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「おそろしいいきもの」2019年12月18日の日記

「はい、ごはんができました。めしあがれ。いただきます。ぱくぱくぱく。わあ、とってもおいしい。これはなあに」

 乃愛は、右手に女の子の人形、左手に恐竜のぬいぐるみをにぎっている。居間のフローリングにぺたりと座っておままごとに熱中しながら、母親の帰宅を待っていた。

「ごちそうさまでした。それじゃあ、おさらあらいをしましょうね、じゃぐちを……」

 庭から大きな音がした。乃愛は顔を上げて、人形を胸に抱き、ガラス戸を開けて外をのぞき込んだ。

 よく手入れされた芝生に円柱形の金属が突き刺さっていた。太さは電柱と同じくらいで、高さは乃愛の身長よりも少し小さいくらいだった。金属と土の間からもうもうと煙が出ている。

 乃愛は人形をぎゅっと胸に押し当てて、ぶかぶかのサンダルを履いて、ゆっくりとそれに近づく。

 円柱の外周に亀裂が生まれ、上部が水筒の蓋のように開いた。

「うさちゃんだ」

 乃愛は目を丸くする。円柱の穴から、うさぎのように耳のとがった生き物が顔をのぞかせていた。うさぎは、本当のうさぎよりも長く枝分かれした手指を器用に使って円柱の中から這い出すと、庭に体を横たえた。ひどく疲れて、衰弱しているように見えた。

「うさちゃん、だいじょうぶ?」

 乃愛はしゃがみこんでうさぎに問いかけた。うさぎは横たわったまま、首に巻き付けられた白い輪を指先で撫でた。

「あなたは この星の 人ですか?」

 うさぎではなく、白い首輪が乃愛に語りかける。

「あなたは この星の 人ですか?」

「あたし、乃愛ちゃんだよ」

「あなたたちに 警告しに来ました」

「けいこく?」

「警告。とても 危険。このままだと あなたたちは おそわれます。宇宙からやってきた おそろしいいきものに ほろぼされる」

「うさちゃんも、うちゅうからきたの?」

「そう。宇宙から きました。私たちの星も ほろぼされました。おそろしいいきものに。昔は故郷には たくさん仲間が いました。いまはもう 誰もいない。おそろしいいきもののせいで」

「こわい」

「こわい。おそろしいいきもの こわい。あなたたちの 星も あぶない。気をつけて 気を」

 うさぎの目から青いあぶくが吹き出して、体が震え始めた。

「うさちゃん。だいじょうぶ? どうしよう」

「おそろしい いきもの の ことを ほかの 人に」

 うさぎの全身から青いあぶくが出て、シュワシュワと音を立てながら蒸発した。草の上に残ったものはもう、全くうさぎに似ていなかった。

「乃愛ちゃん。どうしたの、だめでしょう、勝手にお庭に出たりして」

 家のほうを振り返ると、買い物から帰ってきた母親がいた。乃愛は慌てて駆け出した。

「ママ、ママ。大変。大変なの。うさちゃんがね……」



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