ジジイのアドバイス

バイトでジジイと接することが多いため,最近のトレンドは専らジジイの行動原理を追求することにある。ジジイが何を考え,何に心動かされ,何を目標に生きるのか。その真理を追究することに暇がない。

少し話が変わるが,世界中の神話や古代遺跡には,当時交流が無かったと考えられるにも関わらず,共通する部分が多いらしい。例えば,ドラゴンや竜など,大型爬虫類というのはだいたいどこの神話でも出現するのだ。このように,人類の根源的発想は共通しているという発想を集合的無意識と呼ぶ。そして,ジジイにもジジイのための集合的無意識が存在していると考えられる。

例えば,ジジイは共通してアドバイスをしたがる。実際に自分がやっていなくても,知らなくても,とにかくアドバイスをしたいのだ。これは,情報を与える側という精神的優位の確保と共に,武勇伝を話すことによるカタルシス効果が原理として考えられる。それゆえ,ジジイのアドバイスは決まって,過激なものになりやすい。

よくあるアドバイスとしては,

1.学校やめて遊びまくれ

2.ムカついたら殴れ

3. 目が合った女とヤレ

と金・暴力・セックスを体現したようなジャイアンアドバイスが横行している。私はそのようなアドバイスを受ける度に,絶対こんなジジイにはなりたくないなと勉学に磨きがかかるのである。しかし,この間出会ったジジイ,いや,ここでは敬意をこめて,じじいとよばせていただこう(じじいはジジイよりも強いのだ),はこれまでの世紀末ジジイアドバイスとは一味違った。

そのじじいがくれたアドバイスとは,「友達を大切にしろ」ということだった。

じじいは仙台で生まれて,そこで仕事をしていたらしい。そして,急遽名古屋に転勤になったが,結婚もしておらず,名古屋に知り合いもいないため,今は孤独の極みなのだそうだ。どうやら社会人になってから出会う人は友達になりにくいらしい。そして,地元の友達はそもそも遠いし,帰ったとしても妻子持ちの友達は遊びに誘い辛くなる,とのことだった。だから,いま友達がいるならしっかり楽しんで遊び,ジジイになっても気軽に会えるくらいにしとけよ,とのことだった。そう語る,じじいの瞳は,遠くの故郷を見つめているようで,美しく,そして寂しそうだった。

思い返してみれば,中学高校の時に毎日のように遊んでいた友達も,大学が離れてしまったことで,半年に一度会えるかくらいになってしまった。これで働き始めて,お互い家庭を持ったとすれば,もっと頻度は減るだろう。ポックリ死んでしまうことすらあるかもしれない。そうこう言っているうちに今の大学の友達とも離れていってしまう。

だからこそ,あのじじいは今友達と遊べられることに感謝して,後悔のないよう今を精一杯楽しめよ,と言ってくれたのだ。基本的だけに,ついつい当たり前に享受してしまうことを気づかせてくれた最高のアドバイスだった。きっとこのじじいの顔に刻まれた皺は,これまでの深い後悔の表れなのだろう。

素晴らしい金言を聞き,充実した気持ちで事務所に戻ると,ジジイが,焼酎を飲んだ後,ビンタしながらセックスすると最高という話をしていた。そして,「ヤリたいならヤれよ,後悔のしないように!!!」というアドバイスをくれた。そう語るジジイの顔は,すっっごいツルツルしていた。

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