【小説】ドラゴン銀行
我ら兄弟、ちちははは別なれども流れる血は同じ。
我ら同胞の血を溢さず、また銀に換えず。
~五竜銀行、西門の宣誓~
***
ブレスが吹きすさび、1度に3人が死んだ。
悲惨だったのがディエスというドワーフの娘で、中途半端に熱気に強かったばかりに即死することもできず、肺を焼かれて地面をのたうちまわった。
自慢の灼火色の髪も髭も見る影もなく焼かれ、なんとか柱の陰に引きずり込んだ時には、すでに息絶えていた。
五竜銀行の金庫番の1人、“鐚拾い”は、おそらくもっとも年老いたドラゴンだ。目はほとんど見えておらず、言葉らしい言葉を発する知性もない。
それでありながら、吐息で人体を焼き尽くし、突進だけで圧殺する質量と、逃げまどう敵を追い詰める狡猾さだけは備えている。
「くそったれ、こんなはずじゃなかった」
おれは柱を叩き、胸の聖印を握りしめた。神に祈ろうにも、神殿が保証してくれるのは命だけだ。
***
「じゃ、次の人。ディエス、迷宮潜り」
“酔っぱらい”が手元の名簿を読み上げると、赤毛のドワーフがおもむろに立ち上がり、握手を求めてきた。
「よろしく」
「女か?」
握手に応えて、初めてそれに気づく。
単に伸ばし放題なだけではない。手入れされ、美しく編み込まれた長い髭。
「それがどうしたの」
「若い女のドワーフってのは、髭を剃るもんだと思ってたが」
「そう? ドワーフ王法にそう書いてある? 独身女が髭を伸ばすのは生意気だって」
彼女は大して気にした風もなく、だがたしかに挑戦的な目を向けてくる。
そのあたりの議論を戦わせるつもりはない。おれは両手を挙げてその意を示す。
「仕事ができれば見た目は関係ない」
「同感。よかったわ。でも本気? ドラゴン銀行に強盗に入るなんて」
ばかばかしい、愚かな行為だと人は言うだろう。だが、おれは本気だ。
うなずいて返すと、ディエスは微笑んだ。
「いいね。すっごく刺激的」
【続く】