「かるみ」について(持論優先版のコンパクト版)

 「かるみ」について、少ない資料を読み込んで、自分の思うところを書きました。書きながら持論に対して気づきを得ることが多く、また、整合性を取りながら書き直すことが難しいので、改めて、コンパクト版を書くことにしました。

かるみ

 かるみとは、「表現が平明で通俗である」という意味です。因果関係にまとめると、俳句においては、表現したいこと(本稿では「悩み」と定義します)を風雅の誠という態度で表現することを決めた後、相手に伝えるときに相手が受け取りやすいように表現を工夫する姿勢といえます。または、「悩み」を整理して解決の感情を得る時に感じる感覚とも考えられます。かるみは緊張を緩和させるという感覚を得ます。その生理的反応の一つが笑いです。
 先行研究では人生論と表現論で論の対立が見られます。人生論のかるみとは、鑑賞などで選者が作者と対話するという場合に、作者に対して抱く感想です。表現論のかるみとは、句会などで匿名のテキストだけを見て、テキストから受ける感情の強弱を読者が判断した時の感覚です。取り扱うものが違うので、どちらが優越しているかということではなく、別の概念として共存していると思われます。

風雅の誠

 人生態度の一つであり、表現によって美しい文章、美しい言葉、美しい世界を目指します。人生の全てを美に捧げるような人生態度と言っていいでしょう。人生態度をそのまま表現すると、重みになり、読者にわかりやすい形で提示すると、かるみになります。

重み

 かるみと違って、重みは人生態度をそのまま表現する表現の工夫と考えられます。風雅の誠の人生態度においては、重みは表現したいことを美に転化します。風雅の誠の重みは一つの完成系であり、表現者は完成された表現を求めるために風雅の誠の重みを目指します。表現の完成は同時に陳腐化を引き起こします。完成から変化を起こすためには新たに批評が必要になります。

「悩み」

 「悩み」という言葉の本稿での定義は、表現の動機(あるいは思考の動機)そのものを指す言葉です。または、表現の動機をストレートに表現する人生態度も「悩み」として定義します。表現態度としては、批評性と攻撃性を有するものであり、そのまま表現すれば攻撃性を有した批評になり、読者にわかりやすい形にすれば笑いを導きます。
 短詩形では、形式の約束事を逸脱した時、批評性を持ちやすい特徴があります。文語短歌に対する口語短歌、定型俳句に対する自由律俳句、俳諧に対する川柳、伝統川柳に対する「文芸川柳」(現代川柳)に批評性を感じることがあります。
 日本語では、批評は攻撃性を有するものと考えられます。攻撃性は他人を傷つけ、自らを傷つけることになります。通常、かるみを出すか、風雅の誠の形式を借りるなどして攻撃性を抑えます。それが完成しないうちには、「悩み」の形式をそのまま表現することになります。

川柳のかるみ

 川柳においては、平明な表現を使いながら、穿ち(批評)の持つ攻撃性を緩和させ、笑いを起こさせるものと考えられます。川柳は「悩み」の中のかるみを引き出します。かるみは攻撃性の緩和として笑いを引き起こします。

かるみモデル

 考察を重ねた結果、かるみモデルを考えました。枠組みとしては、表現・思考の動機、表現態度、表現の工夫、反応という線型モデルを構築します。表現・思考の動機は広義の「悩み」を入れます。表現態度には風雅の誠や狭義の「悩み」が該当します。かるみ、重みは表現の工夫において、表現態度を平明な形にするか、そのままの形を取るかという選択肢です。表現の結果として感情が発生します。反応については、今回の「かるみ」モデルでは四つの類型を考えました。風雅の誠ーかるみでは脱力が起こり、風雅の誠ー重みでは美の探求、「悩み」ーかるみは笑いが起き、「悩み」ー重みでは批評性やそこに含まれる攻撃性が表現されます。


フローチャート

持論優先版の参考文献

中村俊定「芭蕉晩年の風調『かるみ』に就て」
(『国文学研究』第7巻 1936年 早稲田大学国文学会)
潁原退蔵「軽みの真義」 
(『芭蕉研究』第2号 1943年 靖文社)

金子はな「芭蕉の「軽み」研究史論(上)」
(『東洋大学大学院紀要(50)』 2013年 東洋大学大学院)
https://researchmap.jp/izen/published_papers/27319190
金子はな「芭蕉の「軽み」研究史論(中)」
(『東洋大学大学院紀要(51) 』2014年 東洋大学大学院)
https://researchmap.jp/izen/published_papers/27319188
金子はな「芭蕉の「軽み」研究史論(下)」
(『東洋大学大学院紀要(52) 』2015年 東洋大学大学院)
https://researchmap.jp/izen/published_papers/27319187

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