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エガオが笑う時 第8話

「じゃあねエガオちゃん!」
「また、来るからいてね!」
「今度、またお話ししましょうにゃ」
「遊ぼうね!」
 大きく手を振りながら彼女達は帰っていく。
 私は、会釈して彼女達を送る。
 何だったんだ一体?
 戦場で四方囲まれて絶対絶命の方がまだマシだった気がする。
「鎧のお姉ちゃんバイバイ」
 女の子が小さな手を大きく振っている。その隣で母親が小さく会釈する。
 私も会釈を返す。
「鎧ちゃんまた来るわね」
「今度は計算間違えるなよ」
 老夫婦が手を組んで帰っていく。
 私は、肩を小さくして頭を下げる。
 そしてお客さんが全員帰ったのを確認すると私は立っていることも出来ず、椅子に座り込み、円卓に顔を沈める。
 何だろう?この疲労は?
 嵐の中、敵の奇襲に備えて何時間立っていても苦でなかったのにこのわずか1時間程度でヘトヘトだ。
「お疲れさん」
 いつの間にかカゲロウが寄ってきて紅茶と二等辺三角形に切られた表面が茶色にある輝く食べ物が置かれる。
 私は、顔を上げてカゲロウを見る。
「頼んでないです」
「頼まれてない」
 カゲロウは、口元を釣り上げて答える。
「紅茶は俺から。チーズケーキはマダムからだ」
 私は、視線をマダムに向ける。
 マダムは、黒い犬の頭を撫でながら私を見て微笑んでる。
「凄いわエガオちゃん」
 マダムは、小さく拍手する。
「初めてのお仕事をあんなに上手にこなすなんて」
 マダムは、嬉しそうに私を褒めてくれる。
「・・・計算間違えました」
 お金を受け取るたびにマダムが丁寧に教えてくれたのに老夫婦の時に間違えて代金よりも大きなお金を渡しそうになり、大爆笑された。
「失敗は、美味しくなるための調味料よ。むしろどんどん失敗すればいいのよ」
 それは一体どう言う意味なのだろう?
 失敗をたくさんしろってことでいいのかな?
「でも、迷惑を・・・」
「迷惑なんて思ってねえよ」
 温かい感触が頭の上に乗る。
 えっ?
 見上げるとカゲロウの大きな手が私の頭の上に乗っていた。
 私は、頬が熱くなり、心臓が急速に高鳴るのを感じた。
「人手不足だったから助かったぜ」
 カゲロウは、笑みを浮かべて私の頭を撫でる。
 私は、恥ずかしさと・・何故か嬉しさを感じて動けなくなった。
 この数時間の間の私はおかしい。
 どうしてしまったんだろう?
 マダムは、嬉しそうに頭を撫でられている私を見てる。
 スーやんと黒い犬もじっと私を見ている。
 晴れた空、心地よい風、そして優しい手の温もり。
 そんなことは初めてだが私は、気持ちよさのあまりにウトウトしてきてしまった。
 意識が心地よい水の中に落ちていく。
 ・・・・。
 ・・・・。
「きゃああ!」
 悲鳴の声に私の意識は水の中から飛び出す。
 私は、カゲロウの手を弾き飛ばし、椅子から跳ねるように立ち上がる。
「今のは・・・?」
「あっちから見たいね」
 マダムが青ざめた顔で公園の正門口の方を指差す。
 それを見るや私は、石畳を蹴り上げるように走り出す。
 背中からカゲロウの視線とマダムの私を呼ぶ声が聞こえるが私は止まることなく走る。

#ファンタジー小説部門

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