♯01 時短で安全で根拠(エビデンス)のあるミルクの事前調乳(作り置き)の方法

はじめに

妊娠中、通院している病院から「ミルクは事前調乳(作り置き)が絶対オススメ!」と言われました。
しかし、ネットでミルクの事前調乳や作り置きを検索すると、「作り置きは絶対ダメ!! 私はそんな事したことありません!!!!」と、単なる体験談・個人的感想で語られてるものばかりで、困惑しました。
そこで、個人の経験則ではなく、根拠(エビデンス)を基にした事前調乳(作り置き)を調べて実践したところ、時短にも関わらず安全でしたので、その方法をご紹介します。

事前調乳(作り置き)でも問題ない根拠

厚生労働省の『乳児用調製粉乳の安全な調乳、保存及び取扱いに関するガイドライン』では、以下のように記載されています。

調乳された乳児用調製粉乳は有害細菌の増殖に理想的な条件となるため、授乳の都度、乳児用調製粉乳を調乳し、すぐに授乳することが最善である。しかし実際上の理由から、調乳した粉ミルクを事前に準備することが必要になる場合がある。(中略)事前に調乳し、後の使用まで保存しておく場合の最も安全な方法が、下記に示されている。冷蔵が不可能な場合は、後で使用するために事前調乳するのではなく、むしろ粉ミルクを新鮮なまま調乳してそれを直ちに消費するべきである。

一方、農林水産省の「赤ちゃんを守るために」では

赤ちゃんにとって栄養たっぷりのミルクは、細菌にとっても大好物!ミルクの作りおきはやめて、そのときに飲ませる分だけ作りましょう

と記載があるものの、冷蔵可能な場合については触れられていません。

つまり、粉ミルクの事前調乳(作り置き)は、冷蔵可能な場合に限れば、推奨はしていないものの、必ずしもNGではありません

菌が繁殖する温度を避けたい

事前調乳(作り置き)で避けられないのが、菌の繁殖の問題です。
農林水産省の『食品安全に関するリスクプロファイルシート(細菌)』では以下のように記載されています。

サカザキ菌の発育条件の温度域は6~45℃
発育至適条件の温度域は37~43℃

つまり、氷水を使って急速冷却を行い、菌が発生しやすい温度帯の時間を可能な限り短くする必要があります。

調乳の温度

厚生労働省の『育児用調製粉乳中のEnterobacter sakazakiiに関するQ&A』では以下のように記載されています。

2004年2月の専門家会合の報告によると、本菌は70℃以上の温度で速やかに不活化するとされています。また、社団法人日本乳業協会は、上記の報告を踏まえ、医療機関に対し育児用調製粉乳について80℃前後の熱湯による調乳、又は調乳後一旦80℃前後に一旦加熱後冷却する方法を推奨しています。

調乳は70℃『以上』が重要ですが、80℃前後の熱湯でも良いようです。

調乳は熱湯でも良いのか?

厚生労働省の『乳児用調製粉乳の安全な調乳、保存及び取扱いに関するガイドライン』の付録3では、以下のように記載されています。

「調乳時に熱湯を用いることによるビタミンレベルの低下」に関するデータによれば、ビタミンCが大きな影響を受ける唯一のビタミンであることが示された。(中略)熱湯によって調乳された後も、(試験に用いた)4種類の粉乳の内3つについては、その表示よりも高いレベルでビタミンCが含有されていた。残る検体では(中略)乳児用調製粉乳の規格で要求されるビタミンCの最小レベルよりも依然として高いものであった。

粉ミルクの製造会社では、ビタミンの損失を考慮した設定がなされており、100℃近い熱湯による調乳であっても、熱に敏感な栄養素が失われて栄養が摂れなくなることに対する懸念は少ないと考えられます。

事前調乳(作り置き)のポイント

上述のガイドラインの「3.1.3 時間をおいてからの使用のための事前調乳」では以下のように記載されています。

・洗浄し滅菌した容量 1 リットル以下のふた付きのビンか容器の中で調乳する。調乳した乳児用調製粉乳は、ふた付の容器冷蔵し、必要に応じてコップに分注することもできる。
・冷却した粉ミルクは、専用の冷蔵庫に保存する。冷蔵庫の温度は、5°C以下に設定し、毎日モニターする。
・調乳した粉ミルクは、冷蔵庫で24時間まで保存できる。

『ふた付の容器』、『5℃以下』、『24時間以内に使う』はすぐに出来そうです。また、1Lくらいの大きい容器から分注するのであれば、容器を開閉するので専用の冷蔵庫が必要になりますが、ミルクを飲ませる哺乳瓶で事前調乳(作り置き)すれば、容器を開閉しないため、冷蔵庫の片隅で問題なさそうです。

ミルクの温め直し

上述のガイドラインの「3.1.4 保存した粉ミルクの再加温」では以下のように記載されています。

・保存した粉ミルクは、必要とされる直前にのみ冷蔵庫から取り出す。
・15分を超える再加温をしない。粉ミルクが均一に加熱されるようにするため、蓋付きの広口ビン又は容器を定期的に振とうする。
・電子レンジは、加熱が不均衡で、一部に熱い部分(「ホット・スポット」)ができ、乳児の口に火傷を負わす可能性があるので、温め直しには絶対に使用してはいけない。
・乳児の口元の火傷を防止すべく、授乳温度を確認する。
・2時間以内に飲まなかった再加温した粉ミルクは、全て廃棄する。

温め直しは『飲みやすくすること』が目的であるため、以下のどちらでも良いでしょう。

ア.哺乳瓶に1回分の粉ミルク+お湯を規定量まで入れて調乳しておき、飲む直前に湯煎による温め直し
イ.哺乳瓶に1回分の粉ミルク+お湯を規定量より少ない量で調乳(濃縮ミルク)しておき、飲む直前に規定量までお湯を足す

イは、お湯を足した後、最後に人肌になるように少しだけ温度調節すれば良く、時短になるので、私はこちらの方法で作っています。

時短で安全な事前調乳(作り置き)の方法

1.哺乳瓶の洗浄と消毒、調乳時の手指消毒の徹底する
2.一度、水を沸騰させ、70℃以上のお湯を用意する
3.哺乳瓶に1回分の粉ミルク+規定量の1/3~1/2程度のお湯で調乳し、濃縮ミルクを作る(瓶の素材や気温でミルクが冷める時間が異なるため、濃縮ミルク量は適宜調整する)
4.氷水で急速冷却する(菌が発生しやすい温度帯の時間を可能な限り短く)
5.4℃程度の冷蔵庫の片隅で保存する
6.飲ませる直前に冷蔵庫から出し、規定量までお湯を注いで攪拌する
7.人肌になるように少しだけ温度調節する
8.予め3~4回ほど瓶を傾けて出る量を確認(瓶の中の空気が熱で膨張して勢いよく出るので、勢いが収まるまで)

注意:根拠(エビデンス)を基にしていますが、当方は一切の責任を負いかねます。実践する場合はあくまでも自己責任でお願いします。

まとめと考察

体験談・個人的感想で語られていることと、公的機関からの最新の情報には乖離がありました。

・授乳の都度、調乳し、すぐに授乳することが最善であるものの、粉ミルクの事前調乳(作り置き)は、冷蔵可能な場合に限れば、推奨はしていないものの、必ずしもNGではない
・100℃近い熱湯による調乳であっても、熱に敏感な栄養素が失われて栄養が摂れなくなることに対する懸念は少ない

育児に関する情報は、育児の先輩方の体験談・個人的感想だけに頼らず、公的機関の情報を確認して、最新の根拠(エビデンス)を確認してみることを心掛けたいと思いました。

引用・参考

厚生労働省Webページ 食品の安全に関するQ&A 『乳児用調製粉乳の安全な調乳、保存及び取扱いに関するガイドライン』
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/qa/070604-1.html

農林水産省 『赤ちゃんを守るために』https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/baby.html

農林水産省 『食品安全に関するリスクプロファイルシート(細菌)』https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/attach/pdf/hazard-info-6.pdf

厚生労働省Webページ 食品の安全に関するQ&A 『育児用調製粉乳中Enterobacter sakazakiiに関するQ&A』 https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/qa/050615-1.html