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ユニバーサルデザインを考える①

デザインアドバイザーというデザイナー育成サポートサービスを始めて2年ほどたちますが、いろいろな企業の方とお話をする度に「ユニバーサルデザイン」について何らかの話題になることが多く、一般企業・デザイン制作会社共に「ユニバーサルデザインについて」の勉強会のご依頼が増えています。

私の制作領域は広告コミュニケーションのため、あくまでデザイナーの視点です。まちづくり等インフラ、建築やコスチューム、または学校教育におけるユニバーサルデザインについてではありません。

今まで行った企業勉強会におけるユニバーサルデザインについてのリクエストは、おおよそ下記の二つです。

「色について」
「文字について」

ここでは色について少しだけ書いてみます。


色について

2021年1月17日のプレミアリーグ、リバプール vs. マンチェスター・ユナイテッド戦において、色覚障がいの方々から数百件の苦情が続出しました。かなり話題になったニュースなので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

マンチェスター・ユナイテッドのアウェイ用ユニホームは、黒に近いモスグリーンなのですが、色覚障がいの人々にとってはリバプールの赤色ユニホームと区別がつきづらかったということです。

実際の画像は権利があるので使用できないため、どのように見えるか下記にカラーチャートを載せます。上が正常色覚の方が見える色、下の二つがP型・D型と色覚障がいの方が見える色です。
※ネットで探すと実際の写真が見ることができます。

P型・D型の色の見え方は、「緑と赤が見分けづらい」「紫と青が見分けづらい」などが特徴です。日本人の色覚障がいの割合は、男性約5%、女性の約0.2%とのこと。

デザインの色による情報伝達はとても重要ですね。色があることで、より多くの情報をより正確により早く伝えることができるのですが、色覚障がいの方によってはこの色が分からないので困ることが起こります。

色覚の多様性は、人類の進化の結果生まれたため、色覚障がいの方への医学的な治療はできないと言われています。そのため色覚障がいの方に配慮したコミュニケーションの手段として、お互いに分かりやすい色の条件を作り、ユニバーサルデザインで社会が対応することになります。デザイナーは商品やサービスの利用者に、多様な色覚の人がいることを想定してデザインする必要がありますね。

「デザインがうまい」の意味

デザイナーがデザインを作る時、色をどう考えるのか。ひとつは企業カラーやブランドカラーを軸にします。よく企業広告にその企業のコーポレートカラーを使っているのは、視覚的に統一されたイメージがブランディングに必要なためです。そのため企業広告にそれ以外の色を使用する場合、「なぜこの色なのか」という意味が必要となります。それが正しい表現なのか、異なる色を使うことでコミュニケーションを間違える可能性があるため、デザイナーは慎重に考えます。

もうひとつはプロモーションやキャンペーンなど、企画内容からの配色です。夏キャンペーンで青が使われていたり、クリスマスキャンペーンで赤や緑が使われている広告をよく目にしますよね。秋は紅葉とか、春は桜色などなど。そのような色は、すでに人々が潜在的に自分の中に情報として持っているため、コミュニケーションとして活用しやすいのです。

その上で、デザイナーは企業・ブランドカラーやプロモーションなどの企画から考えた色や世界観を壊さず、ユニバーサルデザインのフィルターを通して表現することが必要となりました。

SDGsの「誰一人取り残さない」という考えが、社会のフレームワークとなったことも背景にあります。ユニバーサルデザインもその精神において共通の考え。このような取り組みが企業価値に直結するため、コミュニケーションを考える以上、今後デザイナーは避けて通れません。

デザインの目的は、「物事の本質を見出し、人に届くカタチにすること」。
複雑なことを、わかりやすく。大切なことを、印象深く。

上記は、弊社たきコーポレーションのビジョンです。デザインは人を動かすチカラがありますが、その反面デザインによっては、メッセージがうまく伝わらなかったり、何も動かさないこともあると言えます。

「〇〇さんはデザインがうまい」とはよく聞く言葉ですが、表面だけではく本質を捉えたデザイン。社会のフレームワークを踏まえた表現。これはデザインを評価するには外せない要素です。

デザイナーは感覚的にレイアウトやフォント、配色を考えることがあります。見た目の「きれい」「美しい」「カワイイ」などポジティブな印象はデザインにはとても大切ですが、感性やセンスによる表現に論理性を持たせ、「ユーザー視点のユニバーサルデザイン」への意識を加えることは、デザインをさらに深く研究・検証することになるため、デザイナーの成長につながります。

デザイン業務を行っている企業では、新しいテクノロジーやアプリケーションの研修ももちろん大切ですが、デザイナーの思考力・表現力向上のために、ユニバーサルデザインの研修や勉強会を行うのは意義のあることだと思います。


参考まで

◎ 各都道府県にユニバーサルデザインの取り組みがあります。例えば「東京都 ユニバーサルデザイン」で検索すると、東京都のユニバーサルデザインのガイドラインが表示されます。
インフラや公共施設の考え方はもとより、色の組み合わせの考え方や地図・グラフなどの配色など、デザインを作る際に参考になる資料が多いのでご覧いただければと思います。

福島県のカラーユニバーサルデザインガイドブック
実際のデザインに活用できる配色の具体例がたくさん掲載されています。


また、Adobeのサービスやアプリケーションには、配色を考える時にサポートしてくれるツールもあります。自分のデザインの色の組み合わせを、このようなツールで確かめることで、デザイナーにとって新しい発見につながるかもしれません。

◎ Adobe Colorのアクセシビリティツールは、選んだ色の組み合わせが色覚障がいの方にどう見えるか示してくれるのでとても参考になります。

Adobe Color アクセシビリティツール
https://color.adobe.com/ja/create/color-accessibility

◎ Illustrator、Photoshopには簡易的な色覚シミュレーションを行う機能がついています。

Too クリエイターズFAQ
https://www.too.com/support/faq/adobe/24062.html


デザイナーの育成についての情報を発信します。
たき工房には100人以上のデザイナーが在籍しており、日々さまざまな仕事で自己研鑽をしています。また、キャリアと適性に応じた研修・育成制度が、個々の能力向上に活用されています。
デザインには、一気に上手くなるような一発必中の魔法はありません。繰り返し反復することにより、少しずつ、デザインクオリティが上がっていきます。
このコラムでは、たき工房のデザイナーたちがどんな方法でスキルアップをしているのかをご紹介しますのでご覧いただければと思います。

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