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戯曲「潮風が耳のたもとで遊ぶから 骨のかけらも笑ってエチカ」

戯曲の前に今年の5月の公演の宣伝をさせてください。

ダダ・センプチータ
「踊れない夜の嘘つき」

ゆるシュールな演劇公演を行います!
観に来てね!

日時
2024年5月
4日(土)15:00/19:00
5日(日)15:00/19:00
6日(月)13:30/17:00

会場
カフェムリウイ
(世田谷区祖師谷4-1-22-3F)

チケットご予約フォーム
https://www.quartet-online.net/ticket/yiopgqv

作・演出
吉田有希
(ダダ・センプチータ)

出演
サトモリサトル
梁瀬えみ
(演劇ユニット マグネットホテル)
(以上、ダダ・センプチータ)

尾形悟
(演劇ユニット マグネットホテル)
宇都有里紗
大村早紀

制作協力・当日運営
木村優希
(演劇ユニット「クロ・クロ」)

音響・照明
小林和葉

戯曲本編↓

春頃。
瞳や優花の祖父と祖母が暮らしていた家の居間。
中央にテーブルがひし形のような形で置いてあり、下手側奥と上手側奥にそれぞれイスが2脚ずつ置いてある。
便宜上、イスには上手側より1から4の番号をふる。
客席側に窓があるらしく、その前に瞳の彼氏である翔がマスクのスーツ姿で立ち、外の景色を眺めている。
そこに瞳や優花の母である裕子がお盆にお茶を載せて登場。

裕子 翔君はお茶でいいんだっけ
翔  ああすいません
裕子 (テーブルにコップを3つ置きながら)いいでしょ、眺め
翔  はい、旅館みたいですね、こんな、オーシャンビューで
裕子 オーシャンビュー笑、、、オーシャンビュー笑(となぜか笑う)
翔  なんか変なこと言いました?
裕子 いや、私英語に弱くって、、英語で言われたら笑っちゃわない?
翔  ああ、どうでしょう
裕子 オーシャンビュー笑、、
翔  、、、もうあれなんですね、家具とか、ほとんど片付けてあるんですね
裕子 まあね、もうお父さんも帰ってこないだろうから、、私も腰がアレだから、早いうちにかたしとこうと思って
翔  ああ、大丈夫ですか? 僕手伝いましょうか?
裕子 ああ、いやいや、ありがとう、でもほとんどやっちゃったから
翔  ああ
裕子 (窓の方を見て)いいとこに建てたよね、お父さんも、、でも洗濯物とか大変だったのよ? 海の潮でやられちゃって
翔  ああ
裕子 乾燥機が登場したときはどれだけ喜んだことか、、、あ、私が若い頃の話ね
翔  ああ
裕子 うん、、外せば?マスク
翔  え、でも
裕子 いいのよ、PCRやったんでしょう?
翔  まあ
裕子 そんな家の中までつけてたら息苦しくてしょうがないでしょ
翔  じゃあ(と外し)すいません
裕子 全然。ほら飲んで(とお茶をすすめる)
翔  はい

とイス4に座りお茶をすする。
裕子もイス1に座りコーヒーを飲む。

とそこに優花が登場。

優花 ただいまー
裕子 あら久しぶり
翔  久しぶり
優花 お久しぶりです
翔  ごめんね今日はわざわざ
優花 いえいえ全然
裕子 荷物は?
優花 いったん玄関に置いてきた
裕子 あとでちゃんと部屋運んどいてよ?
優花 はーい
裕子 なんか飲む?
優花 いや、私はいい(と窓の前へ)
裕子 そう
優花 (背伸びをして)晴れてるね
裕子 ね、ホントいい天気。海水浴でもしたい気分
優花 まだ春だよ? 死んじゃうよ?
裕子 死にはしないでしょ
優花 死にはしないけど、だいぶ修行になっちゃうから
裕子 修行ったって、滝行よりはマシでしょう
優花 何と比べてんの
翔  あれ、でも鞭打ちよりはマシですよね(と母に)
優花 鞭打ち? あの鞭で打つやつ? それ拷問じゃん
裕子 だから拷問よりはマシでしょって
優花 それはそうだろうけど、比べるものじゃないから(とイス2に座り)お姉ちゃんは?
裕子 ちょっと。買い物任せちゃって
優花 ああ
裕子 あんた来月帰って来れる?
優花 え、なんで
裕子 いや、お母さんの一周忌だから
優花 ああお婆ちゃんの、、何日?
裕子 5月の11。いちお土曜なんだけど
優花 ああ、なら大丈夫だよたぶん
翔  僕らも大丈夫ですよ、たぶん
裕子 悪いねえ。瞳はあれだけど、翔君まで
翔  いやいや、もう家族みたいなもんなんで、、とかって言ったらおこがましいですけど
裕子 そんなそんな。家族だって(とニヤニヤしながら優花に)
優花 なに
裕子 いや、なんか嬉しいじゃない、そんなこと言ってもらって
優花 ああ、まあ
翔  お爺さん、お元気そうでしたね、あれ、動画で見たんですけど
裕子 ああ、施設の職員さんが撮ってくれたのよ
優花 なんか可愛かったよね、ニコニコして
裕子 お父さんはいつもそうだから
優花 ああ
翔  でも残念ですよね。コロナで面会できないのも
裕子 そうねえ。でもこればっかりはしょうがないから
優花 あれなんでしょ? 会っても、私達が誰かはわかんないんでしょ?
裕子 うん。入所する前もお母さんのことも私のことも誰だかよくわかってなかったし
優花 じゃあ私ももし会えたとしても誰だかわかんないのかな
裕子 うん、そうじゃない?
優花 そっかー
裕子 でもあれよね、3年も会ってないと、なんか生きてるんだか亡くなってんだかわかんないよね
優花 え
裕子 いや、なんかそんな感じがすんのよ
優花 ああ

間。

翔  あ、あれなんですか? あの、玄関に置いてあったの
裕子 ああ、なんか、本。スピノザだっけ
優花 うん。哲学者でいんだって、スピノザって人が
翔  へー、昔の人?
優花 たぶん。その人が好きで、お爺ちゃんが。あれは残しとくの?
裕子 うーん、なんか捨てづらくて
優花 ああ、まあそうだよね
翔  なんかすげーかっこいいタイトルだったよね
優花 ああ本? なんだっけ、エチカ?
翔  そうそれ
優花 なんかよくお爺ちゃん話して聞かせてたよね
裕子 うそ、知らない
優花 ああじゃあ私だけだったのかな
翔  難しいやつ?
優花 うん、、なんだっけ、、たしか、神様はキリストとかそういうのじゃなくて、自然自体が神様らしくて、で、この世の全ての物体は神様の一部なんだって
翔  へー、じゃあなんか、シャー芯も神様なの?
優花 うん、たぶん
裕子 ピノも?
優花 ピノ?
裕子 あのアイスの
優花 ああ、ピノも神様なんじゃない?
翔  パピコは?
優花 だからパピコも神様なのよ
裕子 ハーゲンダッツも? あ、ハーゲンダッツは神様か。高いし
優花 よくわかんないけど、値段関係なく神様だから
翔  じゃあスーパーカップのアフォガードのやつも神様だね。ちょい高だから
優花 だから値段関係なく神様だから
翔  ああ
裕子 アイスはだいたい神様なんだね
優花 いやアイス以外も神様なのよ
裕子 キン消しも?
優花 キン消しも神様
翔  カニの殻も?
優花 は?
翔  だからカニ食べた後の、残った殻も神様?
優花 まあそうなるんじゃないですか?
翔  えでもゴミだよ?
優花 ゴミでも神様なんですよ、スピノザいわく
翔  へー
裕子 私たちも?
優花 え?
裕子 私たち人間も、神様?
優花 そらねえ、カニの殻も神様なんだから私たちもそうでしょ
裕子 へー変なの
優花 変なのっていうか

とそこに瞳が登場。

裕子 ああお帰り
瞳  ごめん無かった、キン消し
裕子 ああそう
優花 え? 買い物ってそれ?
裕子 なに
優花 いやお姉ちゃんに頼んでたって言ってたじゃん。え、キン消し買わせに行ってたの?
裕子 そうだよ?
優花 えお母さん好きだったっけ?そういうの
裕子 いや別に
優花 じゃあなんで
裕子 いやなんか、無性に欲しくなったのよ、急に
優花 キン消しが?
裕子 そう、あるでしょ、そんな時も
優花 ないよ、そんなの
瞳  久しぶりじゃん
優花 ああ
瞳  あー疲れた(とイス3に座る)
裕子 それあんたのだよ
瞳  ああありがとう(コップの中身を見て)なにこれ
裕子 青汁
瞳  青汁? なんで?
裕子 なんでって、体にいいじゃん
瞳  え、それも?(と翔に)
翔  いや、これはお茶
瞳  それは?
裕子 これはコーヒーじゃない
瞳  じゃあなんで私だけ
裕子 なんでも何も。健康でいてほしいじゃない。愛よ親の
瞳  はあ
翔  あのぉ
裕子 え?
翔  すいません、瞳も来たことなんで、お話よろしいですか?
裕子 ああはいはい
翔  すいません皆さんお忙しいところ。、、この度ですね、瞳さんと結婚させて頂きたく、ご挨拶でお集まり頂きました。、、お義母さん、、瞳さんと結婚させて頂けないでしょうか?
裕子 、、、ありがとね、、翔君、、、こんな娘だけど、、よろしくお願いします
翔  (嬉しそう)、、ありがとうございます
裕子 こちらこそ(と頭を下げる)
翔  (つられて頭を下げる)
優花 、え、なに、聞いてなかったんだけど
皆  、、、
優花 結婚するんだ、、へー、、おめでとう(と若干動揺して怒った感じで)
裕子 ちょっとなに
優花 別に、、(とふてくされる)
裕子 なによあんた、おめでたい席で
優花 、、、
翔  、、(気をつかって)まあ、ちょっといきなりだったからね、、優花ちゃんもびっくりだよね
優花 、、、
瞳  なにあんた
優花 なに
瞳  またあんた、、ほんと昔からそうだよね
優花 なにが
瞳  いや、なんていうか、変なところで突っかかってくるっていうか
優花 別につっかかってないけど
瞳  つっかかってんじゃん
優花 だからつっかかってないって
瞳  いやつっかかってるって、、、小学生の時もそうだったよね
優花 は?
瞳  ほら、私がそこの浜で、鬼の顔の鈴拾ってきてたじゃん。それ見せたら、お姉ちゃんだけずるいって駄々こねて、私も欲しいって
翔  鬼の顔の鈴?
瞳  いや、なんか落ちてたの。それで無理やり奪い取るから喧嘩になって、顔とか引っ掻きあって血まみれで、大変だったんだからねあの時
翔  え、なんの話?
瞳  いやだから、鬼の顔の鈴を取り合ったのよ、血まみれで
翔  はあ
裕子 あったねそんなのも笑
優花 笑いごとじゃない
裕子 だって笑。でもあの時お母さん、代わりに買ってあげたよね、フリーメイソンのシール。それでなんとかおさまったんだから
翔  フリーメイソンのシール?
裕子 なんかあんのよ、秘密結社でそういうのが。それのシール買ってあげて、なんとか場を収めたの
翔  え、鬼の顔の鈴の代わりに、フリーメイソンのシールですか?
裕子 そう
翔  えなんで?
裕子 なんでっていうか、、そこのスーパーにあるもので一番近かったのがそれだから
翔  えスーパーに売ってるんですか?フリーメイソンのシール
裕子 そう、なんか文房具のところに、なんかあったのよ、ねえ(と優花に)
優花 うん(と不貞腐れて)
翔  へー、、なんかすごいっすね
裕子 なんかこういう子なのよ。ごめんなさいね?
翔  いえ別に、、なんかごめんね?(と優花に)
優花 、、、
裕子 あんた子供じゃないんだから

優花、機嫌を損ねたのかそのまま居間を立ち去った。

裕子 ちょっと
瞳  なにあれ
裕子 ごめんなさいね
翔  いえいえ、僕は別に
裕子 すいません
瞳  ほっとけば直るよ
翔  はあ
裕子 もう、あの子ったら

と裕子も退場した。
間。

翔  なんかごめんね
瞳  いや、翔君は何も悪くないから
翔  うん、、

間。

翔  あれだね、お義父さんにもご挨拶したかったね
瞳  ああ、、まあでもあの人は
翔  もうあれなの? いなくなって、全然音沙汰なし?
瞳  うん、、もうかれこれ10年になるかな
翔  そうなんだ、、元気にしてればいいけどね
瞳  元気にされてても困るけど
翔  え?
瞳  いや、元気にしてるんだったら戻ってくればいいじゃん、、まあ戻って来られても嫌だけど
翔  いやなの?
瞳  嫌でしょ、今更、、
翔  そっか、、

とそこに裕子が戻って来て、

裕子 なに、お父さん?
瞳  うん
裕子 (イス1に座り)もう10年か、、
瞳  、、
裕子 これ食べる?(と皿に乗せたナンを差し出し)
翔  え、これ
裕子 ナン。そこのインド料理屋の
翔  あ、ナン、、へー、、すごいですね
裕子 すごい? なにが?
翔  いえ
瞳  え、カレーは?
裕子 え?
瞳  え、ナンだけ?
裕子 うん、なんで?
瞳  なんでって、、つけて食べるもんだから
裕子 それはそうだけど、、でも美味しいのよ?これだけでも。ほら遠慮しないで
翔  いえ、僕は、さっきチーカマ食べて来たんで
裕子 チーカマ?
翔  はい、たらふく
瞳  好きなのよこの人、チーカマ
裕子 へー変なの
瞳  いやナンだけ出してくる人に言われたくないけど
裕子 そう? 、で、お父さんがなんだって?
瞳  いや、、ご挨拶したかったねーって、翔君が
裕子 ああ、いいのよあの人は
翔  はあ
裕子 どうせどっかで女でも見つけていなくなったんだから
翔  え、そうなんですか?
裕子 いやわかんなけどね? 女の勘よ
翔  はあ
瞳  まあでもあの人ならそうだよね
裕子 ね、信じらんない
瞳  でももの説もあるけどね
裕子 あーものね笑
翔  もの?
瞳  いや、なんかあんのよ、この街に、そういうのが
翔  はあ
裕子 なんかね、昔から伝わってる民間伝承みたいなやつで、ものっていう謎の何かに人間が連れ去られるの。なんか神隠しみたいな
翔  へー怖いですね
裕子 ね。まああくまでも噂話だけど
翔  はあ
瞳  でたしかあれなんだよね? 戻って来れたとしても、人間の姿では戻って来れないんだよね?
裕子 ああ、なんかものになっちゃうんだよね、たしか
翔  ああ、その連れ去られた人も、ものになっちゃうんですか?
裕子 うん、そう
翔  へー、、実際にいるんですか? ものになって戻って来た人が
裕子 いないよ、昔話だから。そんなのあったらニュースになってんじゃん
翔  たしかに
裕子 まあまだものの方がマシだよね。たぶん女なんだろうけど
翔  ああ
裕子 もし戻って来たら殺してやる
瞳  こわっ
裕子 だってそうでしょう、殺すしかないでしょう
瞳  まあ確かにねー
翔  ものとして戻って来たらどうするんですか?
裕子 ものとして戻って来たら、、殺せるの?(と瞳に)
瞳  わかんない。殺せるんじゃない?
裕子 じゃあ殺すか
翔  ああどっちにしろ殺めるんですね
裕子 まあね。だってどれだけ苦労したか、、この10年で
翔  まあ、確かにそうですよね
裕子 うん、、

とそこに優花が戻ってくる。
イス2に座り、ため息をひとつ。

瞳  なに、落ち着いたの?
優花 牛乳飲んだら落ち着いた
瞳  なにそれ
翔  すいません、ちょっとお手洗いお借りしてもいいですか?
裕子 ああ、全然。そこの廊下の突き当たりにあるから
翔  すいません

と翔は退場。

若干の間。

裕子 あんたまだあれ?転々としてんの?(と優花に)
優花 なに、いいじゃん別に
瞳  なに転々とって
裕子 いやこの子、去年仕事辞めてからずっとフラフラしてんのよ
瞳  え、ニート?
優花 ニートっていうか、ただ仕事してないだけだから
瞳  それをニートって言うのよ。え、お金とかどうしてんの?
優花 いや、それは貯金もあるし、色々お世話になってる人もいるから
裕子 この子、色んな男の人の家転々としてんだよ
瞳  は? なにそれ
裕子 ありえないでしょ
瞳  え、その男の人っていうのは、彼氏?
優花 まあ、みたいな
瞳  みたいな?
優花 彼氏っぽい人
瞳  なにそれ。え、そういう人が何人かいんの?
優花 いや同時にはいないよ? その、ある人のところにしばらくお世話になってて、そろそろ気まずいなーってなりだしたら、また別の男の人のところに移るって感じだから、被ってはないから
瞳  いや二股とかを気にしてるんじゃなくて、、え、大丈夫なの?
優花 大丈夫。いちおちゃんと、変じゃない人のところを転々としてるから。いちお公務員とか、警察官とか、そういう人を選んでやってるから
瞳  (半ば呆れて)なんだそれ、、え、それどこでどうやって知り合うの?
優花 それは色々
瞳  なに色々って
優花 色々あんじゃん、今色々すごいんだから
瞳  、、、お母さんのとこにいればいいじゃん
裕子 そうよ、それ何度も言ったんだけど
優花 いや私もいちお25だから、いちお独り立ちしたいし
瞳  出来てないよ独り立ち。家出少女みたいなことやってんだから
優花 家出少女って笑
瞳  笑い事じゃないよ? あんたいつか変な事件に巻き込まれるよ
優花 大丈夫だよちゃんと公務員とかを選んでるから
瞳  公務員とかが一番危ないでしょ
優花 そんなことないでしょ
裕子 いや危ない。公務員が一番危ない(と意味深に優花の手に自分の手を重ねて)
優花 何があったの
瞳  でもとりあえず、仕事は見つけな。そんないつまでもフラフラしてるわけにはいかないんだから
優花 わかってるけど
瞳  何かあってからじゃ遅いんだからね
優花 だから大丈夫だって
瞳  大丈夫じゃないから言ってんの
優花 、はーい、、
瞳  もう、、

間。

急に笑いだす優花。

瞳  なに、怖いんだけど
優花 いや、よく言ってたよね、お爺ちゃん
瞳  え?
優花 いや、ニコニコしてたら大丈夫って。ニコニコしてたらだいたいのことはなんとかなるって
瞳  あんたそれニコニコじゃないよ?
優花 え?
瞳  お爺ちゃんみたいなかわいいニコニコじゃなかったから
優花 え、すごいニコニコのイメージで笑顔作ってた
瞳  全然違うよ
優花 全然ってことはないでしょ
裕子 でもあれだったね、、お父さん、いつもニコニコしてて、、この家の太陽みたいな人だったよね、、
瞳  いやまだ生きてるから。死んだみたいに言わないで
裕子 ああ

と唐突に暗転。

鈴虫の鳴く声が聞こえた。
夜。
同じ年の秋頃。
同じく祖父と祖母の暮らした家の居間。
薄暗い部屋の中、寝巻き姿の翔がぼんやりと窓の前に立ち、海を眺めながら童謡「赤とんぼ」を口ずさんでいる。
しばらくしてそこに寝巻き姿の瞳がコップを手にし登場。

瞳  夜だよ
翔  うわっ、、びっくりした
瞳  ごめん(とイス1に座り)なんで赤とんぼ
翔  いや、秋だから
瞳  でも夜じゃん。思いっきり夕焼け小焼けって言ってたよ?
翔  いいじゃん別に。さっきまで夕方だったんだから
瞳  どんぶり勘定だなー
翔  寝ないの?
瞳  そっちこそ
翔  なんか目が冴えちゃって(あくびをして)眠い
瞳  どっちよ
翔  寝よっかな
瞳  そうしな
翔  (海の方を見て)静かだね
瞳  ああ、怖いよね
翔  え、何が?
瞳  いや、海。怖いんだよね、あんな真っ暗だと
翔  そうかな
瞳  そうだよ。なんか、不穏な感じ
翔  、、考えすぎじゃない?
瞳  、、お爺ちゃん、大丈夫かな、、
翔  ああ、コロナ?
瞳  (うなづく)
翔  大丈夫だよ、、きっと耐えてくれる、、
瞳  うん、、
翔  、、でも大変だよね、、院内感染で結構広がってるんでしょ?
瞳  、、、
翔  (瞳の肩に手を添え)大丈夫、、、そんな顔してたらお爺ちゃんも悲しむよ?

そう言われ、瞳は無理に笑顔を作った。
翔も笑顔になり、瞳の頭をなでる。

翔  もう寝るね
瞳  うん、、おやすみ
翔  うん

と翔は退場。
瞳、海の方を見ながら、静かに飲み物をすする。
しばらくして裕子が登場。

裕子 なにあんた、電気つけなよ
瞳  やだ
裕子 なんで
瞳  だって、、際立つじゃん、怖さが
裕子 は?
瞳  だから、海の。怖いでしょ?夜だと。それをより味わいたいじゃん
裕子 それで部屋真っ暗にしてんの?
瞳  うん
裕子 意味わかんないんだけど(とイス3に座る)私もなんか飲もうかな
瞳  飲めば
裕子 あれ、コーヒー切らしてたっけ
瞳  夜中に飲んだら眠れなくなるよ
裕子 大丈夫だよカフェインより私の方が強いから
瞳  張り合ってんの?
裕子 張り合うよ。だってカフェインだよ?
瞳  意味わかんない

間。

瞳  浮気してるかもしんない
裕子 え? 、、誰が
瞳  翔君
裕子 は? なんで?
瞳  わかんないよそんなの
裕子 わかんないって、え、来年結婚すんでしょ?
瞳  そうだよ。だから大丈夫かなって
裕子 大丈夫もなにも。え、なんか確証があんの? 浮気してる
瞳  いや、特にこれってことはないんだけど、なんとなくね、、なんか、帰ってきたらうっすら香水の臭いしてたりとか、、服に長い髪の毛ついてたりとか、、あとなんとなく、あ、今日他の女と会って来たのかもって感じる日があったり
裕子 女の勘?
瞳  うん、、なんかそんな
裕子 当たるからねえ、女の勘は、、
瞳  そうなのよ
裕子 え、どうすんの
瞳  なにが
裕子 だから結婚よ、、え、だって浮気してんでしょ?
瞳  かもよ、あくまでかも
裕子 でも女の勘でしょ? 当たるから女の勘は
瞳  女の勘を信頼しすぎじゃない?
裕子 だって女の勘だもん
瞳  なにそれ、、、まあでも確証を得たわけじゃないから
裕子 なんかあれ、興信所とかに頼んでみる?
瞳  興信所?
裕子 スパイよスパイ
瞳  ああそれね。スパイじゃないでしょ、探偵とかでしょ
裕子 そうそれ、探偵頼む?
瞳  うーん、、でも高いんでしょ?
裕子 どうだろ、、万はいくのかな、、
瞳  万はいくでしょ
裕子 40万とか?
瞳  そこまではいかないと思うけど
裕子 ならお母さんが行こうか?
瞳  え?
裕子 私が調べるよ、探偵として
瞳  いいよ余計なことしないで
裕子 だって、それでもし浮気でもしてたら結婚生活めちゃくちゃになるでしょ
瞳  まあねー
裕子 だから私つけるよ、翔君のこと
瞳  いいよ、とりあえずお母さんは動かなくていいから
裕子 なら興信所行きな。お母さんお金出してあげるから
瞳  でもそれはそれで、、ほんとに相手いたらやだし
裕子 でも相手いる状態で結婚なんかできないでしょ
瞳  まあね
裕子 瞳には私みたいになって欲しくないの
瞳  、、、まあでもお父さんもわかんないから
裕子 え?
瞳  だから、女の人見つけていなくなったとは限らないでしょ
裕子 いいやあの人は絶対そうだよ
瞳  それこそ確証とかあんの?
裕子 ない。私の勘のみ
瞳  よくそんな自分の勘を信用できるね
裕子 だって信用するしかないじゃない。自分のことなんだから
瞳  はあ
裕子 じゃあなに? 女以外だったら何があんの
瞳  、、、もの
裕子 そんな昔話みたいなことあるわけないじゃない
瞳  、、、借金とかあったの?
裕子 なんで? ないよそんなの
瞳  じゃあなんか、心を病んでたとか
裕子 全然、ピンピンしてたし
瞳  じゃあなんなんだろうね、、
裕子 だから女だって
瞳  うん、、、なんか、、悲しい、、
裕子 、、ごめんね、、寂しい思いさせて、、
瞳  じゃなくて、、翔君が、、
裕子 ああ、、、でもあれかも、、思い込みかもしんないよ、あんたの
瞳  思い込みかなー
裕子 わかんないけど、、ほら、私がこんなだったから不安になってるだけかも、、いい子だし翔君は、、そんな浮気するような人には見えないよ
瞳  まあねー、、だといいんだけど、、
裕子 まあもう少し様子見てみたら? まだ1年あるし、、男って馬鹿だからほんとに浮気してたらどっかでボロが出るから
瞳  そうねー、、まあもう少し様子見てみるか
裕子 うん、、大丈夫だよ、きっと
瞳  うん、、

間。

とそこに翔が戻って来る。

瞳  なに、寝たんじゃなかったの?
翔  いや、なんか眠れなくて(とイス2に座り)
瞳  なんか飲む?
翔  いやいい
裕子 あーなんか、、イライラしてきた
瞳  え、なに急に
裕子 いや、旦那のこと思い出したらさ、なんかムカムカしてきて
瞳  ああ
裕子 ごめんね、なんか(と翔に)
翔  いえ、僕は別に
裕子 、、なんであの人、私たちを置いて出て行ったんだろうね
瞳  、、、
翔  、、なんかあれ、事件に巻き込まれたみたいなことってないんですかね
裕子 なに事件って
翔  いや、なんか、誘拐みたいな
裕子 誘拐する? 40のおじさん捕まえて。普通なんか子供とかでしょ
翔  ああ、でも身代金要求とか
裕子 そんなのないって
瞳  もし誘拐するとしたら私らのどっちかだよね
裕子 え?
瞳  いや、私か優花か
裕子 え、私は?
瞳  え、張り合って来ないでよ
裕子 いや、当時は私も、まだまだ全然いけてたよ
瞳  やめてよ変なこと言うの
裕子 変なことは言ってないけど
翔  まあでも全然、お義母さんもお綺麗ですし、全然あり得ますよね
裕子 ほらー
瞳  いいよ、そんな優しさ出さなくても
翔  いやまあ
裕子 あー殺してえ
瞳  え?
裕子 いや旦那。見つけたら絶対殺してやる
瞳  ちょっと、怖いこと言わないでよ
裕子 だって、ムカつくじゃんあいつ
瞳  うーん、、
裕子 どうやって殺そう
瞳  は?
裕子 殺し方。一番残忍なやり方がいいよね
瞳  いやわかんないけど
裕子 なんだろ、何が一番残忍なやり方かな(と翔に)
翔  そうですね、、(と真剣に考える)
瞳  いや考えなくていいから
翔  水責めが一番きついらしいですよ?
裕子 水責め?
翔  はい
裕子 何それどうやってやるの?
翔  なんか、水張った湯船に、顔を死ぬギリギリまで浸けて、死ぬ直前になったら上げて、でまた浸けてってのを繰り返す感じです
裕子 それを死ぬまでやんの?
翔  はい
裕子 いいじゃん
瞳  よくないよ。やめてよ怖いこと言うの
裕子 えーでもちょっと興味あるかも
瞳  マジで言ってんの?
裕子 うん。それくらい恨みは深いのよ
瞳  へー
裕子 翔君も気をつけなね
翔  え?
裕子 他に女作って逃げたら、この子から水責めにあうよ?
瞳  ちょっと
翔  ああ、僕はそういうのは無いんで
裕子 ほんとに?
翔  ほんとに、、

裕子、しばらく翔を見つめ、

裕子 、、、信用したげる
翔  、、ありがとうございます
裕子 いいってことよ

とそこに寝巻き姿の優花が登場。

優花 なにみんなして、こんな暗闇で
裕子 いや、翔君を脅してたのよ
優花 なにそれ(と電気をつける)
裕子 うわっ、まぶしい
優花 目え悪くなっちゃうよ、こんな真っ暗なとこいたら
裕子 ほんと? それ本とか読んだらじゃないの?
優花 関係ないよ。暗闇で目え開けてるだけで悪くなるよ
裕子 ほんとか?
優花 ほんとだよ(とイス3に座る)
裕子 あんたさあ、どうすんの、これから
優花 え?
裕子 だから、アルバイトでもなんでもいいから仕事見つけて自立しなよ
優花 え、アルバイトでもいいの?
裕子 いやできれば正社員がいいけど
優花 えーでも私資格とか持ってないしなー
裕子 資格なくてもなれるよ正社員は
優花 んーでもやりたいことないし
翔  あれ、前はなんの仕事してたの?
優花 え? モスバーガー
翔  へーいいじゃん、美味しいよねあそこ
優花 ね
翔  え、なんで辞めちゃったの?
優花 なんか、髪に臭いつくのよ、油の。それ洗っても洗っても取れなくて、頭おかしくなりそうになって、で実際頭おかしくなって辞めた
翔  え、頭おかしくなったの?
優花 うん狂った
翔  へー、、それは他の人もそうなの? 他の働いてる人も
優花 あーどうだろう。一定数そういう人はいるんじゃないかな
瞳  いないだろ
優花 いやみんながみんなじゃないだろうけど、一部ね、狂う人はいると思うよ?
瞳  それだったらそんな、社会問題になってるだろもっと
優花 いやそれをもみ消してんのよ、モスは
翔  闇が深いんだね
優花 そうなんですよ
翔  へー
瞳  適当なこと言ってんじゃないよ
裕子 なんかあんた、小さい頃凧揚げ好きだったじゃない。それに関連する仕事やったらいいんじゃないの?
瞳  は? どういうこと?
裕子 だから、好きなことを仕事にしたら続くっていうじゃない
瞳  いや、でもそもそも凧揚げに関係する仕事なくない?
裕子 でもなんか探せば出て来るんじゃない?
瞳  ないよそんなの。ていうか今も好きなわけじゃないでしょ、凧揚げ
優花 え、好きだよ?
瞳  え?
優花 たまにやってるよ?公園とかで
瞳  え、初耳なんだけど
優花 えだって言わないでしょわざわざ、この前凧揚げして来たよって
瞳  それはそうだけど、、えどれくらいの頻度でやってんの?
優花 週3
瞳  結構やってんな
優花 だって暇なんだもん
瞳  働けよなんでもいいから
優花 うーん、その気持ちは湧かないんだよねー。でもほんと凧揚げが仕事になったらそれが一番幸せかも
瞳  ならねえよ。モスで働けモスで
優花 えでもモスの闇は深いから
瞳  深くないよ、妄想だよあんたの
優花 えー、、
裕子 髪の毛全剃りしたら? だったら臭いつくも何もなくなるじゃない
優花 えスキンヘッド?
裕子 そう。あんた頭の形いいから似合うよ絶対
優花 なんでそこまでして働かなきゃいけないの?
裕子 だってそこが解決したら働けるじゃない
優花 そうだけど
翔  なんかあれ、アイドルの人で坊主にした人いましたよね?
裕子 ああなんだっけ、ミネなんとかさん
優花 でもあれは罰でやったやつだから
裕子 ああ罰でやったの?
優花 そうだよ、すごい泣きながら発表してたじゃん
裕子 へーじゃああんたもやんなよ、罰で
優花 なんの罰で
裕子 週3凧揚げの罰で
優花 なんで。別に悪いことじゃないでしょ
裕子 そこそこ悪いことでしょ。いい大人が仕事もしないで頻繁に凧揚げして
優花 そうなの?(と瞳に)
瞳  そうなんじゃない? 坊主にするほどの罪ではないと思うけど
裕子 でもちょうどいいじゃない。みそぎにもなって、モスでも働けて
優花 いや、私別にモスで働きたいわけじゃないから
裕子 じゃあどこで働くの
優花 んー、、、キャリーアテンダントとかになりたい
瞳  キャビンアテンダントでしょ? なれないよちゃんと言えない奴が
優花 でもまだ25だよ? 今から頑張ればワンチャンいけるくない?
瞳  無理だよ。あれ頭いい人じゃないとなれない仕事なんだから
優花 そっかー、、じゃあ凧揚げで我慢する
瞳  代替案じゃないんだよ、凧揚げは
翔  ふわぁ(とあくびをし)そろそろ寝ようかな
瞳  何回それ繰り返してんの
翔  今度は本気。おやすみなさい
裕子 おやすみなさい。気をつけてね
瞳  何に
裕子 いや、悪夢とか見ないように
瞳  怖いこと言わないでよ
翔  大丈夫ですよ、悪夢くらいへっちゃらですよ。じゃあ
優花 おやすみー

と翔は退場した。
間。
皆、なんとなく窓の外の海を眺める。

優花 静かだね、、
瞳  うん、、

間。
すると裕子のスマホのバイブ音が鳴る。

裕子 何こんな時間に(と電話に出る)もしもし、、はい、そうですけど、、、、、、そうですか、、、、、、そうですよね、、、、、、わかりました。また明日、よろしくお願いします。はい、失礼します(と電話を切った)
瞳  なに、、?
裕子 、、、お父さん、、亡くなったって、、
瞳  うそ、、
優花 会いに行けないの?
裕子 (首を横に振り)コロナだから、、ダメだって、、、今日はもう遅いから、、、明日火葬されるって、、
優花 え、家族なのに? 顔も見れないの?
裕子 だから! 、、、ダメなんでしょ、、移っちゃうとあれだから、、、遺骨拾いとかも出来ないみたいで、、、私たちは火葬場の外で手を合わせててって、、、、、骨壷に入れてもらってから、、頂けるんだって、、、
優花 、、そう、、
裕子 、、悔しいね、、、
優花 、、、
裕子 こんな最期って、、なんなんだろうね、、、お父さんはなんにも悪くないのにね、、、、、私たちのこともわかんなくなってたけどさ、、、それでも、、私たちに囲まれて、、最期を迎えさせてあげたかったよね、、、
瞳  しょうがないよ、、コロナだから
裕子 そうだけど、、
瞳  、、悔しいね、、
裕子 、、、明日、、1時からだって、、火葬、、
瞳  葬儀は、、?
裕子 わかんないけど、、、明日が通夜で、、明後日が葬儀になるんじゃない、、? 、、あんた出れる?
瞳  全然、、仕事休むし、、翔君も
裕子 そう、、、ありがとね、、
瞳  全然、、、
裕子 (気持ちを切り替えるように)私もう寝るね
瞳  うん、、大丈夫、、?
裕子 大丈夫大丈夫、、、おやすみ
瞳  おやすみ、、
優花 おやすみ、、

と裕子は退場した。

瞳  翔君にも言った方がいいかな
優花 明日でいいんじゃない? もう寝てるんだろうし
瞳  そうだね、、

と瞳は立ち上がり、窓の前まで来た。
海を眺めながら、

瞳  遠くに行っちゃったね、、お爺ちゃん、、
優花 、、でも、、正直3年も会えてなかったから、、なんかずっと遠くにいる感じに思える、、、亡くなったって聞いても、、、なんか実感が湧かない、、、
瞳  、、、葬儀に出たら、徐々に実感が湧いてくるよ、、
優花 、、そっか、、

間。

瞳  お婆ちゃんが連れてってくれたんだよ、、、お爺ちゃん、、結構辛そうにしてたみたいだし、、、もう大丈夫だからこっちにおいでって、、、
優花 、、、

間。

瞳  ねえ知ってる? お爺ちゃんとお婆ちゃんの出会いの話
優花 、知らない、、
瞳  なんかね、、お爺ちゃんが若い頃、、街を歩いてたんだって、、そしたら耳元に、急に柔らかい風が吹いて、天使たちが遊んでる感覚になったんだって
優花 なにそれ笑
瞳  わかんないけど笑、なんかそんな感じがしたんだって、、、それで、何かなって思って振り向いたら、お婆ちゃんが立ってたんだって、、、それで、「天使だ!」って思って、声かけたんだって
優花 えナンパ!?
瞳  そう。らしいよ?
優花 へーすごいね、それくらいの時代で、そういうのあったんだ
瞳  だから先駆者なんじゃない? ナンパの
優花 あー始祖?
瞳  うん。もしかしたら人類ではじめてナンパしたのうちのお爺ちゃんかも
優花 それはないでしょ笑
瞳  うん笑
優花 でもそれでオッケーしたお婆ちゃんもすごいよね
瞳  たしかに、、でもイケメンだったから、若い頃のお爺ちゃん
優花 そうなの?
瞳  うん、前にお爺ちゃんに写真見せてもらった
優花 えーずるい
瞳  ずるいか?
優花 誰似? 芸能人で言ったら
瞳  えー、、佐藤健
優花 嘘だー
瞳  ほんとだって。ガチイケメンだったから
優花 へー、、じゃあ逆に佐藤健が年老いたらあんな感じになんのかな?
瞳  どうだろ、、でもそれにしてはニコニコしすぎだよね
優花 え?
瞳  え、だってそんな佐藤健ニコニコしてるイメージなくない?
優花 あーお爺ちゃんはニコニコちゃんだもんねー
瞳  うん、なんかずっとエロい顔してるよね健
優花 なにそれ笑
瞳  いやなんか、してない?健
優花 あーまあ確かに
瞳  でしょ?

と唐突に暗転。

2日後の午後。
祖父の葬儀が終わった後らしい。
喪服姿の裕子が現れる。
するとスマホのバイブ音が鳴る。
裕子は電話に出る。

裕子 もしもし? 、、、どちら様でしょうか、、、あなた? 嘘でしょそんな、、、誰? いたずら電話? 警察に連絡しますよ? 、、、そんな、、信じれるわけないでしょ、、、じゃあ、私とあなたが最後にふたりっきりで出かけた場所は? 、、、そうよ、、川崎のドンキよ、、じゃあほんとに本物なの、、、? 何よ今更、、、10年も放ったらかしにして、、水責めにしてやる! 、、いや、あんのよ、そういう殺し方が、、、馬鹿みたい、、、お父さん、、私のお父さん死んだんだからね! 今日が葬式よ! 、、、嘘だろって、、ほんとだよ! ふざけんじゃないよ! 、、、女でしょ、、、女と逃げたんでしょ、、、だってそれ以外考えられないじゃない! 、、、もの? 、、、ものに連れ去られたって、、、そんな昔話じゃないんだから、、、じゃああなた10年もものに捕まってたって言うの!? 、、、馬鹿じゃない、、、そんなの信じられるわけないじゃない、、、なに、、、やめてよ、戻って来ないで! 、、、瞳も、、優花も、、私だって、、この10年でどれだけ苦しんだか、、、だから変な言い訳するのはやめて! 何がものよ! ふざけんじゃないよ! 、、、だから戻って来ないでって! あっ

と電話が切れたらしく裕子はひとりスマホを見つめた。
そこに優花が現れた。

優花 まだ着替えてなかったの
裕子 ああ、、打ち合わせがあって、お寺さんとの
優花 ああ、、お疲れ様でした
裕子 なにが、、それはみんなそうでしょう
優花 いや、、喪主の挨拶とか、、
裕子 ああ、、ありがとね
優花 うん(とイス1に座る)
裕子 あれ、どうなったの
優花 え?
裕子 いや、ほら面接受けるって言ってたじゃない、仕事の
優花 ああ、まだ結果の連絡は来てないけど
裕子 そう、、なんの仕事の受けたの?
優花 ん? なんか、エビの殻を剥く仕事
裕子 なにそれ
優花 わかんないけど、なんか剥くんだって、工場で
裕子 へー、、なんか飽きそう
優花 ね。でも無心でできるからいいかなって
裕子 あーでも頭おかしくなるよ、私も前学生の頃そういうアルバイトみたいなのやったことあるもん
優花 どんなの?
裕子 なんか、封筒に物入れる仕事
優花 なにそれ、危ない仕事?
裕子 なにが。なんで危なくなんの
優花 いや、なんか、ヤバい薬とかをアレするやつかなって
裕子 んなわけないでしょ。なんか商品郵送とかの、封筒入れみたいなやつよ
優花 へー
裕子 あれは大変だったね。頭おかしくなりそうになった
優花 ふーん、、なんか瞑想みたいな効果はなかったの?
裕子 え?
優花 いや、だからおんなじことずっとやってるわけだから、なんか無我の境地っていうか、悟り開けそうじゃん
裕子 そんな簡単に開けないよ悟りは。それだったら工場で働いてる人みんな仏になっちゃうじゃん
優花 なってなかったの?同僚の人とか
裕子 なってないよ、気持ち悪いでしょなってたら
優花 ああ
裕子 え、なに? そこに就職すんの? エビの殻を剥く仕事に
優花 わかんない。なんかさっきのお母さんの話聞いてたら若干冷めた
裕子 ふーん、、ならやめとけば?
優花 うーん、、でも楽そうなんだよね
裕子 あんた、この世に楽な仕事なんてないよ?
優花 まあ、それはわかってるけど、、でも剥くなら、なんか他のもの剥きたいな
裕子 なんで
優花 だってエビ臭くなるの嫌じゃん
裕子 何剥くの
優花 え、、魚肉ソーセージの透明のやつとか
裕子 あのオレンジのやつ?
優花 うん
裕子 あれは食べる人が剥くんでしょ。最初から剥かれてるんだったらそもそもオレンジのやついらないじゃない
優花 あーそっか、、他に臭くならない剥くやつある?
裕子 剥くやつ限定なの?
優花 そういうわけじゃないけど
裕子 なら他になんかやりたいことないの?
優花 うーん、、棒を折るとか
裕子 は?
優花 いや、小学生の頃とか、よく道に落ちてる木の棒みたいなの拾って折ってたから、あとパピコとか
裕子 でもそんな何かを折る仕事なんてこの世にないよ?
優花 うそ、、探せばあんじゃない?
裕子 馬鹿言わないでよ、、なに、あるとしたら何折るの
優花 えー、、ケンタッキーの肉分解する人とか
裕子 いや、あれモモ肉とか折って分解してるわけじゃないから
優花 そうなの?
裕子 わかんないけどなんか包丁とかでやるでしょ
優花 えー包丁は怖いな
裕子 でしょ? なら普通のちゃんとした仕事見つけな?
優花 なにちゃんとした仕事って
裕子 わかんないよ、自分で考えなよ
優花 なんでわかんないのにそんなこと言うの
裕子 だってわかんないのはわかんないんだもん、しょうがないじゃん
優花 えー、、
裕子 ハローワークとか行ったの? ネットで求人探すとか
優花 あー色々見てみたけど全部むずそうで私には無理っぽいのよね
裕子 そんなことないでしょ
優花 あでも、あれなら行けそうな気がした。警備員
裕子 警備員? 警備員は違うんじゃないの?
優花 え、なんで?
裕子 だって男の人が多そうじゃん、割と年配の
優花 それ偏見だよ
裕子 でもあんたみたいな若い女の子いんの?
優花 えーわかんない。たぶんいない
裕子 でしょ? なら浮くよ?
優花 えー、浮きたくはない
裕子 ならやめときな
優花 えーでも私のポテンシャル的に警備員がギリだと思うんだよね
裕子 あんた警備員舐めんじゃないよ。色々大変なんだよ、警備員の人たちも
優花 何が大変なの
裕子 だから、有事の際には色々取り押さえたりしなきゃいけないでしょ?
優花 え、犯人とか
裕子 そうよ
優花 え無理無理無理無理
裕子 ならやめときなよ。あんたなんか事件が起きても知らないふりして逃げるでしょ
優花 うん、だって怖いじゃん
裕子 そんな警備員いる? ダメよそれじゃあ
優花 えーじゃあなんにしよう、、、レジ?
裕子 レジで正社員あんの?
優花 わかんない、、でも正社員無理かも。私の持ち合わせの責任感じゃ何か問題が起きたらすぐとんずらこいちゃう
裕子 だろうね、、なら無理して正社員で探さなくてもいいんじゃない? とりあえずアルバイトでもいいし、契約社員とかもあるし
優花 あー、、なら熱波師とか興味あるかも
裕子 なにそれ
優花 いやなんか、サウナで濡れたタオルをパタパタして、お客さんに水蒸気かける仕事
裕子 意味わかんない。なんでそれになんの?
優花 えーなんか良さげじゃない? なんかかっこいい感じがする。なんとなくだけど
裕子 まーもういいよ、好きな仕事しな?
優花 うん。じゃあとりあえず熱波師とケンタッキーの肉を折る仕事で探してみるわ
裕子 いやケンタッキーは無いのよその仕事は
優花 ないの?
裕子 さっき話したでしょ
優花 じゃあ熱波師一択か
裕子 他の選択肢も広げときな
優花 うん、まあじゃあ色々考えとく
裕子 うん、まあぼちぼちね。まだお父さん亡くなって日が浅いから
優花 うん、了解
裕子 うん

とそこに瞳と翔が登場。
瞳は写真立てを手にしている。

瞳  見てこれ
裕子 え、懐かしー
優花 あ、お爺ちゃんとお婆ちゃんだ。まだ元気な頃のだね。ツーショット写真初めて見た
裕子 どこにあったのこんなの
瞳  なんか、お爺ちゃんの書斎見てたらあった
裕子 へー、、、これもニコニコだ
瞳  ね。可愛いね
優花 お婆ちゃんの硬い笑顔がいいよね
裕子 お母さんはこれだから。いつも眉間に皺寄せて文句垂れてた人だったから
瞳  たしかに。お婆ちゃんにしては笑ってる方だよね
裕子 うん
翔  お婆さんは割と怖い感じの人だったんですか?
裕子 いや怖いっていうか
優花 マツコデラックスみたいな感じ?
瞳  あーなんかくさす感じで、物事を斬りつつも、面白おかしく話してた、みたいな
翔  へー、なんかいいね
瞳  うん
裕子 お母さんは革命家だったんだよ?
瞳  え?
裕子 昔の人だからさ、割と、女の人は女中みたいに扱われてて、姑からのいびりもあったし、、そういうのに、毒と笑いでもって対抗し続けてきて、少しずつ親戚内での自分の領土を広げていってたの
翔  あーフェミニストな感じだったんですね
裕子 いや、そんな大そうなアレじゃないけど、なんとなく声が大きい人だったから、自然に「おかしいものはおかしい」って抵抗し続けてきたんだろうね、、けっこう虐げられてきてたみたいだから、、だから私とかあんた達も今伸び伸びと暮らせてるってのはあるのよ?
瞳  へー
優花 感謝だね
翔  なんかかっこいいですね
裕子 うん、この家系の女性陣からしたら、ヒーローだったのよ
翔  へーすごい、憧れる
裕子 (嬉しそうに笑い)でしょう?
翔  はい
裕子 だから去年お母さんが亡くなった時は泣いた泣いた、、、悲しさ以上に、感謝の念が溢れ出たんだよね、、
皆  、、、
裕子 ごめんね、湿っぽい話して
翔  いえいえ
優花 (写真縦のガラス面を擦りつつ)あれ、取れない
瞳  なにが
優花 いや汚れ、、あ、これ内側から汚れてるわ
瞳  一回外せば?
優花 うん

と優花が写真立てを分解すると写真の裏面から封筒が出てきた。

優花 なにこれ(表紙を見て)遺書って書いてある
瞳  遺書?
優花 「平山貞幸(ひらやまさだゆき)」だから、お爺ちゃんのだ
裕子 え、こんな所に、、見つかんなかったらどうしてたんだろうね
優花 ね
瞳  開けていいの?
裕子 いいでしょ遺書なんだから

それで優花、封筒を開け、中の手紙を読んでみる。

優花 遺産相続の分配が書かれてる
裕子 へー、そんな遺産とかあったんだ
優花 ね。なんか税理士さんの番号書いてある
裕子 へー
優花 あ
瞳  なに
優花 いや、、なんか、お墓に納骨はしてほしくないって
裕子 え、でもお母さんの骨も入ってるし、代々平山家の骨は、全部あそこに入ってるのよ?
優花 いや、なんか、海に散骨してほしいって
裕子 海? 海って、そこの海に?
優花 いやわかんないけど、書いてあんだもんここに(と遺書を見せ)
裕子 えー、、(と遺書を読み)ほんとだ、三等分って書いてある
優花 いやそこもそうなんだけど、、ほら、ここ
裕子 海って書いてあるねえ
瞳  え、どうすんの?
裕子 えー私わかんないよ?
優花 ていうかいいの?海に勝手に捨てて
瞳  いや、別に捨てるわけじゃないから
優花 ああ、撒く感じ?
瞳  まあ撒くっていうか
裕子 やっぱあれなのかな、芸能人がでっかい寺とかで節分に豆まきする時みたいにふぁさー!って撒くのかなあ
瞳  いやそんな投げなくてもいいし、あと節分に例えるのも、なんかおめでたいものだから
裕子 でもおめでたいことなんじゃないの? お父さんにとっては
瞳  おめでたいのか?
裕子 わかんないけど
優花 エチカだよ
裕子 え?
優花 エチカじゃない? ほら、この世界の全ては神の一部だって言ってたんでしょ、スピノザが。だから大いなる神である海に戻りたいんじゃないの?
翔  なにそれ
優花 いや、なんかスピノザって哲学者がいて、お爺ちゃんその人の本が大好きで、エチカって本に、そういうのが書かれてたの
翔  なに、なんか信仰宗教みたいな感じ?
優花 いや宗教とかじゃない、哲学だから
翔  あ、怪しいやつじゃないんだ
優花 怪しくはないよ
瞳  えでもこの世の全てのものが神の一部なんだったら、別にお墓も神の一部なんだからお墓に入るでいいじゃん
優花 たしかに
翔  あと普通にお爺さん自身も神なんだから海に撒かれる以前にすでに神なんじゃないの?
優花 あーじゃああれなのかな、普通に海に撒かれたいだけなのかな
翔  あーかっこいいもんね、散骨
裕子 かっこいいの?
翔  はい、なんとなく
裕子 翔君も海に散骨派?
翔  いえ僕は鳥葬派ですね
瞳  またトリッキーなの選ぶねえ
翔  え、でも鳥に食べてもらえるんだよ? それも自然に返れて最高じゃん
瞳  あーでもあれチベットまで行かないとダメなんだよ?
翔  なんで?
瞳  いや、だってあれ大鷲みたいなでかい鳥じゃないと食べてくんないから、日本の鳥だと無理よ
翔  え鳩とか食べてくんないかな
瞳  無理でしょ体ちっさいんだから、残しちゃうよ
翔  でも大量の鳩ならいけるんじゃない?1000羽とか
瞳  そんな集めらんないでしょ
翔  えじゃあ瞳今のうちから手懐けといてよ1000羽分
瞳  やだよ、なんでそんな街の変わりもんみたいなことしなきゃいけないの。テレビの取材とか来ちゃうじゃん
翔  いいじゃんかっけーじゃんそれで出れたら
瞳  やだよ、恥晒しもんだよ
翔  えーじゃあ俺の鳥葬どうすんの?
瞳  いいよまた後々考えるから。結婚前に死んだ後の話しないでよ
翔  ああごめん
優花 あでもあれだ。書いてある、「俺は神になる」って
翔  かっけー海賊王みたいだね
瞳  変な例えしないでよ
優花 どうする?
裕子 どうするって言われても、、え、普通に法律的に大丈夫なの?
瞳  葬儀屋さんに相談してみたら?
裕子 ああそうね、まあ確かに。でもたまにやってる人いるから完全にダメってわけではないんだろうけどね
瞳  でもどこの海に撒くの?
優花 それは書いてない
裕子 東京湾でいいんじゃない?
瞳  それヤクザじゃん
裕子 なんで
瞳  だって東京湾に沈めんぞって言うじゃん
裕子 でも沈められた他の仲間の人がたくさんいるから寂しくなくていいんじゃない?
瞳  でもあんまその人達と一緒にいたくはなくない?
翔  熱海あたりがいいんじゃないすかね? 毎年命日とかに旅行に行けるし
瞳  おい
翔  いやそういうあれじゃなくて
優花 でも年1で熱海行ってたらどっかで飽きるよ、さすがに
翔  なら一瞬だけ熱海行って、残りは伊東の方とか、バリエーションつけていけばいいんじゃない?
優花 あー途中から伊豆とか?
翔  そう
優花 あーなら飽きないかも
裕子 まあお父さんも東京湾とかより熱海とかの方が喜ぶかもね
瞳  まあ東京湾よりかはねえ
翔  東京湾だと東京湾の魚とか食べづらくなっちゃいますしね
裕子 あーそうねえ、アナゴとかね
瞳  あーわりと東京湾の魚出回ってるからね
翔  うん、江戸前のお寿司屋さんとか行けなくなっちゃうし
瞳  そうねー、、なら熱海とかにしとこうか
優花 でも熱海にしたら熱海旅行の時、熱海の海鮮食べれなくなっちゃうよ?
翔  あーマジかあ、、むじいなこの問題
裕子 なら絶対行かない海とかにしたらいいんじゃない? 三浦とか
翔  あーいいですね、三浦わざわざ行かないですもんね
瞳  三浦に失礼だろ
翔  でも熱海とかよりは行かなくない?
瞳  まあ
裕子 で、たまに三浦でお祈りして、少し離れたとこで海鮮系食べる流れにしたらいいじょない
瞳  海鮮系はマストなのね
裕子 まあそれはねえ、せっかくだから
優花 じゃあそれでいいんじゃない?
瞳  まあお爺ちゃんの願いだからね
裕子 じゃああれ、とりあえず葬儀屋さんに相談しとくね
瞳  ああうん

と裕子は退場。

瞳  またお爺ちゃんも変なこと考えるね

と言いつつ瞳も退場。
残された優花と翔。
優花、2人が去った後を確認し、翔の指を触る。

翔  (小声で)ちょっと、瞳が来たらどうすんの
優花 (同じく小声で)大丈夫、ちょっとだけだから
翔  ちょっとだけって
優花 私のこと嫌いなの?
翔  嫌いじゃないけど、落ち着いて?
優花 別に落ち着いてますけど?
翔  わかったから

と翔、優花の指を離す。

優花 つまんないのー
翔  今日お爺さんの葬儀だったんだよ?
優花 それはそうだけど、、それとこれとは話が別でしょ
翔  別じゃないよ、、もう
優花 なに
翔  別に
優花 なに、怒ってる?
翔  怒ってないよ
優花 そういうとこ可愛いよね
翔  からかうなって
優花 だって可愛いんだもん
翔  、、、あのさ、、話がある
優花 、なに
翔  いや、、、関係を、終わらせたい
優花 は?
翔  いや、、ほら、いちおさ、俺たち結婚するし、、そういうのも出来ないでしょ、、優花のためにもならないし、、だから、、一旦ここで区切りをつけといた方が良いのかなって、、
優花 は? 信じらんない、、
翔  うん、うんそっか
優花 そっかって何
翔  いや、、んー、、難しいね、、
優花 え、、別にお姉ちゃんと結婚した後も、関係は続けててもいいでしょ
翔  いやそれはまずいでしょ
優花 何がまずいの
翔  だって、、バレたら大問題になるし、、ほら、子供だって出来たら、色々ヤバくなんじゃん
優花 は? なら最初っから誘わなきゃよかったじゃん!
翔  ちょっと声大きいって
優花 、、、え、じゃあ、私のこの気持ちはどうしたらいいの?
翔  気持ち? 気持ちかあ、、結構あれ? その、、強い感じ?
優花 は?
翔  いや、違う、その、なんだ?
優花 、好きだよ? 翔君のこと、、大好き、、
翔  、、それはありがとうなんだけどね
優花 だけどなに?
翔  いや、、俺もおかしかった
優花 え、おかしかった? なにおかしかったって
翔  いや、おかしくはない。正しい。2人とも
優花 正しくはねえだろ
翔  ああ、まあそうとも言える
優花 そうとしか言えねえわ
翔  うん、うんそうね
優花 え、、私は別に、翔君とお姉ちゃんが籍入れた後も、この関係は続けてたいよ?
翔  いや、いやそれはどうなんだろう
優花 は?
翔  いや、逆に、逆によ? 優花が俺と結婚します、で俺が優花のお姉ちゃんと浮気してました、結婚後もその関係が続いてます、ってなったらどう思う?
優花 ぶっ殺す
翔  お姉ちゃんをそんな
優花 いや翔君を
翔  俺? 俺がぶっ殺されんの?
優花 当たり前でしょ。姉ちゃん殺してどうすんの。殺すならまだ血の繋がってない方でしょ
翔  いや、殺す以外の選択肢もあるから
優花 ないよ、殺すの一択だよ
翔  随分あれだね、バイオレンスな方なんだね
優花 なに今更
翔  うん、、、じゃああれか、、別れるって話は、、無し?
優花 え、そのつもりでいたけど
翔  え、じゃああれ? 俺が瞳と結婚した後も、子供ができた後も、ずっと関係は続けるってこと?
優花 だからさっきからそう言ってんじゃん
翔  え、えそれは、メンタル的に大丈夫なの?
優花 は?
翔  いや、だから、優花の気持ちが保てられるのかなって
優花 別にそれは、、ていうかすでに今までもそうだったし
翔  そうか、、それはそうなのか
優花 え翔君は?
翔  俺? 俺は、、もちろん優花のこと好きだよ? でも瞳のことも大事に思ってるし、、だから心苦しい
優花 え、お姉ちゃんに対して?
翔  いや、2人に対して
優花 ふーん、、
翔  だから、良くないからこの関係性は、、優花もまだ若いし、、男なんて星の数ほどいるし、、いいきっかけだから他の誰かと一緒になった方が幸せだと思うのよね優花も
優花 私は翔君と一緒にいれる方が幸せだよ?
翔  そう言ってくれるのは嬉しいんだけどね?
優花 なら続けようよ
翔  うーん、、難しいなあ、、
優花 なんにも難しくないよ。ただお姉ちゃんと結婚生活を送りながら、たまに私と会ってくれるだけでいいから
翔  うーん、、子供が出来ても?
優花 うん、別にいいじゃん
翔  え、うちに子供が出来たら、優花はどういう気持ちで接してくれるの?
優花 いや、そこは普通に叔母として可愛がるよ?
翔  そこはそうなんだ
優花 そうでしょ、そんな虐めたりしないよ
翔  まあ、それはねえ
優花 だから別にいいじゃんこのままで
翔  うーん、、、え、瞳に嫉妬とかはしないの?
優花 しないよ、今までだってそうだったじゃん、、まあ結婚するって聞いたときは、さすがにあれだったけど、、でも今は大丈夫でしょ?
翔  そうかー、それはそうなのよねえ、、
優花 だからこのままでいいんじゃない?
翔  そうねー、、一旦あれか、保留でいいのか
優花 うん、、またこれから時間が経てば、色々変わってくることもあるだろうし
翔  えなに変わるって
優花 え、だから私の気持ちが離れたりとか
翔  え離れることがあんの?
優花 それはあるでしょ普通に
翔  え、マジかあ、、ショックだわそれは、、
優花 えどういうこと?
翔  え?
優花 いやだってさっきまで別れようって言ってた人が
翔  いやそれはそうなんだけど、、実際にそう言われると、ちょっと寂しいっていうか、、
優花 なにそれ、都合良すぎない?
翔  いやまあそうなんだけど、、
優花 お姉ちゃん来ないね
翔  え? うん
優花 2人っきりだよ?(と翔の両手を取る)
翔  うん
優花 いけないことしちゃおうか
翔  いけないこと? なにそれ
優花 やったらわかるよ
翔  ええ?(とすけべそうに笑う)

唐突に暗転。

波の音が聞こえた。
数日後。
海辺の船着場。
骨壷を抱えた裕子が立っている。
そこに優花が現れる。

優花 なんかすでにベタベタしてる(と手の甲をさすり)
裕子 なにが
優花 いや、海の潮で、(手の甲の臭いを嗅ぎ)臭い
裕子 洗ったら落ちるよ
優花 これ沖まで行ったらもっとベタベタになるかな
裕子 さあね
優花 私何気に船乗るの初めてなんだよね。船酔いするかな
裕子 するんじゃない? ちっちゃな船だし
優花 マジかー。薬とか買ってきとけばよかった
裕子 そこの売店に無かったの?
優花 無かった。なんか、ボタンあめしかなかった
裕子 あああれ美味しいよね
優花 うん、、、重くない?
裕子 え?
優花 いや遺骨
裕子 重いけど、地面に置いとくわけにはいかないでしょ
優花 まあ、、、それ中身全部撒くの?
裕子 うん、、だって遺言にそう書いてあったんだからしょうがないじゃん
優花 うん、、残った壺とかはどうすんの?
裕子 なんかお寺さんがあれしてくれるって
優花 なにあれって
裕子 わかんないけど、なんか色々あれして処分してくれるんじゃない?
優花 へー、、、

間。

裕子 瞳と翔君は?
優花 ああ(スマホを見て)もう少しで着くみたいよ?
裕子 車で来てるんでしょ? 悪いね、こんなとこまで
優花 まあいいんじゃない? 帰りに海鮮丼食べるって言ってたし。観光目的も半分あるんでしょ
裕子 ああ、、、あんた仕事はどうなったの?
優花 ん? ああ、もしかしたら決まりそう
裕子 あら、良かったじゃない
優花 うんまだあれだけど、、でも人事の人が気に入ってくれて、たぶん決まる
裕子 へー、なんの仕事?
優花 なんか、エビの殻を剥く仕事のとこ
裕子 え、あんたそれやだって言ってなかったっけ?
優花 いや、なんかエビの殻の部署とは違う部署があるみたいで、そっちで雇ってもらえそう
裕子 なんの部署?
優花 なんか、カニの殻を剥く仕事
裕子 なにそれ
優花 なんか、料亭みたいなとこでお客さんの目の前でカニの殻を剥いてあげる仕事があるんだって。そこに配属になるかもって
裕子 あーなんかテレビで見たことある。すっごい早いやつでしょ?
優花 そう。あれやるんだって
裕子 え、あんたあんなのやったらカニ食べたくなんない?
優花 え?
裕子 だってあんな美味しいもの剥いてたら自分が食べたくなるでしょう
優花 大丈夫だよちゃんとお客さんに食べさせるから
裕子 いや別にあんたが奪って食べだすとは言ってないけど、、なんか我慢できるのかなって
優花 大丈夫じゃない? ほら、なんか揚げ物揚げてたら、それだけでお腹いっぱいになんじゃん
裕子 あー食べる前に?
優花 うん。なんかそれみたいになりそう
裕子 そうか? あれとおんなじ現象になるのか?
優花 わかんないけどなりそうじゃない? ていうかむしろ、あんなずっとカニ剥いてたらなんか気持ち悪くなってカニのこと嫌いになりそう
裕子 あーたしかに。ずっと見てたら気持ち悪くなるよね、よく見たら気持ち悪いもんね
優花 うん、なんか漢字とかもずっと見てたら気持ち悪くなんじゃん
裕子 漢字? なに漢字って
優花 だから漢字は漢字だよ。四文字熟語とかで使われる、あの漢字
裕子 え、漢字を見てたら気持ち悪くなんの?
優花 うん、ならない?
裕子 ならないよ
優花 うそ。私耳って漢字ずっと見てたら前吐きそうになったよ
裕子 、、なんで耳って漢字をずっと見てたの、、
優花 いや、なんか病院のロビーで暇だったから
裕子 それあんたが体調悪かったからじゃない? 病院でしょ?
優花 ああ、そうかも
裕子 私は大丈夫だよ。耳って漢字見てても絶対なんともならない
優花 、、なにで張り合ってんの
裕子 別に張り合ってはないけど
優花 ふーん、、、だから福井に行く
裕子 は?
優花 だから、福井に行く、就職で
裕子 え、カニの仕事で?
優花 そう
裕子 え、引っ越すの?
優花 うん、だってこっちからわざわざ通うわけには行かないでしょ
裕子 それはそうだけど、、え、もっと早く言ってよ
優花 いや、まだ100パー決まったわけじゃないから
裕子 そうだけど、、、え、住むとことか決まってんの?
優花 いや、社員寮があるらしくて、色々家具とか揃ってるから、そのまま行って大丈夫らしい
裕子 へー、、すごいね
優花 うん、、結構稼げるらしいよ
裕子 そうなんだ、、頑張りなね
優花 うん、ありがとう。お母さんもね
裕子 私はなにも頑張ることはないけど
優花 ああ、、、来ないね、お姉ちゃん達
裕子 うん、、まあまだ出航まで時間はあるから
優花 そっか、、、ちょっとその辺ウロウロしてくる
裕子 あんま遠くに行かないのよ
優花 はーい

と優花は退場。

間。

少しずつ辺りが暗くなる。
寒気を感じる裕子。
そこに、ものが現れる。

もの 久しぶり、、
裕子 、、あなた?
もの 元気してたか? 裕子も、瞳も、優花も、、、ごめんな、心配かけて、、
裕子 あなたなの?
もの (うなづく)
裕子 なに、その姿は
もの だから電話で言っただろ? 俺は10年前、ものに連れ去られたって、、、だからこんな姿になってしまった、、
裕子 あなた、、ものになったの、、?
もの (うなづく)
裕子 そんな、、私てっきり、、誰か他の女と逃げたんだとばっかり
もの だから何度も言ったじゃないか、、俺はものに連れ去られたんだよ、、
裕子 、、、ごめんなさい、、
もの 、え?
裕子 あなたのこと疑ったりして、、、本当にごめんなさい
もの いいんだよ、、瞳と優花は?
裕子 今はいないけど、すぐ来るわ
もの そうか、、あんまり時間はないんだ、、2人とも元気にしてるか?
裕子 元気にしてる、、
もの そうか、、、それなら良かった、、、そろそろ行かないと
裕子 え?
もの 時間が無いんだよ、、、お前達とずっと一緒にいたいけどそれは出来ない
裕子 なんで? またものの所に戻るの?
もの (うなづく)
裕子 なんで、、一緒に暮らせばいいじゃない?
もの それは出来ない
裕子 なんで、、
もの 俺だってお前たちと一緒に暮らしたい、、、だけど一緒に暮らすには、お前たちを連れ去る必要が出てくる
裕子 どういうこと?
もの だから、、お前たちもものにならないと、俺と一緒に暮らすことは出来ないってことだよ
裕子 そんな、、
もの 一度ものになった者は決して人間には戻れない、、辛いよ、、俺だって、、、もう行かないと
裕子 ちょっと待って、、もう少しで瞳も優花も来るから、、
もの ダメだ、、時間がない、、これ以上一緒にいると、お前もものになってしまう、、、じゃあな
裕子 ちょっと待って、、、もう会えないの?
もの すまん、、

とものは闇の中に消えていった。

裕子 ちょっと、、あなた、、あなたー!!

唐突に辺りが明るくなった。
また元の船着場に戻ったのだ。
裕子はうずくまって泣いていた。
そこに瞳が登場。

瞳  お疲れ
裕子 ああ瞳。翔君は?
瞳  なんか駐車場探してる。先行っててって、、大丈夫?
裕子 いや、さっき、、お父さんが
瞳  お父さん? お爺ちゃんがどうしたの?
裕子 違う、、私の旦那の、、さっき、、現れたの、、ものになって、、

瞳、裕子を軽く抱き、

瞳  ごめんね、、悲しかったよね、、お爺ちゃん亡くなって、、、なんか、お母さんに色々任せっきりにしてたかも、、、ごめんね、、私もちゃんとするから
裕子 、、、私、疲れてたのかな、、
瞳  、、、
裕子 でもほんとに見たのよ、、
瞳  大丈夫大丈夫、、
裕子 、、、

間。

瞳、立ち上がり、

瞳  まだ時間あるんでしょ? 船が出るまで
裕子 うんまあ
瞳  そんないつまでもしゃがんでないで
裕子 うん、、(と立ち上がる)
瞳  、、あのさ
裕子 なに
瞳  いや、ちょっと、相談があって
裕子 なに、どうしたの
瞳  いや、あのね、めちゃくちゃ言いづらいんだけど、、、なんか私、他に相手してもらってる男の人がいて
裕子 え? 、、え、どういうこと?
瞳  いや、まあその、浮気っていうか
裕子 え、あんたバカ、そんなことしてたの?
瞳  うん、ごめん、、ちょっと職場の人で、色々あって
裕子 色々あってって、、バカじゃないのあんた。翔君はどうすんの
瞳  いや、だから、まあわかんないんだけど
裕子 わかんないってあんた、、なに、どうすんの
瞳  なにが?
裕子 結婚よ。だってあんた来年でしょ?
瞳  そう、それで色々大変で
裕子 なにが
瞳  いや、その浮気相手の人が、結婚しないでって言ってきてて
裕子 ええ?
瞳  だから、私と結婚したいって
裕子 なにそれ、なにやってんのあんた
瞳  いや、私もそんな、本気で相手してなかったから、まさかそんなことになるとは思ってなくて
裕子 もう、あんたって子は、、ほんとバカなんだから、、翔君がかわいそう、、
瞳  うん、それはそうなんだけどね
裕子 え、で、どうすんの?
瞳  いやぁ、どうしたらいいんだろうね
裕子 なにそれ、無責任な
瞳  まあそうなんだけど、、だからお母さんに相談してるってのはあるんだけど
裕子 そんな私に言われても、、え、でもそれは翔君を取るんでしょ?
瞳  まあ、まあね、普通はそうなんだけど
裕子 なに、なにその言い方
瞳  いや、翔君さ、ほら、浮気してるっぽいし
裕子 ああ、、でもそれはなんか、証拠とかは掴めてないんでしょ?
瞳  まあね、あくまで勘の話なんだけど
裕子 それあんたが浮気してて後ろめたいから、勝手に翔君も浮気してるって思い込んでるだけなんじゃないの?
瞳  いや、どうなんだろ、、そうなのかな、、?
裕子 わかんないけど、、それもあるんじゃない?
瞳  、、言った方がいいかな?
裕子 え?
瞳  だから翔君に、、浮気してましたごめんなさいって
裕子 あんたそれ言ってどうすんの?
瞳  だから、でもそんな後ろめたい状況で結婚なんかできなくない?
裕子 なら最初から浮気なんかしなきゃよかったじゃん
瞳  それはそうなんだけど、、、どうしよう、、
裕子 どうしようって、、、あんたも立派な大人なんだから、なんかその辺ちゃんとしてよ
瞳  ちゃんとって、、わかってるけど、、
裕子 バカだねほんとに、、、とりあえず黙っときな
瞳  え、翔君に?
裕子 当たり前でしょ。それで婚約破棄になったらどうすんの
瞳  まあそれもねえ、あり得る話だけど
裕子 あり得るも何も、絶対そうなるよ
瞳  そうかなー
裕子 そうだよ。あんた浮気してることバラしたら全てを失うよ
瞳  浮気相手は残るよ
裕子 残ってもしょうがないでしょ
瞳  まあねー、、でもこのまま黙ってるのもなんか無理なんだよね
裕子 え?
瞳  だから、一生浮気してたこと黙って結婚生活を送るのは、、流石に無理かなって
裕子 ダメだよ墓場まで持っていきな
瞳  えー
裕子 それでその人とは縁を切りな
瞳  いやその人もぐいぐい来るから、なかなか難しいのよね
裕子 バカだねあんたも
瞳  うん、、それは自分でも重々承知してる、、

とそこに翔が登場。

翔  ああすいません、ちょっと駐車場空いてなくて
裕子 ああ全然。まだ船まで時間あるし
翔  すいません
瞳  翔君あのさ
裕子 バカ、あんた
翔  え、なんですか?
瞳  いや、その、私
裕子 瞳
瞳  浮気してて、、、ごめん、、
翔  、、え? 浮気ってあの浮気?
瞳  (うなづく)
翔  おえっ(と嗚咽を吐く)
瞳  あ、ごめんね、気持ち悪かったよね
翔  いや気持ち悪いっていうか、、え、え、浮気?
瞳  うん、職場の人と、、1年前から、、
翔  言わないでよー
瞳  え?
翔  言わなければ、、なんか上手いこと、なんか行けてたのに、、おえっ(と嗚咽を吐き)、、言わなくてもいいじゃん
瞳  まあね、、え、やっぱあれ? 無しになる?
翔  え、結婚?
瞳  うん
翔  いや無しって言うか、、え、いつからいつまで?
瞳  だから1年前から、今日(こんにち)まで
翔  今日!? え、今日もやってきたの!?
瞳  いや今日はそういうのはないけど、、相手の人がしつこくて、、まだ切れてないってこと、関係が
翔  切って? え、今すぐ切って?
瞳  うん、、切れるかな、、
翔  おえっ(と嗚咽)、、え、切れるかなって、、切るしかないよね?
瞳  うん、まあそうなんだけど、、

とそこに優花が登場。

優花 なんかそこでアイスクリーム売ってたけど食べる?
裕子 いいよ、バカじゃないの
優花 え、え、なんでそうなるの?
裕子 今なんか、あれ、大変なんだよ
優花 大変?
裕子 瞳が浮気してて、翔君が可哀想なことになってんの
翔  おえっ(嗚咽)
優花 、、、、、

優花、しばしの沈黙の後、お腹を抱えて笑い出す。

瞳  なに、あんた人の修羅場を
優花 いや、なんかおかしくって、、(翔に)やられてたんだ
翔  なに、笑うなよ
優花 (それでも笑いが止まらず)いや、ごめん、、なんか、、人間だなあ、、
瞳  なにそれ
優花 いや、別に、、あれなんだけど
瞳  ごめんね、、翔君、、私あれ、、最悪、結婚の話、無かったことになってもいいって思ってる、、、ダメだよね、こんなクズと結婚するの、、、ごめんね、、振りたければ振ってください、、遠慮なく、、お願いします、、
翔  、、、
優花 (ヘラヘラ笑いながら)どうすんの?
裕子 なにあんた、一杯ひっかけてんの?
優花 違うけど
翔  、、、切ってくれる? 浮気相手との関係、、
瞳  、、、
翔  無理なの?
瞳  でも相手がしつこくて
翔  3人で話そう、、会って、、それで関係切ってもらおう
瞳  いいの?
翔  当たり前でしょ
優花 私も行こうか?
瞳  なんで
翔  ちょっと、優花ちゃん、あんま調子乗らないで
優花 だって
瞳  ごめんなさい、、、ありがとうございます、、、ご迷惑をお掛けします
翔  うん、、、まあ人間だからね、、間違いの一つや二つ、、あるよ、、たまには、、
瞳  すいませんでした、、
翔  いや、いいけど、、

と裕子、電話が鳴ったのかスマホに出る。

裕子 はいもしもし。、、はい、、はい、、わかりましたー。、はい、船着場のところにいます。、はいお願いしますー。(と電話を切る)そろそろ来るって、船
翔  ああ、ここにいたらいいんですかね
裕子 うん、来てくれるって
翔  わかりました
裕子 翔君ごめんね、ほんとこの子はバカで
翔  いえいえ、全然、むしろ言ってくれてありがとうって感じで
裕子 そんな、、もうほんとにバカバカバカ(と瞳を叩く)
瞳  うん、ごめん、、ごめんなさい
翔  お義母さん、もう大丈夫なんで
裕子 ほんとにごめんね、、バカ(とまたひと叩きする)
瞳  すいません
裕子 お父さんに笑われちゃうよ、まったく
優花 お爺ちゃんはいつも笑ってたよ、ニコニコ
裕子 そうだけど
優花 、、ほんとに撒くの?
裕子 うん、、だって遺言だから
優花 そっか、、ほんとのお別れだね
裕子 うん、、、3年間施設でお世話になって、、その間ずっと会えなくて、、私達のことも忘れちゃって、、、それでコロナで逝っちゃって、、、なんなんだろうね、まったく、、

間。

皆しんみりする。

優花 風、、
裕子 え?
優花 潮風が耳もとで吹いて、、、なんか天使が笑ってるみたい、、
裕子 なにそれ
優花 お爺ちゃんとお婆ちゃんかな
裕子 え?
優花 お爺ちゃんとお婆ちゃんが、遊んでるんだよ、風に乗って、、

間。

裕子 くだらないよ、、まったく、、、世の中も、、、あんた達も、、、みんな、、みーんなくだらない、、

と裕子、笑い出す。

優花 どうしたの?
裕子 いや、なんかおかしくって、、(と笑う)
優花 、、、その笑顔、お爺ちゃんそっくり
裕子 ええ?

と唐突に暗転。
了。

【参考引用】
「エチカ」スピノザ
「赤とんぼ」作詞・三木露風、作曲・山田耕筰


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