羅生門(擬音マシ)
芥川龍之介 羅生門 青空文庫 より
そこで、下人は、両足に力を入れて、
グッ
いきなり、梯子から上へ飛び上った。
ビュバォッ!!!
そうして聖柄の太刀に手をかけながら、
ガッ!
大股に老婆の前へ歩みよった。
ズイッ! ズイッ!
老婆が驚いたのは云うまでもない。
ドギャァァ~~~ン!
老婆は、一目下人を見ると、まるで弩にでも弾かれたように、飛び上った。
グッ…
ビシュァァァァッ!!
「おのれ、どこへ行く。」
シュタタタタタタ!!!
下人は、老婆が死骸につまずきながら、慌てふためいて逃げようとする行手を塞いで、こう罵った。老婆は、それでも下人をつきのけて行こうとする。
ギュオオオオッ!
ビシッ!
下人はまた、それを行かすまいとして、押しもどす。
ガッ! ガッ! ガッ!ガッ! ガッ! ガッ!
ガッ! ガッ! ガッ!ガッ! ガッ! ガッ!
二人は死骸の中で、しばらく、無言のまま、つかみ合った。
グ……グググッ……!!
ピシッ……! バキッ……!
しかし勝敗は、はじめからわかっている。下人はとうとう、老婆の腕をつかんで、
グッ!!!
無理にそこへねじ倒した。
ビュオ…ッ
…
ドガァァァァァァァァン!!!!!!!
丁度、鶏の脚のような、骨と皮ばかりの腕である。
「何をしていた。云え。云わぬと、これだぞよ。」
下人は、老婆をつき放すと、
バッ!!
いきなり、太刀の鞘を払って、
チャキーン
白い鋼の色をその眼の前へつきつけた。
ビシッ!
けれども、老婆は黙っている。
シ~ン
両手をわなわなふるわせて、
ワナ…ワナ…
肩で息を切りながら、
ハアッ…ハアッ…ハアッ…
眼を、眼球が瞼の外へ出そうになるほど、見開いて、
カッ!
唖のように執拗く黙っている。
シ~ン
これを見ると、下人は始めて明白にこの老婆の生死が、全然、自分の意志に支配されていると云う事を意識した。
ハッ
そうしてこの意識は、今までけわしく燃えていた憎悪の心を、いつの間にか冷ましてしまった。
プシュ~…
後に残ったのは、ただ、ある仕事をして、それが円満に成就した時の、安らかな得意と満足とがあるばかりである。
ホッ…
そこで、下人は、老婆を見下しながら、少し声を柔らげてこう云った。
「己は検非違使の庁の役人などではない。今し方この門の下を通りかかった旅の者だ。だからお前に縄をかけて、どうしようと云うような事はない。ただ、今時分この門の上で、何をして居たのだか、それを己に話しさえすればいいのだ。」
ド ン ッ!!!
すると、老婆は、見開いていた眼を、一層大きくして、
カッ!!!!!!
じっとその下人の顔を見守った。瞼の赤くなった、肉食鳥のような、鋭い眼で見たのである。
ギロリ!!
それから、皺で、ほとんど、鼻と一つになった唇を、何か物でも噛んでいるように動かした。
モゴモゴ…
細い喉で、尖った喉仏の動いているのが見える。
ピクピク…
その時、その喉から、鴉の啼くような声が、喘ぎ喘ぎ、下人の耳へ伝わって来た。
「この髪を抜いてな」
ゴゴゴゴゴ…
「この髪を抜いてな」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!
「鬘にしようと思うたのじゃ。」
ズギャアアアアアアアアアアン!!!!!
To be continued...
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