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ある救急医の備忘録 カルテ1 / 真実 前編

いつもと変わらない夜。
いつもと同じように救急搬送依頼の電話が鳴る。

XX年YY月ZZ日 深夜
「20歳 女性 心肺停止の搬送をお願いします」
「マンション8階からの転落です」


10分後 到着。
状態は変わらず。
研修医 2人 , 看護師 2人に加え、搬送してきた救急隊員とともに診療を始める。
意識なし , 呼吸なし , 自己心拍なし。
直ちに 気管挿管をして呼吸を補助する。
胸骨圧迫を継続しながら、救急隊が確保してきた点滴ルートから強心薬を投与する。
同時に 衣服を全部切断し、全身を観察する。
一方では、超音波を当てて生命の存続に影響を与えるような大量出血があるのかを探る。

あった。
それも、胸にもおなかにも。
触って分かるくらい肋骨はバキバキで、骨盤もグラグラ… 両脚も変形している…
かなり厳しい…
救急室に重苦しい雰囲気が漂う。
それでも、若いし 何とかしなければ という共通認識も確認できる。

「胸を開ける」と発したとき、一瞬だけ空気が止まる。

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