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脳性麻痺児の歩行練習:課題指向型トレーニングのその先へ

 脳性麻痺児の歩行能力向上は、子どもたちの自立と社会参加に直結します。あなたの専門知識と情熱を活かし、課題指向型トレーニングを通じて子どもたちの「歩く力」を引き出しませんか?この記事では、課題の特異性の詳細と効果的なトレーニング方法を分かりやすく解説。読むことで、子どもたちに最適な歩行練習を提供するための新たな知見が得られるでしょう。あなたの介入の質をさらに高めるための一歩として、ぜひご一読ください。


脳性麻痺児の歩行と課題指向型トレーニング

 脳性麻痺児の歩行障害は、日常生活に多大な影響を及ぼします。これらの障害は、子どもたちの自立や社会参加の機会を制限する可能性があります。そこで注目されるのが、課題指向型トレーニングです。このトレーニングは、子どもたちが直面する具体的な課題に焦点を当てた練習を行うことで、歩行能力の向上を目指します。

脳性麻痺児の歩行障害の影響

 脳性麻痺児の歩行障害は、筋力の弱さや選択的運動制御の障害、関節可動域の制限、痙縮などが原因で発生します。これにより、歩行時の安定性が損なわれ、転倒リスクが高まります。また、社会的な活動や学校生活における参加が困難になることもあります。

課題指向型トレーニングの概要とその重要性

 異なる運動課題間の類似性のことを課題特異性と呼びます。課題特異性は歩行パフォーマンスに対するトレーニング効果の転移にとって重要です。運動課題の構成要素に類似したトレーニングであるほど、歩行能力の改善に繋がります。課題指向型トレーニングというと、一般的には、歩行能力を向上させるために、トレッドミルやロボット等を使用しつつ歩行自体を練習することと認識されています。しかしながら、脳性麻痺児の歩行障害には、特定の構成要素の問題がボトルネックとなって歩行全体の効率を低下させていることが多くみられます。このような場合には、特定の構成要素にフォーカスした部分練習が有効です。部分練習においても、運動課題間の類似性の高いトレーニングを選択することで高い効果が期待できます。

課題特異性の理解

 課題特異性を理解することでより効果的な部分練習が実現できます。

課題特異性の5分類

 課題特異性は、運動の内的構造の類似性、運動の外的構造の類似性、エネルギー生産の類似性、感覚パターンの類似性、動作の意図の類似性の5つに分類されます。これらの分類は、トレーニングが実際の運動課題にどれだけ近いかを評価するための基準となります。トレーニングプログラムを設計する際にこれらの要素を考慮することで、より効果的なスキルの転移が促進されます。

1. 運動の内的構造の類似性

 運動の内的構造の類似性とは、「同一筋の筋活動タイプ」と「筋間の協調性」の類似性のことです。同一筋の筋活動のタイプとは、等尺性収縮や、求心性収縮、遠心性収縮、弾性の出力などのことです。遊脚期における下肢の振り出しと、台へのステップ運動では股関節屈曲筋群の求心性収縮という点で類似性が高いと言えます。筋間の協調性とは、動作に関わる複数の筋群の協調的な働き方のことです。例えば、立脚期には、骨盤の前傾を股関節伸展筋群が制動しつつ、足関節底屈筋群の働きによって推進するという協調的な働きが求められます。運動の内的構造の類似性の観点からは、骨盤の制御の必要のない臥位での足関節底屈トレーニングよりも、立位で骨盤のアライメントを維持しつつ行うカーフレイズの方が効果的と言えます。

2. 運動の外的構造の類似性

 運動の外的構造の類似性とは、「動作速度」や「関節角度」、「力が作用する方向」の類似性のことです。例えば、プッシュオフの際の足関節底屈運動を考えると、股関節と膝関節が伸展したまま、足関節は背屈10°から底屈20°の範囲で素早く底屈します。運動の外的構造の類似性の観点からは、座位で高い負荷を加えた足関節底屈運動(シーティングカーフレイズ)よりも、速い速度でのスタンディングカーフレイズの方が効果的と言えます。

3. エネルギー生産の類似性

 運動中のエネルギー供給の類似性が重要です。運動中のエネルギー供給には主に3つの種類があります。ATP-PC系と、乳酸系、酸素系です。運動の種類や強度に応じて、これらのエネルギー供給システムは異なる比率で活用されます。短時間の高強度運動では無酸素系が、長時間の持久力を必要とする運動では有酸素系が主に利用されます。

  1. ATP-CP系(無酸素系): これは非常に短時間の高強度運動(例えば、短距離スプリントや重量挙げなど)で使用されるエネルギー供給方法です。このシステムは、筋細胞に蓄えられているATP(アデノシン三リン酸)とCP(クレアチンリン酸)から直接エネルギーを得ます。この過程は酸素を必要としないため、無酸素系に分類されます。

  2. 乳酸系(無酸素系): 乳酸系は中強度から高強度の運動、特に1分から2分続く運動で主に使用されます。グリコーゲン(筋や肝臓に蓄えられた炭水化物)が分解され、エネルギーとして利用される際に乳酸が生成されます。この過程も酸素を必要としないため、無酸素系に分類されます。

  3. 酸素系(有酸素系): 酸素系は、より長時間の中強度から低強度の運動(例えば、長距離走やサイクリングなど)で主に利用されます。このシステムでは、炭水化物や脂肪を燃料として使用し、酸素の存在下でATPを生成します。この過程は持続可能であり、長期間の運動に適していますが、効率的に機能するためには心肺系の十分な発達が必要です。

  エネルギー生産の類似性の観点からは、筋力の向上に重きを置く場合には無酸素系が利用されるような高強度で短時間の筋力トレーニングを、運動耐用能の向上に重きを置く場合には有酸素系が利用されるような低強度で長時間の歩行練習を選択することが効果的と言えます。

4. 感覚パターンの類似性

 感覚パターンの類似性とは、視覚や前庭感覚、固有受容感覚を中心とした感覚情報の類似性のことです。明るさや、路面の特徴(傾斜角、凸凹、柔らかさ)、姿勢(立位、座位、臥位)などは感覚情報に影響を与える代表的なものです。感覚パターンの類似性の観点からは、実際の生活場面と類似した環境で練習することや、歩行の構成要素に近いトレーニングを選択することが効果的と言えます。

5. 動作の意図の類似性

 動作の意図の類似性とは、動作時に注意を向ける先や注意の分配の程度の類似性のことです。「どのように動くか?」という身体の内部に注意を払う、いわゆるインターナルフォーカス(内部焦点)と「動いた時に何が起こるか?」という身体の外部に注意を払う、いわゆるエクスターナルフォーカス(外部焦点)では、パフォーマンスや運動学習の効果に違いが生じます。歩行時には主に3つの意図が存在します。一つ目の意図は「立位姿勢を保つこと」、二つ目の意図は「AからBへ移動すること」、三つ目の意図は「目標とした時間内に移動すること」です。動作の意図の類似性の観点からは、歩行時の注意の向け方に近いトレーニングを選択することが効果的と言えます。 

全体練習と部分練習

 課題指向型トレーニングでは、技能を習得するためのアプローチとして「全体練習」と「部分練習」があります。これらは技能の性質や学習者の経験レベルに応じて適切に使い分けることが望ましいです。

全体練習

 全体練習は、技能や動作を一連の流れとして一貫して練習する方法です。この方法は、動作の流れやリズムを理解しやすくするため、連続した動作の習得に適しています。動作全体を通じての感覚やタイミングを把握するのに役立ちます。ダンスの振り付けやスポーツの特定のプレーなど、一連の動作を含む技能の練習に適しています。歩行の場合だと、歩行自体の練習を行うことが全体練習にあたります。全体練習は課題の特異性を高くできるメリットがあります。一方で、歩行の一つ一つの構成要素に対する練習量が確保しにくい点はデメリットと言えます。

部分練習

 部分練習は、技能や動作を小さなセグメントに分けて練習する方法です。この方法は、ゴルフのスイングのような複雑な動作で、特定の部分(例えば、バックスイングやフォロースルー)に問題がある場合に適しています。
複雑な技能や動作を習得する際に、特に困難な部分に焦点を当てて練習することができます。これにより、特定のセグメントの精度や効率を向上させることが可能になります。歩行の場合だと、ステップ練習などが部分練習にあたります。部分練習は一つの構成要素に対して豊富な練習量を確保しやすいというメリットがあります。一方で、歩行としての課題の特異性が高めにくい点はデメリットと言えます。
 全体練習と部分練習は、それぞれ異なる状況や目的に適しています。全体練習は動作の流れを理解するのに役立ち、部分練習は複雑な技能の特定の要素を改善するのに適しています。適切な練習方法を選択することで、効率的な学習と技能の向上が期待できます。

歩行周期と主要な関節の運動学の理解

 歩行周期と主要な関節の運動学を理解することは、課題の特異性の高いトレーニングを考える上で不可欠です。 歩行周期は、歩行の各相における特徴的な下肢の動きを示すものであり、歩行パターンを理解する基礎となります。異常がある場合は、特定の歩行の相に問題があることを示している可能性があります。歩行周期と主要な関節の運動学の理解により、課題の特異性の高いトレーニングを立案することができます。

歩行周期の概要

 歩行周期はその機能的な役割の違いから立脚期5相、遊脚期3相に分類されて論じられます。ここからは歩行の各相の定義と役割について確認していきます。

 まずは立脚期からです。1回の立脚期は初期接地、荷重応答期、立脚中期、立脚終期、前遊脚期の5つに分かれます。

立脚期の1つ目の相は初期接地です。
 歩行周期中の割合は0~2%とほんの一瞬で、足が地面に接地する瞬間のことを言います。全ての相の中で初期接地のみ時間的な幅がほぼありません。初期接地の役割はヒールロッカーへの適切なポジションに足部を位置させることです。ヒールロッカーについては後程改めて述べます。

立脚期の2つ目の相は荷重応答期です。
 歩行周期中の割合は2~12%です。荷重応答期の始まりは初期接地で、終わりは、反対側の足が地面から離れた瞬間です。したがって、荷重応答期の間は両足が地面についているため両脚支持期で、荷重応答期の終わりから片足が地面についていることになるため単脚支持期が始まることになります。
荷重応答期の役割は、衝撃吸収と、荷重を受け継ぎつつ安定性を確保することと、前方への動きをキープすることです。

立脚期の3つ目の相は立脚中期です。
 歩行周期中の割合は12~31%です。始まりは反対側の脚が地面から離れた瞬間で、終わりは観察肢の踵が床から離れた瞬間です。立脚中期の役割は、しっかりと地面についている足を支点とした前方への動きを作ることと、脚と体幹の安定性を確保することです。

立脚期の4つ目の相は立脚終期です。
 歩行周期中の割合は31~50%です。始まりは観察肢の踵が床から離れた瞬間で、終わりは反対側の初期接地です。反対側が地面から離れる立脚中期から始まる単脚支持期が立脚終期の終わりに反対側が地面につくことで終了します。立脚終期の役割は、身体を支持脚よりも前へ運ぶことです。この相で身体に対して支持脚が後方に位置する姿勢をTrailing positionと言います。このTrailing positionをしっかりと取れているかどうかが効率的な歩行における重要なポイントの一つです。

立脚期の最後に当たる5つ目の相は前遊脚期です。
 歩行周期中の割合は50~62%です。始まりは反対側の遊脚初期で、終わりは観察肢のつま先が床から離れた瞬間です。したがって前遊脚期の終わりが立脚期の終わりを意味します。前遊脚期の役割は、観察肢の遊脚初期の準備です。したがって相としては立脚期ですが、機能的には遊脚期との関わりがとても深い相と言えます。

次は遊脚期です。1回の遊脚期もあっという間に過ぎますが、役割で分けると、遊脚初期、遊脚中期、遊脚終期の3つに分かれます。

遊脚期の1つ目の相は遊脚初期です。
 歩行周期中の割合は62~75%です。始まりは観察肢のつま先が床から離れた瞬間で、終わりは両側の足部が矢状面で交差した瞬間です。遊脚初期の役割は、床からの足部のクリアランスを確保することと、Trailing positionから脚を前に運ぶことです。

遊脚期の2つ目の相は遊脚中期です。
 歩行周期中の割合は75~87%です。始まりは両側の足部が矢状面で交差した瞬間で、終わりは観察肢の下腿が床に対して垂直になった瞬間です。遊脚中期の役割は観察肢を引き続き前へ運ぶことと、観察肢の十分なトゥクリアランスを確保することです。

遊脚期の最後に当たる三つの相は遊脚終期です。
 歩行周期中の割合は87~100%です。始まりは観察肢の下腿が床に対して垂直になった瞬間で、終わりは観察肢の足部が床に触れた瞬間、すなわち次のイニシャルコンタクトです。遊脚終期の役割は観察肢を前に運ぶことの終了と、観察肢の立脚への準備です。

各相における主要な関節の運動学

骨盤の前後傾

 立脚期では、初期接地では約10°前傾位です。荷重応答期で後傾します。立脚中期から立脚終期で最大前傾角度まで前傾します。その後、前遊脚期で前傾角度が最小となります。遊脚期では、遊脚初期から遊脚中期で前傾し、遊脚終期で後傾します。一歩行周期におけるROMは約4°です。
 ポイントは前傾約10°で推移すること、立脚終期で前傾が最大になること、前遊脚期すなわちtoe offの際に前傾が最小になることの3つです。

骨盤の挙上下制

 立脚期では、初期接地ではほぼ水平位を保ちます。荷重応答期で最大挙上(約4°)し、立脚中期から前遊脚期にかけて下制します。遊脚期では、遊脚初期で最大下制(約4°)し、Toe-offとともにそれまで骨盤を支えていた下肢の支持力がなくなるために骨盤が下がります。反対側は荷重応答期に当たるので、立脚期において荷重応答期で最大挙上するわけです。遊脚中期から遊脚終期で挙上します。一歩行周期におけるROMは約8°です。
 ポイントは0°前後で推移することと、荷重応答期で最大挙上すること、遊脚初期で最大下制することの3つです。

股関節屈曲伸展

 立脚期では、初期接地において約30°屈曲位にあります。立脚終期で最大伸展(約10°)し、前遊脚期で屈曲が始まります。遊脚期では、遊脚中期で最大屈曲(約30°)し、遊脚終期でわずかに伸展します。一歩行周期におけるROMは約43°です。
 ポイントは立脚終期で最大伸展することと、遊脚中期で最大屈曲すること、遊脚終期でわずかに伸展することの3つです。

膝関節屈曲伸展

 立脚期では、初期接地において約0~10°屈曲位にあります。荷重応答期で屈曲(約20°)し、立脚中期から立脚終期にかけて伸展(約5°)します。前遊脚期から屈曲し、立脚期の終わりには約40°まで屈曲します。遊脚期では、遊脚初期で最大屈曲(約60°)し、遊脚終期にかけて伸展(約0°)します。一歩行周期におけるROMは約60°です。
 ポイントは荷重応答期で少し屈曲することと、立脚終期にかけて伸展することと、遊脚初期で最大屈曲することの3つです。

足関節底背屈

 立脚期では、初期接地ではほぼ0°にあります。荷重応答期で底屈(約5°)し、立脚中期から立脚終期にかけて最大背屈(約10°)します。前遊脚期から底屈します。遊脚期では、遊脚初期で最大底屈(約20°)し、遊脚中期で背屈(約0°)し、遊脚終期でわずかに底屈します。一歩行周期におけるROMは約30°です。
 ポイントはヒールロッカー、アンクルロッカー、フォアフットロッカーと呼ばれる3つのロッカー機能が存在することです。 ロッカー機能とは、立脚期において足部の回転軸が、踵⇒足関節⇒中足趾節関節(MP関節)に移動しながら身体が前方に移動していくことです。この機能は、体をスムーズに前方に推進させる上でとても重要な役割を担います。

課題特異性の高い部分練習の具体例

 課題特異性の高いトレーニングを部分練習として集中的に行うことで、歩行能力向上のボトルネックとなっている問題を効果的に改善することができます。脳性麻痺の歩行において問題となりやすい点とそのトレーニングの例について解説します。

1. foot slapに対する部分練習

 foot slapとは初期接地から荷重応答期における前足部の急激な落下のことです。
 foot slapに関連する筋活動は以下の通りです。
・初期接地から荷重応答期における足関節背屈筋群の遠心性収縮(MMTにおける最大値に対して37%の筋活動量:37%MMT)

トレーニングの例:
 foot slapの改善のためには、立位で足関節の背屈筋群の遠心性収縮を強化するトレーニングを行います。例えば、一歩前に踏み出した一側下肢の踵の下に板を敷き、初期接地の荷重応答期で求められる関節可動域(足関節底背屈0°~底屈5°)での足関節背屈筋群の遠心性収縮の練習などが挙げられます。

2. recurvatum knee gaitに対する部分練習

 recurvatum knee gaitとは初期接地から荷重応答期における膝関節の過伸展のことです。
 recurvatum knee gaitに関連する筋活動は以下の通りです。
・初期接地から荷重応答期における大腿四頭筋の遠心性収縮(38%MMT)
・初期接地から立脚中期における大殿筋上部線維の収縮
・荷重応答期における大内転筋(40%MMT)とハムストリングス(27%MMT)、大殿筋下部線維(25%MMT)の等尺性収縮

トレーニングの例:
 recurvatum knee gaitの改善のためには立位で大腿四頭筋の遠心性収縮と、股関節伸展筋群の等尺性収縮を強化するトレーニングを実施します。例えば、初期接地から立脚中期で求められる関節可動域(股関節屈曲30°~0°、膝関節屈曲0°~20°)でのステップ運動やフォワードランジなどが挙げられます。

3. 骨盤の過前傾に対する部分練習

 骨盤の過前傾とは荷重応答期における股関節の過屈曲と骨盤の過前傾のことです。
 骨盤の過前傾に関連する筋活動は以下の通りです。
・荷重応答期における大内転筋(40%MMT)とハムストリングス(27%MMT)、大殿筋下部線維(25%MMT)の等尺性収縮

トレーニングの例:
 骨盤の過前傾の改善のためには立位で股関節伸展筋群の等尺性収縮を強化するトレーニングを行います。例えば、初期接地から立脚中期で求められる関節可動域(股関節屈曲30°~0°、膝関節屈曲0°~20°)でのステップ運動やフォワードランジなどが挙げられます。

4. トレンデレンブルグ徴候に対する部分練習

 トレンデレンブルグ徴候とは荷重応答期における遊脚側骨盤の過度な降下のことです。
 トレンデレンブルグ徴候に関連する筋活動は以下の通りです。
・荷重応答期における股関節外転筋群(中殿筋、大殿筋上部線維、大腿筋膜張筋後部線維)の遠心性収縮(31%MMT)

トレーニングの例:
 トレンデレンブルグ徴候の改善のためには立位で股関節外転筋群の遠心性収縮を強化するトレーニングを当てます。例えば、立脚下肢の下に板を敷いて行う骨盤傾斜の制御運動などが挙げられます。

5. crouch gaitに対する部分練習

 crouch gaitとは立脚期における膝関節の過屈曲のことです。
 crouch gaitに関連する筋活動は以下の通りです。
・初期接地から立脚中期における大殿筋上部線維の収縮(25%MMT)
・荷重応答期における大内転筋(40%MMT)とハムストリングス(27%MMT)、大殿筋下部線維(25%MMT)の等尺性収縮
・荷重応答期における広筋群の遠心性収縮(38%MMT)
・立脚中期における足関節底屈筋群の遠心性収縮(30%MHR[最大の踵挙上に対する割合])
・立脚中期における広筋群の求心性収縮
・立脚中期におけるハムストリングスの求心性収縮(15%MMT)

トレーニングの例:
 crouch gaitの改善のためには、立位で股関節伸展筋群と膝関節伸展筋群、足関節底屈筋群の遠心性収縮と等尺性収縮、求心性収縮を強化するトレーニングを行います。例えば、初期接地から立脚中期で求められる関節可動域(股関節屈曲30°~0°、膝関節屈曲0°~20°、足関節底屈5°~背屈10°)でのステップ運動やフォワードランジが挙げられます。

6. no heel offに対する部分練習

 no heel offとは前遊脚期における踵挙上が見られないことです。
 no heel offに関連する筋活動は以下の通りです。
・立脚終期における足関節底屈筋群の等尺性収縮(腓腹筋[78%MHR]、ヒラメ筋[86%MHR])とアキレス腱の伸張とそれに続く前遊脚期におけるアキレス腱の弾性反跳

トレーニングの例:
 no heel offの改善のためには立位で足関節底屈筋群の等尺性収縮とアキレス腱の弾性反跳を強化するトレーニングを取り入れます。例えば、両脚での連続跳躍や、バウンディング、ホッピングなどのプライオメトリクスの要素を取り入れたトレーニングが挙げられます。

7. drop footに対する部分練習

 drop footとは遊脚初期における前足部の挙上不足のことです。
 drop footに関連する筋活動は以下の通りです。
・遊脚初期における足関節背屈筋群の求心性収縮(34%MMT)

トレーニングの例:
 drop footの改善のためには立位で足関節背屈筋群の素早い求心性収縮を強化するトレーニングを行います。例えば、立位での足関節底屈からの素早い背屈運動のトレーニングなどが挙げられます。

8. stiff knee gaitに対する部分練習

 stiff knee gaitとは前遊脚期から遊脚初期における膝関節の屈曲不足のことです。
 
stiff knee gaitに関連する筋活動は以下の通りです。
・立脚終期における足関節底屈筋群の等尺性収縮(腓腹筋[78%MHR]、ヒラメ筋[86%MHR])とアキレス腱の伸張とそれに続く前遊脚期におけるアキレス腱の弾性反跳
・前遊脚期における長内転筋と薄筋の求心性収縮(35%MMT)
・遊脚初期における大腿二頭筋と薄筋、縫工筋の求心性収縮(20%MMT)

トレーニングの例:
 stiff knee gaitの改善のためには立位で足関節底屈筋群の等尺性収縮とアキレス腱の弾性反跳と、股関節屈曲筋群の求心性収縮を強化するトレーニングを取り入れます。両脚での連続跳躍、バウンディング、ホッピング、前遊脚期から遊脚初期で求められる関節可動域(股関節伸展10°~屈曲30°、膝関節伸展5°~屈曲60°、足関節背屈10°~底屈20°)でのステップ運動などが挙げられます。

まとめ

 脳性麻痺児の歩行障害は、日常生活に大きな影響を与え、子どもたちの自立や社会参加を困難にすることがあります。このような歩行障害を改善するために、課題指向型トレーニングが有効です。

 脳性麻痺児の歩行障害の原因としては、筋力の弱さ、選択的運動制御の障害、関節の可動域の制限、痙縮などが挙げられます。

 課題指向型トレーニングの概要としては、運動課題間の類似性、すなわち課題特異性が重要です。課題特異性の高いトレーニングは、実際の歩行パフォーマンスへの効果の転移が期待できます。このトレーニングは全体練習と部分練習のアプローチがあり、技能の性質や学習者の経験レベルに応じて使い分けられます。全体練習では技能や動作を一連の流れとして練習し、部分練習では技能や動作を小さなセグメントに分けて焦点を当てて練習します。

 歩行周期と主要な関節の運動学の理解も課題指向型トレーニングには不可欠です。健康な歩行パターンを理解することで、特定の歩行相に問題がある場合に適切なトレーニング計画を立てることができます。例えば、立脚期と遊脚期における骨盤の前後傾や挙上下制、股関節や膝関節、足関節の屈曲伸展など、歩行の各相で起こる主要な関節の動きを理解することが、効果的なトレーニングプログラムの作成につながります。

 脳性麻痺児の歩行改善に向けて、課題指向型トレーニングは個々の問題点に対処することで、効果的な支援を提供できる方法です。このアプローチを通じて、子どもたちがより安定した歩行能力を獲得し、日常生活での自立や社会参加の機会が広がることを目指します。

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