポラリー・ミュージックのシリーズ“Open Music”もどんどんパワーアップしているし、そっち系の仕事の充実というのもあるのだろう。LA室内管を勇退したばかりの父上との共演も増えているし。もはや“あっちとこっち”をつなぐアメクラ最重要人物です。

もともとスフィアン・スティーヴンスとの仕事で注目されたということからも推測できると思いますし、ソロ・アルバムを聴けば一発でわかると思いますが、彼は本当に本当にビーチ・ボーイズの音楽をめっちゃ愛していて、ブライアン・ウィルソンを心から尊敬しているのです。以前も、「神のみぞ知る」のボイシングについての長いレポートを採譜つきでニュースレターで公開していたり。カリフォルニアの太陽の下で、薄い硝子のような繊細な魂を育んできた天才少年…という生い立ち的な点でも共鳴するものが大きいのかもしれない。なんてことを前々から思っていたし、彼のブライアンからの影響はソロ作だけでなくさまざまな提供曲、参加曲、オーケストレーションを手がけた曲からも感じていた。

そして、今回のCOUNCIL。
もう、なんか、カヘインさんのブライアン・ウィルソン愛という名のグッドバイブレーションがぶるぶる伝わってくる「BRIGHT FORMS」があまりにも素晴らしすぎて頭おかしくなりそうなのでペット・サウンズ愛がある人みんなとシェアしたいと思って、こうして一筆したためることにした次第なのです。

と、いうわけで。
もいちど。
今度はYouTubeのほうを貼ります、「BRIGHT FORMS」。

そんなふたりのバックグラウンドを踏まえて、聴いてみてください。

ああ。

心がふわっと浮き立つような、あるいは孤独にざわつくようなカヘインさんの歌声。どこからどうしてこんな曲が生まれるのか。成熟した複雑なハーモニーを自在に操る賢人のようにも、音の積み木を積んでは壊す無邪気な幼子のようにも思える。
そしてここではクーシストさんもまた、世界的ヴィルトゥオーゾ的でもあり、卓録やんちゃオタク少年的でもある。ヴァイオリンを弾くように、イノセントなコーラスも聴かせている。

ふと思った。

Councilというのは、ブライアン・ウィルソンの“ティーンエイジ・シンフォニー”という概念に対する、クラシカル側からのアプローチによる回答ではないかと。

カヘインさんの友人でもあるクリス・シーリーは、パンチ・ブラザーズを結成した時に「マーラーの交響曲の宇宙をブルーグラスの編成で表現したい」と語った。その時にシーリーはブライアン・ウィルソンの名をあげてはいなかったけれど、同じ時期、彼は『SMiLE』セッションズにも多大な影響を受けていることを明言している。

ソロ演奏をしながら、その奥に交響曲を感じさせるようなヴァイオリニストであるクーシストさん。彼とカヘインさんのユニットというのは、つまり、ブライアン・ウィルソンがスタジオからはみ出さんばかりの大編成で作り上げたティーンエイジ・シンフォニーを、ふたりきりで体現しているのではないだろうか。つまり彼らは、ティーンエイジ・シンフォニー版B’zみたいな。違うか。いや、意外と違わないのではないか。


なんというか、オレはね、この音楽を聴いていると、90年代、はじめてベアネイキッド・レディースのアレを聴いた時の気持ちも思い出したりもして。めちゃめちゃ甘酸っぱくなってしまうのです。


まだシングル1枚しか出てないので、今回は他に情報もないのでつらいらと前日譚のようなことを書いてしまいましたが。
この先、動きが出てきたらまた何か書きます。

STAT TUNED\(^ω^)/


【余談1】
Gabriel Kahaneさんのことは、ゲイブリエル・カヘインさんという風に書いてきた。ご本人の発音はケヘインに近く、カハァーンみたいに呼ぶ人もいたりするのだが、ピーター・バラカンさんを気取って「実際には××である」みたいに書く人があまりにも多くてうんざりなのと、どう読むのが正しかろうとカタカナ表記においては検索の便宜上統一されるのが望ましいという考えから「カヘイン」を貫いてきた。ガブでなくゲイブならケヘインかなとも考えちゅうだが、とりあえず行きがかり上しばらくはカヘインのままいっとく。そのうち日本でも有名になって、ご本人が「いや、オレはカヘインじゃねぇよ」ということになるかもしれないし、そうなって欲しいと願っている。とはいえ、80年代、ロベン・フォードは来日するたびに「オレはロベンじゃねーよ」と怒ったものだが、今なおロベンで、もう、“日本名・ロベン”みたいなことで落ち着いているのか。ちなみに、2003年にソニー・クラシカルからリリースされたヒラリー・ハーン&LA室内管のバッハ協奏曲集で指揮を務めているのがカヘインさんの父・ジェフリーさんなのだが、当初、日本盤のクレジットはクラシック界のドイツ語読み至上主義に基づきジェフリー・カハネになっていたせいで、ゲイブさんもたまにカハネと書かれている。が、ゲイブさんは間違いなくカハネじゃないし、ジェフリーさんもアメリカ移民2世だったと思うので基本的にはカハネではないと思うよ。と、思ってたら、最近、ヒラリー・ハーン盤が再発タイミングだか何かでしゅるっと“カヘイン”になってたよ。びっくり。これで、今後はカヘイン親子ということで。


【余談2】
私がペッカ・クーシストというヴァイオリニストのことを知ったのは2020年、グラミー賞にもノミネートされたニコ・ミューリーの「Throughline」のオンライン世界初演のヴァイオリンもクーシストだった。この作品、さすがのサンフランシスコ・シンフォニーによる委嘱作で、ジュリア・ブロックとエスペランサ・スポルディングが共演しているという超アメクラ案件。というか、ほぼオレクラ・オールスターズ状態だった。その中に、どちらかというときっちりクラシカル側のスタンスで参加していたクーシストだが。その存在感は、ものすごく印象的だった。そして、ニコ・ミューリーと共演するくらいだから当然といえば当然なのだが、その後、コンテンポラリー・ミュージックの中でもいわゆるボーダーライン系のところのキーパーソンたちともたくさん共演していることに気づいたのだった。しかし、まさかカヘインまでつながるとは想像すらしていなかった。
考えてみたら、今のカヘインさんは、ポップ・シーンでもインディ(スフィアン)からメジャー(ポール・サイモン)まで幅広い分野で活躍し、いつの間にか米国オーケストラ・リーグにおけるコンテンポラリー・ミュージックの未来に向けてのキーパーソンになりつつある。しかもノンサーーーーッチ!
一瞬たりとも目を離してはならない存在なのである。
わたくし、まだまだ想像力が足りないようです。精進します。

【おまけ】「Throughline」(ニコ・ミューリー)

ジュリア・ブロック(ソプラノ)
ブライス・デスナー(ギター)
ペッカ・クーシスト(ヴァイオリン)
ニコ・ミューリー(作曲・指揮・ピアノ)
エスペランサ・スポルディング(ベース、ヴォーカル)
ケヴ・チョイス(ピアノ、MC)
2020年11月世界初演(無観客配信)
エサ-ペッカ・サロネン/
サンフランシスコ・シンフォニー委嘱作品




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