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古典的なファネル構造に変わる、新しい成長フレームワーク「Inbound Flywheel(弾み車) Model」について

(表紙画像について「 https://www.hubspot.com/flywheel 」2020年2月10日時点より引用)

営業活動は長らく古典的な顧客獲得モデルであるファネルにより、事業運営が成されてきました。認知を獲得し、興味関心を引くコンテンツマーケティングを行いリードを獲得し、リードナーチャチングにより購入までの行動を促進し、セールス活動により受注していく、我々が普段接する言葉の数々です。

そんな中、米国SaaS製品やその成長を調べていくと「Inbound Flywheel(弾み車) Model」という言葉を見聞きし、日本のカンファレンス控え室などでSaaS経営者の方々と話していると、ファネルではなく、「Flywheel Model」にて業務プロセスを再設計しているとの話を徐々に聞くようになりました。

初め見聞きしたときはSaaSカンファレンスでよく聞く流行り廃りかのような言葉なのではとも思いもしたのですが、それからも米国の記事を中心に「Flywheel Model」という用語を目にする場面が増え、本格的に調べるようになってきました。

「Flywheel Model」は2018年9月にサンフランシスコで開催されたHubspot年次カンファレンスイベント「INBOUND 2018」にて発表された概念です。

The Death of the Sales Funnel(セールスファネルの死)

ファネルは「顧客が結果」、Flywheelは「顧客は中心」というような言い方をします。それもそのはずで成長させるエンジンがどこにあるかが、この2つの対立概念が見事に言い表しているからです。

しかしながら、何が要因で、ファネル構造を我々は脱却すべきなのかを今ひとつ掴みきれませんでした。そこできちんと原典をあたり、顧客心理のファクトデータを調べてみることにしました。幾つかの記事を発見しました。「The Death of the Sales Funnel(セールスファネルの死)」という欲望を掻き立てられる記事などを通し、ファネルで成長させることが難しいことが理解できます。

思い返せば、我々はファネルを認知から、関心、行動へと導くために企業活動をどう営んでいるでしょうか。教科書的には顧客が、認知から興味関心へと移るコンテンツを作成し、自社ハウスリストのメールに配信し、インフィード広告に如何にも便利そうな装飾を加え、ターゲティング広告を行います。企業活動の中で当然に取るコンテンツマーケティング手法です。

SaaS運営者である我々は、他のSaaS製品を選定する場面において消費者です。消費者として本当にこのコンテンツマーケティングにおいて製品選定を行なっているでしょうか。役立つ資料があれば参考にすることこそあれ、それが日々大量に受領するメールの中から選定し、その情報をもとに製品選定、購買行動を行う可能性は低いことに気付いてきます。

むしろ仲の良い企業に何のCRM、MA製品は何を利用しているか、カテゴライズイベント(インサイドセールスカンファレンスなど)にて有望企業はどのような製品を利用しているかどうか、気になった製品はカンファレンスの懇親会に出席し、製品利用者にインタビューするなどして購買行動を決定していることに気付きます。これはSEOに残るSEO Assetにも残らなければ、コンテンツマーケティングの開封率、クリック率といった指標にも載らない購買活動です。

顧客の購買活動の動機、行動が明確に変わってきたのです。そのため、従来の方法による顧客獲得コスト(CAC)は年々上がり、ユニットエコノミクスが成立しなくなってくるのです。デフォルトで死に始め、投資額を上げなければいつまでも利益が出ない構造にあることが市場でわかってきました。

セールスファネルに変わる、次なる概念

さて、セールスファネルが現代の顧客行動に合致しないことは徐々にわかってきました。ではどのようにして顧客を獲得し、売上をあげればいいのでしょうか。

1つは「Social Selling(ソーシャル・セリング)」の試みです。顧客の滞在時間がリアルからウェブへ、ウェブからソーシャルに移動したのだとすれば、展示会からウェブコンテンツへ、ウェブコンテンツからソーシャルメディアでのセールスを行うことは当然の試みです。

そして購買動機がコンテンツからリファラルに移るのだとすれば、ソーシャルメディア上のインフィード広告からFacebook MessageやLinkdinでのリファラルメッセージに映ります。それが現代でもよく行われている「Social Selling(ソーシャル・セリング)」です。

このように顧客の行動に寄り添い、再構築をする必要があるのです。そこでビジネスソフトウェアの購買決定に際して何の情報を元に判断しているかの調査が重要になってきます。

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(「 Happy Customers Are the Biggest Marketing Opportunity of 2020 」2020年2月10日時点より引用)

予想した通りですが、現代に至っては1位が友人やソーシャルメディア上の評判、2位が顧客からの評判/声、そして3位以降にベンダー側が提供するコンテンツマテリアルが存在しています。当然ながら、セールスによる営業の声は最も信頼されない情報源と評価されています。消費者から見れば、当然の結果とも思えます。

調査結果が上記なのだとすれば、それに寄り添う指標やフレームワークが必要になってきます。それが、「Inbound Flywheel(弾み車) Model」なのです。ここで初めて「Flywheel Model」の説明をしていきます。これらの前提がなければ、何故この指標が重要なのかの前提が共有されないからです。

「Inbound Flywheel(弾み車) Model」とは

新しい指標では、購買決定に最も重要な情報源とされるソーシャルメディア上での評判や顧客の声を中心としてフレームワークが必要とされます。そこで考え出されたのが「Flywheel Model」です。今一度表紙画像を見返してみましょう。

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(「 https://www.hubspot.com/flywheel 」2020年2月10日時点より引用)

ファネルはベンダー側の努力により顧客を受注まで持っていきますが、Flywheelは顧客が中心となり、企業は顧客の力を借りて事業を推進する必要があります。顧客にいかにその努力をしてもらえるか、それが企業活動において中心になってきたとも言えます。

そして「カスタマー」と「マーケティング、セールス、サービス」の間に黒い円があることがわかります。Flywheelでは「マーケティング、セールス、サービス」の円を如何にスピードを持って回すかが重要とされており、黒い円、ベアリングを効率的なエネルギー量で廻すかにリソースを割く必要があります。

3つの観点がまとめられています。

1、How fast you spin it(回転速度)
2、How much friction there is(摩擦の大きさ)
3、How big it is(サイズ)

Flywheelの回転速度を上げるために、とりわけ概念においては「サービス」提供主体となるカスタマーサービスに労力を割く必要があります。「顧客がどのようにすれば次の顧客を紹介してくれるか」の観点からリソースを投下し、顧客を成功に導き、ユーザーカンファレンスに招待し、導入事例に出てもらうのです。

しかしながらその主体者はカスタマーサクセス部門であってはならないとも念押しされています。「How much friction there is(摩擦の大きさ)」が大きくなるからです。顧客は受注前に信頼を築いていたセールスから、受注後にカスタマーサクセスに引き継がれる際に摩擦が生じるからです。当然ながらカスタマーサービスの提供者は全社一丸となる必要があります。

「Flywheel Model」を廻す3つの指標

Flywheelでは以下のような3つの指標が書かれた円をよく目にします。

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(「 https://www.hubspot.com/flywheel 」2020年2月10日時点より引用)

① Attract(惹きつける)
② Engage(信頼関係を築く)
③ Delight(満足させる)

この3つの指標は上記でも説明したFlywheelの回転を早くする要素の「1、How fast you spin it(回転速度)」「2、How much friction there is(摩擦の大きさ)」「3、How big it is(サイズ)」に寄与する観点です。

AttractがあればEngage(信頼関係を築く)が高まり、Engageが高まれば顧客を満足させるサービスを提供でき、その顧客の声が次なる購買活動の重要な情報になり、潜在顧客をAttract(惹きつける)ことができます。というよるに「Attractステージ」が次の「Engageステージ」の勢いに影響を及ぼすような構造になります。

そして摩擦は少なければ少ないほど事業成長のスピードは向上していきます。言い換えれば、顧客獲得コスト(CAC)が高くならないまま資金を燃焼することができるのです。ユニットエコノミクスは健全なままですから、資金調達を実施し効率的に資金を燃焼し、企業成長をしていくモデルです。


以上が「Flywheel Model」の概要です。Flywheel Modelは一朝一夕では移行できず、ただの概念として捉えず、組織全体が移行する具体的な取り組みが必要です。次回以降は、その具体的な取り組みを紹介していきたいと思います。

お読みいただきありがとうございます( ´ ▽ ` )ノ