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運動療法で変わる子どもの未来:ICFを基にした包括的な評価と介入

 小児理学療法士の皆さん、子どもたちの生活を変える運動療法の可能性に目を向けてみませんか?この記事では、中枢神経疾患を抱える子どもたちが直面する日常の課題を解決するための評価と介入の考え方を解説します。より効果的な介入で、子どもたちの笑顔あふれる未来を一緒に創り上げるためのヒントがここにあります。


1. 子どもの健康状態の捉え方

 ICF(国際生活機能分類)モデルは、健康状態と障害を包括的に理解するためのフレームワークです。このモデルは、個人の健康や障害を、単なる医学的状態ではなく、その人の生活全体の文脈で捉えることを目指しています。

 ICFモデルは、健康状態や障害の影響を多次元的に評価し、個人の能力と社会的参加を最大化する介入を計画するための枠組みを提供します。ICFモデルは、身体機能と構造の障害、活動の制限、そして社会的参加の制約の3つの主要な要素に注目します。これにより、健康状態や障害が個人の日常生活や社会参加にどのように影響するかを包括的に理解することが可能になります。例えば、発達障害のお子さんをICFモデルに基づいて評価すると、手指の細かい運動の難しさ(身体機能の障害)と、字を書くことの難しさ(活動の制限)、学校での交流の難しさ(社会的参加の制約)という3つの水準での難しさが明らかになります。これらの情報は子供が円滑な学校生活を送るための支援方法を検討するのに役立ちます。

 ICFモデルによる包括的な評価は、子供の可能性を最大限に引き出し、その子供にとって最適な環境を提供するための重要なステップと言えます。

2. 子どもの健康状態を把握するための3つのレベルの評価

 障害を持つ子どもたちが日常生活で遭遇する様々な問題を解決し、より自立した生活を送るためには、彼らの健康状態を総合的に理解することが不可欠です。この理解を深めるためには3つのレベルの評価が重要な役割を果たします。機能障害レベルでの評価と、活動制限レベルでの評価、参加制約レベルでの評価です。これらの評価は、子どもたちが直面する身体的、社会的課題を明らかにし、適切な支援や介入を特定するのに役立ちます。

機能障害レベルでの評価:身体機能の測定

 機能障害レベルでの評価は、子供の身体機能の状態を詳細に把握し、必要な支援や介入を特定するために行われます。この評価は、身体の各部位の機能を理解することに焦点を当てています。

身体機能の測定の重要性
 身体機能の測定は、子供の健康と発達における機能障害の有無や程度を特定するために不可欠です。身体機能の評価を通じて、子供が持つ筋力や、柔軟性、運動の協調性などの身体的特性を正確に把握することができます。この情報は、子供が日常生活や学校での活動において直面する困難さの要因を理解し、適切な支援プログラムを計画する上で重要な基盤となります。例えば、階段を上る、走る、ジャンプするなどの活動が困難な子どもの筋力を測定すると、下肢の筋力の弱さが明らかになることがあります。筋力の測定を通じて、この子供の下肢の筋力不足が特定され、筋力を強化するような運動療法プログラムが提供されることで、日常生活での活動の質が向上する可能性があります。また、体育の授業で特定の動作を実行するのに苦労している子どもの関節可動域を測定すると、関節可動域の制限が明らかになるかもしれません。関節可動域の測定を通じて、この子どもの関節可動域制限が特定され、関節の可動性を高めるようなストレッチングプログラムが提供されることで、体育の授業で困難だった動作が円滑に行えるようになることがあります。このように、身体機能の測定は、子供の機能的な能力を正確に評価し、その子供のニーズに応じた支援を提供するために不可欠です。

身体機能の評価方法
 身体機能の評価には、筋力測定(MMTや徒手筋力計を使用した筋力測定など)、分離運動のテスト(Selective Control Assessment of the Lower Extremity:SCALE)、感覚テスト、関節可動域の測定、平衡反応のテストなどがあります。

 身体機能の測定は、子供の発達において重要な役割を果たし、個々のニーズに合わせた支援を提供するための基礎情報を提供します。このアプローチにより、子供たちは自分の能力を最大限に活用し、より充実した日常生活を送ることが可能になります。

活動制限レベルでの評価:できる活動(能力)としている活動(日常生活での実行状況)の評価

 活動制限レベルでの評価は、子どもが持つ能力と、実際の日常生活でどのようにその能力を活用しているかを理解するために行われます。この評価は、子どもの自立性と生活の質を向上させるための支援や介入を特定する上で不可欠です。

できる活動(能力)の評価
 できる活動(能力)の評価は、子どもが特定の状況下で実行できる活動の範囲を明らかにします。 子どもが持つ潜在的な能力を理解することで、その子どもが直面している活動制限の性質と程度を把握し、個別化された支援を提供することができます。例えば、リハビリの場面で周りに人がいない中で時間をかければ階段を上ることができる子どもの場合、その子どもには階段を一人で上る能力があることがわかります。この情報は、その子供の階段昇降の能力を向上させるための介入を計画する際に役立ちます。 できる活動(能力)の評価は、子供の活動に関連する能力を向上させるための重要な手段です。

している活動(日常生活での実行状況)の評価
 している活動(日常生活での実行状況)の評価は、子供が実際の生活の中でどの程度自立して活動を実行しているかを把握するために行われます。 子供が日常生活で実際に行っている活動を理解することで、その子供の自立性と生活の質を向上させるための具体的な支援を特定することができます。例えば、リハビリの際には階段を一人で上るものの、保育園では保育士の抱っこで階段を上っている子どもの場合、その子どもには能力と実行状況の間に差があることがわかります。さらに、このような差が、階段を上る際に周りに子どもがいることによる安全性の問題や、保育園のスケジュールによる時間的な制約に起因していることなどが分析できます。これらの情報は、その子どもが保育園でより自立した活動を行えるようにするための、環境設定を検討する際に役立ちます。している活動(日常生活での実行状況)の評価は、子どもが自立して活動するための工夫を探るための重要な評価と言えます。

活動の評価方法
 活動の評価には日常生活動作の評価(PEDI、Wee-FIM)や基本動作能力の評価(GMFM)、バランス能力の評価(PBS、BESTest)、本人及び関係者への聞き取り調査などがあります。

 活動制限レベルでの評価により、子供が持つ能力と、実生活でどのようにその能力を活用しているかを理解することができます。この評価は、子供たちがより自立した生活を送るための介入と環境設定を含めた支援を模索する上で不可欠です。

参加制約レベルでの評価:コミュニティへの参加状況の把握

 参加制約レベルでの評価は、子どもが家庭や保育園、学校などのコミュニティにおける社会的な役割と、コミュニティにどの程度参加できるかを把握するプロセスです。この評価は、子どもの社会性の発達と全体的な幸福感に影響を与える可能性のある障壁を特定するために重要です。

社会的な役割と活動への参加
 参加制約レベルでの評価は、子どもが社会的な活動に参加できるかどうかを明らかにし、必要な支援を特定するために不可欠です。子どもが社会的な活動に参加する能力は、彼らの自尊心や、友情の形成、学び、全体的な幸福感に直接的な影響を与えます。参加制約がある場合、子供は孤立感を経験したり、社会的なスキルの発達が妨げられる可能性があります。例えば、車椅子を使用する子供が、学校の運動会や遠足に参加できない場合、これは参加制約の一例です。このような場合には、介助者の人員配置や移動経路、代替手段等の環境設定により、子どもが自分の興味のある分野を探す機会や、仲間との絆を深める機会、集団の中での適切な振る舞い方を学ぶ機会を得ることができます。社会的な活動への参加度の評価は、子供が社会的に充実した生活を送るための支援を提供するために重要です。

参加の評価方法
 参加の評価には、本人及び関係者への聞き取り調査やPARTS/M、PODCIなどがあります。

 参加制約レベルでの評価により、子どもたちが社会的な活動に参加できるようになるための支援を特定し、提供することができます。このプロセスは、子供たちが自信を持って社会に参加し、友情や他者との関係を築くための重要なステップです。


3. 子どもの健康状態を改善するための3つのレベルの運動療法

 障害を持つ子どもたちが日常生活で直面する様々な課題を克服し、より自立した生活を送るためには、3つのレベルの運動療法が重要な役割を果たします。機能障害へのアプローチと、課題分析に基づく集中的な動作練習、実生活に近い環境下での動作練習です。これらの運動療法はそれぞれ異なる焦点を持ち、子どもたちの自立した生活を後押しするのに役立ちます。

機能障害へのアプローチ

 機能障害へのアプローチは、子どもの基本的な身体機能の回復を目指します。 筋力や、関節可動域、柔軟性、適正な筋緊張、随意運動の制御能、姿勢調整能などの改善を通じて、子どもたちは日常生活での基本的な動作をより効果的に実行できるようになります。 足の筋力が弱い子どもが、筋力トレーニングを通じてジャンプや走行などの動作を改善できた場合、これは機能障害へのアプローチの成功例です。この段階は、子どもたちが身体的な制約を克服し、基本的な動作能力を高めるための重要な第一歩です。

課題分析に基づく集中的な動作練習

 課題分析に基づく集中的な動作練習は、子どもたちが日常生活で直面する特定の課題に対応するスキルを獲得することを目的としています。具体的な課題動作を系列課題に区分し、部分練習から全体練習へと進むことで、運動制御理論に基づいたトレーニングを通じて、子どもたちは特定の動作やタスクをより効率的に実行できるようになります。車椅子から便座への移乗に苦労している子どもの移乗動作を例に考えてみます。移乗動作を①手すりを持って立ち上がる。②手すりを支えにして体の向きを変える。③手すりを持って座る。の3つの動作に分けます。子どもが②の手すりを支えにして体の向きを変えることが難しいことが特定できたら、その動作を集中的に練習し、その後、その前後の動作も含めた移乗動作全体の練習へと進めていきます。結果的に移乗動作が自立した場合、これは課題分析に基づく集中的な動作練習の成功例です。この段階は、子どもたちが日常生活で直面する具体的な課題に対処するためのスキルを獲得するための重要なプロセスです。

実生活に近い環境下での動作練習

 実生活に近い環境下での動作練習では、子どもたちが集中的な動作練習で学んだスキルを日常生活で実際に適用し、より自立した生活を送る能力を向上させることを目指します。 子どもたちが実際の生活の場に近似した環境下で動作練習を行うことで、学んだスキルを日常生活に効果的に統合し、実際の生活状況での対処能力を高めることができます。車椅子から便座への移乗に苦労している子どもの移乗動作を例に考えてみます。十分なスペースと手すりなどの適切な支えのあるリハビリ施設内のバリアフリートイレでの移乗動作が自立したら、自宅や外出先のトイレなどの実生活で使用するトイレやそれに近い環境での移乗動作の練習へと進めていきます。実生活において使用する可能性のあるトイレを想定した練習を行ったことで、日常生活におけるトイレ動作が自立した場合、これは実生活に近い環境下での動作練習の成功例です。 この段階は、子どもたちが学んだスキルを日常生活に効果的に適用し、社会的な参加と自立を促進するための重要なステップです。

 これら3つの段階を通じて、運動療法介入は子どもたちが身体的な制約を克服し、日常生活での課題に対処し、より自立した生活を送るためのサポートを提供します。

まとめ

 中枢神経疾患を持つ子どもたちの日々の挑戦を支えるための運動療法のアプローチを探求する旅は、ここに紹介した内容により、一つの結論に達しました。
・子どもたちの健康状態を包括的に捉えるためにICFモデルが有用です。
・評価は、機能障害、活動制限、参加制約という三つのレベルで行うことで、子ども一人ひとりに合った適切な支援や介入を検討するための基盤ができます。
・運動療法は、機能障害への基本的なアプローチから始まり、課題分析に基づく集中的な動作練習へと進み、最終的には実生活に近い環境下での動作練習によって、学んだスキルを日常生活に統合し、子どもたちの自立を促進します。この段階的なアプローチにより、子どもたち一人ひとりの可能性を最大限に引き出し、より充実した日常生活を実現することが可能となります。

 この記事を通じて、小児理学療法士の皆さんが新たな知見を得られたことを願います。そして、これらの知識とヒントを活用して、子どもたちが直面する課題を一緒に克服し、彼らの未来をより明るく、笑顔あふれるものにするためのお手伝いができることを心より願っています。中枢神経疾患を持つ子どもたちとその家族の日常生活に、希望と改善をもたらすための一歩を踏み出しましょう。

参考文献:
星 文彦「中枢神経障害に対する運動療法の変遷と動向」
P T ジャーナル・第 45 巻第 7 号・2011 年 7 月


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