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どうする!FDM式3Dプリンターの有毒ガス~自作フィルターは果たして効果があるのか(センサー使って実験してみた)


こんにちは!Daddy Pocoといいます。
3Dプリンター歴は3年ほどで、KP3SとBambuLab P1Sを利用してあれこれ印刷をして楽しんでいます。


プリント中のやなにおい

3Dプリンター同志のみなさまにおかれましては、印刷時のにおい、気になったりしていませんでしょうか?
ご存じかと思いますが、アレ、有毒ガスらしいんですよね。
ABSを窓閉め切って印刷したりしていると、頭痛くなったりします。
以下の記事を読むとわかると思うんですが、PLAの印刷でもそれなりに出ているみたいです。

そんでその有毒ガスと思われる匂いがエンクロージャーを閉じた状態でもするもんですから、P1S導入を機に、BentoBoxという有毒ガスフィルタを作って庫内に設置してみました。

なお上記の設計のままだとフィルターの要の吸気が結構弱かったので、以下のパーツを利用して手を入れました。


フィルターはエンクロージャー右奥に置いてあります。

!)BentoBoxのファンと電源周りについては、分からない人はほんとうにわからないと思いますので、また別の記事で書いてみようと思っています。私も最初全然わからなかったです。

かきました。

3Dプリンター製の有毒ガスフィルタは効果があるの?という疑問

上記のフィルターを作って動かしてはいるものの、これ本当に効果があるのだろうか、という疑問がわいてきまして、そうなるとちゃんと調べてみたくなるものです。
どうやって検証しようかなーと考えましたが、匂うか匂わないか程度だとちょっとアレなので、やっぱり数値化できるものは数値化して効果のほどを確かめることにしました。

M5stackで計測装置をつくった

ちょっと調べると、フィラメントを溶かしたときに出てくる「揮発性有機化合物」というのが匂いの原因で、それが有害だと思っとけばよさそうと分かりました。
そして、その量を図るための指標として、「tVOC」があることもわかりました。

TVOC (Total Volatile Organic Compounds:総揮発性有機化合物量)

tVOCは、こんなやつをひっくるめた量のことみたいです。

  • アセトン

  • イソブタノール

  • シクロヘキサノン

  • トルエン

  • アセトアルデヒド

  • など

見ただけで体に悪そうですね。

なので、tVOCの濃度を数値化できる装置を作って、エンクロージャーの中に入れ、印刷状態でフィルタを動かしているときとそうでないときの、濃度比較をしてみることにしました。

計測装置もどう作ったかは別途まとめようと思いますが、M5stackにセンサーをつないで、10秒ごとにtVOCを計測し、スプレッドシートにログを残すような仕組みをつくりました。

M5stackにセンサーを刺して、ちょっとプログラム書くだけでいいのでらくちんです。
プログラムもブロック式でいけます。

フィルタ稼働時と非稼働時のtVOCを見てみる

数値そのものの比較をやるとなると、まったく同じ条件で比較をしなければならないので(それは面倒くさかったので)、フィルタが動いてる時・動いていないときのtVOCの数値変化の傾向を見てみることにしました。

以下のようにやってみました。
少々雑ですが効果あるかどうかはわかるはず。

  1. 計測装置をBanbu P1Sのエンクロージャー内に入れて動かしておく

  2. ABSで印刷を開始し、tVOC量が上がりきる(と思われる)まで待つ

  3. tVOC量が上がったらフィルタを動かす

  4. しばらくtVOCの数値を取得して、その後フィルタを止める

  5. 数値取得を続けながら3と4を何回か繰り返す

ちゃんとフィルタの効果があるなら以下のようになるはず。

  • フィルタを動かすとtVOCが下がる

  • フィルタを止めるとtVOCが上がる

結果グラフ

結果としては以下のようになりました。

フィルタOFF → ON

まずは、フィルタOFF → ON の変化です。

縦軸がエンクロージャー内で計測したtVOCの量(ppb)、横軸は経過時間(1目盛り10秒)です。
3回オフからオンにしたので、グラフが3つあります。計測時間がそれぞれ違うのでグラフの長さは違いますが、どれもフィルタをオンにするとtVOC量が減っている様子です。結構減ってますね。1000ppb以上減ってます。

メモ:厚生労働省が定めたtVODの濃度指針値がある

室内空気中化学物質の濃度指針値を厚生労働省が定めています。
それによれば、

総揮発性有機化合物量(TVOC) 暫定目標値 400μg/m3

https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc3866&dataType=1&pageNo=1

だそうです。
グラフで使っている濃度単位 ppbにおおざっくり換算すると、

400μg/m3 = 0.32ppm = 320ppb

となります。
庫内のtVOC濃度、一番高いとき7000ppb超えてますね。。。
ちなみに、3Dプリンターの印刷をしていない状態の部屋で丸1日計測を続けても、tVOC濃度は0~100ppb程度で推移していました。
やっぱ恐ろしい濃度になっていますね。

フィルタON → OFF

次にフィルタONの状態からOFFにすると、どのようなtVOCの変化になったかのグラフです。

なんか思ってたのと違う結果になりました。
黄色のグラフ以外、tVOC濃度があんまり上がってません。赤に至っては下がっています。
理由をいろいろ考えてみましたが、しっくりくるものが思いつかなかったので、うまく計測できなかったのかもしれません。

部屋のtVOC濃度はどうなるのか

先ほどの結果を見る限り、フィルタをOFFにした時の数値変化はいまいちよくわからなかったものの、フィルタをONにしたときは、エンクロージャー内のtVOCは下がるっぽいことがわかりました。フィルターは全く無意味というわけではなさそうです。

でも結局は、エンクロージャー内から外に漏れだして部屋に漂っているVOCを吸い込むことになります。
なので、印刷している最中の部屋のtVOCも計測してみることにしました。
窓を締め切って計測してみまして、結果は以下のグラフです。

ちょっとがっかりしましたが、フィルタが動いてようが止まってようが、漏れてくるVOCによって部屋の中のtVOD濃度は同じように上がっていくことがわかっちゃいました。

よって、エンクロージャー内フィルターの効果は、エンクロージャー内のtVOC濃度を下げることだけに効果があるといえそうです。 フィルタが動いているとき、いないとき、1回ずつしかデータとっていないので比較は難しいですが、時間がたつにつれて同じようにtVOC濃度が上がっていくことは間違いなさそうです。 一方、エンクロージャー内のtVOC濃度が7000ppb程度になっても、部屋のtVOC濃度が800ppb程度に抑えられたので、「エンクロージャーで囲うことによる、部屋内のtVOCの濃度上昇抑制効果はある」としてよさそうです。

エンクロージャーに比べると部屋が広いから、漏れてきたtVOC濃度が薄まっているだけの気もしますが。。

いずれにしてもFDM式3Dプリンターから出る有毒ガスは、3Dプリンター製のフィルターをエンクロージャーの中で動かすだけでは抑え込むことができないことがわかりました。
一方、エンクロージャーで囲うことはtVOC濃度をおさえることに結構効果的なようなので、今度は以下の対策をとってみようと思っています。

  • エンクロージャーを目張りして漏れ出てくるVOCを少なくする

  • エンクロージャーの外に空気清浄フィルターを設置する

ちなみに

計測した日は窓をあけると風がいい感じに通る日だったのですが、窓を開けて2分ほどすると、800ppbまで上がった部屋内のtVOC濃度が0ppbになりました。
結局は換気するのが最強っぽいですね。
しかしそれを言っては身も蓋もありませんから、対策を続けてみる予定です。

おことわり
上記は私の環境下でのデータかつ科学的に正しい実験方法とは言えないと思うので、他の方がおんなじようにやっても同じような結果になるとは限りません。
なので、もし興味があればご自身でもやってみることをお勧めします!面白いですしね!

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