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電車かクルマか飛行機か、はたまたフェリーか⁇ (移動手段について その1)

さて、ここで「三つ子の移動手段」について書いておきたい。東京に住む5人家族(父母&三つ子乳児)が、父側の実家(岡山県)と母側の実家(北海道:道東)のどちらかへの移動を迫られた、というのが今回の発端である。

当初、北海道よりは比較的簡単に行き来できる岡山県への移動を予定していたが、諸事情で行き先が北海道へ変更されたのだ。岡山ー東京間ならチャイルドシート付きの車で余裕を持って移動ができるのだが、北海道への移動は飛行機を使わざるを得ない。

お互いの実家が離れている我が家では、普段から飛行機が欠かせない移動手段である。ただ、当然ながら地上と上空を急激に行き来するので「気圧の変化」が発生する。分かりやすく言うと耳がキーーーンとなる。新幹線などでも同じ事が起こるけど、度合いでこちらがだいぶ上回る。大体ツバでも飲んでいれば解決するが、大人でもこれが苦手!という人は少なくない。

生まれたばかりの赤ちゃんが一緒に乗る、となると一気に話がややこしくなる。そもそも乳幼児の飛行機搭乗はタブー視されている感すらある。こないだ生まれた赤ちゃんに「さぁ、ツバ飲め」と言って飲むワケは無いし、幸い授乳などでゴクンとやったとしても耳の不快感が取れたかどうかは親には分からない。これが取れないまま過ごすのは中耳炎などの原因にもなるのであまり良くない。そして、自制の効かない子供を3人連れて、飛行機で長時間過ごすという未知なる状況。小児科医にとっても見解はまちまちで、今回に限っては主治医ともう1人の医師とで意見がまっ二つに割れてしまった。1人は「何かあったら処置しましょう」と言い、もう一方は「小児科医としてはお勧めできない。これを大丈夫という人は医者じゃない———」。この2人を討論させたら何度か夜が明けそうである。

さて、信頼すべき2人の医師から全く相反する意見を受けた時、こちらはどう判断すれば良いのだろう?ここで重要なのは、「どちらも責任能力など無い」ということ。どちらも「結論はお任せしますが、私はこう思う」としか言っていないのだ。特に病院でのやりとりでは、往々にして「最終的な責任は飽くまで患者側にある」というスタンスを強く取られる。何かにつけてやれ責任だ訴訟だの吠え散らかすモンスターペイシェントへの対策だろう。こういうとき、医者から与えられるのは「助言や解決策」ではなくただの「情報」でしかない。大きな病院になればなるほどそれは顕著に現れる。こういうとき一番有難いのはもちろん解決策だけれども、それをすっきり与えてくれる他人はほぼ居ない、と言っていい。

同じく医療関係者(看護師)で、色々な症例を見てきた奥さんは割とサバサバしていて飛行機についても楽観視していたが(と言うより、背に腹は〜という気持ちが強いようだったが…)、子供にリスクを負わせるか否か?という選択に迫られたシロウトの夫は不安を拭いきれず、飛行機移動に強く難色を示し、客室付きのフェリーで20時間〜(さらに車で約半日…)という話まで浮上して、拠り所のない議論で夫婦間は荒れに荒れた。

さて、今回この家族が迫られた選択は以下の通り。

なるべく家族の誰かへ感情移入しながら、この4択を楽しんでみていただきたい。

〈東京〜道東:大人3人、乳児3人〉

1,飛行機で移動(1時間半)

・とにかく早い&楽

・乳児を乗せることに抵抗あり。気圧変化が心配。医者の意見も両極端。

2, 東京から車で大洗〜苫小牧までフェリーで移動(19時間)。苫小牧から道東エリアまで車で8時間。

・計26時間の大旅行。

・気圧変化はほぼない。

・フェリー内は宿泊施設あり。が、それに乳児や母親が耐えられるか不明

3, 東京から青森まで新幹線(3〜4時間)。青森から苫小牧までフェリー(7時間)、苫小牧から車(9時間)。

・乗り換えが多い

・フェリーが地味に長い

・結局車も。。。

4, もういっそのこと。全部車で行ってやるか。

・車の所要時間は計算する気にもなれない。

・頭が痛くなってくる。

・少し寝よう。

もちろん最初は飛行機を選んだ。しかし医者の言葉に影響された夫はそれまで予約していた飛行機をキャンセルし「大洗コース」を選択した。「気圧」の話が頭から離れなかったのだ。生まれたばかりの子にみすみすリスクを負わせて平気な親がどこにいる。奥さんの「たぶん大丈夫じゃない?」という意見はただのいい加減な逃げ口上にしか聞こえていなかった。

とはいえ、北海道までフェリーなんて経路は今まで考えた事もないので勝手が分からない。ネットで調べればチケット予約くらいは出てくるが、本当にこれで大丈夫だろうか?産まれたての子供を連れて行くという今までにない状況に、完全に萎縮していた。ここはプロの力を借りようと、最寄りの旅行代理店を訪ねてみることにした。店舗に行き「北海道まで、飛行機を使わずに行きたい」と無茶なオーダーをしてみると、窓口の若い女性は冷や汗をたらすような表情で引き出しの奥から辞書のような時刻表を取り出し、慣れない手つきでページをめくり始めた。普段は涼しい顔でノートPCを操り、流れるような手つきで手配を進めているであろうその女性は、分厚い時刻表の砂粒のように小さな数字に目を凝らしている。いつもはすっと伸びている背筋はすっかり丸まって老女のようだ。早々に諦めて店を後にした夫は自宅のPCでフェリーを予約した。決済ボタンをクリックする手が少し震えていた。

さてフェリーは予約したが、その港までの移動手段がまた悩ましかった。勿論、車で港に行くのだが、フェリーに車を載せるわけに行かないのだ。その車はノーマルタイヤしか装備しておらず、冬の北海道などとてもじゃないが走れない。もうこの際スタッドレス履いてやろうかと調べると、ホイール込みで10万円ときた。港の駐車場はシーズンオフのため無料だったが、タダほど怖いものはない。警備員も居ないため、誰もいない空き地に車を数日間放置することになるのだ。新車などを置いておこうものなら何をされるか分からない。そこでレンタカーを借りよう、とまた調べるも港にはレンタカーの支店はなく、一番近いのは駅三つ向こうの市街地。乗り捨てした後に電車に乗る羽目になる。

もうもはや、何が一番いいのか全くわからない。どこを向いても壁に囲まれている気分だった。しばらくうなだれていると奥さんが「やっぱり飛行機にしようよ」と言い出した。さんざん引っ掻き回した末の空気を読まない発言に夫の頭で何かが切れる音がしたが、もはやそれ以外に明確な手段は残っていなかった。

大人の貧乏旅行などであれば、少々の悪環境などはどうという事もないのに。子供が絡むとこんなにも、何もできないのか。夫はこれまでに増して、酷く挫折感を覚えた。もはや息も絶え絶えになりながら、フェリー会社にキャンセルの連絡を入れ、また既にキャンセルしてしまった飛行機チケットと全く同じ便を買い直した。

決済ボタンをクリックする手の感触が、ひどく遠かった。

結局、「気圧のリスク」を取らざるを得なくなった。そもそもフェリーや電車も安全かどうかなんて分からない。経験もないのだからリスク管理もへったくれもないのだ。飛行機で北海道に到着次第、病院で三つ子を検査してもらうことにした。半ば投げやりに、それを納得した。

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父親目線での三つ子育児日記 退院後の子育て開始から北海道移住まで

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