ライトノベル?】Vオタ家政夫#53
クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~
53てぇてぇ『休むってぇ、頑張る為に必要な事なんだってぇ』
数字。それは分かりやすい、そして、優しくて残酷だ。
姉さんやツノさんが100万人いった時みんな素直に喜んだ。分かりやすい目標を越えたから。
だけど、越えられない人間からすれば冷たい壁でしかない。
そして、日々それと向かい合わないといけないVtuberにとって恐怖とも言えるだろう。
増やす為に休む。けど、休めば減る。そう考えてしまえば怖くて仕方ないだろう。
「数字は! 絶対に気になると思います! さっきより減った、なんでだろう、なんでって思うと思います! でも、これだけは知って欲しいんです! 俺は、一秒前も、一時間前も、一日前も、一か月前も、一年前も! あなたを応援することをやめていません!」
ナツさんに届いているだろうか、俺の声は。もっともっと出ろよ! 俺の声!
数字に比べれば何の具体性もない。登録者数の変動よりも不確かで見せることが出来ない心でしか! 魂でしか! 俺は伝えられない!
「俺は昔、ナツさんのツノさんに言ったことばがずっと心に残っています!」
『何があってもナツはツノの味方になってやるよ。けど、こんらんして馬鹿なことやりはじめたらパンチな。味方だから』
「って言葉が、その言葉が、心にずっと残っています! 味方をしてくれる人っててぇてぇなあ! 間違いそうになったら正してくれるっててぇてぇなあ! 言い方がぶっきらぼうだけど愛に溢れてててぇてぇなあ! そう思ってました!」
一年以上前の二人のオフコラボ晩酌配信。
ツノ様は酔っ払って弱音を吐きまくって、ナツさんが正論パンチで殴りまくっていた。
でも、最後にナツさんはそう言って、頭撫でてた。
まあ、顔と胴体しか動いてなかったから音の想像でしかなかったけど、俺の中では頭撫でててた。くそてぇてぇなあ! と思って、フロンタニクスで布教してしまってめっちゃ怒られた! そりゃそうだ! でも、それだけ、ナツさんのその言葉は俺にとって世の中捨てたもんじゃねえなあと思わされる言葉だった。
「ナツさんの言う通りVtuberは増えていて、多分、これからVtuberってもっともっと増えてくると思います! そんで、視聴者を集めるために、過激な事やルール破りする人たちも現れると思うんです! そして、それに乗っかっちゃう人も!」
色んな意味でVtuberはメリットが大きい。
そして、憧れる人間も出てくれば、甘い汁吸いたいってリキッドみたいな存在も出てくるだろう。
ネットリテラシーがどれだけちゃんとされるかなんて本気で分からない。
「正しいが必ず勝つわけではないと思います、正直! ……でも、多分、そういう人たちって、最後の時、死ぬときに何考えるかなあって! 多分、アイツはバカだった、アイツはクソだった、ゴミだったってそんな思い出ばっかりで、人を呪いながら死ぬんじゃないかって思うんです!」
嫌いな奴もクソみたいな社会も勿論俺だって考える。
でも、それだけ考えながら死ぬのは、そんなエンディングは……。
「俺はそういうのやだなーって! 俺は、皆さんがくれたあったかくてきれいな『てぇてぇ』を思い出しながら、てぇてぇ気分で終わりたいなって思うんです!」
本当に本当に本当に俺はそう思ってる。てぇてぇをくれてありがとうって!
「俺は、『てぇてぇ』をくれたあなたの事は忘れない! あなたのくれた言葉や『てぇてぇ』として言葉に出来ない気持ちをくれたあなたの事を忘れないです! だから、俺はあなたのファンをやめません! つづけつづけます!」
ん? 俺何いってんだ? いや、もういいや! 言いたいことを言う!
最後かもしれないなら! やってない後悔だけはしたくないだろ!
「やめないでください、とは言えないです! だって、最前線で戦ってる皆さんは色んなものと向かい合わなきゃいけないから! 絶対絶対大変だから! だから……ありがとうございます! 俺は、今も、感謝しています! だから、ナツさんにしあわせになってほしいです!」
言いたいことを言う! Vtuberに直接思いを伝えられる幸せなファンなんてこの世にどれだけいるだろうか! そして、引退させちゃったらマジでごめん!
「もし! 俺達ファンのいる場所がナツさんにとって安らぎの場所でないなら、居たくないところなら、そこから離れてどこか心休める所が見つかることを祈り続けます! でも、もし! 配信があなたの居場所だと、もう一つの家だと、安心できる場所だと言うなら! 帰ってきてください! 俺は! いや、俺達は何があってもあなたの味方です!」
俺の叫びは、思いは、熱は、雨にどれだけ吸われたのだろうか、流されたのだろうか、消されたのだろうか。
もう土砂降りだ。正直、ナツさんの姿が光で反射したりしてあんまよく見えてない。
いるよな? え? もしかして、いない?
そう思って一歩進んだ瞬間、白い何かが近づいてきて、俺にぶつかってきた。
ナツさんだ。
勢いあまって、思いっきり公園の柵に引っかかりながらバタバタしながら後退していって、木に背中をぶつける。
雨の音が弱まる。
ナツさんの手が俺の肩を掴んでいる。熱い。そして、震えていた。
「そんなの……! そんなの言われたらさあ! やめられないじゃない!」
「あ、いや、そういうつもりじゃ……!」
やってしまった……! 俺個人の感情で話し過ぎた。
俺は、慌ててナツさんに話しかけようとすると、ナツさんが両手で俺の胸を掴み、額を押し当てながら叫んだ。
「ありがとうしか言えないよ! あたしだって! あたしだって! 感謝してるよ! みんなに! あたしを見てくれるみんなに! うあ……あああああああああ!」
ナツさんは、こういうと不謹慎かもしれないけれど、湯気のように花のようないい香りを、熱い香りをあげながら泣いていた。
「あたし……あたし……まだやめない。いつかやめる日が来るかもしれないけれど……その時は、前を向いてやめる! やってない後悔しながらじゃなくて、やりきったってやめる! だから、まだ、あたしはやめない!」
今度はちゃんと聞こえた。ナツさんの声が。
でも、喉は大丈夫かな。それだけが心配だった。
そして、びしょ濡れになって帰ると、みんなが出迎えてくれた。
みんなやっぱりナツさんが大好きみたいで、タオルとか色々持って待ち構えていた。
そして、姉さんはスマホを持って、待ち構え、それを俺達に見せてくれた。
そこには、
『いやあ、ナツ多分トイレで寝ちゃってるね。起こしに行くべきかなあ?』
〈いや、ナツさん疲れてるっぽいし寝かせておいてもろて〉
〈ツノ様のナツトークだけでもてぇてぇ味溢れてツノ立ってます〉
ナツノオフコラボ配信のタイトルのまま喋り続けるツノ様がいた。
『じゃあ、次のナツの暴露いきまーす。今日はもう帰って来ないかもだけど、ツノが言ってたって言うなよ、お前ら?』
〈押すな押すなですね分かります〉
〈フリはこの前覚えました〉
〈おーいナツさーん!〉
『ねぇええええええ! 言わないでってぇ!』
いつまでもツノ様は喋り続けるつもりだろう。
ナツさんが、帰ってくると、俺が、なんとかすると信じて。
「……お風呂何処?」
ナツさんは顔も体もびしょびしょのまま立ち上がった。
「あっちよ。タオルも好きに使っていいわ。着替えは、ガガちゃん貸してあげてくれない?」
「おっけーでーす。まあ、あのセクハラおねーさんも体力の限界ありますから早く出てあげてくださいねー」
「じゃ、じゃあ、ノエあったかい飲み物でも用意するわ!」
「えーとさなぎは、さなぎは……」
「さなぎちゃんは、そーだと一緒に、累児さんの為に色々してあげましょ。ねえ、うてめ様」
「助かる。累児こっち来て、着替え二着あるから一先ず、ナツが出るまで身体拭いて着替えなさい」
なんで俺の見たことない、いや、懐かしいな、高校時代の服があるのか分からないが考えるのはやめよう。
ナツさんはみんなを見てちょっと笑って、
「いいとこね、ここ」
「いつでも帰ってくればいいわ。オフコラボはしんどくない限りしてもいいし」
姉さんがぼそっとそう言うと、ナツさんは少し笑って俯いて顔をあげて息を吐いて前を向いて、そして、風呂場に向かって早歩きで進み始めた。
早歩きした跡はちょっと濡れていた。
そして、
『でさー、ナツって』
『あー、すっきりしたー』
『ナツ……』
『ごめんごめん、吐いてすっきりして、ついでにお風呂入ってきたわ』
『……いやいやいや! ついでにお風呂入るなよ! オフコラボ中に! 前代未聞だわ!』
『ごめんねー、ナツの身体見たかったよね』
『うん! じゃないのよ! ねええええええ! 遅いのよ!』
『……待たせてごめんね。もう大丈夫』
『待ったわよぉおおお! おかえりぃいいいいい!』
〈おかえり!〉
〈ナツさん、お帰り〉
〈ナツノ待ってました!〉
ファンだって色々考えて、いっぱい心配して、不安になって、それでも応援してる。
それはVtuber達の抱えるしんどさの何分の一かもしれないけれど。
でも、分かってる。ファンだって。ただの数じゃないから。
ナツさんが帰ってきた。本当に帰ってきた。
ファン達のコメントは、外の雨よりも激しく、だけど、やさしく彼女に降り注いでいた。
そして、その日のその配信は伝説となり、今後の角南ナツのポジションを盤石のものにしたんじゃないだろうか。
色んな人にお世話されながら(動くなと言われ、お風呂以外全部された)俺はその配信を見終わり、眠気に襲われながらそう思った。
二人が部屋から出てくる。
「ルイジ、ありがと」
「あの、色々ごめんね。そして、ありがとう。今日ツノの部屋に泊めさせてもらいます」
二人の纏う空気はとてもてぇてぇで、俺は安心しすぎたせいかぼーっとふわふわしながら、でも、伝えなきゃと口を開いた。
「ゆっくり、おやすみなさい」
二人は、目を見合わせ笑い、俺に言ってくれた。
「「ありがとう、おやすみ」」
今日もみんなてぇてぇかったな。そう思いながら俺は、てぇてぇ思いいっぱいで眠りについた。
朝、リビングで起きたらなんか色々された形跡があるような気がするんだが、誰ですか?
本当にこの家、俺は安心できなくなってきてるんだが?
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