【ライトノベル?】Vオタ家政夫#34
クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~
34てぇてぇ『未来ってぇ、つくるもんなんだってぇ』
【天堂累児視点】
「うし! さて、やるか……!」
俺は、今、ゴチャゴチャ……いや、はっきり言おう汚部屋を極めていたそーだ家に来ていた。
「本当にすみません……天堂さん」
「いーのいーの、コイツに借り返すだけだから」
「そうそう! さっさと働いてくださいよ、先輩」
申し訳なさそうに謝るそーだとは対照的に偉そうに俺を煽るガガ。
俺は今、そーだ家に掃除諸々をしに来ていた。
ガガに頼まれたのだ。
『借りを返して欲しいんですよね~。なので、そーだの家の掃除手伝ってくれません?』
男が女性の部屋の掃除ってどうなんだって思う。
思うが、強引に連れて来られた。
そーだは、
『あの……天堂さんだったら……平気です……』
と、羞恥心丸出しの真っ赤な顔で言われた。あと、
『それに、出来れば、天堂さんが一緒に居てくれた方が……色々、思い出しちゃう部屋なので……』
部屋は心を映すなんて言う。
汚いから心が汚いってわけじゃなくて、スペースがない。つまり、余裕がない、もしくは、余裕をなくして心を亡くしたいって事は一般的にある。
だから、ウチは姉さんが少しでもそうならないよう、出来るだけスペースを作り、姉さんがゆとりを持って暮らせるようにしている。
ただ、姉さんが自分の部屋を掃除出来るようになってほしい。そこも俺にさせる。
そして、俺とのツーショット写真の壁とか姉弟愛を描いた漫画や小説が山ほどあるのは、マジで恐怖だ。あと、下着を宝さがしみたいに隠してるのやめて欲しい。
ちょっと最近、姉の奇行が心配な弟です。
まあ、それはさておき。
そーだの部屋は、ぐちゃぐちゃだった。
それだけ追い詰められていたのだろう。
当時の事を思い出せば、また、辛くなるかもしれない。
それが、助けにきた俺が居ることで軽減するならお安い御用だ。
「じゃあ、やるか!」
「はい」
「がんばってー!」
「ガガ、お前もやれよ」
「あたしは、応援係です」
「だ、だめだよ! 下着とかそういうの一緒に片付けるっていってくれたじゃない!」
女子とーーく。
俺は、心を無にする。
言っておく。俺は男だし、恋愛感情とかエロい気持ちがないわけではない。
ただ、Vtuberに対しては、元気に配信してくれよな、という気持ちが勝るだけだ。
だから、その、あれなわけだ。
「あー! 先輩、顔真っ赤じゃん! なになにー、ちょっと意識してんじゃないの?」
「うるせ」
「え……てんどうさん?」
「ごめんごめん! 大丈夫! 俺はマジで片付けてほしいと言われたところまでしかやらないから!」
「いや、もし、その……」
そーだが顔を赤らめているがごにょごにょ過ぎて聞こえない。
なんか、地雷踏んでライン越えしそうなので、俺はかき消さんばかりの声で気合を入れる。
「よし! 台所は俺にまかせろ! さあ、やろうぜ!」
俺はまず台所周りを手掛けていく。汚れた食器とかはないが、放置しておけば、埃や汚れは溜まっていく。
「綺麗にしてやるからな」
俺は、一つ一つ丁寧に磨き上げていく。
あれから、色々あった。
マジで色々。
まず、俺は当然怒られた。ただ、そーだが説明してくれた事もあり、簡単な注意で済んだ。
だが、それだけでは俺の気が済まなかった。
Vtuber好きだと公言している人間が他人様に迷惑を掛けた。
『これだからVtuber好きなヤツは』とか言われたら、本当に申し訳ない。
それに、Vtuberの住所を聞いてしまった。
勿論、助けたかったという思いはあるが、俺の気持ちの問題だ。
なので、俺は暫くV断ちをした。
【ワルプルギス】の社長からの依頼と、姉さんの配信(チェックや反省会用、つまりはお仕事)以外は見ないようにした。
結果、俺は激やせした。
自分でも驚いたが、自分にとってVtuberのない生活がここまで考えられないものになってしまったのかと驚いた。
姉さんは、ほぼ自分の配信だけを見ている事が嬉しかったのと、俺が痩せていくので複雑な表情をしていた。
ああ、そうそう。
あの日のそーだの配信は、また事故っていた。
音声が切れていなかったせいで、河原から叫ぶ俺の声が入っていたらしい。優秀なリスナーの力により、その台詞の一言一句が解明された。
そして、後日、そーだが、事情を説明すると、あのうてめ様がゲリラ配信をしたことや【ワルプルギス】のVtuber達がこぞって続いていた事、その他色んな噂が交じり合って、あの声はウテウトだったのではないかとなった。なんでだよ。
そして、ウテウトはVtuberファンの鑑と崇め立てられるようになった。
バレが怖くて否定も出来ないし、姉さんは満足げで否定したがらないし、ウテウトの株だけが上がりまくっていた。
そして、もっと色々あったのが、【フロンタニクス】だ。
まず、リキッドが捕まった。
未成年を強姦した罪に問われているらしい。
リキッドの女癖はめちゃくちゃだった。
そーだを含めた何人ものタレントと付き合っていたらしいし、ファンも喰いまくっていたらしい。
勿論、向こうが喜んでそういう関係になることもあったそうだが、時に無理やり迫ったこともあったようだ。
その無理矢理迫った一人が、ややこしい事に、リキッドと関係を持っていたフロのタレントの妹だったそうだ。
何となくリキッドの女癖の悪さを姉から聞いて忠告されていた彼女は、そーだの配信を見て妄想に近い想像をしてしまったらしい。
もしかしたら、そーだもそうなんじゃないかと。声を上げられないんじゃないかと。
そして、怖くなった彼女は、家族に相談し、警察に連絡をとった。
そして、その後、リキッドは警察からかかってきた電話にブチギレて、叫び散らかしていたのを、配信切り忘れの事故で、自白する結果になってしまった。
これによって、俺が懸念していた世間のVtuberへのイメージ、それがとてつもなく悪くなってしまった。
さらに、【フロンタニクス】の社長がやらかした。
リキッドの悪行から、芋づる式に【フロンタニクス】の社長が性的強要を行っていたことが明らかになり、辞職、そして、警察にご厄介になることがニュースになった。
社員やタレント達に味方する者はおらず、徹底的に証拠が見つかったらしい。
久しぶりに見た社長は画面の中で、フロンタニクスの中から出てくる。いや、フロンタニクスから追い出されていた。
この二つの出来事により、Vtuberのイメージは最悪になってしまった。
だが、それも思わぬ形で軽減される。
それはある日のツブヤイッターの呟きだった。
『昨日○○で急に苦しくなって倒れ込んでたら救急車を呼んでくれて、しかも、ずっと励ましてくれて……名前聞くと、ウテウトと。もしご覧になっていたらいいなと思い呟きます。ウテウトさんありがとうございました。』
ちなみに、俺ではない。誰かがそう名乗ったようだ。
そして、ウテウトの名はてめーらに見つけられる。
『ウテウトは私達の間では有名な名前なんですが……このVtuberの弟さんの呼び名です』
『リプライありがとうございます。添付された画像の女性のTシャツ着ていました。ウテウトさんにもし連絡できるようであれば』
改めて言う。俺ではない。どこかのてめーらがウテウトと名乗ったようだ。
ただ、これが思わぬ広がりを見せ、ウテウトがその日トレンドに上がり、次の日からウテウト名義の募金や、ウテウ徒と名乗る人たちが街の美化活動なんかを始めたりしたのだ。
それによって『ウテウト』の名が一人歩きすると同時に、そーだの出来事が取り上げられ、Vtuberに注目が集まり、VtuberやVtuberファンが全て悪い存在ではない。
てぇてぇ、素晴らしい存在もいるのだと広まったのだ。
実際、慈善活動に協力していたりするVtuberだっている。
ただ、知られていないだけなのだ。声が届いてないだけ。
だが、誰かが声を上げ、何故かウテウトと名乗り、みんなが気づき始め、VtuberやVtuberファンの声に耳を傾けてくれただけだ。
Vtuberは頑張っていると。
謎のウテウトブームにより、Vtuberのイメージは回復した。
そして、ブームとは早いもので、一瞬で去って行った。
今は、穏やかなものだ。
「おーい、台所綺麗にしたぞ。冷蔵庫の中は、全部捨てるからな」
「あ、はい」
「先輩、はやっ!」
「あとは、どうしようか……マズいよな。リビング、トイレ、風呂とかだもんな」
「あ、先輩フロやっといてくださーい」
「ちょっと! くうちゃん!」
「今はガガね。いいじゃん、どうせ暫く使ってなかったんだし」
「ま、まあ、そっか……じゃ、じゃあ、お願いします」
「わ、わかった」
そう、そーだは、ガガの家で暫く暮らしていた。
ガガの家は広かった。本人曰く、
『彼氏、とか……? 出来た時の為に広めに借りたんですけどねー。暫く、靡く気配ないし、そーだと同棲しますわー』
というわけで、少しの間二人で暮らしていたのだが、いよいよルームシェアを本格的にすることを決めたようで、今回、ここを引き渡す為に、掃除をしにきたわけだ。
ちなみに、社長のいなくなった【フロンタニクス】だったが、社長がアレだったので、逆に社員は能力的には高い人たちだった。そして、タレントも俺が知る限り粒ぞろいだ。
なので、【ワルプルギス】への吸収合併、というか、拾ってあげる形となった。
これ自体をストーリーに組み込んだ事で得られる儲けも勿論視野に入れてだ。
何故知ってるか?
俺が社長に進言したからだ。そのストーリーてぇてぇですよと。
そして、そーだは【ワルプルギス】所属予定だ。闇堕ちからの復活と言う筋書きを作って。
とはいえ、敵は多いだろう。
リキッドではないが、過去はどうしても存在してしまうから。
俺は無心でバスタブを磨く。
ついてしまった傷は完全に消えることはない。
だから、その傷を抱えて、新しい未来をきずいていくしかない。
だって、魂は誰にだって一つなんだから。
「フロ終わったー」
「天堂さん、すごいです」
「先輩、すごいすごーい。あ、じゃあ、ご褒美にこれどうぞ」
ガガが俺に何かを投げてくる。
「くうちゃ……じゃない、ガガちゃん、それっ、はっ……」
そーだが何か言って手を伸ばすが届かず俺の元に。
「これ、は……おまっ……!」
それは、真っ赤な布だった。スケスケの……。
「そーだのしょうぶした……」
「わーわーわー! 違うんです! 天堂さん! 大丈夫です! 履いてないですからっ!!」
「そうなんだー。ま、今後勝負する時がくるといいねー」
にやにやそんな事をいうガガをよそに、俺は、慌てて手を放そうとするが、しょうぶした……げふんげふんと言うくらいだ。高いのだろう。そして、汚いもののようにつまんではそーだが傷つく。ひたすら、無心で握り、そーだに差し出す。
「わきゃあああああああ~、ご、ごめんなさい~」
そーだが俺からしょうぶした……げふんげふんをひったくりソレより真っ赤な顔で俯いている。そして、湯気が立ってるんじゃないかと言う程赤い顔でガガを睨む。
いや、俺も言いたいことはあるぞ。
「「ガガ(くうちゃん)!」」
「わあああああ! ちょ、ちょっと待って! これを、これをご覧ください!」
近寄る俺達の前に差し出したのは一枚の写真だった。
「これ、って……」
「あ……これ……わたしの、たいせつな思い出です……」
それは、人によってはとるに足らない一日。
通過点でしかないかもしれない日。
二人のVtuberとしての名前が決まった日。二人が生まれた日。
その日、俺は、二人にそれを告げた。
三人で泣いた。
そして、何故か撮った記念写真。
俺はフロンタニクスを追放され、
ガガは転生し、
そーだは闇堕ちをしてしまった。
過去は、消せない。かえられない。
だから、また、こんな未来を新しく作っていくしかない。
涙まみれの笑顔の三人が写った写真。
それを大事に胸に抱く楚々原そーだと俺達は、グッチャグチャの部屋を片付け、思い出と傷を抱えながら、新しい未来に向かい始めた。