見出し画像

パジャマ以外は全部ふだん着

綾瀬はるかがアンバサダーを務める、ユニクロの“LifeWear”キャンペーン。

昨年からのコロナ禍で人々の生活が変わり、働きかたが変わり、オンとオフの境目があいまいになり、洋服に対する意識も大きく変わりつつある。リモート・ワーク中心の毎日で“仕事着”の存在感が薄れつつあるのと同時に、“普段着”の需要は高まっている。ユニクロとしては、今までよりも家で過ごす時間が多くなったライフスタイルに合わせた普段着を提案することで、顧客のより豊かな生活に貢献をしたい、というようなことらしい。

ふだん着の日が、
人生になる。
ふだん着と、よそいきって
なんで分けてたんだっけ?
私には、
いま、
たくさんのふだん着が必要だ。

スーパーマーケットで日用品を買うように、綾瀬さんが楽しげにカートいっぱいふだん着を買いこむキュートなCMにはこんなキャッチ・コピーが躍る。

いやー、照れるわー。
“あたらしい生活様式”は、私には全然あたらしくない“かわり映えのない日常”ではないか。
起きて、顔洗って、歯を磨いて、コーヒー飲んでから、のろのろと自分の部屋に行って机に向かうまでの10歩あまりの移動を“通勤”と呼ぶ私の毎日が、今、”あたらしい生活様式”として流行最先端になったぜ。いやー、照れる。

人生に必要な服は、
パジャマか、
そうじゃないか。

あ、これは広告コピーじゃないです。

それが私。ザッツミー。

何十年も謎の生活様式を続けてきた私も、このコロナ禍を機に「毎日、何を着たらいいかわからない」とか「1日中、トイレに行くしか動かない」とか「通勤しなくなって、あきらかに生活がだらしなくなった」と悩む在宅勤務の友人たちに「私なんか、昔からずっとそんなだよー」と先輩ヅラで胸を張り、さりとて「へー、昔から流行最先端だね」と尊敬されるわけではないが、たまには「へー、昔から人間失格だったんだね」とちょっと感心されたりするようになった今日この頃である。


とりわけ私の場合、夏になると、ふだん着と仕事着の境界線が完全に消滅する。
これもまた、ユニクロのおかげ。というか、リラコのおかげ。
寝る時はパジャマがわりのリラコ、起きて仕事用のリラコに着替え、ちょっと近所のスーパー行く時にはブランドコラボのクロップドパンツ風おしゃれリラコ、そして夜はまたリラコに着替えて寝るので、今では毎年、夏の間は身内からは“リラ子”の愛称で呼ばれている。
毎年、夏になるたびにその話を聞いて笑っていたファッショナブルでバリキャリな友人がいるのだが、昨年は「リラ子の気持ちがやっとわかった」と涙ながらに言っていた(涙ながら、は嘘)。
彼女にとっては「平日の昼間に、すっぴんで、リラコで、仕事をしている」なんて、昨年の春までの人生では絶対ありえないシチュエーションなわけで、そんな日常はあまりに非現実で、ほとんど犯罪行為と変わりない生活だと思っていたのではあるまいか。いや、とても主観的な想像ですが。
そんなことを考えると、だ。ユニクロの気持ちもわからんでもない。国民的大女優である綾瀬はるかさんをブランドアンバサダーに起用して「ふだん着は悪じゃないです」「平日の昼間からふだん着でも人間失格じゃないです」という(もともとデフォルトがふだん着な者のひがみ目線では)啓蒙にしか見えない広告キャンペーンを繰り広げているのは、今、かつて“普段着”と呼ばれた衣類や、人々がその“普段着”を着ること/脱ぐことに対して抱いてきた価値観が変わりつつあるのは決して一時的なものではなく、まちがいなく新しい時代の始まりなのだ…というメッセージなのかもしれないとすら思うのであるある。

振り返ってみれば、これまでもユニクロはスーパーセレブがおしゃれにリラコを着こなした広告なども展開して「リラコはお出かけもできちゃうのです」というファンタジーを匂わせてきた。とはいえ、まぁ、せいぜい若いママの公園ウェアくらいはギリギリO Kでも、さすがにリラコで電車に乗ってもいいのは10頭身限定というか、いくらなんでも現実的ではなかった。だがしかし、このぶんだと今年の夏あたりは、イセタン×ユニクロのコラボ・リラコ(←架空です)で山手線に乗れるおしゃれ女子なんてのも夢ではないかもしれないですよ。誰得ですけど。

で。なぜそんなことをだらだら考えているかというと。
きっかけはユニクロじゃなくて、GUなのだが。

先日、GUでパジャマを買った。
メンズの、いかにもパジャマライクなストライプ地の上下。
素材がジャージに近い肌触りで気持ちよい。そして何よりも、襟元や袖口、ズボンのポケットなど細部がものすごくちゃんとしているのが気に入った。

※写真はオンラインストアの商品画像をお借りしました。

最近は部屋着とパジャマの中間みたいなジャージ上下の“ラウンジウェア”が主流なだけに、襟元がきっちりしていると、なんだかデパートの紳士服売場で売っているブランド・パジャマのような高級感がある。

ポケットまで、ふつうの外出用パンツくらいちゃんとした作り。これでセール価格1990円とは超お値打ちだわー、と、色ちがいも買おうかとオンラインストアにアクセスした私は、そこで初めてこのパジャマの正体、いや、恐るべき真価を思い知ることになった。いやー、商品説明を見てびっくりした。腑に落ちた。

“非常にやわらかな素材で仕上げた着心地快適なラウンジセット。リラックスタイムにはもちろん、クリーンな見た目のレギュラーカラーなので在宅勤務時のオンライン会議でも違和感なく着用できます。”

オンライン会議
でも
違和感なく
着用
できます。

と!

なるほど!
高級紳士服ブランドのパジャマのような襟と袖口が、いくら“高見え”が得意で安さが魅力のGUにしてもコスパ悪すぎるのでは?と謎に思えるほどキッチリしている理由がわかった。つまりこれは「zoomではワイシャツのように見えるパジャマ」という、リモートワーク時代に働く男たちのニーズにこたえた、ものすごいアイディア商品だったのだ。こんなにパジャマ然としているのに、商品名もパジャマじゃなくて「コンフォートシャツラウンジセット」なのも納得。

で。感動のあまり、ためしに、パジャマを着た自分をzoom画面に映してみた。
さらに感動した。
写真をお見せできないのが残念ですが、本当に、きちんとしたドレスシャツを着ているみたいに見えるのだ。サヴィルローのビスポークのようだとは言わないが、ノートパソコン画質ならば充分ユナイテッドアローズのキレイ目シャツくらいには見える。そして、ちょっとレトロな伝統的パジャマ風の縞模様生地を意識しているのかなと思っていたストライプ柄というのもまた、画面を通して見ればザ・ワイシャツの視覚効果バッチリだったのだー。見事な計算づく!すごいー。たぶん、このパジャマにネクタイしてジャケット着ても絶対にバレない。すごいー。でも、パジャマにネクタイで会議している姿とか、家族や恋人には絶対に見られたくないよね。マヌケすぎる。いや、もう、リモート時代はそんなことも気にならなくなっているのかな。

去年から今年にかけて、リモート会議時の服装問題というのは知っていたが、なにせ日々ふだん着=仕事着な私は細かい事情までは把握していなかった。世界共通でジョークの種にされているように、せいぜい上半身だけはきちんとシャツとかジャケットを着て、下はジーンズとかジャージのままでOK…というのがあたりまえの時代になっている、くらいのことしか承知していなかった。

が、世の中は私なんかが想像するよりもずっと凄まじい勢いで進化していたのだ。
朝起きて、リラコからリラコに着替える私なんてまだまだ甘い。今や、パジャマのまま仕事して、パジャマのまま会議に出る時代になっていたとは。

パジャマ以外は全部仕事着。やがてそんな時代がやってくるだろう、とは思っていたけれど。もうなってた。というか、すでにその“先”の世界が見えはじめている。

(あ、でもね、さすがに仕事する時はパジャマは着替えたほうが、脳がオフからオンに切り替わるので良いらしい。て、リラ子に言われたくないとは思いますがw)


追記。
最後にまたGUではなくてユニクロの件になりますが。
綾瀬さん出演のCMシリーズ最新作が公開になりましたね。今回もまた、素敵ですね。桑田佳祐さんの曲がまた映像にぴったりの雰囲気で、最初の「若い広場」もよかったけど今回の「いつか何処かで」もよい。この曲を初めて聴いた時のときめきや、ずっと聴き続けていても色あせない魅力をあらためて思い出させてくれるCMシリーズでもありますねー。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?