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「セララバアドでガストロノミー」2021年7月30日の日記


・喋った配信のログです。分子ガストロノミー料理のレストラン「セララバアド」に行ってきたよ~、という話。

・以前オモコロライターのナクヤムパンリエッタさんが「分子ガストロノミー」と呼ばれる分野を用いた料理を提供するレストランに行った話をレポ漫画にしていた。

・分子ガストロノミーは調理というものを化学的に解析する分野のことで、これを応用することで既存の料理に縛られないまったく新しい料理をつくることが可能であるとされる。レポ漫画を読んでも正直なにがなんだか全然わからない。枝を食べるって何? 口の中が広くなるって何??

・しかしセララバアドは決してお気軽な感じに行けるお店ではない。現状フルコースで2万円ほどの料金。物見遊山でフラリと行くなんて気はしないし、予約必須の人気店だからフラリと行った所で入れないだろう。

・ところが最近、セララバアドのシェフがオモコロ編集部に連絡をくださった。上記のレポ漫画を読んだのをきっかけに来店するお客さんが非常に多いので、今度は編集部の人にご馳走しますという内容だった。なんという度量の広さ、深さなのだろうか。こっちは勝手に漫画にしてしまったのに……。とてもとても有り難いお話なので、編集部の代表として私と、後輩ライターの鎧坂さんで赴いた。鎧坂さんを誘ったのは、何もない部屋でいつもセフィロスの真似とかをしている大学生がいきなり数万円相当のコース料理を食べたらどうなるのか見たかったからだ。



・「セララバアド」は代々木上原の住宅街に店を構える。夕方に着くと少しあとに鎧坂さんもやってきた。マスクで見えないが表情には緊張の色が見えた。私だってそうだ。このレストランは、決まった時間に人を集めて一斉に料理を提供するシステムになっている。集まった他の人たちは見るからに気品を纏った紳士淑女ばかりであり、シオシオのユニクロを体で干している歩く物干し竿みたいな人間は私と鎧坂さんの2人しかいなかった。そんな私たちもシェフは快く受け入れてくれた。

・店内はとても上品な雰囲気だが、同時にリビングのような親しみやすい感じもある。壁際に、土なしで野菜を育てられる機械が設置してあって、みどりの野菜らしきものが植わっていた。料理に使うのだろうか。



・驚いたのは調理スタッフの多さだ。カウンターの向こうで忙しそうに準備を進めている。客はそう多くないのに、かなりの人数がフル稼働して設営する必要があるらしい。包丁や鍋のような「料理」然としたものが視界には全く入ってこないのが印象的だった。

・なぜか「アドベンチャーゲームで推理しているときに流れるBGM」のような音楽が流れているので、私と鎧坂さんはしばし緊張しながら待ち続けた。このあといったい何が起こってしまうんだ……。テーブルに置いてある小冊子はメニューかと思ったら童話だった。この物語をモチーフにした料理がこれから出てくるらしい。



・やがて準備が整い、目の前に運ばれてきたのは――


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・ハムが巻いてある枝だった。

・枝じゃん。枝だ。と無言で視線を交わす。こんなことあるんだ……と愕然としつつ、恐る恐る枝ハムを口に運んでかじる。全く味の想像がつかない。

・これは…………!!!

・何???????????????????

・料理を味わったときに感じるものといえば、通常「あまい」「しょっぱい」いった味覚や「おいしい」「まずい」といった好悪である。これは以降の料理の全てに当てはまるのだけど、セララバアドの料理はどれも通常の料理の文法とは食感や味や香りがかけ離れているため、まず「???」が来る。裏返しの試験問題をめくった瞬間のように、味が脳に届くと同時に思考回路がフル回転してしまう。なんだこれは。甘くもしょっぱくもないが、その全てがあるような気もするし、香ばしくて、木のような味にも肉の味も感じられ――。


・口の中が広くなった。


・全ての意識が「口」に集中して「味」を理解しようと懸命に駆動するため、口が広くなるのである。

・鎧坂さんと目を見合わせて笑った。「味」でこんなが起こるんだ。私たちが今まで感じてきた「味」って、味のほんの一面にすぎなかったんだ。その広がり方は、念能力という概念が登場したあとのHUNTER×HUNTERにも似ている。とんでもないことが起きるぞという予感がした。


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・とんでもないことが起きた。

・なんかドーム状のガラスに覆われた、苔に乗った石みたいなのが説明もなく置かれた。これは何? 開けていいの? 食べていいの?



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・追い打ちをかけるように「花」が添えられた。だからこれなに? これは「見る用」なの? 「食べる用」なの……? あまりに攻略法がわからないので、周囲を不安な顔で見回す。

・するとシェフが説明してくれた。「花の後ろをちぎって吸ってみてください。蜜の味がほのかに感じられます」「フタをとって石の匂いを嗅いでみてください。雨が降る直前の香りがします」食べるやつじゃなかった!! よかった、石かじったりしないで。

・実際に石を嗅ぐと本当に「雨が降る前」の匂いがして、不思議すぎて笑ってしまった。こんな手段を使って情景を再現することって本当に可能なんだ……。


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・他にも「口の中に入ると跡形もなく一瞬で弾けて消える不思議すぎる雨粒の球体」とか



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・「謎のオシャレな鮎」とか



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・「印象派の画家が描いた『アナゴ丼の絵』を料理で再現したもの」としか言いようのない、味のレイヤー数の多すぎる料理とかが次々に運ばれてくる。その全ての情報量が多すぎて飲み物で休憩しようと思っても、それは「キュウリや野菜が入ったオレンジジュース」だったりするので、頭はフル回転しっぱなしである。




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・だから「パン」が出てきたときは本当に泣きそうになった。お前~~~! パン~~~~! パンよ~~~! 元気してた~~~!? って肩組みたくなってしまった。「知ってる」ということが嬉しすぎる。でも食べたら今まで食べたことないくらいうまいパンだった。これは重要なことですが、実験的な料理も含めて全ての作品がとても美味しい。舌にビリっと来るような刺激に一切頼らずにおいしさを表現してくる。



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・と思いきやこういうのがいきなり出てくるので、我々の脳は破壊される。なんだこれは。目がおかしくなったのかと思った。

・これはイカ墨を謎の技術でチップスにしてフタみたいにスープ皿を覆っている。夜の海をイメージしているとのこと。スプーンで崩しながらスープに和えて食べるのだ。スープは白いかに枝豆に百合根とかだった気がする。スープをすすると、ほのかにミントの味がした。イカ+枝豆+ミントって全然おいしくなさそうだろう。なぜか、ものすごく美味しい。鎧坂さんと「これ、美味しいすね……」と言いながら黙々と食べた。頭に浮かぶのは夜のまっくろな海を泳ぐ一匹のやさしい巨大イカだ。あとで聞いたら鎧坂さんも同じ風景を思い浮かべていたらしい。そんなことって本当にあるんだ。



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・デザートも充実していて、こういう、こう、なんかこういうやつとか、



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・こういうやつとかを食べた。見た目からは何も想像つかないと思うけど、どっちも凄く美味しい。ジュースにしたパイナップルを液体窒素で固めた究極のシャーベットみたいなのも凄かったな。蒸気で厨房が真っ白になってた。液体窒素のボンベがある厨房を初めて見た。


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・最後のデザートは線香花火を模したチョコ。右のは本物で、お土産に頂いた。このチョコは舐めていると本当の線香花火が口の中で炸裂しているみたいに感じられる仕掛けがある。遊び心がいちいち洗練されすぎている。

・書ききれないので割愛しているけれど、他にももっとたくさんの料理が出ていて、そのどれもが「味」の常識を超えた何かだった。2時間と少しのコースだったが、体感的には丸一日かけて「夏」の概念そのものを食べ尽くした充実感があり、それこそ「夏がいま終わった」と錯覚させられた。枝を食べたのが遠い昔のようだ。

・こういう手間のかけ方を間近で見ると「料金、安くない?」と思ってしまう。そりゃ食事としては高い部類かもだけど、内容を鑑みると納得してしまう。もっと高価でも全然おかしくないと思う。提供できる人数にも限りがあるし、設備も材料も人員もこだわっているのがわかるし。



・帰り道で「すごかった……」と話しつつ鎧坂さんと高級住宅街を歩いたのだけれど、駅前でココイチを見かけてかなり笑ってしまった。「カツカレー」のビジュアル、あまりにもわかりやすすぎる……!! 予想もつかない料理を次々に食べすぎて、ふだん食べているようなものの単純さにウケるようになってしまったのである。ふとしたきっかけで超人になった主人公が不良のパンチをあえてうけとめつつ内心で「フワ~ア、ハエがとまりそうだぜ」とか思っているのにかなり近い。

・あと、そこらへんにあるものが全て食べられそうな気がした。自動改札とかもなんなら「食べられるんじゃないか?」と思ってしまう。「食べられる/食べられない」みたいな境界線がどんどん曖昧になって溶けていく、ふしぎな体験だった。一生のうちにもう1回は絶対自腹で行きたい。行きます。

↓公式サイト



・あとは普通の日記です。



・動画に出てます。加藤さんって普段から変な恰好してるから、みんなけっこう悩んでた。次回、凄いことが起こります。

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