【ライトノベル?】Vオタ家政夫#41

クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~

41てぇてぇ『不自由ってぇ、自由よりしあわせかもしれないんだってぇ』

「さて、これからの事なんですが」
「うん」

 泣き止んだマネージャーは、化粧を直したいからちょっと待ってと言われ面倒くさかったけど待った。
 そして、何事もなかったかのように目を腫らしたマネージャーが話し始める。

「ピカタさんには長く配信を続けるためにも健康的な生活をしていただきたいと思います」
「はあ」
「で、ピカタさんの話と様子を察するに、天堂君の力は必要だと思います」
「え? いや、あの、え?」
「なので。一先ず、天堂君に、協力を頼んでみましょう。大丈夫です。彼を釣る報酬はいくらでも思いつきます」

 そう言ってマネージャーは、ワタシの意見を聞かずに、ルイジ君に電話し、交渉し取り付けていた。マネージャーが提案した色んな報酬も凄かったが、最初から、

『ピカタさんの力になれるなら喜んで!』

 とか言ってた。ふーん。

 そして、ワタシとマネージャーの二人三脚プラスルイジ君の日々が始まり、あっという間にワタシは【フロンタニクス】のトップに立っていた。
 ルイジは、ワタシが会社に来る時にはサンドイッチを用意してくれ、持って帰る用のごはんもくれた。お金は多めに払っていたんだけど、全部ワタシへのスパチャやグッズに消えてるらしくて、これがマッチポンプか、と思ってしまった。
 そして、定期的に、マネージャーとルイジがウチに来て、ウチを掃除していった。
 マネージャーとワタシが、お金を払うが、やっぱりワタシへのスパチャやグッズに使うらしい。得しかないんだが。
 そして、

「ルイジ、ウチやばい」
「もう! なんでそんなすぐに汚せるんだよ!」
「毎日すごい配信してるから」
「それ言われたらなんも言えない!」

 ルイジとは仲良くなった。
 マネージャーも、暫く同行してたけど、最近は自分の恋愛がいい感じらしいし、ルイジなら大丈夫だろうと来なくなった。
 むしろ、うまくやれよ、応援してるといわれた。
 うまくやる?
 まあ、ルイジはいい。すごく楽。一緒にいて面倒じゃない。たのしい。
 あと、なんでもやってくれる。お風呂も沸かしてくれるし、ごはんも用意してくれるし、掃除もしてくれる。
 お金は、かなり渡しているんだけど、結局ワタシの所に返ってくるか、他のVtuberへの応援に消えてるらしい。ルイジはおもしろい。

 ルイジの家にも行くようになった。ごはんの材料を持って。
 ルイジは、怒るけど、それでも、入れてくれて、ごはんを作ってくれた。
 でも、食べたら帰される。もっとお話ししたいのに。

 楽しかった。他人と過ごす時間が楽しいなんて。
 そうなると、ワタシは、Vtuberとしての、ピカタとしての時間ももっともっと楽しくなった。
 みんなとの時間が楽しくなった。
 みんながくれる色んなコメントが、ワタシを新しい世界へと連れて行ってくれた。
 ルイジが、ワタシにしてくれたように。

 けど、それは突然終わりを告げる。
 ルイジがクビになった。
 いきなり。

 は?

 聞けば、ワタシがルイジの部屋に行ってたかららしい。

 は?

 なんでそれでルイジが?
 クビになるならワタシもでしょ?

 ワタシは頭の中が真っ白になった。

 そして、気付けば、「辞める」と宣言していた。

 会社は大騒ぎになり、社長がやってきた。

「お前、辞めるって本気か!?」
「ええ、やめます」
「ピ、ピカタ……!」

 社長は、言ってることの意味が信じられない、理解しがたいみたいな顔をしていたが、ワタシには社長のあまりにも横暴な行動が信じられなかった。

「やめるってどういうことだ?」
「……? そのままの意味です。この会社をやめます。ご迷惑をおかけしましたし……」
「め、迷惑? 迷惑なんて……」
「でも、彼は、ルイジは、ワタシとの一件でクビになったんですよね? では、ワタシにも責任が」
「アイツがお前に無理やり言う事を聞かせていたんだろう! なら」
「いえ、ワタシが彼の所に無理やり行っていただけです。謝罪動画ももう作っています。一応ですが、脱退までのスケジュールもいくつか用意してあります」

 紙の束を渡す。引退のタイミングに合わせたプランをいくつも作った。
 辞めることに文句を言わせないために。

「何故だ!? お前は、これから……これからなんだぞ!」
「彼が居ない以上、これ以上は行けません。それだけ彼はワタシには必要だった」

 これは言いすぎかもしれない。でも、ワタシのモチベーションの一つが確実に奪われた。

「そこまで惚れていたのか? アイツに?」
「ほれ……? ほれ? 惚れ? え……?」

 社長の言っていることが分からなかった。
 ほれている?
 ほれているってなんだっけ?
 好き?
 ああ、好きとか愛してるってことか。
 え?

 誰が、誰を?

 え?

 ワタシはその瞬間、色んな思い出が自分の中で駆け巡るのを感じ、身体がめちゃくちゃ熱くなって今までにないグルグルが暴れるのを感じた。

 すすすすすすすすすすすき……かも。ワタシ、ルイジのことを?

「ま、まさか、身体だけの関係!?」

 社長がそんな事を言っている。
 身体の関係、それって、キスとか?
 きききききききす? ワタシとルイジが? え? イイ……じゃなくて!

「……! せ、セクハラですよ。そんなわけないでしょ。彼とワタシが……!」

 顔が熱い顔が熱い顔が熱い。
 ああ、そうか、そうだったんだ。理解した。ワタシは、好きだったんだ。
 彼の事が。

 そんな事を考えてると突然社長が、ワタシの肩を持ち、押し倒す。

「好きなのか!? アイツが……アイツよりも私の方が君にふさわしいぞ! カネもある! 仕事も出来る! 顔もヤツより何倍もいいだろう! だから!」

 社長が迫ってくる。怖い。
 ルイジ! ルイジに助けてほしい! ルイジに会いたい!
 ルイジ! ワタシ、ルイジが大好きだから!? いやいやいやいやいや!

「しゃ、社長! 何をやっているんですか!?」

 何人かの社員さんが飛び込んできてワタシを助けてくれた。
 そして、社長を羽交い絞めにし、立ち上がらせる。
 社長はハッと我に返ったようで、言い訳がましく社員さん達に向かって口を開く。

「ち、違う! これは、彼女を説得しようと……!」

 もう、心は決まった。

「……辞めます。詳しくはまた何かしらの方法でお話させてください」

 会いたくない。直接はもう話したくない。そういう気持ちを込めて社長に言い放つと社長はワタシを睨みながら。

「アイツとは同じ部屋で過ごしていたのにか?」

 そう言った。

 社長は何も分かってない。ルイジは、ただただワタシの為に、ワタシがVtuberとして元気に自由に活動できるように応援してくれただけなのに。

「……彼を馬鹿にしないで」

 それだけ言ってワタシは頭を下げる。

「今までお世話になりました」

 そう告げて事務所を去ろうとしたが、思い出したことがあってふと足を止めて振り返る。

「ぴ、ピカタ! やっぱり……」

 この人は何を言ってるんだ? そんなことありえない。

「ああ、あと、多分、5、6人後輩の子達もやめると思います。天堂君やめちゃったから」
「はああああああ!?」

 この人は何も知らない。
 Vtuberが何に不自由してて、どうすればもっと頑張って楽しく自由に笑えるかなんて。

 事務所を出た所で、ワタシは出会った。彼女に。

「マネージャー」

 彼女は、ここに居ないはずだった。

 だって、新婚旅行でお休み中だったから。
 ただ、辞める意志だけをメッセージで伝えていた。ごめんなさいと一緒に。
 なんで、来たのか。いや、来させてしまったのか。ワタシが。

「ごめんなさい。そして、今までありがとう」

 精一杯の気持ちを込めて告げる。
 すると、マネージャーは笑って、

「はい。今までありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします」

 そう、言った。

「え?」
「はい、じゃあ、今後の予定を決めましょう。転生しますか? まあ、他の道を選ぶとしても、私は辞めますけどね。この会社」
「え? いや、あの……」
「どうするつもりです?」
「……一緒に来てくれるの?」
「ええ。まあ! ウチは旦那の稼ぎがいいんで、好き勝手やっても問題ないですから! はっはっは!」

 強くなったなあ、ワタシのマネージャーは。

「ま、私くらいじゃないとアナタのマネージメントは出来ないですよ。天堂君だって押し切られる位ですから」

 その通り。ワタシのマネージャーはこの人しかいない。
 この人がいてくれるならワタシはまだ続けられる。

「続ける。Vtuber。一緒に来て」
「勿論です! さて、では、どこに転生するかですが、【ワルプルギス】を提案します」
「【ワルプルギス】? 大手だけど、なんでまた?」
「一つは、前に、天堂君が言ってたんです。今、一番注目の事務所は【ワルプルギス】だって。あそこは、タレントの使い方がうまくて、ちゃんと理解してるって。もし、また天堂君がVtuber事務所で働くならそこかなあって」
「【ワルプルギス】に行くわ」
「ふふふ。了解しました。じゃあ、ちょっと作戦会議しましょっか。これからの姫野桃さんについて」
「違うわよ」
「え?」
「これからの姫野桃と、浦井望について、でしょ?」
「……名前、ちゃんと覚えてくれてたんですね」
「ワタシのことなんだと思ってるの?」
「天堂累児、しか覚えていないのかと」
「ば……! そんなわけないでしょ!」
「はいはい、天堂君とも連絡とってみましょうかね。ももちゃんが寂しくなって泣いちゃう前に」
「もぉおおおおお!」

 マネージャーめんどくさい。でも、いやじゃない。
 その後、ルイジに連絡して、ルイジはもうマネージャー業はやらないことを知る。
 けれど、ワタシのことは応援してるし、【ワルプルギス】に入るのは大歓迎と言ってくれた。

 でも、その為にはまず【フロンタニクス】でやるべきことをやって、【ワルプルギス】に入る為の色々、そして、それまで生活をしなきゃいけない。

 めんどくさい。

 でも、そのめんどくさいの先にいっぱいのしあわせがあるって知ったから。
 ルイジが教えてくれたから、ワタシはめんどくさいと戦っていく。

 ようやく気付いた大好きなルイジと、マネージャーと一緒にいたいから。

 そして、

「ルイジ、お腹空いた」
「はいよ、ベーコンレタスサンド」

 美味しくするために不揃いなタマゴとレタスと焦げたベーコン。
 
 おなかが空くのはめんどくさい、はずだった。

 でも、その先にしあわせがあるから。

 お腹が空くまでワタシは、尾根マリネはがんばる。

 現実も、がんばる。

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