0311

ガラス作家 高橋禎彦さんの展示を観るために東京国立近代美術館工芸館へ行った。最寄り駅は東京メトロ竹橋駅。

私は月曜からの移動に疲れていて、バックパックを背負っての移動は疲れを増大させた。駅から工芸館の道のりは距離として遠くはなかったが、そのときの私にはひどく遠く感じられた。誰かと来ていたらもう少し気持ちも軽いだろうかと思いながら歩いた。

工芸館に着いて重い荷物を預け、2階の展示会場へ階段を上がった。わざわざ東京まで観にきて本当に良かったと思った。今まで見てきたガラスの中で最もきれいだった。

畳の小上がりに展示された作品を見ていたら、ガタと小さな音がした。近くに線路でもあったっけ、と顔を上げると監視員の女性と目が合った。お互い地震だと気付くが、私も彼女も少しの間動かず目を合わせたままだった。揺れが激しくなると彼女は「外に逃げましょう」と誘導してくれた。縦揺れなのか横揺れなのかもわからない不規則な揺れでまっすぐ歩けず、階段の手摺りにしがみつきながら階段を下りた。なんとか外に出ると「防火扉が閉まってしまったので、本日は再開できないと思います」と受付の女性が話しているのが聞こえた。

地震の震源はどこだろう、と漠然と思い、ツイッターに地震を体感したことを投稿した。メールや着信履歴の多さに事の大きさを感じる。とりあえず家族に私は無事だというメールを入れ、1時間後に会う予定だった友人にも安否の確認と今の自分の状況をメールした。ここにいても状況が把握できないと感じ、東京国立近代美術館へ。そこでは岡本太郎展が開催中だったので、たくさんの人が美術館の前にいた。電車が止まっていると誰かが話すのが聞こえたので、しばらくそこに待機することにした。美術館の前の階段に座っていたら、妙に心細く感じた。来ていたメールに返信をし、あてもなく座り込んでいたら雨が降りだしたので、とりあえず駅に行ってみることにした。

竹橋駅に着くと、電車は【全線運転見合わせ 復旧の見込みなし】というオレンジ色の文字が電光掲示板に光り、駅員によるアナウンスが流れていた。どの程度の災害が起きているのかもわからない私はしばらく改札前にバックパックを置き、その上に座っていた。寒くなってきたので、駅から繋がるビルに入り座ってぼーっとしていると、喫茶店の店員が「テレビもあります、無料開放するのでどうぞお入りください」と叫ぶのが聞こえた。することもないので、その店に入れてもらいテレビを見た。皆無言でテレビを見つめていた。疲れからか、東北地方で大きな地震が起こったという事実と、太平洋側が赤くなった日本地図以外、頭に入ってこなかった。無料で淹れてもらったコーヒーを飲んでいたら頭が痛かった。

店から出て公衆電話から父に電話をすると、タクシーを使って移動できないのか、歩いて友人のところに向かえないのかと言われた。確かにずっとここに居てどうなるのだろうと思いビルの外に出でみたが、外はもう暗く、土地勘のない私はあの重い荷物を背負って外を歩こうと思うことができなかった。いつか電車が動くかもしれないと思い、駅の構内の角にあるコンセントで携帯電話を充電し大阪の友人たちに連絡する。電気泥棒をすることを後ろめたく感じ、頭の中で神様に詫びた。駅ビル内のいくつかの店が休憩所として開放されていたので、入ってみると炊き出しをいただくことができた。臨機応変に対応できる人たちの強さと優しさを感じ、心細さがすこし和らいだ。隣に座っていた40代くらいの女性2人が私の大きな荷物を見て、どこから来たのか、ひとりで来たのかなどと話しかけてくれた。大阪から来たと言い、3人でテレビを見ながら話した。姉から何度も着信が入っていたので公衆電話から電話すると、姉にまだその駅にいるのかと言われた。時計を見ると23時になっていた。店に戻ると、東西線が動きはじめたというアナウンスが聞こえ、隣にいた女性2人は帰っていった。このまま駅に泊まろうと思っていたが急に心細くなり、渋谷にいる友達のところまで行くことにした。東西線で日本橋まで出たが、銀座線が混雑のため止まり日本橋で足止め。30分くらい待ってやっと銀座線が動きだし、渋谷に着いたのは午前1時を回っていた。

渋谷に着いて電話。今まで電話は一度も繋がらなかったが、繋がった。友人がハチ公前まで迎えに来てくれた。彼は会社の上司とずっとファミレスにいたらしかった。疲れた顔で笑いながら「そのワンピース、ゴミ袋みたいな生地やな」と言った。2人ともあまり食べていなかったので居酒屋に入ったもののほとんど食べられず、この刺身なんかおいしくないねと言いワインを飲んだ。もし今死んでもなんにも残らないなぁと思った。そしてそれを彼に言ったら、彼も同じことを思ったと言った。店が午前5時までだったので、残っていたワインを無理に流し込んで外に出た。飲みすぎて頭がクラクラして、まっすぐ歩けなかった。

#311  #日記

東京国立近代美術館工芸館は、石川県金沢市へ移転するため2020年2月に閉館した。多くの工芸家の作品を観ることができた。寂しい。

#東京国立近代美術館工芸館

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