【ライトノベル?】Vオタ家政夫#20

クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~

20てぇてぇ『初めてってぇ、いつだって緊張するんだってぇ』

『あ、え、あ、……あの、あ、あ……うぅ』
〈マジ?〉
〈泣き出した?〉
〈がんばれー〉
〈おいおい〉

 初のライブ配信で、ほとんど何も喋れず、泣き出したVtuber。
 それが十川さなぎ。

 良くも悪くも話題にはなった。事故や炎上は注目を浴びるから。

 だが、運営側からすると、話は変わる。

 十川さなぎのそれは台本通りではなく、本気の泣きだったらしく、その後はずっと謝り続け、どうにもならなくなったらしい。

 社長、社員がケアをし、ライブ配信を促してみたが、本人はこれ以上迷惑をかけるわけにはと拒否。
 ただ、それがまた今の十川さなぎの注目度を高めている。

 どうしたものかとなっていた時に、話題に出たのが俺だったらしい。
 そこで、【ワルプルギス】の社長に姉さんを通じて呼び出された。

『うてめの弟君とはいえ、部外者にこんなことを頼むのもおかしな話なんだけど、ちょっとさなぎに会ってみるだけ会ってみて意見もらえないかしら』
『はい、よろこんで!』
『そうよね、急にこんなこと頼まれても……って、え? い、いいの?』
『はい! 是非!』

 俺が十川さなぎの力になれるのならと直ぐに返事をしたのには理由がある。

 一つは、彼女の声。
 とても澄んだ声で、今まで聞いたVの声でも一番と言っていいくらい澄み切った声。
 姉さんは、磨かれた芯の強い綺麗さだが、彼女の声は、大自然で育まれたような澄んだ美しい声。
 リスナーもそれに気付いている人は多いだろう。だから、注目されている。

 そして、彼女は、最初から最後まで丁寧に伝えようとしていた。
 まともに聞こえた言葉は、最初の自己紹介と、『コメントありがとうございます』位だった。
 ただ、その『ありがとうございます』には本当に心がこもっていた。

 『仕事』する人間としてはあの配信は失敗だ。
 それでも彼女は、何かを持っている気がした。
 まだ、彼女を潰してほしくない。
 俺は、新たなVtuberの誕生を少しでも手伝えるならと引き受けた。

 そして、今、俺は、【ワルプルギス】の社員やタレントが何人か集まった食事会に参加させてもらっている。
 とはいえ、流石に部外者。
 俺の事を知っている人以外は、社長の補佐としての社員数名が来るって感じだったんだけど。

「はい、遠慮なく食べなよ☆」
「こ、これも、おいしいわよ」

 ツノさんとノエさんが俺のさらに料理をよそってくれる。
 知り合いめっちゃいるわ。

 それもそうだ。ウチでもオフコラボがアホみたいに行われているんだ。
 知っているタレントだけってなってもめっちゃいる。
 まあ、ただ、ある程度人が居た方が紛れることが出来て助かる。

 今日のこの会は、『新人歓迎会』という事で社長が、企画したものという事になっている。
 まあ、実際に歓迎会ではあるのだが、俺は、一応、【ワルプルギス】の新入社員という設定で入り込んでいる。

 そして、十川さなぎと話をし、少しでも解決の糸口を見つける事。

 だけど、中々難しそうだ。
 お店の前で出会ったファーストコンタクトでは、

『あ、はじめまして、天堂累児と申します』
『あ、あ、え、あ……!』

 ほぼ、『あ』、と、『え』しか言わず、俯いてしまった。
 今も彼女は、隅っこでちびちびとリンゴジュースを飲んでいる。

「ちょっと、ツノさん、ノエさん、俺は……」
「わかってるわよ。さなぎでしょ」
「お願いね、ルイジにはちょっとだけ期待してるわ」

 二人の応援を受けながら、俺はその場を離れ、十川さなぎさんの前に座る。
 さなぎさんの隣には、ガガが居る。この辺りは打ち合わせ通りだ。

「おー! 新人の天堂さんじゃないっすかあ」
「どうも、新人同士仲良くしてくださいね」

 ガガが絡んでくる。この辺も作戦だ。
 さなぎさんが警戒しすぎないよう、同じ新人のガガに傍にいてもらう。

「するするー! 超仲良くしましょうねー!」

 おい、ガガ。そんなに距離感詰めてくるな。

「……!」

 どこからか殺気を感じる。
 振り返ると、こちらを見ていたツノさん達が笑っていた。けど、なんか怖かった。

「ほらー、さなぎちゃんももう挨拶した?」
「あ、う、ううん、あの、さっきはすみませんでした。あの、十川さなぎです」

 やっぱりとてもきれいな声だ。
 その天性の声だけでどきっとさせられてしまう。
 彼女の声をもっと画面の向こうで聞きたい、他の人にも聞かせたい。
 俺は、彼女の閉じてしまった扉を開くべく話しかける。

「うてめ様、好きなんですか?」
「え?」
「服装がうてめ様カラーだったので」
「あ、そ、そうなん、です……」
「俺もてめーらなんですよ」
「そ、そうなんですか」
「どういうところが好き? 俺はさ、やっぱ最近の100万人突破の時のアレは勿論なんだけど、初期の雑談で……」
「わかります! めっちゃ分かります!」

 十川さんがかなり重度のてめーらだという事は、社長から聞いていた。

 面接では、面接官を圧倒するほどの勢いでうてめについて語ったそうだ。
 そして、語り過ぎたと気づいて顔を真っ赤にし、半泣きになってしまったらしい。

 であれば、俺はついていく。俺のVtuber愛で、さなぎさんの愛に対抗する。

 そこからは、マシンガントークだった。初期のうてめ話から100万人突破までの好きなポイントを余すことなく語り続けた。
 ガガは途中でいなくなっていた。おい。

「いやー、さなぎさん相当なてめーらですね」
「いえ、天堂さんの方がすごいです。私も気づかなかったところ一杯教えてもらって。天堂さんは、よく見てますね」
「そうですか?」
「はい、色んなところに気が付く人だなって。うてめ様の話もそうですけど、飲み物頼んでくださるタイミングとか絶妙で。あの、わたし、うまく店員さん呼べない事多いから。た、たすかります」

 Vtuberの原石の喉を潰すわけにはいかないからね。

「まあ、Vの変化というか動きを一つも見逃さないぞって気持ちで見てるから、洞察力は高いかもですね」
「ふふ……凄いです。同じ新人さんなのに……それに比べて、わたしは、ダメダメでした……」

 さなぎさんはそう言うと俯いてしまう。

「天堂さん達社員の皆さんが頑張って用意してくださった場を踏みにじっちゃったんです……! あんなに何もかも準備してうまくいくよう励ましてくれたのに……」

 さなぎさんの目から涙が零れる。
 彼女は、場を用意してくれたスタッフをちゃんと見ている。
 それは当たり前の様で大切な事。
 彼女は、優しい。
 力になりたい。

「あの、どうして、Vtuberになろうと?」
「あの、お恥ずかしい話、私、学校でいじめに遭っていて、不登校になったんです。で、家で授業受けるところにかわったんですけど、両親は共働きで、一人で出来る事って本かゲームかネットしかなくて……その時に出会ったのがVtuberで。自分と同じゲームをやってて、別に凄くうまいわけじゃなくて失敗とかもして、本気で悔しがっていたりとか、雑談でファンの人とプロレス始めちゃうんですけど、それがもう楽しかったりとか、歌聞いてジーンとしたりとか……あの、向こうからしたら失礼かもしれないんですけど、勝手に友達が出来た気がして……」

 彼女の澄んだ声で語られるその話には、確かな熱があって……

「その純粋に笑って、怒って、悲しんで、その姿に、私感動しちゃって、私みたいな子でも、そうなれないかな、なりたいって思っちゃって……」

 その熱は、応援するに値するほどの熱さで……

「それで、あの、応募したんですけど……でも、全然うまくいかんくて……」
「さなぎさん」
「ひゃい! あ、あの、何か?」
「めっちゃ伝わってますよ、今のさなぎさんの気持ち」
「……え?」
「Vtuber好きなんですよね?」
「……好きです。大好きです!」
「Vtuberになりたかったんですよね?」
「なりたいです! 私もみんなに笑顔を与えられる存在に」
「めっちゃ伝わってますよ」
「……でも、私、配信で」
「じゃあ、一個アイディアがあるんですけど」

 そっと耳打ちした俺の提案に、さなぎさんは少しだけ目を見開き、そして、笑ってくれた。

 そして、十川さなぎ、二回目のライブ配信の日。
 俺は画面の向こうの彼女を待つ。

 俺の作戦はたった一つ。

『俺の声を聞いてください。画面の向こうでコメントを送り続けますから、見つけてください』

 ただ、それだけ。

 待機画面が終わり、真っ白な雪の精のような彼女が現れる。

「さあ、見つけてくださいよ『俺』を」

 俺は、画面の彼女に向けて声を飛ばし続けた。

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