見出し画像

圧迫

 しかし人生なにが起こるかわからない。ほんとうならいまごろ「東京オリンピック」が華々しく開催され、世界中からたくさんのひとが訪れるなか、マックス国威高揚、景気浮揚の頂点にいたはずなのに、突然あらわれた新型コロナウイルスのおかげで、まったく逆の現実をむかえている。

 長い自粛を終えて、やっと家からでてみたものの、なにやらずいぶんかしましい。お金援助するから旅行に行こう、やっぱり東京のひとはだめ、感染者があちこちにひろがった、またまた飲食店は10時に店閉めて、お願い。
 だめな政府と行政に翻弄されて、開けたり、閉めたり、営業時間も勝手に決められて、挙げ句の果ては、事実上の「夜は出歩くな要請」が発せられる。飲食店を営むひとは、もうたまったものではなかろう。

日々発表される新たな感染者の数。さて、きょうの東京は何人だろうと、夕方になると妙にそわそわしたりして。しかし無策のうちに、ただ人数ばかり計って、一喜一憂してみたところでなにになろうというのか。
 社員に会食を禁止したり、居酒屋に行かないように命じたりする会社があるらしい。マスク警察とならんで、こちらも戦時下の匂いがぷんぷんする。
戦時下の言説が、またぞろ大手を振るって歩きだした。
 地下鉱脈のごとく戦前から途切れることなくつづいているこのいやな雰囲気。閉ざされた島にいて、ものわかりのいい顔をしながら、心の底で「近代化」を拒んできた者たちの居直り。
 いいときはいいのだが、こうして経験したことのない非常事態となると、その心の底の闇と心性が浮かびあがってくる。口ではいいこと、正しいことを言っていると信じて、まわりにこう呼びかける。というか圧迫感をもって強要してくる。
「みんなで力を合わせ、一丸となって打ち勝とう!」
って。
 打ち勝つのが好きなのだろうけど、きっと戦争がはじまったら、まったく同じことを言うにちがいない。

 差別、排斥、分断、そして強要。正義、公共の利益という大きな旗を掲げて、個人を圧迫してくる。SNSで発言するな、集会はひらくな、飲みにいくな、政府を批判するな。ぜんぶ見ているし、通報者はあちこちにいるとでも言わんばかりの勢いだ。「イマジン」を歌っていたおっさんも、リベラル気取っていたおばさんも、気がつけば、圧迫する側にまわっている。

 そんな心性に目を向けさせてくれたことを、この状況から学ぶのも悪くない。ひょっとすると近代化と、いい意味でのグローバリゼーションを持った、これまでの前近代的な国とはちがった、新しい社会を作っていくきっかけになるかもしれない。
 そのためにも、なんとか押しつぶされないように、圧迫に抗えるように、そして少しでも感性と知性を開いていけるように、やれるところまで踏ん張ってみたいと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?