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いつから、「懐かしい」?

好きなパスタ屋さんに行った時のこと。明太子スパゲッティを待ちながら食前スープをちびちびと啜っていると、ひと組の家族連れさんが来店しました。元気にドアを開けて意気揚々と入ってきたのは、3歳くらいの男の子。店に足を踏み入れるやいなや大きな声でこう言いました。

「あーーー!! 懐かしい!! 懐かしいなぁぁ!!!」

軽やかな足取りで店の奥へ進んでいく男の子の背中を見つめながら、心の中で思わず「いやスパン短っ!」とツッコんでしまいました。というのも、男の子の年齢を勝手ながら察するに、このお店に来たのも「懐かしい」と評するほどに前の出来事ではないはず。そもそも「懐かしい」と彼が評する類の記憶は、彼の年齢であれば覚えていないはず。もし仮に「懐かしいゲージ」があるとするならば、彼のゲージは高頻度でMAXを迎えているのではないか。先週お母さんの付き添いで行ったスーパーで鈴木雅之のインストアレンジが流れていたのを覚えていて、テレビから流れる「違う違う」のフレーズを耳にする度「懐かしいなぁ!」と叫んでいるのでは。その光景を目にしたお父さんが「俺のセリフだよ」と笑みを浮かべているのでは… そう思ったのです。同時に、ふと疑問にも思いました。

「懐かしい」って、いつからなんだろう。

皆さん、ちょっと目を閉じて10秒間「懐かしい」記憶に思いを馳せてみてください。その記憶、いつのものですか? 懐かしいと思うのは、一体どのタイミングからなのだろう。どこを境界として、懐かしいゲージは溜まり始めるのだろう。

僕も「懐かしい」記憶を呼び起こしてみました。小1の時、母と電車に乗っている際に膀胱が限界に達し、終点の駅で思わずシッキング(失禁する意。造語)してしまい大号泣したこと。高3の時、早弁しようと学食から持ち込んだ油そばを休み時間内に食べきれず、机の中に器ごと押し込んだことで毛穴から醤油が滲んでいるかのような異臭を漂わせたこと。大3で友達と料理していた時に、機嫌を損ねた僕のミキサーが発煙したのを目にして大慌てだった友人の引き攣った表情。幼い頃から最近の記憶まで、ずるずると出てきました。どれもこれも、「懐かしい」。

英語で「うわ〜懐かしいね!」と言う時には、"Good old days!"(「古き良き日!」)と表現します。「古き」とまで行かずとも、心が動いた振れ幅に対応して「懐かしさ」を覚えるのかも。答えは出ていないけれど、ぼんやりとそう思います。皆さんの「懐かしい」、どんな瞬間だったでしょうか。

少年よ。君もいつか喧嘩をして、挫折をして、恋をして、大人になっていくだろう。そんな時、もちもちの麺に絡んだ明太子の食感を「懐かしく」思い出すことを願う。

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