【ライトノベル?】Vオタ家政夫#13
13てぇてぇ『女が怖いってぇ? いやいや、男の人だって怖いんだってぇ』
【塩ノエ視点】
おいしかった。
ウテウト君のごはんはおいしかった。
噂通りだな、と思った。
**********
最近、後輩たちが調子よくてなんでだろーと思って聞いたら、どうやらうてめの家でオフコラボした後から調子が良いらしいと分かった。
んで、その話を聞かせてくれた後輩たちは、みんな、うてめの弟、通称、ウテウト君の事を話していた。ごはんがおいしいんですって。
だが、ノエはピーンときた。
それ以外に何かある、と。
ごはんおいしかったのは本当だろう。本当においしかったんだという声をしていた。聞けば分かる。
だけど、それだけじゃない。
それなら、ごはん美味しいお店で食べたら誰でもいい配信出来るってことじゃねーかってなる。
何かあるのだ。最初にうてめとコラボし、ウテウトにあったというツノに聞いてみた。
「ねえ、ツノ? ウテウト君ってどんな子?」
「うええ?! の、ノエ先輩までっ……?」
まで? やっぱり何かあるのか?
「てか、ノエ先輩久しぶりですねー。最近、あんま見なかったから心配してたんですよ」
「あー、ごめんね。ちょっと、タスクこなすのに時間かかって、配信まで手が回らんかった」
「まあ、タイミングとかありますしねー」
「まあ、いいんよ。ノエの事は。で、ツノって、確かうてめと初オフコラボしてたじゃない? ウテウト君の事も配信で褒めてたし」
「あーはいはいはい……まあ、そうですねー」
「それで、なんかみんな言ってるじゃん。うてめの弟君のごはんがおいしいって。興味あって、あと普通に今一番乗ってるうてめとオフコラボしたいし。でも、ノエはさ、あんま男の人とか得意じゃないから。ノエ大丈夫かな、と思ってね」
これは嘘じゃない。
ノエは男性がちょっと苦手だ。
多分、耐性の問題なんだろう。
例えば、ノエは塩対応キャラなので、正直カウンターで結構ひどい事を言われたりする。
けれど、中学校高校時代の女子同士のバチバチにはもう慣れたので、女性的な攻撃は、そこまでダメージがこない。
逆に、男性のは、怖い。なんだろう、怖いのだ。
アメリカのホラーと、日本のホラー的なアレだ。もう方向性が違う感じがする。
まあ、それはともかく。なので、ノエはちょっと男性が怖い。
「ああ、なるほどー。そーですねー。ルイジはー」
「ルイジ?」
「……! あ、ああ! ウテウト君の名前です! 名前!」
ツノが慌てて手をぶんぶんしてる。ん? どういうことだ? コイツ、もしかして……
「え? ツノ、もしかして、ウテウト君と付き合ってる?」
核心を突く言葉をぶっこんでみる。女は度胸だ。
「あー……はははは、付き合って、ないんですよねー……」
ヤバい、ツノがしょんぼりし始めた。ヘラったツノはマジで厄介だ。
こっからやせ我慢が始まってしまうのだ、この子良い子だから『大丈夫』爆撃が始まってしまう。ひいいいい!
「そ、そうなんだ! えー、ノエだったら、ツノ付き合いたいと思うけどなー」
「違うんすよ! アイツ! Vtuberとは付き合えねえって言うんですよ! 大好きで、憧れていて、推しが飯食ってたら幸せってすっごい可愛い顔で喜ぶのに! 付き合えねえって言うんすよ! あんな……可愛い、笑顔を、見せてくれるのに……!」
え? キレてる? デレてる?
ヤバい、対処不能のパターンだ。キレデレなんてどうしたらいいんだ?
見たことねえよ。
ニヤニヤしながらキレてるんだけど!!
「えー! あー! そんな可愛いんだ、笑顔が!」
「かわいいんですよぉお」
「えー、で、ごはんも美味しくて」
「うまいんですよぉお」
「顔もイケメン?」
「普通なんですよぉお、でも、それがまた良き……!」
なんだ、めちゃめちゃ興味出て来たぞ。
ツノは良い女だ。周りが良く見えているので、結構後輩たちは彼女に相談することが多い。
そんなツノが夢中になっている男。
謎過ぎる。ウテウト。
なので、何故か順番待ちになりかけているらしいうてめとのオフコラボをうてめに持ち掛けてみた。
そしたら、すぐに返事が来た。
『弟も……! なんか……! ノエ先輩に、会いたいって……!』
怖かった。
二重の意味で怖かった。まず、うてめの声。え? ノエ、親の仇?
そのくらい、血の涙を流しながら喋っていた、見てないけど。
そして、ノエに会いたいというウテウト君。何故?
やっぱVtuber狙ってるのか?
だけど、その時のノエは、何か欲しかったんだ。
救いが。
そして、オフコラボ当日。
「おじゃましまーす☆ わあ、キミが弟君だね! やっほー!」
初のうてめ家。ドキドキする。良く考えてみれば、ノエもそこまでオフコラボした事ない。
しても、三人組とか四人組でだ。
今回は、アウェイ。いや、アウェイじゃないか。
けど、緊張感が半端ない。
「いらっしゃいませー! 高松うてめの弟、通称、ウテウトです! よろしくお願いします!」
ニコニコ笑顔のウテウト君、まあ、結構な数に本名知られているルイジ君がやってくる。
うん、普通。
なんだろう。凄く普通。人畜無害感が凄い。ただ、めっちゃ目がキラキラしてる。
「うわああ! 塩ノエさん! ありがとうございます! 今日は、姉との配信宜しくお願いします!」
圧が! 圧が、すごい!
こわい
やっぱり、怖い。
心臓がバクバク言っている。でも、大丈夫。こういう時は対処法を知っている。
この心臓バクバクのリズムを掴んで、喋りまくる。
「いやあ! 最近、うてめの家でオフコラボした子、みんな上り調子だしさー! 折角だから、あたしもあやかろうと思ってね!」
「開運スポットじゃないんですけどね」
「いーじゃん! うてめなんか今ウチでトップなんだよ! もう少しで登録者数100万に届きそうなんだよ! みんなもどんどん伸ばしていってさあ! すっごいよ!」
うてめにめっちゃ話しかけると、ウテウト君は急に黙って、ニコニコ微笑みながら中に案内してくれた。え!? なに!?
もう訳が分からなくなっていたノエは、一生懸命うてめに話しかけ続けた。
初オフコラボで先輩に迷惑かけた時くらいテンパって、凄い勢いで喋ってしまっていた。
けど、うてめは、それを全部微笑みながら聞いてくれた。
最近のうてめには余裕がある感じがした。みんなにはない余裕が。
事務所の仲間、と言っても、当然ライバルでもある。
仕事が振るわなければ、待遇も多少変わるだろうし、クビだってある。
だから、なんというかピリつきがみんなにある。
仲良いんだけど、ちょっと探りを入れてる感じ。それを自分にも相手にも感じてしまう。ノエは、まあ、その辺はもう悟ってる。自分の位置を理解している。
でも、特に若い子は負けないぞオーラが凄かったりする。
うてめは、そのピリつきが外に向いていた。
【フロンタニクス】の引田ピカタ。あの子をめちゃくちゃライバル視してた。
だから、うてめは、その雰囲気と、ピカタを越えようとする意識の高さで、ちょっと近寄りがたい存在だった。
そんなうてめのこの余裕はなんなのか。自信に満ち溢れた姿は。
何も怖くないという全能感? そういうのはなんだ?
こちらを真っ直ぐ見ていてくれたうてめの視線が奥にズレて、笑う。
あ、かわいい……。
無敵のアイドルスマイルってこういうのだろうか。
最高の笑顔が向けられていた。
その先にいたのは、
「はい、おまたせしました」
ウテウト君だった。料理を両手一杯に持った。
やっぱりこの子には何かあるのだ。
じっと見ているとウテウト君が困ったように笑う。
ヤバい、見られた。いや、何もヤバくはないんだけど。
「キター! ウテウトフード! おいしそー!」
「えーと、今日はですね、豆腐ステーキと、温野菜サラダ、べジブロススープです」
「やったー! いただきまーす!」
誤魔化すように視線をテーブルにうつす。
そこにあるのは、噂通りおいしそうなごはんが……いっぱい。
「いやー、いっぱいだねー! どっから食べようかなー! 悩むなー!」
両サイドの二人の様子を見ながら、ちょっとずつ食べる。
おいしい、けど、あんま食べたくない。おいしいから。
それを誤魔化す為にいっぱい喋る。ちょっと食べては感想、ちょっと食べては感想。
けれど、
「ノエさん、めっちゃトーク好きなんでずっと聞いていたいですけど、ごはん、食べて下さいね。このあと、配信もありますし」
「あ、え、うん……」
食べたくない。いっぱいは食べたくないんだ。ごめん、ウテウト君。
「あの、余計なお世話かもですが、今日のメニューは低カロリー食になっているので、遠慮なく食べてもらえたら……」
え?
「俺としては、太ってはいないと思いますが、美味しく遠慮なく食べてもらって、元気にいつもの大好きなノエさんの配信見せてもらいたいので……あの、一応、レシピなんですがカロリー量も書いてありますので」
ウテウト君の差し出したレシピを見ると、そこにはウテウト君の字であろう男の子っぽい字で書かれた手書きのレシピ。
これでカロリーがおさえられます、とか、これはダイエット中にとるべき栄養素とか、書いてくれている。なんか、かわいいうさぎの絵と一緒に。
うさぎ、かわいい。
うさぎは好きだ。多分、なんかで喋ったな。自分でも覚えてないけど。覚えてないのに。覚えてるんだ。この子は。覚えてくれてるんだ、ノエを……。
ウテウト君を見ると、やっぱり困ったように笑っていた。
あ……。
もしかして、ウテウト君は、最初に会った時に、勢いよく挨拶して、ノエが引いてしまったのを気にしてくれているんだろうか。
さっきから、凄く静かだ。でも、ずーんって落ち込んでる感じじゃなくて、ずっと微笑んでくれている。
おなかのどっかがきゅってした。まだ、食べていいんだって。
大丈夫なんだって。
ノエは、なんか妙におなかが空いた気がしたから、器を持って一気に食べる。
決して、目がうるうるしてたからではない。
ではないが、なんとなく、ほんと、なんとなくだけど、ウテウト君に背を向けた。
うてめと目が合う。うてめが微笑んでいる。
なんだよ、こっち見るな!
あるだろ、なんか、意味もなくわーって、泣けてきちゃう時って! 女には!
「あ、あの、よく噛んで食べてくださいね」
「……ぅん」
よく噛んで食べる。大事だもんね。よく噛んで食べるの。大事だもん。
「ゆっくり味わって食べてもらえると嬉しいです」
「……ぅん」
ゆっくり味わって食べるよ。嬉しいよね。ゆっくり味わって。嬉しいもん。
見ることが出来ない後ろにいる男の人はこわくなかった。
なんか、へんな、人だった。
そっと背中を支えてくれてるような感じで、なんか、へんな感じだった。
ご飯が終わって、配信は始めるまでちょっと時間がかかった。
ごめんね、うてめ。落ち着くまで待ってもらって。
でも、良い配信にしたいんだ。
だって、おなかいっぱいなんだ。元気なんだ。
それに、
「配信、楽しみです」
ゆっくり優しく、言ってくれたんだ背中越しに。
楽しませきゃ、いやだもん。
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