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「【短編小説】任侠発明伝」2021年1月3日の日記

「おう、よく集まったな」

 鼈甲眼鏡の男――志島匡一(しじまきょういち)が、強面の男たちを前に立つ。室内の空気は冷たく張り詰めており、反響し増幅する緊張を誰もが全身で感じ取っていた。

 麻耶(まや)組。S市を中心に裏社会を仕切ってきた気鋭の暴力団である。若頭・志島匡一は静かに話を切り出す。

「もう皆の衆の耳にも入っていると思うが、昨夜、おやっさんが襲われた」

 言われるまでもない、誰もが知る事実。しかし、若頭の口から改めて告げられることで、構成員の間に動揺の波が広がる。

「突っ込んできたのは美濃岡(みのおか)組が差し向けたチンピラだった。幸い、護衛が間に入っておやっさんは無事だ――しかし勿論、それで済む問題じゃない」

 大きく分けて、S市は3つの勢力が仕切っていた。摩耶組、美濃岡組、柳田組である。それぞれの組は互いに反目しあっていたが、長年続いた小競り合いが落とし所を見つけ、現在では絶妙なパワーバランスの上に平衡状態が築かれていた。

 このバランスが、襲撃によってついに崩れた。

 それが何を意味するのか。

「戦争……戦争だ……」

 構成員の中でも特に血の気の多い古芝博政(ふるしばひろまさ)が震えながら言う。

 大げさな物言いではなかった。美濃岡組はよりによって麻耶組のトップを前触れもなく狙ったのである。極道にとってそれは即ち開戦の合図に等しい。

 穏便な対応など有り得なかった。どう転ぼうと、麻耶組は血で報いることになる。第三勢力の柳田組が手をこまねいて見ているはずもなく、おそらく漁夫の利を狙って動き出す。バランスの決壊は連鎖的に更なる暴力と奸計を生み出し、十年以上鳴りを潜めていた三つ巴の勢力争いがまた始まるのだ。

「カシラ! こんな仕打ち、黙ってられません!」

「美濃岡組のハナタレ共を叩きつぶしましょう!」

「美濃岡組、襲撃じゃ!」

 もともと麻耶組は拳一つで成り上がってきた気性の激しい組である。事務所内の空気は一気に沸き立った。しかし、志島の返事は意外なものであった。

「まあ……待て」

 ヒートアップする怒りに冷水をかけるような返答に、構成員たちは面食らった。古芝が吠える。

「待ってられません! カシラ、男がこの土壇場で怯んだら……」

「おやっさんを襲ったチンピラが、こんなもんを握っていた」

 志島はおもむろに事務机の上で風呂敷を広げる。

 銀色に輝く鋭利な棒のようなものが姿を現した。

 一同は息をのむ。

「これは……?」

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